story・・小さな物語              那覇新一

小説・散文・詩などです。
那覇新一として故東淵修師主宰、近藤摩耶氏発行の「銀河詩手帖」に投稿することもあります。

トン太黒猫、野良猫トン太

2004年10月27日 17時48分34秒 | 小説
トン太、野良猫、生まれたばかり。
生まれたばかりでトン太野良猫・・それだけが決まっていた。
トン太真っ黒、黒猫トン太、生まれた時から野良になることだけは決まっていた。
母さん白猫、なぜだかトン太は黒猫で、兄弟姉妹、ほかの3匹、みんな白かブチ、なのにトン太一人が黒猫・・トン太。
母さんのおっぱいを一生懸命飲んで、トン太大きくなりたい早く大きくなりたい。
兄弟姉妹、仲良く遊ぶ。
楽しいな四人で遊ぶの楽しいな・・
「可愛い!」
通りかかった女の子か、真っ白なお姉さん猫を連れて行った。
「うちへおいでよ」
通りかかった男の子が、ブチのお兄さん猫を連れて行った。
「この子がいいわ」
通りかかった買い物帰りの女の人がブチの弟猫を連れて行った。
トン太一人お母さん猫のおっぱいを飲んで、早く大きくなりたい早く大きくなりたい・・
遊びたいけれど、淋しくなってしまったトン太一人。
「トン太だけはどこにも行かないでね・・」
お母さん猫がちょっとだけ淋しそうにそう言った。
トン太野良猫、生まれた時から野良猫になることだけは決まっていた。

暖かいお母さん猫のおなかの下でトン太ゆっくりお休みトン太。
お月様もお星様もきっとトン太を見つめてくれている。

トン太、そろそろ歯が生えてきた。
トン太おっぱいじゃない食べ物を食べたいよう・・
トン太、街の中でおいしそうな、ごはん見つけ、食べようとしたそのときだ。
大きな犬が怒ってやってきた。
「それは俺のだぁ!」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
トン太謝るけれど、グルルグルルと怒った犬は許してくれない。
トン太必死で逃げるけど、犬は大きくてすごく早い・・
「つかまる!」
目をつぶって、うずくまったそのときに「にゃーん!」
母さん猫が犬に飛びついた。
「うちの子に何するの!」
「うるさい!お前の方こそこうだ!」
こんどは母さん猫が犬に噛み付かれてしまった。
トン太悲しい、悲しいトン太。
母さん猫は、息が苦しそう・・
月も星も心配そうに見ていたけれど、母さん猫は息も切れ切れにこう言った。
「お母さんはもうだめなの・・トン太・・お父さんが隣町にいるから、そこへお行き」
母さん猫は涙を流してそう言うけれど、トン太、嫌だ嫌イヤイヤだ・・

そのうち母さん猫静かになった。
気持ちよく眠っているようだ。トン太そのまま母さん猫にくっついていたけれど、母さん猫はちっとも暖かくならない。
冷たい母さん猫、トン太自分で母さん暖めよう・・
でもちっとも暖かくならない・・
お日様やっと出てきて、おじさんがそばを通る。
「おや、猫の死骸だ。これは清掃局に通報しないと・・」
トン太隠れてみていた。トン太隠れて泣いていた。
「母さん死んでなんかないよ、眠っているんだ・・気持ちよさそうに」
でも、しばらくして緑色のクルマがやってきて、制服のおじさん二人で母さんを掴んで袋に入れてしまった。
・・トン太悲しい、野良でも悲しいトン太。
トン太小さなあしで隣町を目指すことにした。
トン太必死で歩く。歩くトン太、走るトン太、また歩く・・
おなかがすいた。おなかが空いても、どこに何があるのだろう・・
中学校の制服を着た女の子に「にゃあ」と泣いてみた。
「あれ・・おなかが空いてそう・・そうだ。ちょっと待ってね・・」
女の子はそう言って、かばんの中からお弁当を出して、ご飯に焼さかなを混ぜてそこにおいてくれた。
「おいで」
そう言われても、やっぱり怖がるトン太。
食べ物欲しいけれど、追っかけてこられるのが、嫌だよ・・そう思うトン太。
女の子が優しい目をしてくれる。
母さんと同じ目だ。
トン太勇気を出して、ご飯にかぶりついた。
おいしいよ!おいしいよ!
女の子は背中をなでてくれた。
「かわいいなあ・・がんばりなよ・・」
そういって女の子は学校へ行ってしまった。
トン太やっと、おなかがいっぱい、トン太優しい人もいるって始めて知ったよ。
でも・・・トン太、野良猫トン太、一人で隣町へ行かなきゃならない。
広い道・・どうやって渡ろうか・・
なぜだかここを渡らなければならないって、考えるトン太。
どうしても渡らなきゃ・・

でもクルマがびゅんびゅん・・渡りたいのにクルマがびゅんびゅん・・
思い切っていってしまおう、そう思って飛び出すトン太。
キキーーッ!
もう少しでひかれるところ・・怖くて渡れない・・
そのとき、やってきたお爺さん犬。
「道を渡りたいのかな?」
トン太、犬嫌い!母さんに噛み付いた犬嫌い・・
「フフー!」
毛を逆立てて、あっちへ行って欲しくて怒った。
お爺さん犬は落ち着いて「わしは何もせんよ・・それより、お前、まだ子供じゃないか・・道の渡り方を教えてやろう・・」
ついておいでとお爺さん犬が言うとおり、トン太恐る恐るついていった。
歩道橋があった。
お爺さん犬は人間のように階段を昇っていく・・トン太の小さな身体には、階段は大きくてしんどい・・
ふうふう、はあはあ、、やっと昇りきると、今度は細い通路を向こうまで渡って、また階段を下りる。
降りるのは昇るよりも怖かった。
やっこらしょ、よっこらしょ・・トン太必死で階段を降りる。
お爺さん犬が下で待っていてくれた。
こうやって道路を渡るのか・・
「いいかい、ぼうや・・広い道路には絶対に飛び出しちゃあダメなんだよ」
「お爺さん犬さん、ありがとう!」
トン太、犬にも優しい犬がいると覚えたよ・・トン太・・

随分歩いたけれど、ここはもう隣町ではないの?
そう思っても誰に聞けばいいのだろう・・トン太誰かを探す・・教えてくれそうな誰かを探す・・
カラスがゴミ箱をあさっていた。
「ねえ、ここは隣町ですか?」
「カア!あっちいけ!カア!」
カラスはトン太の声に、すごく怒った・・トン太ビックリして飛びのいた。
「おや・・お前は猫だけど、わしと同じで黒いなあ」
カラスがトン太を見てそう言った。
「わしは、黒いやつは好きだ。黒いやつに悪いやつはいないからな」
カラスさん、わけのわからないことを言う。
トン太、きょとんとカラスを見てる。
「お前、見ない顔だな・・どこからきたのだ?」
「あっちの町から来たんだ」
「どこへ行くんだ?」
「隣町」
「ここは隣町という名前じゃあないよ・・でも・・あっちの町から見たらこっちの町が隣町だけどね」
「じゃあ・・ここが隣町なの?」
トン太やっと隣町についていた。
カラスさん、ちょっと怖いけれど、なんでも知ってそうだった。
「カラスさん!教えてほしい事があるんだ・・」
「なんだよ・・お前は黒いから教えてやれるよ・・」
「僕のお父さんはどこにいるの?」
????カラスさん、困ってしまった。
「おまえ、僕のお父さんっていっても、お前が誰だかわしには分からないのだぞ」
そう言ってもこの子が自分のことを知っているはずもないか・・
カラスさん、知恵をめぐらして、一生懸命考える。
「そうだ!」
「わかったの?」
「いいかい、質問するよ。お前の母さんは何色だい?」
「白だよ。まっしろ・・母さん死んじゃったんだ」
真っ白・・それでこの子が真っ黒・・
「わしは白い猫やブチの猫は好きじゃあないんだが・・」
「僕のお姉さんが、真っ白、お兄さんがブチで、弟がブチだったんだ。みんな人間に連れて行かれちゃったけどね」
ふーん・・白、ぶち、黒、ぶち、白、黒・・
「わかったぞ!」
「ホント!」
「猫の中では、わしの一番好きなやつだ!真っ黒の大きな親分猫だよ!」
「どこにいるの?」
「この先の線路の下の屋台の裏だよ」
ありがとう!叫びながらトン太は走った。

線路の下の屋台はすぐにわかった。
電車ががあがあ走っている、ガードの下で古ぼけた屋台が湯気を上げている。
人間のおじさんたちが、おでんを食べているその椅子の下に、大きな黒猫が寝そべっている。
「おとうさん!」
人間にはにゃあとしか聞こえない。
「おや・・小さな黒猫がいるぞ・・」
屋台の主人がトン太を見つけた。トン太必死で叫んでいる。
「こっちにおいで・・うちの親分と似ているなあ・・」
屋台の主人が手招きしてくれる。お客のおじさんたちも、目を細めてみている。
トン太、走っていった。
眠っていた親分猫も気がついてトン太を見た。
「おお、わしとそっくりの真っ黒な子猫だ」
トン太、屋台の主人にお肉を貰った。
お肉より何よりお父さんだよ!にゃあ・・にゃあ・・
「お父さん?・・じゃあ・お前はシロ子の子供か!わしの子供か!」
親分猫はトン太の毛並みを舐めて確かめる・・この匂い、この毛の固さ・・間違いない・・シロ子の匂いだ。
トン太、黒猫、野良になることだけが決まっていた。
トン太黒猫、野良猫トン太・・
人間のおじさんたちも「こりゃあ、まるで親子じゃあないか・・そういや、親分よ・・おまえ、去年、ちょっとの間、行方不明になってたなあ・・」
主人のおじさんも、お客さんたちも喜んでみていてくれた。

トン太黒猫、野良猫トン太。
野良猫だったトン太・・今はあの時のお客さんだったおじさんのおうちで、ゆっくり、トン太黒猫、おうち猫・・
小さな女の子はおじさんの娘さん。
トン太黒猫、女の子に可愛がってもらって遊んでいるよ。
トン太黒猫、黒猫トン太・・





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