
今回は、2017年3月30日にOurPlanet-TV(アワープラネット・ティービー)がスクープし、その後NHKが夜7時から放送している「ニュース7」で報じるなど大手マスコミや全国紙の新聞社もいっせいに報道した『福島原発事故当時4歳だった福島県の男児の甲状腺がん発病を、福島医大が未報告…つまり事実上隠ぺい』していた問題を特集します。※1
福島原発事故で被ばくした福島県の子供達を対象とする甲状腺がん検査。福島県からの委託を受けて福島県立医大が実施しています。
この福島原発事故当時4歳だった男の子は、経過観察も甲状腺がんの手術も福島県立医科大学で受けていました。にもかかわらず福島医大は報道される当日ギリギリまで、この男の子の存在を黙っていたわけです。
まずは、新たにわかった福島原発事故当時4歳だった男児の甲状腺がん患者1人を、すでに公開されている最新の福島県の甲状腺がん及び疑いの子供達185人(ただし1人良性結節)を福島原発事故当時の年齢と男女別で分類した一覧表に追加してみます。※2
2016年12月31日時点
福島県小児甲状腺がん原発事故当時の年齢別
年齢 |
男 |
女 |
合計 |
0歳 |
|
|
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1歳 |
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2歳 |
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3歳 |
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4歳 |
1人 |
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5歳 |
1人 |
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1人 |
6歳 |
1人 |
1人 |
2人 |
7歳 |
2人 |
1人 |
3人 |
8歳 |
3人 |
3人 |
6人 |
9歳 |
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4人 |
4人 |
10歳 |
2人 |
8人 |
10人 |
11歳 |
3人 |
8人 |
11人 |
12歳 |
8人 |
9人 |
17人 |
13歳 |
7人 |
12人 |
19人 |
14歳 |
6人 |
11人 |
17人 |
15歳 |
10人 |
12人 |
22人 |
16歳 |
10人 |
14人 |
24人 |
17歳 |
12人 |
17人 |
29人 |
18歳 |
5人 |
15人 |
20人 |
合計 |
70人+1人 |
115人 |
185人+1人 |
しかし、この一覧表を見ればわかるように福島県では、すでに185人も甲状腺がん及び疑いの子供達が見つかっていたわけです。
では、なぜ今回…福島原発事故当時4歳だった男児の甲状腺がん患者がたった1人見つかっただけで、ハチの巣をつついたように大騒ぎになったのか?
理由は2つあります。
【1】福島原発事故が原因でないとする根拠の1つが崩れる
2016年2月15日、福島県の第22回県民健康調査検討委員会は「(福島県内で多発している子供達の甲状腺がんは福島原発事故の)放射能の影響とは考えにくい」とする『中間とりまとめ』をおこない、その際に放射能の影響を否定する根拠を4つ示しました。※3
1.被ばく線量がチェルノブイリ事故と比べて総じて小さいこと
2.被ばくからがん発見までの期間が概ね1年から4年と短いこと
3.事故当時5歳以下からの発見はないこと
4.地域別の発見率に大きな差がないこと
今回新たに見つかった事実上…隠蔽されていた男の子は、福島原発事故当時4歳でしたから、たった1人見つかっただけでも福島原発事故の影響を否定する根拠の3.が崩れることになります。
ただしこの
3.事故当時5歳以下からの発見はないこと
は、今回の発覚を待つまでもなく、とっくに崩れ去っている根拠です。
いつ崩れ去ったのか?それは『中間とりまとめ』からたった4カ月後、次の県民健康調査検討委員会でです。
2016年6月6日、福島県の第23回県民健康調査検討委員会の席上で福島原発事故当時5歳の男の子が1人新たに甲状腺がん及び疑いに増えたことが報告されます。
先ほどの一覧表で言うとオレンジ色の1人がそうです。
2016年12月31日時点
福島県小児甲状腺がん原発事故当時の年齢別
年齢 |
男 |
女 |
合計 |
0歳 |
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1歳 |
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2歳 |
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3歳 |
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4歳 |
1人 |
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5歳 |
1人 |
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1人 |
6歳 |
1人 |
1人 |
2人 |
7歳 |
2人 |
1人 |
3人 |
8歳 |
3人 |
3人 |
6人 |
9歳 |
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4人 |
4人 |
10歳 |
2人 |
8人 |
10人 |
11歳 |
3人 |
8人 |
11人 |
12歳 |
8人 |
9人 |
17人 |
13歳 |
7人 |
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19人 |
14歳 |
6人 |
11人 |
17人 |
15歳 |
10人 |
12人 |
22人 |
16歳 |
10人 |
14人 |
24人 |
17歳 |
12人 |
17人 |
29人 |
18歳 |
5人 |
15人 |
20人 |
合計 |
70人+1人 |
115人 |
185人+1人 |
つまり今回の発覚は、福島原発事故と福島県の子供の甲状腺がんの多発との因果関係を否定する
3.事故当時5歳以下からの発見はないこと
の根拠を崩すダメ押しの1人となったわけです。
続いて、なぜ今回…福島原発事故当時4歳だった男児の甲状腺がん患者がたった1人見つかっただけで、ハチの巣をつついたように大騒ぎになったのか?
理由の2つ目。
【2】福島医大が事故当時4歳の男児の甲状腺がん発病を事実上隠蔽
福島原発事故で被ばくした福島県の子供達を対象とする甲状腺がん検査。福島県からの委託を受けて福島県立医大が実施しています。
しかし、この甲状腺の検査で例え甲状腺がんが見つかっても…報告しなくても良い抜け穴が存在する。
その点を最初に言及したのは2015年2月2日に開催された福島県の県民健康調査検討委員会の第5回甲状腺評価部会の席上でした。春日文子委員が指摘します。※4

春日文子委員
「万が一、経過観察後に悪性の結果(つまり甲状腺がんのこと)が出てしまったような場合には、それはどういう形で結果が出され、まとめられるのでしょうか?」 |
この質問に対し当時、甲状腺検査を担当していた福島県立医科大学の鈴木眞一教授は、こう回答しています。
鈴木眞一教授(福島県立医大)
「幸いにも今のところ…そういう(経過観察後に甲状腺がんを発病した)症例がないので(報告自体必要ないので)報告はしていませんけど、そういう(経過観察後に甲状腺がんを発病)があれば(定期的に公表している福島県の甲状腺検査の報告書とは)別枠で報告となると思います。経過観察中に発見された悪性腫瘍ということ(で別枠で報告)になると思います。」 |
そうです私がさっき言った、甲状腺の検査で例え甲状腺がんが見つかっても…報告しなくても良い抜け穴とは、経過観察後に甲状腺がんになったケースです。
これから詳しく説明していきます。
まず福島県の甲状腺がん検査の対象は、2011年の福島原発事故当時…福島県に住んでいた18歳以下だった子供達、さらに原発事故後の約1年間の間に福島県内で生まれた子供達も検査の対象です。検査対象の子供達は合計で約38万人います。
この甲状腺ん検査対象の福島県の子供達38万人は、まず甲状腺にエコーを使った一次検査を受けます。
一次検査を受けた子供達は、甲状腺のしこりの有無などで4つの判定に分類されます。A1、A2、B、Cの4種類です。
検査対象の福島県の子供達38万人 |
一次検査 |
A1 |
A2 |
B |
C |
そしてB、C判定になった子供達だけ、さらに二次検査を受けます。
二次検査を受けた子供達は、検査結果によって2タイプに分類されます。
まず1つ目の再診不要は、また2年後におこなわれる定期検査まで診療の必要はないよ、という事実上の安全宣言です。
それに対して2つ目の通常診療等は、通常の保険診療枠として6か月又は1年後に再診する必要がある子供達と、これからさらに穿刺細胞診を受診する必要がある子供達で構成されます。
つまり通常診療等は、名前に通常診療という言葉があって一見、問題のない子供達と誤解される方もいるかもしれません。
しかし、その実態は6か月又は1年後に再診する必要がある子供達…これはつまり経過観察の子供達ですし。残りの穿刺細胞診を受診する必要がある子供達も、穿刺細胞診の受診後には、甲状腺がん及び疑いの子供達と経過観察の子供達にわかれます。全然、通常じゃないわけです。
つまり通常診療等の子供達は
経過観察の子供達と甲状腺がん及び疑いの子供達で構成されているのです。
ですので今後は福島県が名付けた通常診療等という実態にそぐわない名称でなく経過観察+甲状腺がん及び疑いと表記して説明を続けます。
ここから先は具体的な人数も記載します。
経過観察+甲状腺がん及び疑いの子供達は、2つに分類されます。
まず6か月又は1年後に再診する必要がある経過観察の子供達。
そして穿刺吸引細胞診を受診する必要がある子供達です。
経過観察+甲状腺がん及び疑い |
2708人 |
経過観察 |
細胞診実施者 |
1967人 |
741人 |
穿刺吸引細胞診を受診した子供達は、さらに2つに分類されます。
まず6か月又は1年後に再診する必要がある経過観察の子供達。
そして甲状腺がん及び疑いの子供達です。
経過観察+がん及び疑い |
2708人 |
経過観察 |
細胞診実施者 |
1967人 |
741人 |
経過観察 |
がん及び疑い |
556人 |
185人 |
6か月又は1年後に再診する必要がある経過観察の子供達は…
1967人+556人=2523人
そして経過観察になった子供達2523人のうち何人が甲状腺がんになったのか?
は、鈴木眞一教授(福島県立医大)が言ったような別枠での報告は今まで1回もありませんでしたから経過観察後に甲状腺がんになった子供は1人もいないんだと一般的に考えられていました。
だからこそ今回…福島原発事故当時4歳だった男の子がたった1人、経過観察後に甲状腺がんになったことがわかっただけで「福島医大による事実上の隠ぺいではないか!」とハチの巣をつついたように大騒ぎになりテレビや全国紙に掲載されることとなったわけです。
経過観察+がん及び疑い |
2708人 |
経過観察 |
細胞診実施者 |
1967人 |
741人 |
経過観察 |
がん及び疑い |
556人 |
185人 |
がん及び疑い |
1人 |
ここまでがテレビや全国紙が報道した内容となります。
しかし報道が日本中を駆け巡った3月30日。その翌日の2017年3月31日に記者会見で発表された、ある重要な情報が…うっかりか…わざとかは知りませんが完全に抜け落ちて、追加されることもなく…その後も報道がされ続けています。
まるで氷山の一角を氷山全体だと誤解させるかのように。
では、その重要な情報とは何か?
【3】経過観察後に甲状腺がんになった子供は他にもいる
2017年3月31日、特定非営利活動法人の『3・11甲状腺がん子ども基金』の崎山比早子代表理事が記者会見をおこないました。※5
『3・11甲状腺がん子ども基金』は、福島原発事故後に東日本で甲状腺がんを発病した子供達に経済的支援をおこなっている民間の団体ですが。
実は『福島原発事故当時4歳だった福島県の男児の甲状腺がん発病を、福島医大が未報告…つまり事実上隠ぺい』していることを、検査と関係ない第三者で最初に把握したのはOurPlanet-TVでもNHKでもなく、この『3・11甲状腺がん子ども基金』です。※5※6

崎山比早子代表理事(3・11甲状腺がん子ども基金)
「2017年2月に福島県(内)から(3・11甲状腺がん子ども基金に給付金の)申請のあった4人の中に1人(原発)事故当時4歳児(男子)が含まれていた。この(原発事故当時4歳男子の)方は(福島県の)県民健康調査を受け、経過観察も福島県立医科大学でしていたし、(その後の甲状腺がんの)手術も福島県立医科大学で受けたのに、(福島県立医科大学が中心になってまとめているはずの)福島県の県民健康調査の報告書の(甲状腺がん患者数の)中には、この(原発事故当時4歳男子の)方は含まれていない。(だから)問題だと思った」 |
崎山比早子代表理事の記者会見はさらに続き、ある重要な情報が発表されます。

崎山比早子代表理事(3・11甲状腺がん子ども基金)
「(3・11甲状腺がん子ども基金は、今日までに)福島県内の(甲状腺がんを発病した)子供54人に療養費を給付したが、この原発事故当時4歳男子以外にも少なくとも5人(の甲状腺がんの子供達)が福島県の県民健康調査の報告書(の甲状腺がん患者数)には含まれていない、と考えられる」 |
つまり経過観察後に甲状腺がんになった福島県の子供達は原発事故当時4歳の男子1人だけでなく、『3・11甲状腺がん子ども基金』が把握しているだけで6人もいる。
経過観察+がん及び疑い |
2708人 |
経過観察 |
細胞診実施者 |
1967人 |
741人 |
経過観察 |
がん及び疑い |
556人 |
185人 |
がん及び疑い |
少なくとも6人 |
※1http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/2108
※1http://www3.nhk.or.jp/lnews/fukushima/6055124091.html
※2http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/167944.pdf
※2https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/201727.pdf
※3http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/158522.pdf
※3の中間とりまとめのpdfとしての一般公開は2016年3月30日
※4https://www.youtube.com/watch?v=-No-zy9jThs
※5https://www.youtube.com/watch?v=kUk42w0zIYc
※5http://www.311kikin.org/2017/04/01/686
※6http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170331/k10010932221000.html
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