ロドス島の薔薇

Hic Rhodus, hic saltus.

Hier ist die Rose, hier tanze. 

国家の選択――マルクス主義か、ヘーゲル主義か

2008年02月20日 | 政治・経済

この二十一世紀の時代に生きる私たちの世界を見回して見ると、とくに、世界に存在する国家の姿を見ると、国家の形というものもそれほどに多くあるわけではないことがわかる。いくつかの形態に集約されているといえる。

その代表的なものがアメリカに見るような「大統領制民主主義国」である。共和主義国家といってよい。フランスやドイツなどはこれに準じる国である。

また、中華人民共和国のような「人民民主主義国」がある。これも民主主義の特殊な形態とも言えるが、かっての共産主義国に見られる国家形態である。1989年のベルリン壁の崩壊以後は東欧をはじめとして、この国家体制は世界的な規模で崩壊していった。そして今では北朝鮮やキューバ、中国などいくつかの国にその形をとどめているだけである。

そして、今ひとつの国家形態としてはイギリスに典型的に見られるような「立憲君主国」がある。その多くは北欧諸国に見られ、デンマークやスェーデン、ノールウェイなどの国がそうである。わが国も一応、「立憲君主国」と言われている。

これらの国家形態にイスラム教色の加わったイスラム共和国などがあるが、現代国家の基本的な国家形態は、この三つに分類できるといえる。ただ、そこに軍事独裁国家なども含まれるが、人類の歴史の大局的な流れから言えばそれは例外的で特殊なものである。

この三つの国家体制に共通して言えることは、それらがいずれも民主主義の具体化された特殊な形態であることだ。いずれも近代現代の進展に応じて形成されてきた歴史的な産物でもある。

そして民主主義の出現でもっとも象徴的な世界史的事件がフランス革命であって、この政治的事件は思想が政治革命を主導した点においても画期的なものだった。

こうした人類の歴史を大局的に見れば、それは民主主義の発展の歴史ともいえ、哲学者のカントなどはそれを洞察して自由の実現こそが人類の歴史の目的であるととらえることになった。ヘーゲルもそれを受けて、自由を理念としてとらえなおした。たしかに世界史を観察してみればそうした哲学者の認識も承認できる。

民主主義や自由の理念は以上のように、実際にも三つの特殊的な国家形態として具体化されているといえる。そして、カントの後を受けてその歴史の進展を、一つの必然として論証しようとした哲学者にヘーゲルとマルクスがいる。その歴史的進展の論理を明らかにしようとしたものが前者にあっては『法哲学』であり、後者においては『資本論』だった。

そして、ヘーゲルが『法哲学』において「立憲君主国家」こそが近代の理念であることを論証したのに対して、マルクスは『資本論』においてプロレタリアートの独裁の必然性を論証しようと試みた。だから、世界史の現代はなお、この二人の哲学者の論証の正否の承認をめぐる闘争の舞台であるともいえる。そして、ヘーゲルの真理観からいえば、概念に一致した存在こそが真理であり、真理のみが歴史のなかにつらぬかれることになる。二十世紀の現実の世界史は、人民民主主義の崩壊で幕をおろすことになったが、共和国と立憲君主国は存続している。それはなによりも人民民主主義国家が国家の概念に一致しなかったからではないか。

ベルリンの壁が崩壊したあと東欧諸国に見られたような社会主義国のドミノ倒しの要因について、計画経済がその効率性において市場主義経済に敗北したことに求める論調が多かった。たしかにそれも一つの理由であるには違いない。しかし、もっと根元的な要因としては、やはり、自由の問題を見なければならないと思う。カントがその人類史の考察で結論づけたように、自由は歴史の目的である。にも関わらず、人民民主主義国は立憲君主国以上の自由を実現することが出来なかったからである。マルクス主義の人民民主主義国では、市民の自由に意義を認めず、それを否定的にのみとらえたために、人民民主主義国家は国家としてそれを真に止揚することが出来なかったからである。

だから現代においてもなお、いやむしろ人民民主主義国家の限界の見えている現代だからこそ、あらためて家族、市民社会、国家の論理を明らかにしたヘーゲル主義は生きかえる。ヘーゲルの国家のみが市民社会を正しく止揚するものだからである。
マルクス主義かヘーゲル主義か、その選択の問いは今も生きている。

 


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