日本史学習拾遺

日本史よもやま話、授業の補足、学習方法

シーボルト『日本』

2014-04-03 00:28:23 | 江戸時代
4月に入って、東京は桜が満開です。
学校はまだ春休みなので生徒の姿はありません。
新生活がスタート、という人も多いでしょうね。張り切っていきましょう。

さて、今日はシーボルトが書いた本『日本』からの話題です。
シーボルトは、1828年のシーボルト事件で有名です。出島のオランダ商館で鳴滝塾を主宰していたドイツ人医師です。
毎年のように、授業でNHK「その時歴史が動いた」のシーボルトのビデオを見せていますが、毎回生徒は感動の嵐です。

シーボルトが日本で結婚した奥さんは日本人で、おタキさんといいます。シーボルトは、アジサイの花に「ヒドランゲア・オタクサ」という学名をつけました。オタクサ=おタキさん、で、奥さんの名前をつけたのですね。

シーボルトは国外退去させられてドイツに戻っても、愛する妻と娘の住む日本を愛し続け、『日本』(Nippon)という大部の本を著しました。日本の地理・歴史・国家制度・経済・文化などについて詳細に記述している、博物誌のような本です。

私も、生徒と一緒にビデオを見る中で、この『日本』という本に興味を持ち、図書館で読んだ上で、その中の1冊を購入しました。おタキさんや通訳を務めた武士の肖像などが載っている図録の巻を、授業で回覧したりしています。

そして、ひょんなきっかけで、この『日本』の中に、ある記述が書いてあるらしいことを知り、どこに書いてあるのか、再び図書館で借りて探していました。全部で6巻まであるうち、4巻目で見つけました。

ある記述というのは、この頃私が興味を持っている、「勾玉」(まがたま)について、シーボルトが言及しているというものです。
ネット上では、勾玉について、シーボルトが
「教養ある日本人が好んで思いを馳せるもの」
と書いている、という紹介をしているサイトがいくつかあり、実際にどういう文脈で出てくるのか、その他の部分も読みたいと思ったのです。
いやー、シーボルトがそう言っているなら、その勾玉に興味を持った私も教養ある日本人ってことかなあ(笑)、とちょっと傲慢なことを思ってしまったのです。すみません。

そして、『日本』の第4巻の冒頭に、その文章はありました。
やはり、ネット上の文章とは少し違っていました。

「教養ある日本人が好んで思いを馳せる古代の遺物のひとつに、古代日本人の宗教である神道の著名ないくつかの社殿にも納められている宝石がある。これはいろいろな形に造られており、神官や古代研究家のもとでは勾玉という名で知られている。」
(シーボルト『日本』第4巻 雄松堂書店 1978年 p.3)

この文章は、「第六編 勾玉」という項目立ての中にあり、第4巻のトップに出てきます。
「考古学――古代日本住民の宝物である勾玉」というタイトルがついています。

このシーボルトの勾玉に関する記述の中には、学術的には正しくない記述も含まれていますが、日本のおびただしい文物の中で、よく、勾玉などにシーボルトが着目し、かなり詳細に調べてまとめられているものだな、と驚きます。しかも、この本は全部で6冊・12編に分かれている中の「第6編」という、かなり大きな位置づけなのです。文章自体は10ページ程度の短いものなのですが。

勾玉は、不思議な形をしています。何をかたどったものかという考え方も諸説あります。
私は、少し前まではこの勾玉に全く興味がありませんでした。前にも書きましたが、古墳時代以前にはそもそもあまり興味がなかったのです。文字が使われるようになった時代以降だけに価値を置いていました。しかし、今では文字のなかった時代についても、解明できることがあるのではないかと考えるようになりました。

このあたりの話は、簡単にして、今は、借りて来て手元にある『日本』という本について、自分の覚書としても、ここに整理しておきたいと思います。今後また、読みたくなることもあるかもしれませんので。何しろ、ものすごい分量の本です。全部買って手元に置いておくほどの余裕もありませんから、図書館から必要に応じて借りる形になるでしょう。
ここでは、何巻にどういう内容のことが書かれているのかというその構成を載せておきます。

シーボルト『日本』全9巻構成

第1巻 第1編 日本の地理とその発見史
     第2編 日本への旅
第2巻 第3編 日本民族と国家
     第4編 1826年の江戸参府紀行(1)
第3巻 第4編 1826年の江戸参府紀行(2)
     第5編 日本の神話と歴史
第4巻 第6編 勾玉
     第7編 日本の度量衡と貨幣
     第8編 日本の宗教
     第9編 茶の栽培と製法
     第10編 日本の貿易と経済
第5巻 第11編 朝鮮
第6巻 第12編 北辺地域と琉球諸島
     シーボルト伝
図録第1巻
図録第2巻
図録第3巻

こういう構成の中での「勾玉」の扱いの大きさが意外です。私はもっと、文章の中に埋もれているのかと思って、1巻から順にぱらぱらと探していました。
ネット上でも、「教養ある日本人が好んで思いを馳せるもの」という文章は見かけるのですが、それぞれがどこかの「コピペ」らしく、原典と少し文章が違うし、その文章の引用元の紹介もないので、自分で探して書いておくことにしました。

しかし、どうして「教養ある日本人が」と言えるのか、具体的にその文章中に書いてあるかというと、よくわかりませんでした。

この『日本』という本は、ペリー来航前の頃の欧米諸国で、多くの人に読まれた日本紹介の書です。本当に詳細に日本のことが書き残されているので、興味を持ったら、図書館などで読んでみてください。