■■■ 第七章 補足 ■■■
第七章 補足
◆◆◆ 第七十三条 ◆◆◆
第七十三条 将来此の憲法の条項を改正するの必要あるときは勅命を以て議案を帝国議会の議に付すべし(将来にこの憲法の条項を改正する必要がある場合は、勅命を以て議案を帝国議会の議に付さなければならない)
この場合に於いて両議院は各々其の総員三分の二以上出席するに非ざれば議事を開く事を得ず出席議員三分の二以上の多数を得るに非ざれば改正の議決を為すことを得ず(この場合、両議院は各々総員の三分の二以上出席しなければ、議事を開く事は出来ない。出席議員の三分の二以上の多数を得られなければ、改正の議決をする事は出来ない。)
慎んで思うには、憲法は我が天皇が親しくこれを制定し、上は祖宗に継ぎ下は後世に遺し、全国の臣民及び臣民の子孫達にその条則を遵由させ、それによって不磨の大典とするところである。故に憲法は紛更を相容れない。
ただし、法は社会の必要に調熟してその効用を為すものである。故に国体の大綱は、万世に亘り永遠恒久であり移動すべきでないといえども、政制の節目は世運とともに事宜を酌量して、これを変通するのはまたやむを得ないことである。本条は、将来に向けてこの憲法の条項を改定する事を禁じていない。そして、憲法を改定するために更に特別な要件を定めた。
通常の法律案は、政府よりこれを議会に付し、或いは議会がこれを提出する。そして、憲法改正の議案は、必ず勅命によってこれを下付するのは何故か。憲法は天皇の独り親ら定めるところである。故に改正の権は、また天皇に属すべきだからである。改正の権は既に天皇に属する。そして、これを議会に付するのは何故か。一たび定まった田移転は、臣民とともにこれを守り、王室の専意によって、これを変更する事を望まないからである。議院においてこれを議決するのに、通常は過半数の議事法によるのに、必ず三分の二の出席と及び多数を望むのは何故か。将来に向けて憲法に対する慎守の方向を付持するためである。
本条の明文によると、憲法の改正条項を議会の議に付せらるるに当たり、議会は議案の外の条項に連及して議決する事は出来ない。また、議会は直接又は間接に憲法の主義を変更する法律を議決し、本条の制限を逃れる事は出来ない。
◆◆◆ 第七十四条 ◆◆◆
第七十四条 皇室典範の改正は帝国議会の議を経るを要せず(皇室典範の改正は、帝国議会のぎを経る必要はない)
皇室典範を以て此憲法の条規を変更することを得ず(皇室典範によって、此憲法の条規を変更する事は出来ない)
慎んで思うには、憲法の改正は既に議会の議を経るの必要とする。そして皇室典範は、独り其の議を経るのを必要としないのは何故か。蓋し、皇室典範は皇室の事を制定する。そして、君民相開かれるという権義に渉るものではない。もしそれ、改正の必要がある場合には、これを皇族会議及び枢密顧問に付する条則のようなものは、また典範においてこれを制定すべき物であり、そして憲法にこれを明示する必要は無い。故に、この条にこれをあわせて掲げないのである。
ただし、皇室典範の改正により直接又は間接に、この憲法を変更することが現出すれば、憲法の基址は容易に移動すると言う不幸が無いように保たせようとする。故に、本条は特に憲法の為に保証を存する至意を示したのである。
◆◆◆ 第七十五条 ◆◆◆
第七十五条 憲法及び皇室典範は摂政を置くの間之を変更することを得ず(憲法及び皇室典範は、摂政を置いている間は、之を変更する事は出来ない)
慎んで思うには、摂政を置くのは、国家の変局であり、その常態では無い。故に、摂政は統治権を行う事は、天皇とことなら無いといえども、憲法及び皇室典範の何等の変更もこれを摂政の断定に任せるのは、国家及び皇室における根本条則の至重である事は、もとより仮摂の位置の上にある。そして、天皇の外には誰も改正の大事を行う事は出来ないのである。
◆◆◆ 第七十六条 ◆◆◆
第七十六条 法律規則命令又は何等の名称を用いたるに拘わらず此の憲法に矛盾せざる現行の法令は総て遵由の効力を有す(法律・規則・命令又は何らかの名称を持ちいていても、此憲法に矛盾しない現行の法令は、総て遵由の効力を有している)
歳出上政府の義務に係る現在の契約又は命令は総て第六十七条の例に依る(歳出上、政府の義務に関わる現在の契約、又は命令は総て第六十七条の例による)
維新の後、法令の頒布は御沙汰書、又は布告及び布達と称える。明治元年八月十三日に法令頒布の書式を定めて以後、被仰出御沙汰等の文字を用いるのは行政官に限り、その他の五官[神祇官、会計官、軍務官、外国官、刑法官]及び府県は申達の字をもってする。五官府県において重立である布告は、行政官に差出し議政官が決議の上、行政官より達せさせた。五年正月八日達に、今より布告に番号を附し各省の布達もまた同様にさせた。これより始めて布告布達の名称に区別をつけた。
六年七月十八日達に、布令中掲示すべき物とそうでない物とを区別し、布令書の結文の例を定め、各庁及び官員に達するのは、これは総て相達又は「此旨を相心得べし」とし、全国一般に布告するのは「これ皆布告」とし、華族或いは社寺に達するのは「これ皆華士族へ布告」又は「これ皆社寺へ布告」とする。その各庁及び官員に達するものは掲示しなくても良い。これは人民に対する布告と官庁訓令とを区別した始めである。
十四年十二月布告布達式を定めて、布告は太政大臣奉勅旨布告とし、布達は太政大臣より布達し並びに主任の卿がこれに連署する。同月三日布告に法律規則は布告をもって発行する。従前の諸省限りの布達した条規の類は、今より総て太政官より布達する。これは諸省布達の制度を廃止し、及び始めて諸省卿の連署の制度を定めた。十九年二月二十六日の勅令に、法律勅令は上諭をもって布告し、親署の後に御璽をして内閣総理大臣及び主任の大臣がこれに副署する。
閣令は内閣総理大臣がこれを発し、省令は各省大臣がこれを発する。以上を総括するに、医師依頼の官令に御沙汰書といい、布告といい、布達というのは、その文式によって称呼したものである。その法といい[戸籍法の類]律といい[新律綱領の類]令といい[徴兵令・戒厳令の類]条例といい[新聞条例の類]律例といい[改定律例の類]は総て皆人民に公布し遵由の効力を有する条則をいうの義であり、その間に軽重とするところはない、そして十九年二月二十六日の勅令に至って、始めて法律勅令の名称を正したのも、何を法律とし何を勅令とするのかに至っては、未だに一定の限界があるわけでは無い。
八年の元老院の章呈に元老院は新法設立、旧法の改定を議定するといい、十九年二月二十六日の勅令に法律の元老院の義を経るのを必要とするものは、旧によるという。然るに八年以後、布告の中に何を指して法律とすべきかは、未だ明白となっていない。従って元老院の立法の権限もまた明確とならない[十一年二月二十日、元老院の上奏による]。十九年以後、勅令で院義に附するものもまた多い。要するに憲法発布の前に当たっては、法律と勅令とは、その名称を殊にして、その事実を同じくするものであるのに過ぎない。
そして名称によって効力の軽重を区別すべきなのは、十九年以前の布告と布達と時によって区別し、時によって区別しなかった事と事ならない。
故に憲法の指定するところに従い、法律と命令との区別を明らかにしようとするのは、必ず立法議会開設の時期において、その始を履むことを得るように、そして立法議会開設の前に当たっては、法律・規則・命令その他何らかの名称を用い、何らかの文式を用いたとしても、これをもってその効力の軽重を判断する縄尺とする事は出来ない。
前日の公令は、憲法施行の日よりその法令の前文、或いは条章に限り効力を失うべきである。
前日の公令は今日に現行して、将来に遵由の力があるものの中に就いて、更に憲法の定めるところによる時は、必ずその法律であることを望むものであり[第二十条兵役、第二十一条租税の類]、今過去に泝って一々これに法律の公式を与え、もって憲法の文義に副わせようとするのは、形式に拘り徒に他事を為すのに過ぎない。故に本条は、現行の法令条規を総て皆遵由の力をあらしめるのみならず、その中で憲法において法律をもってこれを望むものは、法律として遵由の力があるものであり、もし将来において改正の必要がある時は、その前日に勅令布達をもって公布した・しないに拘わらず、総て皆法律をもって挙行する必要のある事を知るべきである。
出典
http://www.asahi-net.or.jp/~xx8f-ishr/kenpou_gikai.htm
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