阿部詩の号泣

阿部詩が泣いた。試合場のヘリにぺたんと座って泣いた。促されて通路に降りても崩れ落ちるように泣いた。身も世もないように激しく泣いた。声を上げて号泣していた。
2回戦ウズベキスタンのケルディヨロワに裏投げのような形の谷落としで一本取られて、何が起こったのかとポカンとしていた。
これほど激しく泣くとはいったいどうしたことかと思った。

考えてみれば、詩は傲慢だったのだ。負けるはずがないと思っていたのだ。勝負に絶対はないにもかかわらず、負けるわけがないと考えていたのだ。29連勝中で天狗になっていたのだ。
勝負を知る者は負けることもあることは知っている。負けても泣きはしない。泣くのは習いたての子どもぐらいだ。藤井聡太は負けると激しく泣いたそうだ。
泣いて泣いて強くなっていったようだ。
負けて勝負の厳しさを知った詩は、激しく泣いて泣き通した詩は、きっと強くなるだろう。
これからが詩の全盛期になるはずだ。