歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪囲碁十訣と死活問題 その2≫

2021-12-15 17:33:51 | 囲碁の話
≪囲碁十訣と死活問題 その2≫
(2021年12月15日)
 

【はじめに】


 前回のブログでは、囲碁十訣の内容について解説してみた。
 今回は、囲碁十訣に関連した死活問題を、次の2冊の問題集から取り出して、考えてみよう。
〇『初段合格の死活150題』(日本棋院)
〇趙治勲『ひと目の詰碁』(毎日コミュニケーションズ)

これらの2冊は、鶴山淳志八段(趙治勲門下、1981年生まれ)がYou Tubeでも、勧めておられる囲碁の本でもある。
鶴山淳志氏は、2020年には林漢傑氏(Lin Han Chieh、林海峰門下、1984年生まれ)とともに、You Tube「つるりんチャンネル」を開設し、囲碁普及に努めておられる。このサイトでは、「つるりんのおすすめ囲碁本解説!」(2021年11月20日付け)と題して、おすすめの囲碁本ベスト3を紹介しておられる。
①趙治勲『ひと目の詰碁』
②『初段合格の死活150題』
③『囲碁名人戦全記録』
鶴山八段は、先日(2021年12月12日[日])の第69回NHK杯囲碁トーナメント3回戦でも活躍され、大高目という珍しい布石の白番山下敬吾九段に敢然と立ち向かっておられた。



【『初段合格の死活150題』日本棋院はこちらから】


初段合格の死活150題 (囲碁文庫)

【趙治勲『ひと目の詰碁』毎日コミュニケーションズはこちらから】

ひと目の詰碁―やさしい問題を反復練習 (MYCOM囲碁文庫)


さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・『初段合格の死活150題』(日本棋院)と囲碁十訣
・趙治勲『ひと目の詰碁』と囲碁十訣







『初段合格の死活150題』(日本棋院)と囲碁十訣


山田至宝『初段合格の死活150題』(日本棋院、2001年[2013年版])の問題文には、唐代の詩人、王積薪の作と伝えられる囲碁十訣を紹介している。

囲碁十訣の一、不得貪勝



【問題75】には、囲碁十訣の一、不得貪勝(むさぼり勝つを得ず)を引用している。
囲碁十訣の一、不得貪勝(むさぼり勝つを得ず)
碁は調和が大切。
勝とう勝とうと欲ばるのは、局面全体が見えなくなって、思わぬ反撃をくうことがあるようだ。

問題75も、むさぼらず、確実な生きを目指してほしいという。

【問題75】
≪棋譜≫

棋譜再生


【問題75の正解:黒1とツイでセキ】
≪棋譜≫

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・黒1のツギが急所の一着。
・白2のマガリを強要して、黒3のサガリ。
・白4と眼をつぶすしかない。
⇒セキ生きが最善の結果
※セキとナカ手の死の形は、紛らわしいが、このような比較的やさしい形から慣れていくことが大切だという。
(山田至宝『初段合格の死活150題』日本棋院、2001年[2013年版]、167頁~168頁)

囲碁十訣の二、入界宜緩


【問題76】には、囲碁十訣の二、入界宜緩(界に入らばよろしく緩やかなるべし)を引用している。
敵の境界、勢力圏に入るときは浅くを心がけるという意。
模様を消したりするときに、役立つ金言であるとする。
深く侵入して、一方的に攻められることなんて、よくあるから。
(死活には直接関係はないと断っている)

【問題76】
≪棋譜≫

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【問題76の正解:黒1のトビで生き】
≪棋譜≫

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・黒1のトビ一手で生きる。
⇒このあとは、白はどう打ってもダメである。
※この黒1は「2の一に手あり」の急所である。
見た目にも美しい形である。白一子の動きを完全封鎖したところに働きが見られる。
(山田至宝『初段合格の死活150題』日本棋院、2001年[2013年版]、169頁~170頁)

囲碁十訣の三、攻彼顧我


【問題77】には、囲碁十訣の三、攻彼顧我(彼を攻めるには我をかえりみよ)を引用している。
敵・味方の力関係の認識が戦いの出発点。
そして自分の弱点をよくわきまえて、攻めなければいけない。
この格言は、「我」の状況に重点をおいた戒めのように思えると記す。
自分の弱点をよく知って攻めることが大切である。

【問題77】
≪棋譜≫

棋譜再生

【問題77の正解:黒1のツギ】
≪棋譜≫

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・まず黒1とツグのが出発点。
・白2の打ち欠きからオイオトシが見えているので打ちにくいが、黒3とわざわざ三目にして捨てるのがおもしろい着想。
・白4と取られたあと、黒5のオキ(黒1のあと)で白死。
※この黒5までが読めなければ、そもそも黒1とツグ発想が浮かばない。
(取られたあとの形が想像できなければ、決してむずかしくない問題だという)
(山田至宝『初段合格の死活150題』日本棋院、2001年[2013年版]、171頁~172頁)


囲碁十訣の四、棄子争先


【問題78】には、囲碁十訣の四、棄子争先(子を棄てて先を争え)を引用している。

これはわかりやすい格言であるそうだ。
初級者は石を取られることを本能的にきらうが、それでは上達は望めないと戒めている。
取られるのではなく取らせることが、初段をめざすには必須の捨て石の発想であるという。
この問題78を解いて、この格言をよく味わってほしいと記す。

【問題78】
≪棋譜≫

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【問題78の正解:黒1のツギから石の下が成立】
≪棋譜≫

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・黒1とツイで解決
⇒当然、白は黒四目を取るが、ここであきらめてしまっては、この問題は解けない。
・白2と取ったあと、黒四目の取りあとに、黒3の切りがある。
※これがいわゆる石の下といわれる筋。
取りあとに対する想像力が及ぶかどうかが、正否をわける。
(山田至宝『初段合格の死活150題』日本棋院、2001年[2013年版]、173頁~174頁)


囲碁十訣の五、捨小就大


【問題79】には、囲碁十訣の五、捨小就大(小を捨てて大につけ)を引用している。

この金言は、かんたんなようで、じつは奥が深そうだという。
意味はわかるが、それでは大小の価値判断はどうするか。
考えはじめるとわからなくなるのが実情。

この問題79は、それほど複雑ではないので、そのものズバリ、小を捨てて大についてよしいという。


【問題79】
≪棋譜≫

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【問題79の正解:黒1の出から】
≪棋譜≫

棋譜再生

・黒1と出て、様子を聞くのが巧妙な一着。
・白2のカカエなら、黒3のアテから、5で生きる。

【問題79の別解:黒3が好手】
≪棋譜≫

棋譜再生

・黒1の出に白2と受ければ、そこで黒3のコスミがうまい手。
・白4と強引に眼を奪いにきても、黒5とアテて、白二目は助からない。
<注意>
・黒3で4とアテるのは、白3のがんばりでコウにされる。
(山田至宝『初段合格の死活150題』日本棋院、2001年[2013年版]、175頁~176頁)

囲碁十訣の六、逢危須棄


【問題80】には、囲碁十訣の六、逢危須棄(危きにあえばすべからく棄てるべし)を引用している。

これも捨て石の心得を説いたものである。
いちばん悪いのは、相手の強いところで互角の戦いをいどむことである。その結果、戦いの主導権をにぎられ碁が一方的になってしまう。
危険が迫ったら、命とりにならないうちに、捨てるのが得策であると、この金言は教えている。

【問題80】
≪棋譜≫

棋譜再生

【問題80の正解:黒1の切りから石の下が成立】
≪棋譜≫

棋譜再生

・黒1と切るしかない形。
・白2とアテられたところが考えどころ。黒3と外から白全体にアタリをかける。
・白4の四目取りに、黒5(黒1のあと)と切る手があって白を仕留める。
※これが石の下の筋で、実戦で打てれば格別!

※なお、捨て石の思想は、【問題130】でも出題されている。
(山田至宝『初段合格の死活150題』日本棋院、2001年[2013年版]、177頁~178頁)


囲碁十訣の七、慎勿軽速


【問題81】および【問題138】には、囲碁十訣の七、慎勿軽速(つつしみて軽速なるなかれ)を引用している。

足早でありすぎないようにつつしめの意である。
本手の教えを説いたものであろうかという。足早、必ずしもよいとはいえない。じっくり考えて、盤面全体を見渡す余裕もときには必要である。

【問題81】もじっくり考えて、確実に生きてほしいと記す。そして【問題138】も「慎勿軽速」の戒めが参考になるかもしれないとする。「急がば回れ」の精神で取り組んでほしいそうだ。

【問題81】
≪棋譜≫

棋譜再生


【問題81の正解・黒1のトビが筋】
≪棋譜≫

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・黒1とトンで生きるところ。
・白2は攻めの急所だが、黒3とツイでいてよい。
⇒白2の一目がダメヅマリのため助からず、このままで黒生きている。
※黒1は「2の一に手あり」の急所。
(山田至宝『初段合格の死活150題』日本棋院、2001年[2013年版]、179頁~180頁)


【問題138】
≪棋譜≫

棋譜再生

【問題138の正解:黒1のサガリ】
≪棋譜≫

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・黒1のサガリが正解。
直接攻めず、じっくりサガって態勢を整える。
・白の受けかたはいろいろ考えられるが、例えば2なら、黒3とハネてせばめ、黒5から、7、9で五目ナカ手の白死となる。
(山田至宝『初段合格の死活150題』日本棋院、2001年[2013年版]、179頁~180頁、293頁~294頁)

囲碁十訣の八、動須相応


【問題82】には、囲碁十訣の八、動須相応(動にはすべからく相応ずべし)を引用している。

敵の動きには、対応しなければならないという教えである。
これだけでは何のことかよくわからないが、動き、つまり着手の意味を察することの大切さを強調したものと、解釈している。

【問題82】の白は、生きているふりをしているが、本当にそうだろうかと問いかけている。
(山田至宝『初段合格の死活150題』日本棋院、2001年[2013年版]、181頁)


【問題82】
≪棋譜≫

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【問題82の正解:黒1のオキでコウ】
≪棋譜≫

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・黒1のオキが鋭い手。
・白2が最強の抵抗だが、黒3とワタリ、白4の眼もちに、黒5とホウリ込んでコウになる。(これが最善のワカレ)
(山田至宝『初段合格の死活150題』日本棋院、2001年[2013年版]、181頁~182頁)


囲碁十訣の九、彼強自保


【問題83】には、囲碁十訣の九、彼強自保(彼強ければ自ら保て)を引用している。

相手の強いところでは、味方の陣営をひきしめ、油断をしないと、戒めている。
打ち込まれて困るような局面では、守っておかなければいけない。

【問題83】は、びっしり白に囲まれているが、自ら保つ一手はどこかを問うている。

【問題83】
≪棋譜≫

棋譜再生

【問題83の正解:黒1のサガリ】
≪棋譜≫

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・黒1のサガリで、確実な生きをめざす。
・白2、4は黒生きを示したまでで、実際には打ってはいけない。
(コウ材として有効に使うべき)
※スペースを広げる手ではなく、2の一の急所に打って生きる例。
(山田至宝『初段合格の死活150題』日本棋院、2001年[2013年版]、183頁~184頁)

囲碁十訣の十、勢孤取和


【問題84】には、囲碁十訣の十、勢孤取和(勢い孤なれば和を取れ)を引用している。

勢力が孤立しているところでは、戦ってはならないという教えである。
(なにも碁に限ったことではなく、世の中にも通じる真理だろうかとする)

【問題84】では、この黒も白に封鎖され、風前の灯であるが、一手入れて生き返らせよとする。

【問題84】
≪棋譜≫

棋譜再生

【問題84の正解:黒1のコスミが形】
≪棋譜≫

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・黒1とコスんで生きる。
・白2から攻めてきても、黒3から5で生きは明白。
※黒1は、左右に一眼ずつつくる急所。
この問題も、スペースを広げて生きる形ではなく、急所に打って生きる問題である。
(山田至宝『初段合格の死活150題』日本棋院、2001年[2013年版]、185頁~186頁)

囲碁十訣と死活問題にコピペせよ(2021年12月3日)

趙治勲『ひと目の詰碁』と囲碁十訣


囲碁十訣に関連した問題は、趙治勲『ひと目の詰碁―やさしい問題を反復練習』(毎日コミュニケーションズ、2003年[2009年版])にも出てくる。「はじめに」に記したように、プロ棋士鶴山淳志(2019年八段)氏も推奨しておられる詰碁集である。

「あとがき」によれば、本書は、入門してまもない初級者から入段をめざす中級者まで、幅広い囲碁愛好者を対象とした詰碁集である。
棋力の向上には詰碁の勉強が一番だといわれる。

この本は、表題のとおり、一手で決まる詰碁を集めている。
(文字どおり一手で解決するものもあれば、一手のあと、少しヨミを要求するものもある)

趙治勲氏は、むずかしい詰碁を一つ解くよりも、やさしい詰碁を10か20解く方が上達のためになると考えている。
やさしい詰碁を100~200個、征服していけば、ヨミの力が養われるという。
(そのさい、7、8割がたは自力で解ける詰碁集が適切)
本書を一度通読したら、忘れたころに二度、三度と繰り返し通読してほしいという。
(趙治勲『ひと目の詰碁―やさしい問題を反復練習』毎日コミュニケーションズ、2003年[2009年版]、375頁)

「囲碁十訣」の一つ「小を捨てて大に就け」に関連した問題も出されている。
「第2部A 一発で決める一手の詰碁」
【第14問】[黒先]
≪棋譜≫(225頁の問題図)

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☆“小を捨てて大につけ” 全部活きようとして、元も子も無くしては何もならない。

【正解1:捨て石】
≪棋譜≫(226頁の正解1図)

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・黒1のキリが好手。
※黒a(15, 十五)と黒3子を助けるのは、白1で全体の黒が死ぬ。

【正解2:活き】
≪棋譜≫(226頁の正解2図)

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・白2と黒3子を捨てて、黒3と本隊を助けるのが眼目。
・小を捨てて大につけ、は囲碁の極意。
(趙治勲『ひと目の詰碁』毎日コミュニケーションズ、2003年[2009年版]、225頁~226頁)



「第2部B 次の狙いを待つ一手の詰碁」
【第10問】[黒先]
≪棋譜≫(307頁の問題図)

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☆“小を捨てて大につけ” この一手しかない。

【正解:活き】
≪棋譜≫(308頁の正解図)

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・黒1とダメをつめる一手。
※このあと、白a(16, 十八)には、黒b(18, 十九)で本隊が活きる。
※黒1でa(16, 十八)は、白b(18, 十九)で黒死に。

【参考:コウ】
≪棋譜≫(308頁の参考図)

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・白2のダメがなくても、黒1はまずい。
・白2でコウにされる。
※この場合も、黒a(19, 十八)が正着。
(趙治勲『ひと目の詰碁』毎日コミュニケーションズ、2003年[2009年版]、307頁~308頁)

【趙治勲『ひと目の詰碁』毎日コミュニケーションズはこちらから】

ひと目の詰碁―やさしい問題を反復練習 (MYCOM囲碁文庫)



貪欲を戒めた詰碁として、次のものを紹介しておこう。

「第2部A 一発で決める一手の詰碁」
【第13問】[黒先]
≪棋譜≫(223頁の問題図)

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☆欲ばると、ドンデン返しがある。

【正解:眼持ちが正着で活き】
≪棋譜≫(224頁の正解図)

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・黒1と眼持ちするのが正着。
※うんと弱いうちは、この黒1がすぐ打てるが、少し強くなると、そうでもなくなるようだ。

【失敗:死に】
≪棋譜≫(224頁の失敗図)

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・少し強くなると、黒1と働いて活きようとすることが多い。
⇒しかし、ちょっと待て。
・白2、4で黒トン死。
(趙治勲『ひと目の詰碁』毎日コミュニケーションズ、2003年[2009年版]、223頁~224頁)


「第2部A 一発で決める一手の詰碁」
【第15問】[黒先]
≪棋譜≫(227頁の問題図)

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☆見た目よりも簡単。黒は難しく考えないこと。
 欲ばりは禁物。

【正解:コスミが沈着で活き】
≪棋譜≫(228頁の正解図)

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・黒1とコスむのが沈着。黒活き。
※しかし、実戦になると、つい欲ばってしまうもの。

【失敗:オサエが失敗のもとで死に】
≪棋譜≫(228頁の失敗図) 白2(黒3の下)

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・黒1のオサエが失敗のもと。
・白2から6という一連の殺しの筋が待ち受けている。
⇒黒は要注意。
(趙治勲『ひと目の詰碁』毎日コミュニケーションズ、2003年[2009年版]、227頁~228頁)




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