棋楽庵の九州将棋ふまわり日記

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■「由太郎ノートNO.015-第63期大分合同アマ将棋名人戦3番勝負第1局解説:級位者編」

2009年11月01日 | ◆由太郎ノート
★「由太郎ノートNO.015-第63期大分合同アマ将棋名人戦3番勝負第1局解説:級位者編」
 ▲神品和男 対 △早咲誠和(平成21年7月12日対局)

                 棋譜解説:平成21年全日本アマチュア将棋名人 山崎由太郎
                 編集責任:棋楽庵


▲挑戦者 神品和男
△県名人 早咲誠和


=第1譜=


(指し手 1~21)
▲7六歩  △3四歩  
▲6六歩  △6二銀  
▲6八銀  △6四歩  
▲6七銀  △6三銀  
▲6八飛  △4二玉  
▲4八玉  △3二玉  
▲3八玉  △5四銀  
▲7五歩(第1図)
      △6二飛  
▲7七角  △5二金右 
▲2八玉  △3三角  
▲3八銀(第2図)

 戦形は神品さんの四間飛車対早咲さ
んの右四間飛車の戦いとなりました。
右四間飛車は簡単に飛車・角・銀・桂
の攻めの理想が作れる素晴らしい戦法。
この戦法に泣かされている方は多いこ
とでしょう。

 神品さんの対策が注目されましたが、
▲7五歩が高等戦術。この手の意味は
早咲さんが△7四歩~△7三桂という
桂馬の活用を狙っているのでそれを防
いだもの。なんと、歩を1つ進めただ
けで早咲さんの攻めの桂馬の活用を防
ぎ、攻めの理想形を作らせなくさせた
手なのです。

 このように、強者というのは、歩1
枚で相手の牽制をしてしまうものなの
です。すごいですね。

 攻めの理想形を封じられた早咲さん
は△3三角と急戦を諦めて玉を固める
持久戦に作戦を切り替えました。神品
さんは▲3八銀と美濃囲いを完成させ
ました。ここは、穴熊も考えられると
ころですが、穴熊はどうしても駒が偏っ
てしまいますから、神品さんはバラン
スを重視されたのでしょう。



=第2譜=


(指し手 22~45)
      △2二玉  
▲8六歩  △3二金  
▲8五歩  △4二金右 
▲1六歩  △1四歩  
▲5八金左 △1二香  
▲8八飛  △8二飛  
▲8六飛  △1一玉  
▲5六銀  △2二銀  
▲4六歩  △9四歩  
▲9六歩  △4四歩  
▲3六歩  △3一金  
▲2六歩  △3二金寄 
▲2七銀(第3図)

 将棋は「薄いところを攻める」のが
ポイント。固いところ攻めても受け止
められるだけですからね。神品さんの
▲8六歩~▲8五歩~▲8八飛車はさ
すがの感覚。早咲さんは右四間で飛車
を振っているので8筋が薄いと見たわ
けです。級位者は飛車・角・銀・桂を
よく動かしたがりますが、やはり「将
棋は歩から」。▲8六歩~▲8五歩の
ような手が指せれば段位獲得も近いで
しょう。

 そんな中、早咲さんの△3二金~△
4二金右もさすが。「離れ駒を作らな
い」も将棋の基本。大分県トップ二人
の作る将棋ですから、序盤の何気ない
駒組みにも上達のエキスが満載です。

 早咲さんの△8二飛は神品さんの▲
8四歩を防いで仕方のないところ。そ
して、バランス重視の神品さんに対し
早咲さんは穴熊の堅陣に囲い固さで対
抗です。

 バランス重視の神品さんは▲4六歩
~▲9六歩~▲3六歩~▲2六歩と王
様の懐を広げ、美濃囲いをさらに発展
させてきました。そして、▲2七銀。
これは、見た目は神品さんが美濃囲い
を銀冠に発展させようとした手。しか
し、水面下は違うんですね。

 ここからは、「棋は対話なり」とい
うことで、対話らしくなりますよ。▲
2七銀の局面をよく見てください。何
かに気が付きませんか? そうです。
「離れ駒」です。美濃囲いから銀冠に
組み替える唯一の弱点が▲2七銀の瞬
間に離れ駒が出来てしまうことにある
んです。

 「離れ駒に手あり」は将棋の基本。
しかし、そんなことはもちろん神品さ
んもわかってます。つまり、何気なく
指した▲2七銀ですが、神品さんは早
咲さんに対して「かかってこいよ! 
オラー!」
とけんかを売っているわけ
です。

 さすが、大分の挑戦者決定大会のオ
バケトーナメントの優勝者。これぐら
いの気合がなければ挑戦者にはなれな
いということです。

 さて、けんかを売られた早咲さんは
どうするでしょう。名人としての対応
は………。



=第3譜=


(指し手 46~72)
      △4五歩  
▲同 歩  △6五歩  
▲同 歩  △7七角成 
▲同 桂  △4五銀  
▲同 銀  △5五角  
▲4六銀  △7七角成 
▲5六飛  △6二飛  
▲5三飛成 △6五飛  
▲3八金  △6九飛成 
▲4七金左 △9九馬  
▲4四歩  △4二歩  
▲3四銀  △5二歩  
▲5四竜  △9八馬  
▲5二竜  △6五馬(第4図)

 △4五歩!! はい、そうです。 
売られた喧嘩は買う! 気合から言っ
てこの一手でしょう。

 ▲4七金左と進んだところを見てく
ださい。離れ駒のあった神品さんの陣
形はいつの間にやら金銀5枚の要塞に。
この硬さは穴熊をも凌駕します。あの
バラバラの陣形を一瞬でまとめるあた
りに神品さんの強さを感じます。しか
し、固さでは勝っていますが、駒割は
神品さんの銀と桂・香の交換で駒損。
ここら辺がまた勝負を難しくしていま
す。

 早咲さんは△5二歩と歩のマジック
を使い、手順に馬を好位置に持ってき
ました。神品さんはどのように対応す
るのでしょうか。



=第4譜=


(指し手 73~104)
▲5六角  △同 馬  
▲同 歩  △4九角  
▲8七角  △6八竜  
▲6九歩  △8八竜  
▲3二角成 △同 金  
▲4三歩成 △同 歩  
▲3二竜  △3一香  
▲4一竜  △6三角  
▲6一竜  △8五角上 
▲4八金打 △7六角引成
▲4二歩  △3四香  
▲4一歩成 △5二銀  
▲8一竜  △4一銀  
▲4二歩  △3二銀  
▲3一金  △同 銀  
▲同 竜  △2二金(第5図)

 「相手の一番働いている駒を攻(責)
めよ」は将棋の基本。早咲さんの6五
馬が大威張りですから、神品さんは▲
5六角と6五馬を攻(責)めた訳です。

 仕方なく早咲さんは馬を角と交換し
ましたが、△4九角と急所に角を打ち
込んできました。さて、次は神品さん
はどうするでしょう。

 早咲さんの一番働いている駒はなん
ですか? そうです。6九竜。次はこ
いつを責めます。▲8七角! しかも、
この角が狙っているのは竜だけではな
いんですね。遠く離れた穴熊の3二金
です。一石二鳥の手を指すのが強者の
証です。

 △6八竜▲6九歩△8八竜と竜を追
い回し、ズバっと▲3二角成!! こ
の感覚を学んで下さい。角なんか惜し
んではいけません。将棋は王様を捕る
ゲーム。しかし、いきなり王様には辿
り着けないので、囲いを崩す作業が必
要になってくるわけです。その作業中
に角がどうのこうのなんて言ってたら
王様なんてしとめられるわけがありま
せん。

 しかも、よく見てください。▲3二
角成以下△同金▲4三歩成△同歩▲3
二竜と歩のマジックを駆使して角と金
2枚とを交換してしまったのです。こ
れはいくら穴熊と言えど大打撃。しか
し、早咲さんも名人通算18期の怪物
名人。このままでは終われないので、
△3一香▲4一竜△6三角と強靭な粘
りを見せます。

 ▲6一竜△8五角上▲4八金打△7
六角引成と進行しましたが、ここで、
銀が逃げることを考えてはいつまでたっ
ても級位者を脱出できません。将棋の
大原則、将棋は何からですか? 

 ▲4二歩!! そう、「将棋は歩か
ら」。この手を見て、流石の早咲さん
も気持ちの整理をはじめたことでしょ
う。気持ちの整理をしつつもやはり、
大名人の指し手には迫力が感じられま
す。

 △2二金とまだまだ土俵を割りませ
ん。しかし、挑戦者も強い。次の手は?

 将棋は…。



=第5譜=


(指し手 105~139)
▲3五歩  △3七歩  
▲同 桂  △3六歩  
▲2五桂  △6六馬  
▲3四歩  △3五桂  
▲同 銀  △4八竜  
▲同金引  △3七金  
▲同金左  △同歩成  
▲同 玉  △5八角成 
▲4七銀  △5九馬  
▲4八香  △4九金  
▲3三歩成 △同 銀  
▲同桂成  △同 馬  
▲6一飛  △4八金  
▲同 金  △4五桂  
▲3六玉  △4八馬  
▲3三竜  △3二金打 
▲3四桂  △3三金左 
▲2二金(投了図)  
まで、139手で神品さんの勝ち

 「将棋は歩から」で▲3五歩!! 
決め手ですね。以下、早咲さんも最後
の追い込みを見せますが、神品さんは
全てを見切っています。すばらしい大
熱戦でした。

 「将棋は歩から」皆さん忘れないよ
うに!!





 


 


◆関連リンク
「由太郎ノートNO.016-第63期大分合同アマ将棋名人戦3番勝負第1局解説:低段者編」 ▲神品和男 対 △早咲誠和(平成21年7月12日対局)
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「第63期大分合同アマ将棋名人戦挑戦者決定大会」-結果NO.7(平成21年6月14日:大分市「大分合同新聞社」)
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