今治市にある、獣医学部の建設予定地の映像です。3か月前、加計孝太郎理事長をはじめ学園の関係者が一堂に会して起工式が行われました。来年(2018年)4月の開学を目指し、急ピッチで工事を進める加計学園。
獣医学部の新設は長年の悲願でした。加計学園は10年前から今治市などの提案の中で新設を希望してきましたが認められませんでした。
状況が大きく変わったのが、国家戦略特区制度が出来た平成25年。
この制度は、いわゆる「岩盤規制」を突破するため、内閣府に設置された総理大臣を議長とする諮問会議がトップダウンで、どの地域で、どの規制を外すかを決めるものです。
安倍総理大臣と40年来の友人である加計理事長に便宜が図られたのではないか。安倍総理大臣は再三、否定してきました。
民進党 斎藤参院議員
「加計理事長は心の奥でつながっている腹心の友ということをおっしゃっていますが。」
安倍首相
「加計学園から私に相談があったことや、圧力が働いたことは一切ない。」
特区の指定を行う諮問会議の議員は、会議でのプロセスは適切だったと語りました。
国家戦略特区諮問会議 竹中平蔵民間議員
「これまでの準備の状況から、今治が適切だと全員一致で判断した。一点の曇りもないプロセスであったと理解しています。」
リポート:森並慶三郎(社会部)
今回の取材で、ある人物が安倍総理大臣の名前を使って加計学園を売り込んでいたとするメールの文書が見つかりました。文部科学省のOBで、後に加計学園の理事となる豊田三郎氏。豊田氏は、今治市が特区に認定されるより前の平成27年文部科学省の職員と会い、新設に向けた意気込みを語ったとされています。職員が書いたメールには「安倍総理大臣と親しい」としたうえで学部新設に力を入れていくと豊田氏が伝えた様子が記されています。
“安倍総理の留学時代のご学友である現理事長と安倍総理と食事をする仲になった。いざ総理が進めたときに『お友だち内閣ですね』と週刊誌などに書かれないように、中身をしっかりしたものにしないと総理に恥をかかせることになるから、ちゃんと学園として構想をしっかりしたものにするよう、私からは(理事長に)言っている。”
このメールの内容を共有していた、文部科学省の現役職員です。加計学園は獣医学部の新設で無視できない存在として省内で認識されるようになっていったといいます。
文部科学相 現役職員
「政治家が関係する案件を“マル政”案件と言ったりしますけれど、政治的に事が進められる可能性が高い案件という意識を持っていた職員は多いと思います。」
特区選定の背景には、獣医学部の新設を長年にわたり認めてこなかった文部科学省と、特区を進める内閣府とのせめぎ合いがありました。諮問会議は獣医学部新設の地域について新潟市や京都府なども手を挙げる中、今治市を選び、今年1月、事業者は加計学園に決まりました。そのプロセスは公平だったのか。加計学園に決まる3か月前の去年11月、ある条件が加えられていたことについて、一部に疑問の声が上がりました。
先週、文部科学省の追加調査で公表された文書。新設の条件に「広域的に」や「限り」などの文言が手書きで挿入され、獣医学部がない空白地域に限定されることになったのです。
これは、獣医学部がない四国での新設を目指す加計学園を念頭に置いたものではなかったか、修正を指示したのではないかと、野党から追及を受けたのが萩生田官房副長官です。
民進党 福山参院議員
「萩生田副長官から指示が出て、これを修正しろと言われたと。」
萩生田官房副長官は全面的に否定しました。
萩生田官房副長官
「わたしは修正の指示をしたことはありません。」
国家戦略特区を担当する山本地方創生担当大臣は、文言の修正をしたのは自分の判断だとしたうえで、次のように説明しました。
山本地方創生相
「広域的とか、わたしが決めたのですから、わたしに聞いていただきたい。
最終的に広域的に限られていることは、獣医師会等の議論を踏まえてわたしが最終的に決断して(去年)11月9日の特区諮問会議の結論になったわけであります。」
山本大臣は修正の理由について、「諮問会議の有識者の意見を受けたことに加え、獣医師の増加を懸念する獣医師会の要請に配慮したもので、他の地域を排除する意図はなかったとしています。
しかし、同じく手を挙げていた京都府と京都産業大学の中には、異なる受け止めをした人もいました。
京都府 畜産センター 上村浩一所長
「この辺一帯を、獣医学部を設置する予定地と当時は考えておりました。」
新設に向けた提案を中心となって作成した京都府の職員、上村浩一さんです。上村さんは、提案を採用してもらおうと入念に準備を進めてきました。
内閣府に出した提案書です。iPS細胞を使った再生医療など、最新技術を持った獣医師を育てるとしていました。
そこに立ちはだかったのが、新たに追加された条件だったといいます。同じ関西地域には、すでに別の獣医系の学科がありました。
京都府 畜産センター 上村浩一所長
「新たな規制を出したということ、それに対する条件が合わないというのが京都府であると。」
京都府と共同で新設を目指していた京都産業大学。提案の作成に関わった松本耕三元教授は、選考のプロセスに納得できないといいます。
京都産業大学 松本耕三元教授
「広域的にないところ、まさに後出しジャンケンでそういうことされたら、それは負けますわね。(京都は選定の)テーブルには乗っていないでしょうね。」
リポート:荒川真帆(社会部)
加計学園の選定は公平に進められたのか。NHKは新たな文書を入手しました。
去年10月21日、萩生田官房副長官が文部科学省の局長と面会し、官邸や内閣府の考えを伝えた発言をまとめたとするものです。「広域的に」という文言が手書きで加えられたのと同じ時期です。
この文書はNHKの取材で、文部科学省の少なくとも3つの部署のおよそ10人の職員が共有していたことが分かっています。この時期は、事業者が加計学園に決まる3か月前。まだ獣医学部の新設さえ決まっていないころでした。しかし、文書にはこのときすでに「加計学園」という名前が挙げられていました。そして、開学の時期まで区切り、文部科学省に早く進めるよう迫る内容が記述されていました。
“内閣府や総理補佐官と話した。総理は『平成30年4月開学』とおしりを切っていた。工期は24か月でやる。今年11月には方針を決めたいとのことだった。”
“補佐官からは、農水省は了解しているのに文科省だけがおじけづいている。何が問題なのか、整理してよく話を聞いてほしいと言われた。官邸は絶対やると言っている。”
獣医学部の新設には、生命科学など新たな分野に対応できる獣医師の養成など、4つの条件が閣議決定されていました。文部科学省は、加計学園がこの条件を満たしていないと見ていました。
文書には、萩生田官房副長官が今治市のある四国で条件をクリアするための具体的なアドバイスをしたと記されていました。そして、萩生田官房副長官は加計学園の事務局長を文部科学省の課長に会いに行かせると伝えたと記されています。
文部科学省は文書に書かれていたとおりの動きをします。6日後、担当者が加計学園の事務局長と省内で会っていたことが取材で分かりました。
NHKが入手した別の文書です。加計学園に対して文部科学省が、獣医学部の新設が決まる直前に、条件をクリアするための課題について具体的に伝えていたことも分かりました。
文書を保管していた文部科学省の職員は、加計学園ありきの指示だと受け止め、本来、文部科学省として慎重に精査すべき手続きが行われなかったと語りました。
文部科学省 現役職員
「おかしいというふうに思っていても、それに従わざるを得ないところがありますし。本来決めるべき(条件の審査の)ステップを踏まないで押し切ったというところはやっぱりあるんじゃないかと思います。」