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NHK籾井会長が任期満了直前で見せた「哀愁の粘り腰」2016.12.6(町田 徹  経済ジャーナリスト)

2016-12-07 23:16:41 | 報道

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50375より転載

2016.12.06

NHK籾井会長が任期満了直前で見せた「哀愁の粘り腰」

「僕が続投という声はないんですか?」

消去法で選ばれた「籾井後任」

来月任期切れを迎える籾井勝人NHK(日本放送協会)会長の後任候補として、元三菱商事副社長で、NHK常勤経営委員を務める上田良一氏を起用する人事案が急浮上。早ければ、本稿が掲載されるのと同じ12月6日に開催される経営委員会で選任される見通しになっている。

現役の記者たちに取材したところ、上田氏起用案は、続投に拘る籾井氏に引導を渡すのに手間取り、足りなくなった時間の中での「消去法的な選択」(全国紙記者)で、「急転直下、白羽の矢が立った」(ブロック紙記者)ものという。

財界出身の歴代NHK会長と違って、上田氏には大企業の社長経験がないため、「NHK会長の格を備えていない」(放送記者)とシニカルな見方もある。

しかし、上田氏は三菱商事で最高財務責任者(CFO)職を務めた実績を持つ。NHKには、2020年の東京オリンピック・パラリンピック、渋谷の放送センター建て替え、4K・8K(次世代放送)への対応と大型投資を伴う懸案が山積だ。

 その原資は、われわれ視聴者が負担する受信料だけに、上田氏には商社マン時代に鍛えた眼を活かして効率的な投資を行い、近い将来、放送の充実と今回は幻に終わった受信料還元を両立してほしいものである。

撮影:編集部

続投の意欲を見せた籾井会長

あまり報じられていないが、大手メディア各社の記者が今回の会長人事の取材で最も多くの時間を割いたのは、後任候補探しや後任決定のタイミングを探ることではなく、籾井氏が自身の進退にけじめをつけられるかどうかの取材だったという。

政府のプロパガンダとの間でデリケートな線引きがある国際放送に絡んで「政府が右というものを左とは言えない」とか、言わずもがなの従軍慰安婦問題にわざわざ言及して「どこの国にもあった」などと放送人にあるまじき失言を繰り返した。

その上、プライベートのゴルフに使ったハイヤー代金をNHKにつけ回そうとして経営委員会から注意を受けた問題もあって、菅義偉官房長官ら官邸首脳は早くから、籾井氏の任期を1期(3年)限りと決め、再任しない方針を固めていた模様だ。

そのため、焦点は、いかに騒ぎを起こすことなく会長のバトンを後任に譲らせるかの一点に絞られていたらしい。

10月になると、NHK会長の人事権を持つNHK経営委員会は、次期会長選びを想定して、「政治的に中立である」「人格高潔であり、説明力に優れ、広く国民から信頼を得られる」など5項目から成る資格要件を明確化した。

いつもと同じ資格要件をわざわざ切り出した狙いが、「籾井氏は不適格だ」と本人に自覚させることにあるのが明らかで、実際に「籾井氏が合致しているとは言いがたい」とコメントした委員もいたという。

しかし、籾井会長はそうした周りの空気を無視。代わりに、「余ったら返すのが筋だ」と、受信料の引き下げを手土産にして、会長再任を目指す構えを見せた。

仮に万人が不適格と思っていたとしても、籾井氏は「安倍首相のお友達」という触れ込みでNHK会長に就いた人物だ。本人が続投に強い意欲をみせている段階で、後継者探しを始めても、候補者に受諾させるのは容易なことではない。

それゆえ、この種の示威行動だけで、NHKは、一流の財界人に籾井氏後継を代診する道を封じられてしまったという。


僕じゃダメ?

ようやく事態が動くかに見えたのは、先月(11月)22日の経営委員会だ。800億円近い内部留保があるうえ、受信料収入が過去最高の7000億円突破する見込みとなっていることを理由に、来年秋から月額50円程度引き下げるという籾井会長の値下げ案を、経営委員会が「将来的な収支の見通しが不透明だ」「見通しが甘い」と切り捨てて、値下げを見送ったのだ。

これにより、失言を繰り返してきた籾井会長に対する経営委員会の不信感は根深く簡単に修復できる見込みはないため、会長の再任支持はあり得ないと、さすがの籾井氏も観念するだろうと、関係者の誰もが期待したのである。

ところが、籾井氏はまだ粘った。

12月1日の定例記者会見で、陪席していた堂元光副会長が、同氏を籾井氏の後任候補とする報道があることに関する感想を求められて、「私は会長を補佐するということで、ここに座っている。私自身に対する質問にはお答えできない」と生真面目に答えたところに、籾井氏が笑顔を浮かべながら割り込んみ、「(候補者に)『僕』っていう声はないんですか?」とやらかしたのだ。

その態度を見て、開いた口が塞がらない記者も少なくなかったと聞く。

とどめを刺した読売新聞

だが、12月2日。過去2、3年、圧倒的な官邸への食い込みを見せる読売新聞が夕刊で、そうした状況に終わりを告げるスクープ記事『NHK会長、上田氏が有力に 籾井氏は退任へ』を放った。

それによると、会長の選任には、12人のNHK経営委員のうち9人以上の賛成が必要だが、籾井会長再任を積極的に推す委員はおらず、同氏が退任を余儀なくされそうな半面、委員の間には上田氏支持が広がっている。

上田氏は2013年6月からNHKの常勤経営委員を、同7月から監査委員を務めており、NHK経営や放送法に精通していることも付記した記事で、官邸が上田氏の起用を軸に事態の収拾に乗り出したことが伺える内容になっていた。

新聞やテレビは、この読売新聞記事を相次いで追いかけており、上田氏の次期NHK会長就任はほぼ確実といってよいのだろう。

そこで、読売新聞や官邸のお墨付きに筆者が加えることがあるとすれば、上田氏の三菱商事での最終職であるCFOは、会計や財務だけでなく、リスク管理や管理会計に基づいた投資判断も管掌するポジションだったということだろう。

筆者の経験では、大企業の社長経験者には、自分で時々の状況をほとんど把握しておらず、善きに計らえと部下任せにしてしまう、お飾り的な人物が意外と多いのが実情だ。そういった点では常勤の経営委員や監査委員もこなし、NHKの実情に通じた上田氏こそ、むしろ会長にピッタリのはまり役の可能性がある。

実際、三菱商事時代の上田氏をよく知る三菱商事の中堅幹部は、「真面目なハードワーカー。現場の意見をよく聞き、リーズナブルな判断を下す人」と高く評価する。

そこで、上田氏には、オリンピック・パラリンピック対応、渋谷の放送センター建て替え、新世代放送(4K・8K)投資などのために相応の積立金があるからといって油断せず、効率的な投資に徹することを期待したい。

番組制作費については、独りよがりとしか思えないおカネのかかった番組が目に付くこともある。その種の無駄遣いは最大限カットしていただきたい。そのうえで、今回、見送りになった受信料の引き下げを1日も早く、少しでも大きな金額で実現するよう期待したい。

 

<関連>

NHK次期会長に上田良一氏…経営委で全会一致 : カルチャー : 読売新聞 ...

www.yomiuri.co.jp/culture/20161206-OYT1T50112.html
1 日前 - NHK経営委員会(委員長=石原進・JR九州相談役)は6日、NHK籾井勝人会長(73)が退任し、後任会長に三菱商事出身で常勤経営委員の上田良一氏(67)が来年1月25日付で ... 

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www.yomiuri.co.jp/culture/20161202-OYT1T50066.html
5 日前 - NHKの籾井(もみい)勝人会長(73)が来年1月24日の任期満了をもって退任する見通しになった。 ... 後任会長について、常勤経営委員の上田良一氏(67)が有力となっている。 

 

 

 


Q&A② 憲法に「家族」「緊急事態条項」追加の意図は―自民党草案を読む  船田元×江田五月

2016-12-07 01:56:16 | 憲法

http://news.yahoo.co.jp/feature/386

憲法に「家族」「緊急事態条項」追加の意図は―自民党草案を読む

10/7(金) 12:26 配信

2012年4月、自民党が野党時代に策定された「自民党憲法改正草案」。野党はもちろん、日本弁護士連合会など各界から批判が寄せられている。この草案、現行憲法と何が異なり、何が問題なのか。長く憲法議論を主導してきた担当者、船田元・前自民党憲法改正推進本部長、野党からは江田五月・前民進党憲法調査会長にその中身を問うた。「9条」では「戦力の不保持」が「国防軍」に変更され、13条では「公共の福祉」が「公益及び公の秩序」と国家的な意味合いが強く押し出されていた。ここでは「表現の自由」「家族」「緊急事態条項」について聞く。(ジャーナリスト・岩崎大輔、森健/Yahoo!ニュース編集部)

「変更」だけでなく「削除」「新設」もある自民党草案

 

自民党改正草案には、13条の「公共の福祉」から「公益及び公の秩序」への変更のように、現行憲法から各種表現を変更し、意味も変えているものが少なくない。

中には、まるごと新たに設定された条文もある。

たとえば、21条の「表現の自由」では、1項は現行憲法を踏襲しているが、よく見ると「前項の規定にかかわらず」として、自由に制限を加えた2項が新設されている。

項目がまるごと新設されたところもある。「家族」や「緊急事態条項」という項目だ。

「家族」には「互いに助け合わなければならない」と、道徳的な価値観が持ち込まれ、「緊急事態条項」では戦争など「武力攻撃」といった惨禍を想定しつつ、「何人も(中略)措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない」と、強制的な服従義務規定を記している。

なぜそのように変更されたのか、「『自民党草案』が変えたもの 与野党憲法担当者に問う」と同様、船田元・前自民党憲法改正推進本部長にその意図を尋ねるとともに、江田五月・前民進党憲法調査会長に野党としての意見を聞いた。

21条:現行法「一切の表現の自由を保障する」に、制限を加える条項を新設

 

現行憲法第3章の21条「表現の自由」。現状では「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」となっている。

ところが、改正草案ではこの21条に2項が設けられ、「前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」と制約が付された。

この場合の「公益及び公の秩序を害すること」が具体的にどんな活動で、どの程度のものなのかは示されていない。そのため、集会や出版を行う表現の自由について、行政や警察などの「公」側が恣意的な解釈を広げられる記述になっている。

護憲派で知られる伊藤真弁護士は著書でこう指摘する。

<「公益及び公の秩序を害することを目的とした」とつけたことによって、「政府の方針」とは違う表現活動や集会・デモなどにも規制がかかる可能性があります。たとえば政府が原発再稼動を決めた場合に、脱原発集会やデモは許されない、ということにもなります>(『赤ペンチェック 自民党憲法改正草案』)

こうした懸念について尋ねると、船田氏もその可能性を否定しなかった。

政権に反対するものを含め「集会、結社、表現の自由」が保障されている(写真は2015年8月、国会周辺で行われたデモ)(写真: Natsuki Sakai/アフロ)

デモや集会には「公益及び公の秩序を害する」ものがあるかもしれない

船田元・前自民党憲法改正推進本部長

21条の「表現の自由」でも「公益及び公の秩序」と新たな文言が出ていますので、表現の自由、集会、結社、言論、の自由について不安視される方が多いようです。自民党としては、それらの自由を侵害するつもりはなく、やや誤解を招く書き方でもあるかもしれません。

憲法というものを考えるとき、国の制度的な面がハードとするなら、憲法でハードを整えるのは当然の話。ただし、思想や信教、表現といったソフトに憲法が立ち入るのはよろしくないという議論は党内でもあります。

ただ、デモや集会といった運動をどう考えるか。ここは議論が必要ですが、広い意味でその中に「公益及び公の秩序」というものと照らして、よほどのものであれば、それを「害する」という見方が出てくる可能性もあります。あえて言うなら、かつての騒乱罪(戦前、自由民権運動などの鎮圧のために制定)につながるようなものを想定して記したのかもしれません。そうした批判が寄せられることは、この改正草案の起草者たちは覚悟して書いていると思います。

船田元(ふなだ・はじめ)1953年、栃木県宇都宮市生まれ。1976年、慶應義塾大学卒業。1979年、25歳で衆院議員に初当選。1992年、39歳で経済企画庁長官に。1993年、新生党結成に参画。1997年、自民党復党。2014年、憲法改正推進本部長。当選11回(撮影: 岡本裕志)

この文言の意図は、権力者にとって気に障ることはさせないということ

江田五月・前民進党憲法調査会長

江田五月(えだ・さつき)1941年、岡山県岡山市生まれ。東京大学在学中の1965年、司法試験に合格。判事補を経て、1977年、急逝した父・三郎氏の遺志を継ぎ、参院全国区で初当選。その後、衆院4回、参院3回当選し、科学技術庁長官、参院議長、法相、環境相を歴任。民進党最高顧問、憲法調査会会長も務めた。前回の参院選に立候補せずに引退。現在は地元・岡山での弁護士活動に加え、公益財団法人日中友好会館会長(撮影: 岡本裕志)

これはひどい文言です。権力側が意に沿わない報道を「公の秩序を害する」と判断したら法律違反として罰せられると読めます。自由自在に解釈でき、権力が介入しやすい。

昨年6月、自民党の若手議員で組織する「文化芸術懇話会」の勉強会に招かれた作家が「沖縄の二つの新聞は潰さないといけない」と暴言を吐き、参加した自民党の議員も同調しました。こうした場面で、権力側から気に入らない報道機関に対して「公益及び公の秩序」が持ちだされる可能性もある。結局、「公の秩序を害すること」という文言を入れる意図は、権力者にとって気に障ることはさせないということです。本来の自由は、権力者、体制が気に障ることをしても咎められないものです。

いまさらの話かもしれませんが、戦前や戦争中は、権力にとって不都合な自由な出版はできませんでした。戦後71年間、自由に報道ができたのですが、その根拠にあったのが「表現の自由」を保障する現行憲法です。この自民党改正草案の条文は、その自由を覆しかねない悪条文です。


24条:絆を大切にすべき、と「家族」条文を新設

 

現行憲法24条は「婚姻は両性の合意のみに基いて成立」と記している。ここで意図されているのは、戦前にしばしば起きていた一族係累による不当な結婚への介入の防止だ。旧民法が規定する「家制度」では、婚姻=結婚には家長(戸主)の同意が必須であり、個人の自由意思よりも家の維持という目的が優先された。そうした社会への反省から、戦後の現行憲法では、結婚はその当事者自身の「両性の合意のみに基いて成立し」と記したことで家制度に制限を加えた。

ところが、自民党改正草案はそんな戦前の制度を想起させるような新しい条文を24条の冒頭に置いた。

<家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない>

戦前の「教育勅語」には、「父母ニ孝ニ、兄弟ニ友ニ、夫婦相和シ」(親に孝行し、兄弟仲よく、夫婦仲睦まじく)といった文言があるが、改正草案の新条文の「家族」には、そんな道徳的価値観が滲んでいる。

2015年12月、最高裁は、民法が定める女性の再婚禁止期間の一部について、憲法14条1項「法の下の平等」、24条「結婚」に照らして違憲との判断を下した(写真: AP/アフロ)

個人主義は行き過ぎ、家族の絆を大切にすべきという意見

船田元・前自民党憲法改正推進本部長

24条に追加した「家族」条文は、弁護士会からも「個人の主義主張に手を突っ込んだ上、生き方にも口を出すのか」とひどく批判を受けました。同様に、各議員が地元に帰った際、地元の県連などでも「これはどういう条文か」という批判や疑問が数多く寄せられています。そうした批判を受けて、現在は党内でも「憲法に書き込むのは草案全体の価値を下げる」という意見が複数上がっています。

また、「家族」の規定については、「日本会議」(保守主義を標榜する民間団体。会員に安倍首相や稲田朋美防衛相など閣僚も多数)の考え方と同じだとの批判もあります。日本会議からそう言われて書いたわけではないでしょうが、2012年の改正草案の策定メンバーに考えが近い人が多かったのは確かでしょう。ただ、それ以前から自民党では、昨今家族の絆が薄くなり、個人主義が行き過ぎではないかという世情の変化に対する反省はもっていました。そうした変化に対して、やはり家族の絆を大切にすべき、という意見は複数ありました。

ただ、憲法はスローガンではなく、普遍的なものです。家族という生き方に関わる価値観を憲法に書きこむのは馴染まないと私も思っています。国の仕組みや制度が憲法のハード面だとしたら、思想・信条といった内面のソフト面です。そこに踏み込むべきではない。党内でもそうした意見が増えています。戦前の「教育勅語」にも家族観への言及がありますが、そういうものに引っ張られてしまったのかなと感じています。

(撮影: 岡本裕志)

つまらない価値観の押し付け

江田五月・前民進党憲法調査会長

「家族が互いに助け合わねばならない」という記述は、まったく論評に値しないものです。

こんなつまらない価値観を押し付けたいのなら、思い切って「国民は25歳までに結婚して、2人以上子どもをつくれ」と書き込んでもらったほうがせいせいします。

自民党の一派は、戦前や昭和の古き良き家族観を持ち込みたいのだろうが、そんな価値観は時代と合わないし、そんなことを憲法に書き込もうとすれば、国民の側から反発を招きます。これは自民党員の家訓で十分です。

(撮影: 岡本裕志)


「緊急事態条項」の追加――「戒厳令」との違いは

 

第二次安倍政権が憲法改正の論議を進める際に、たびたび言及してきたのが「緊急事態条項」だ。

「武力攻撃、内乱による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態」において、首相が「緊急事態」を宣言でき、国民は指示に従わなければならないという内容だ。穏やかならざる内容だが、同条項が生まれたのは東日本大震災での原発事故で避難指示や対応策に必要だと考えられたからだとされる。

武力による攻撃などの戦時も想定され、いわゆる「戒厳令」が想起される内容だが、戒厳令では軍が統治権をもつのに対し、緊急事態条項は政府が一切の命令を出すという点が異なる。とはいえ、仮に「緊急事態」という状況になったとして、政府が国民に対して命令を出すという点には抵抗感を覚える人も少なくないだろう。

東日本大震災時の福島第一原発事故では、自衛隊、消防庁など、さまざまな機関の迅速な連携・協力が必要となった。4号機への放水作業(2011年3月22日)(写真: ロイター/アフロ)

他国との比較で必要と考えた

船田元・前自民党憲法改正推進本部長

この条項を入れたのは、多くの国の憲法において書かれている緊急事態に対する条項が日本国憲法にはなかったからです。それは必要だという議論がありました。国会議員としては、そうした他国との比較で必要と考えた。また、憲法として、法で定めたものの確度を高める法定主義、規律密度を高めたいという思いもあり、「緊急事態条項」の条文はやや詳しく、分量が多くなっています。

ただ、この条項への反応はたしかによいとは言えません。2014年1月から自民党は憲法キャラバン隊を組み、この改正草案の周知キャンペーンを行いました。各地を回っているとき、寄せられた不安の声で多かったのがこの条項でした。政府が緊急事態を宣言したら「何でもできてしまうのでは」と戒厳令のように捉える女性が多かった。戦争に連なるような、そんな不安がこの条文にはあるかもしれません。

総括すれば、現在は党内でもこの改正草案は「エッジが立ちすぎた」という意見が多く、これを改憲議論のベースにはせず、過去の「歴史的文書」という扱いにしたいという意見が増えています。

なぜなら、憲法改正はできるだけ多くの国民の理解を得なければならず、それは当然、国会においても他の党から合意を得やすいものでなくてはならないからです。だとするなら、憲法改正を提案する際には新たな気持ちで臨みたい。この改正草案は党の総務会も通った正式な文書ですが、現在はそのまま使う文書ではなく、過去に存在した「歴史的文書」という認識で議論を進められればと思っています。

(撮影: 岡本裕志)

災害など緊急事態への対応のために憲法を改正する必然性はない

江田五月・前民進党憲法調査会長

緊急事態条項はじつは旧民主党時代から、我々も検討していた項目です。ただ、それには東日本大震災が関係しています。あの原発事故収束策の一つに、東京消防庁の持っている特殊な放水車を使えないか、という話が出ました。だが、東京消防庁の指揮権は東京都知事がもっており、国が関与できないと言われた。国家の一大事にそうした困難が多く生じたので、緊急事態に対応できる条項が必要ではないかと考えたのです。

しかし、その後、現行の災害対策基本法、災害救助法なども駆使すれば、国が東京消防庁を動かせることもわかりました。仮に齟齬があるならその部分だけ修正すればいい。

要は、新たな条項を用いてまで憲法を改正する必然性はないというのが現時点の党の結論です。この条項は首相への権限集中があり、戒厳令のような不当な人権制約につながる恐れがあります。緊急事態を口実に基本的人権を制限したいがゆえに、この条項を潜り込ませたとも解釈できます。

原発事故は大変な事態でしたが、例外的なことを憲法に設けて国民の権利や自由に制限をかけてよいのか。国民への制限という議論には、もっと議員は慎重になるべきです。

こまごまと批判はしましたが、全体としてこの改正草案には大いに問題があります。今後自民党がこの改正草案にこだわるとすれば、徹底して議論を戦わせなければならないでしょう。

改憲は安倍首相の祖父・岸信介元首相の悲願でした。もし安倍首相が悲願を叶えるために憲法を改正したいというのでしたら、憲法をおもちゃにしていることになります。そんなことは断じて許せません。

(撮影: 岡本裕志)


すでに始まっている改憲の議論

「自民党草案は『個人』の前に『公』や『国家』があるんです」

そう江田氏が指摘するように、現行憲法と比べると、自民党改正草案は多くの点において国家が前面に出たように映る内容だ。

9条では「国防軍」の設置や軍事裁判所としての「審判所」など積極的な戦力が肯定される一方、「基本的人権」を確認する97条が削除され、複数の条文で「公益及び公の秩序」という国家としての権利が前面に出された。

そして、「個人」が「人」という不特定の単語に変更されて「個人」の権利が曖昧になる一方、集会や結社といった「表現の自由」では、「デモのような運動」まで「公益」を「害する」とみなす解釈が否定されない。「婚姻」に関しては「家族」という価値観が持ち込まれ、有事に際しての「緊急事態条項」も新設される。

これらの各所をはじめ、2012年草案全体からうかがえるのは、自民党の野党時代に策定され、「保守としての性格を出すためにエッジを立たせすぎた」(船田氏)という背景だ。

2015年6月4日の衆院憲法審査会で、参考人として招いた有識者3人全員が、安保関連法案を「違憲」と表明。このことで憲法審査会は休眠状態に陥り、船田氏(左から2人目)は自民党憲法改正推進本部長を退任するに至った。左は保岡興治衆院憲法審査会会長(写真: 読売新聞/アフロ)

船田氏によれば、今後の議論すべきテーマの流れはおよそできているという。

「すでに、2014年秋、2015年春の2回にわたって国会の憲法審査会で審議を行っており、緊急事態条項、環境権、財政規律について議論を進めることは社民・共産以外の政党とは合意できています」

もちろん議論の方向性が決まったからといって、発議できる条文がすぐに確定されるわけではない。

具体的な手続きは、衆参両院の憲法審査会で改正したい条文案に関する議決がとられ、そこで過半数で賛成されると、改正案は衆参両院の本会議に送られる。そこで3分の2が賛成すれば、憲法改正案が発議される。そこまで進んで、国民投票が行われるという流れだ。

だが、国民投票の段階では、国民側は「賛成/反対」しか意見表明できない。だとすれば、大事なのは、今秋の臨時国会から始まる衆参の憲法審査会での議論に耳を傾けることだろう。その議論を支持したり、批判したりすることが、実質的な議論への参加となる。

憲法という国家の骨組みを前に、何を残し、何を変えるのか。国民にとって憲法を見つめなおす試練が始まっている。


岩崎大輔(いわさき・だいすけ)
1973年静岡県生まれ。ジャーナリスト、講談社「FRIDAY」記者。主な著書に『ダークサイド・オブ・小泉純一郎「異形の宰相」の蹉跌』、『団塊ジュニアのカリスマに「ジャンプ」で好きな漫画を聞きに行ってみた』など。

森健(もり・けん)
1968年東京都生まれ。ジャーナリスト。2012年、『「つなみ」の子どもたち』で大宅壮一ノンフィクション賞、2015年『小倉昌男祈りと経営』で小学館ノンフィクション大賞を受賞。
公式サイト

[写真]
撮影:岡本裕志
写真監修:リマインダーズ・プロジェクト
後藤勝
[図版]
ラチカ

 


Q&A① 自民党草案」が変えたもの――与野党憲法担当者に問う  船田元×江田五月

2016-12-07 01:52:39 | 憲法

http://news.yahoo.co.jp/feature/383

自民党草案」が変えたもの――与野党憲法担当者に問う

10/6(木) 11:45 配信

臨時国会で憲法改正論議が始まる。「憲法はどうあるべきか。その案を国民に提示するのは、私たち国会議員の責任であります」。9月26日、安倍晋三首相は所信表明演説でそう語り、憲法審査会の議論を深めていこうと訴えた。その議論のベースとなっているのが、2012年4月、自民党が野党時代に策定した「自民党 日本国憲法改正草案」である。だが、この草案に対し、野党はもちろん、弁護士会や学術界など各方面から「立憲主義の崩壊だ」「戦前の明治憲法への回帰だ」といった批判が寄せられている。この改正草案、何が書かれており、何が現行憲法と異なるのか。自民党、民進党で長く憲法議論を主導してきた担当者2人、船田元・前自民党憲法改正本部長、江田五月・前民進党憲法調査会長に尋ねた。(ジャーナリスト・岩崎大輔、森健/Yahoo!ニュース編集部)

何が変えられたのか

「わが党の案をベースにしながらどう3分の2を構築していくか。これがまさに政治の技術だ」

参院選直後の7月11日、安倍首相は会見でそう述べた。「わが党の案」とは、2012年4月に策定した「自民党憲法改正草案」のことだ。この草案の発表時、自民党総裁だった谷垣禎一氏は「自民党の憲法改正の考え方を国民に問う」と述べたが、改憲派の小林節慶應義塾大学名誉教授は「国家権力と国民の関係が逆転し」「完全に国が主体になっている」(注1)、護憲派で知られる伊藤真弁護士は「近代憲法の基本を蔑(ないがし)ろにした看過できない問題点が多く含まれている」(注2)と批判した。

(注1)樋口陽一、小林節『「憲法改正」の真実』2016年3月、集英社刊
(注2)伊藤真「自由民主党「日本国憲法改正草案」について」2013年1月、web公開

たしかに同草案を現行の日本国憲法と比べると、憲法の骨格ともいえる「国民主権」や「基本的人権」に関する重要な点でいくつも変更がある。主要な変更点を挙げると、次の8点だ。

 

列記したこれらの内容、ちょっとした言葉の「言い換え」程度に映るかもしれないが、その言い換えが憲法というものの骨格自体の変化につながっている。

たとえば現行の日本国憲法97条では、第10章「最高法規」として「基本的人権」が記されている。

<第97条 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。>

ところが、自民党改正草案では、97条はまるごと「削除」されている。

これに対し、日本弁護士連合会(日弁連)は、2014年2月、会の総意として全面的な批判となる意見書を発表した。戦前の大日本帝国憲法のもと、天皇から与えられた「臣民の権利」さえ抑圧された経験があり、日本国憲法では97条を設けることであらためて基本的人権の「永久・不可侵」を確認したと意見書は指摘した。

また、言葉の言い換えが重大な変化をもたらしたものもある。

たとえば、現行憲法で使われている「公共の福祉」という言葉は、改正草案では「公益及び公の秩序」と変更されている。日弁連によれば、「公共の福祉」とは「人権相互の矛盾・衝突を調整するための実質的公平の原理であるとする考え方」でその主体は国民である。だが、「公」という言葉の主体は「国家」である。改正草案では、国家の論理を優先しており、「基本的人権は有名無実なものとなる」と指摘した。

つまり、日弁連は、自民党の改正草案の主体は「国民」ではなく、「国家」だというのだ。

いったいこの改正草案で自民党は何を意図し、野党は何を問題視しているのか。

9条:「戦争放棄」から、国防軍を保持する「安全保障」へと変化

 

現行憲法と改正草案を比較したとき、最初に気づく大きな変化が「9条」だろう。現行憲法で9条の章名は「戦争の放棄」だが、改正草案では「安全保障」となっている。条文を見ても、違いは明らかだ。

現行憲法では条文の2項に「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」「国の交戦権は、これを認めない」と明確に戦力の不保持・不行使を謳っている。だが、改正草案では「自衛権の発動を妨げるものではない」「国防軍を保持する」と「軍」の存在を認め、戦力の保持を肯定している。

同時に、改正草案の3項では「国は、主権と独立を守るため、国民と協力して」とあえて国民への「協力」を求める文言を出したうえで、領土・領海・領空の保全を謳っている。

また、もう一つの大きな特徴は、2項の5に「国防軍に審判所を置く」と、いわゆる軍事裁判所の設置を認めていることだ。現行憲法は76条で、軍事裁判所のような「特別裁判所」は設置できないとしている。改正草案でもその条文はほぼ引き継がれているが、一方で通常の裁判所とは異なる「審判所」という機関を新設していた。

大きな変化が見られる「9条」について、船田元・前自民党憲法改正推進本部長は「9条改正は自民党の党是」と述べ、江田五月・前民進党憲法調査会長は「これを改正すると軍事化に歯止めがきかなくなる」と強く反発する。

現行憲法は、軍事法廷などの特別裁判所は設置できないと定めており、最高裁を頂点とする裁判所のみが司法を担う(写真: アフロ)

冷戦当時とは異なる危うい世界状況

船田元・前自民党憲法改正推進本部長

9条は素直に読むと、自衛隊の存在も「違憲」と捉えられます。そんな憲法を長い間、政府は「解釈」することで対応してきました。

しかし、冷戦当時と異なり、いまの世界状況で「戦力不保持」を主張するのは難しいでしょう。北朝鮮は核武装化を進め、中国は南シナ海を埋め立て、軍事拠点化を進め、安全保障の見直しを迫られてもいる。この危うい状況下で、自衛隊を憲法上の位置づけが曖昧な存在にしておくのは安全保障上、問題だと思われます。この9条を、日本の自衛権などの問題として改正すべきというのは、もともと自民党の党是でもありました。

たしかに「国防軍」という名前には党内でも「勇まし過ぎる」という懸念の声もあります。この改正草案立案時、私自身は落選中で議論に参加できていなかったのですが、「国防軍」という名称には安倍首相の意向が強かったと聞いています。英語表記で「Self Defense Force」ではなく、「National Defense Force」にしたいと考えて「国防軍」としたということです。

また、ご指摘のように「審判所」とは、軍事裁判所のことです。軍隊が活動するうえで、一般の法律とは異なる軍法はどうしても必要です。たとえば一般法しかないまま他国の紛争地へ行き、銃撃戦で他国の兵を負傷させたとします。一般法の刑法で捉えれば、それは傷害罪や銃刀法違反罪になってしまう。軍事法規定がないと、自ずと兵士が困った立場におかれてしまうのです。その一方で、「軍事裁判」という響きは「戦前を思い出す」という批判もありました。そこで、軍事裁判所の名称を使わず、審判所としたのです。

自衛隊は国民に理解されている現実もあります。そんな現実と解釈のギャップも限界に近づいている。だとすれば、9条改正は必須と思います。

船田元(ふなだ・はじめ)1953年、栃木県宇都宮市生まれ。1976年、慶應義塾大学卒業。1979年、25歳で衆院議員に初当選。1992年、39歳で経済企画庁長官に。1993年、新生党結成に参画。1997年、自民党復党。2014年、憲法改正推進本部長。当選11回(撮影: 岡本裕志)

国防「軍」となった自衛隊の活動にどこで歯止めをかけられるのか

江田五月・前民進党憲法調査会長

江田五月(えだ・さつき)1941年、岡山県岡山市生まれ。東京大学在学中の1965年、司法試験に合格。判事補を経て、1977年、急逝した父・三郎氏の遺志を継ぎ、参院全国区で初当選。その後、衆院4回、参院3回当選し、科学技術庁長官、参院議長、法相、環境相を歴任。民進党最高顧問、憲法調査会会長も務めた。前回の参院選に立候補せずに引退。現在は地元・岡山での弁護士活動に加え、公益財団法人日中友好会館会長(撮影: 岡本裕志)

民進党の憲法調査会では、9条の1項、2項はそのまま保持が党の方針です。ただ、そのうえで、新たに3、4項を設ける案が出ています。3項で「自衛権」を認め、4項で「集団安全保障権」を認める。現行憲法には明文の記載はありませんが、長いこと「個別的自衛権はある」と解釈をしてきました。それなら「自衛権」を条文にしっかりと明記しようというのが狙いです。旧民主党時代から個別的自衛権を憲法に加えることは党内で合意できています。

しかし、昨年集団的自衛権を認める「安全保障関連法制」が成立しました。そんな変化のあとで、自衛隊が「(国防)軍」と変われば、どこで歯止めをかけられるのか危ぶまれます。

そうした自衛隊への懸念の一つが、「審判所」という軍事裁判所規定です。旧民主党時代を振り返っても、軍法会議をつくるか否かの議論もしていません。実際、現行憲法には76条に「特別裁判所は、これを設置することができない」とあり、軍事裁判所は設けられません。自民党の草案にもこの条文は残されています。にもかかわらず、自民党改正草案の9条5項に「国防軍に審判所を置く」とし、抜け道を残しました。

安保関連法が成立したことで、自衛隊が海外に出る機会が今後増えるかもしれません。そこへ「審判所」という軍法会議を設置するという。審判所ができれば、軍法会議を伴う活動、つまり、より武器使用が増えるような活動が行われる可能性が高まるでしょう。

そうした起こりうる変化を考えると、自衛隊を国防軍にすること、その軍のための法規をつくることは、いずれも賛成できません。そのようなものは必要ありません。

13条:現行法「公共の福祉」と自民党草案「公益及び公の秩序」との違い

 

現行憲法の第3章「国民の権利と義務」には、国民にとってもっとも重要な「基本的人権」や自由や権利が記されている。

だが、改正草案では前述のように「公共の福祉」という言葉が「公益及び公の秩序」に変わった。具体的にどんな変化があるのか。たとえばこんなケースで考えてみる。

国が主導する工業地帯や道路の開発の結果、周辺に公害が発生、公害病にかかった住民が国を訴えたとする。「国(国民)の産業発展・経済成長・交通インフラ充実」の権利と「地域住民の健康」の権利の衝突を司法が調整するが、その司法判断において、2つの権利に上下関係はない。これが現行憲法の「公共の福祉」の考え方で、2000年に判決が出た尼崎公害訴訟(写真参照)はそんな事例だろう。

だが、もしこれが改正草案の「公益及び公の秩序に反しない限り」という文言となれば、どうなるか。国の主張は「公益」として優先されるべきもの、住民の主張はそれに反する「私益」という意味合いが生じ、司法判断は国側に有利に傾く──そんな可能性を否定できない。

自民党がつくった「日本国憲法改正草案Q&A増補版」でも、こう記されている。

<「公の秩序」とは「社会秩序」のことであり、平穏な社会生活のことを意味します。個人が人権を主張する場合に、人々の社会生活に迷惑を掛けてはならないのは、当然のことです。>

13条のもう一つの変化が、「個人」という単語から「個」が抜けたことだ。単独の個人ではなく、複数人ないしは漠然としたイメージの「人」という言葉に変えられている。

思想や良心の自由についても変化がある。現行憲法では「侵してはならない」というあらゆる権力介入への強い禁止表現が使われているが、改正草案では「保障する」となっており、「自由」に関して、国家が許可して与えてあげているような表現となっている。

これについて尋ねると、船田氏は戦後の裁判で個人の利益を優先したことに反省があると語った。

1988年に始まった尼崎公害訴訟では、道路による大気汚染の被害をめぐり、住民が、国、阪神高速道路公団および9企業を訴えた。2000年、国・公団に損害賠償を命じる神戸地裁の判決が下り、原告・被告ともに控訴したが、その後、和解が成立した(写真: 毎日新聞社/アフロ)

「私益」より「公益」が優先することがある

船田元・前自民党憲法改正推進本部長

13条の「公共の福祉」という言葉は、改正草案では「公益及び公の秩序」と変えました。これはかねてより「公共の福祉」という概念がわかりにくいのでは、という意見があったためです。

意図するところは、「公益」対「私益」で争った際、「私益」よりも「公益」が優先することがありますということです。

たとえば、ある道路を拡幅するという話が起きると、「環境か開発か」との議論になります。道路の近くに暮らす人は騒音への不満が出ますが、道路ができれば、多数の人の利便が高まり、経済効果が上がります。その時、どちらを尊重するか。戦後の裁判では、公共事業を進めるよりも、個人の利益を尊重する判決が多く出ました。しかし、いま考えると、すべてそうした判決でよかったのかどうか。もちろん、常に公共の利益を優先させろと言いたいのではありません。「公益」と「私益」を天秤にかけるとき、裁判所は公正な判断をしてほしいという考えで、この表現としたのです。

また、「秩序」という言葉にしたことで、国家の「治安維持」のような印象を持つ方が多いかもしれませんが、必ずしも国家を優先することを意識したものではありません。改正草案の「公の秩序」の意図としては「公共の福祉」と同じく、個人の「私益」と「私益」がぶつかった際、うまく調整する概念と考えています。

また、「個人」を「人」に変えたのも考えがあります。「個人」という言葉は「個人主義」の考えに通じるという意見がありました。個人主義という概念は西洋で生まれたものですが、私たち日本人が大事にすべきなのは、個人というより、国民の一人、地域社会を構成する一員、家族を構成する一員ではないか。行き過ぎた個人主義を尊重するのはどうかという議論が党内にあったのです。そういう位置づけをすべきという議論から、「個人」を「人」に変えたのです。

(撮影: 岡本裕志)

自民党草案は「個人」の前に「公」や「国家」がある

江田五月・前民進党憲法調査会長

「公共の福祉」という概念が「公益及び公の秩序」と変更され、「個人」が改正草案では「人」となって「個」の字が消えました。これは、憲法「改正」どころの話ではなく、「新設」というほどの大きな変化です。

「公共の福祉」は、個人と個人の人権がぶつかった場合に機能する調整原理というのが憲法学での理解です。対して、「公の秩序」は個人が主体ではなく、「公の中にあらかじめ秩序がある」という発想が原点です。これは主体が「個人」ではなく、「国家」という思想で、近代的な「憲法」というものが規定する概念と正反対です。

たとえば、公的施設の建設に際して、「個人」と「国家」で権利を争ったとき、この改正草案の憲法のもとでは、国家の利益が、個人すなわち国民の利益より優先される可能性があります。

つまり、自民党改正草案では、「個人」の前に「公」や「国家」があるんです。本来、近代国家を構成する概念、「国民主権」とは一人一人の個人が主権者であるという意味です。その主権者が集まって、国会をつくり、法律をつくり、国家を成り立たせている。その法的基盤が憲法です。だからこそ、立憲主義といわれるわけです。その基本的な哲学すら、自民党の改正草案は変えてしまっているわけです。

(撮影: 岡本裕志)


「エッジが効いた」「勇ましい内容」

小泉政権下の2005年に策定された自民党改正草案では、天皇は「象徴」のまま維持され、自衛隊は「自衛軍」という表記。前文では「価値観の多様性」に触れるなど、保守色は抑えられていた。

ところが、自民党が野党時代につくられた2012年草案では、天皇は「元首」となり、自衛隊は「国防軍」とさらに強い表現となった。国民よりも国家を主体とするような文言が増えたのが、ここで取り上げている現改正草案の特徴だ。

この変化の背景について、船田氏が説明する。

「当時、政権を奪還したい、という強い思いがあった。自民党らしさを強調したい──そんな保守系の考えが強く出て、“エッジが効いた”“勇ましい”内容になったようです」

たしかに改正草案を読んでいくと、そんな“勇ましい”表現が少なくない。実際、9条で「戦争の放棄」を「安全保障」に変え、「自衛隊」を「国防軍」にしたのはその骨頂だろうし、「私益」より「国益」が優先されるような憲法は他国と比べても「エッジが効」きすぎている感覚は拭えない。

では、ほかの項目はどうか。
「表現の自由」や「婚姻・家族」、「緊急事態条項」についても改正草案では、新たな追記がなされていた。

自衛隊航空観閲式に列席した安倍首相(写真: ロイター/アフロ)


岩崎大輔(いわさき・だいすけ)
1973年静岡県生まれ。ジャーナリスト、講談社「FRIDAY」記者。主な著書に『ダークサイド・オブ・小泉純一郎「異形の宰相」の蹉跌』、『団塊ジュニアのカリスマに「ジャンプ」で好きな漫画を聞きに行ってみた』など。

森健(もり・けん)
1968年東京都生まれ。ジャーナリスト。2012年、『「つなみ」の子どもたち』で大宅壮一ノンフィクション賞、2015年『小倉昌男祈りと経営』で小学館ノンフィクション大賞を受賞。
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[写真]
撮影:岡本裕志
写真監修:リマインダーズ・プロジェクト
後藤勝
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