お金は一種の魔法の杖だ。
お金ぐらい重宝なものはない。
名誉や地位も、幸福も生み出す力を持っている。
だから、これらを求めようと努力する事は、決して悪い事ではない。
問題はお金や名誉や地位の、求め方である。
この求め方が悪いと、不思議に破滅の運命に襲われる。
「道を以てせざれば、之を得るとも処らざるなり」で、「人のため」という道の心を持っていないと、生き甲斐ある人生は送れない。
かつて、大学の進路の相談をしていた時、医学部を希望している生徒が二人いた。
一人は父親が医者であった。
彼は「父の跡を継いで、病院に来てくれる患者さんの面倒を見たい」と言った。
もう一人は、はっきりと「医者の収入がいいから」と胸を張った。
二人とも優秀な才能を持っていた。
今日に父親の跡を継いだ医者は、小さな病院でニコニコと楽しく医業に務めている。
高収入を目指した彼は、大きい病院の院長になったが、不況の嵐の中でつぶれた。
お金も、名誉も、地位も、人を愛し思いやり、人を慈しむ仁徳の心が無ければ、例えそれを得たとしても、長い間幸福に安んずる事は出来ない。
院長になって病院が潰れた彼と話した。
彼はしみじみと、こう言ってくれた。
「大きな病院の院長となると、達成しなければいけない目標を掲げ、患者さんからの無理難題をどうやって解決するかを考え、理不尽な文句を毎日のように処理し…世間のいろいろな厳しい攻撃を受け、すっかり参ってしまった。
患者さん一人ひとりと接し、よく話し、少しでも人の病気の回復の為に、エネルギーを使えば良かったのに」と。