空飛ぶ自由人・2

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ドラマ『ジ・オファー』

2023年11月15日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

副題に「ゴッドファーザーに賭けた男」とあるように、
映画「ゴッドファーザー」(1972年)の製作に
尽力した男たちの舞台裏を描く、ミニシリーズ10エピソード。           
プロデューサーを務めたアルバート・S・ラディの視点から描く。
ラディは、本作の製作陣の一人としても名を連ねている。

監督はマイケル・トルキン
2022年4月28日から
Paramount+で放送され、
日本では2022年7月15日から
U-NEXTが配信。

イタリアン・マフィアを描いた小説『ゴッドファーザー』がベストセラーとなり、
パラマウント映画が映像化権を獲得する。
プロデューサーに起用されたのが、
その時点で1本のテレビ番組と1本の映画の製作経験しかなかった
アルバート・S・ラディだった。
有名なプロデューサーたちは
マフィアを理想化したような
作品の映画化に加わることに消極的であったためだ。
ラディが起用された理由は、
スタジオ幹部がラディとの面会で彼に感銘を受けたことと、
彼が映画を低予算で製作することで知られていたためであった。
また、パラマウントの親会社ガルフ&ウエスタンの重役に対して、
「あなたの愛する人々についての震えるような映画を作りたい」
と言って、衝撃を与えたという。

この男、経験不足を補って余りある胆力の持ち主で、
次々と持ち上がる難題を解決して製作を進行させる。
また、秘書のベティも腹の坐った人物で、ラディを助ける。

難題は、いつも身内からもたらされる。
パラマウントの製作部門責任者の副社長ロバート・エヴァンスや
親会社であるガルフ&ウェスタンのCEO、チャールズ・ブルードーン
らが常に口を出し、ラディを妨害する。
落ち目だったフランシス・フォード・コッポラの起用や
同じく落ち目で問題児の噂の高いマーロン・ブランドの起用に難癖をつけ、
制作費の上限を設け、無名のアル・パチーノを降ろせと圧力をかける。
これらの難題のことごとくをラディは打破する。
パラマウントやガルフの幹部を感銘させたのだから、
相当の弁舌の持ち主だったのだろう。

外部からは、原作がイタリア系アメリカ人社会を差別的に描いたとして、
マフィアが映画化を妨害する。
妨害されればニューヨークでの撮影がままならなくなる。
五大ファミリーの一つコロンボ・ファミリーの長ジョゼフ・コロンボは、
イタリア系アメリカ人市民権連盟を結成して、映画化に圧力をかけるが、
ラディはコロンボにシナリオを読ませ、
これがギャング告発の映画ではなく、
イタリア系アメリカ人の家族を尊重するものだと説明して納得させ、
友好関係を築いて撮影を進める。

こうして、親会社、パラマウント、製作陣、
更にマフィアの間を奔走して配役や予算をまとめ、
撮影を進める。
コロンボとの親密さが報道されて、親会社が激怒し、
ラディは一時解雇される。
コロンボは対立するギャングに撃たれて意識不明となる。
更に、業績不振のパラマウントの身売り問題まで発生する。

コッポラが渇望するシシリアロケ
予算の一部をマフィアへの対応に使うため、
断念せざるを得なかったが、
当のマフィアが射殺されたため、
シチリアロケが実現する。

ようやく撮影が終わり、編集も終わった段階で、
根本的問題が発生。
映画が長過ぎるというのだ。
劇場での回転率を理由に2時間に短縮しろとの命令。
それでは、映画がダイジェストになってしまう。
エヴァンスの英断で長いヴァージョンが認められ、
カットせずに済んだが、
もし短縮盤で公開されたら、
作品の評価は変わっただろう。
(完成した映画は2時間57分)

ポスターも、↓のような既存のイメージのものから、

本の表紙と同じものに落ち着く。

こうして、公開は遅れたが、
観客が詰めかけ、
大ヒットして、歴代興行収入の史上最高を記録、
アカデミー賞では作品賞を受賞する。
すぐ続編が企画されるが、
ラディは次作「ロンゲスト・ヤード」に集中するために参加を断る。

おおざっぱに言って、以上のような展開を10話で構成。
当時のハリウッドの様々な事件が飛び出し、
有名スターが次々と関係してくる。
まさに、映画好きならたまらない作品だ。

プロデューサーのアルバート・S・ラディのことなど、


全く知らなかったが、
この人なくして、この作品はできなかったことがよく分かる。
ラディは、その後「ミリオンダラー・ベイビー」(2004年)で
再びアカデミー賞作品賞を獲得する。

様々な裏話が描かれるが、
記憶に残ったものを記す。

・原作者のマリオ・プーゾがハリウッドに来た際、
 フランク・シナトラとたまたま遭遇し、罵倒される。
 登場人物の歌手ジョニー・フォンテーンが
 シナトラをモデルにしていると、巷間で言われていたからだ。
・ジョニー・フォンテーン役に決まっていたヴィック・モーンは
 脅迫されて降板する。
・ラディはプーゾに脚本を書かせるが、進まず、
 コッポラをつけて共同脚本として、動き出す。
・マーロン・ブランドへの出演要請はマリオ・プーゾがした。
 ブランドを訪ねたラディやコッポラの前で、
 靴墨で髪を染め、ティッシュを口に含んで演技してみせる
 伝説のカメラ・テストの場面も出て来る。


・コッポラは冒頭のコルレオーネ家の結婚バーティーのシーンに使う
 スタッテン島の邸宅を見せられて大いに気に入る。
 この邸宅の持ち主が、その後、貸すことを渋ると、
 マフィアに脅迫されて貸すことにする。
・最初の結婚式のシーンで、
 ドンに挨拶するセリフを何度も繰り返して練習する人が出て来るが、
 あれは、俳優が急死したための代役が
 セリフを覚えられず、
 セリフの練習をしている場面をコッポラが取り入れたのだという。


・ブランドが膝の上でをなでるシーンは、
 スタジオの裏をさまよっていた猫を
 ブランドが抱いたもの。
 つまり、脚本にはない、アドリブ。
・ある人物を脅すため、
 馬の首をベッドに忍び込ませるシーンで使った馬は、
 美術担当者が不出来なハリボテの首を用意したため、却下、
 と畜業者から解体した馬の首の提供を受ける。
 つまり、映画に出て来る馬の首は、本物
・アル・パチーノの起用では揉める。
 パチーノがニューヨークの小劇場の俳優で、映画出演が1本しかなく、
 背が低いことも見栄えが悪いと否定の材料だったが、
 エヴァンスは実はスターを起用したかったのだ。
・もたもたしている間に、
 パチーノはMGMのコメディ映画と契約してしまい、
 MGMと交渉して、ロバート・デ・ニーロの出演作と
 役を交代して、出演にこぎつける。
・ランディは予定を変更して、
 パチーノの見せ場である
 敵の二人を銃殺するシーンを先に撮り、
 そのラッシュを見せて納得させる。
 映画の成功の一つには、パチーノの好演があり、
 パチーノに固執したコッポラの勝ち。
 パチーノの鬼気せまる演技が映画後半を支える。
・エヴァンスの妻のアリ・マッグローは「ゲッタウェイ」への出演中、
 スティーブ・マックイーンと出来てしまい、
 エヴァンスは精神に変調をきたす。
 (後にマッグローとマックイーンは結婚する)
 生活が荒れて出社もしなくなり、
 一時後任者が編集やポスターに口出しするが、
 エヴァンスが復帰して元に戻す。
・コロンボへの配慮から、
 ラディは、「マフィア」や「コーザ・ノストラ」という言葉の使用を
 すべて脚本から削除する。
・ラディとコロンボの親密な関係が報道され、
 ラディは解雇されるが、
 コロンボが撮影を妨害したため、
 ラディでなければ、と復活する。
・親会社がパラマウントを売ろうとしているのを聞いたエヴァンスは
 ガルフ&ウエスタンの重役会に押しかけてパラマウントを売らないよう説得する。
 重役会は売却しないことを決める。
・ジャンニ・ルッソがコッポラの妹のタリア・シャイアを痛めつける場面で、
 撮影中に本当に殴ってしまったため、
 ラディはジェームズ・カーンがルッソを暴行する場面で、
 本気で殴らせて仕返しする。
・公開前に、ラディは、
 撮影所の規則を破って、フィルムを持ち出し、
 マフィアのためだけの
 特別試写会を催し、
 喝采を浴びる。


・公開に当たり、話題作りのために、
 全国300館での大規模公開に踏み切る。
 後のブロックバスターの走り。

等々、小ネタを含め、
撮影の裏話満載で、
「ゴッドファーザー」がどう作られたかが分かって興味深い。
撮影現場のシーンでは、
「ゴッドファーザー」の画面は再現されず、
監督とカメラの方だけ写し、
音だけで場面を想起させる方法を取った。


リスペクトの表れである。

ラディ役はマイルズ・テラー


エヴァンスは、マシュー・グード


コッポラはダン・フォグラー(なかなかいい) 、


マリオ・プーゾはパトリック・ギャロ(これも、なかなかいい) 。

なお、「ゴッドファーザー」はシリーズ化され、
「ゴッドファーザー PARTⅡ」(1974年)
「ゴッドファーザー PARTⅢ」(1990年)
三部作になった。
「PARTⅢ」は、2020年に再編集版が製作され、
タイトルが
「ゴッドファーザー〈最終章〉:マイケル・コルレオーネの最期」
と改題されている。
他に、三部作を時系列に再構成したものも存在する。

アカデミー賞は、
「Ⅰ」は、
9部門に11ノミネートされ、
作品賞・脚色賞・主演男優賞を獲得した。
アル・パチーノは助演男優賞にノミネートされたが、
同じ部門にジェームズ・カーン、ロバート・デュヴァルがノミネートされたため、
票が分散して、受賞には至らなかった。
パチーノがアカデミー賞を受賞するには、
「セント・オブ・ウーマン/夢の香り」 (1992年) まで待たなければならなかった。
ニーノ・ロータによる音楽は、
作曲賞にノミネートされたが、
授賞式直前に既存の映画の曲を再使用していたことが発覚したため、
ノミネートは取り消しとなった。
シチリアのシーンで使用された『愛のテーマ』は、
各国の音楽チャートで好成績を記録した。
できれば、音楽にニーノ・ロータを起用したいきさつも描いてほしかった。

続編の「Ⅱ」では、
「Ⅰ」同様9部門11ノミネートを受け、
作品賞、監督賞、助演男優賞(ロバート・デ・ニーロ)、
脚色賞、作曲賞、美術賞の6部門で受賞。
ニーノ・ロータの音楽は、
「Ⅰ」同様、
既成の音楽が含まれているという事実があるにもかかわらず、受賞した。
コッポラの父親であるカーマイン・コッポラとの共同作品。

「Ⅲ」は、
8部門にノミネートされたが、
受賞はゼロだった。

「ジ・オファー」は10本で計8時間59分

当然、「ゴッドファーザー」本体を観たくなり、
Netflix で50年ぶりに鑑賞。
すごい。
演出、演技、カメラ、照明が
化学作用を起こして、
まさに歴史に残る映画になっている。
特に、演技陣が素晴らしく、
この演技を引き出したコッポラの手腕が光る。
全体的に、コッポラのセンスが横溢しており、
3時間近い作品を、
全く退屈せずに観ることができた。

「ゴットファーザー」三部作は、
11月30日までNetflix で配信。



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