ぼくの大好きなジャズ評論家に、児山紀芳氏がいます。
時間はぐーんと遡り、30余年以上ワープする、タイムトンネルに乗ってね。
東京は新宿、西口のとあるビル、男はこのジャズのひと時が大好きであった。
山水のショールームの片隅で、スイングジャーナルの編集長、児山氏の解説で好きなジャズを聴き、解説にますますイイなあ、と一人つぶやいた。男は勤めから解放されて、夕方の都会の片隅で、ジャズ雑誌の編集長の発するある言葉が大好きなのであった。
男の仕事は、やはり本の編集であり、と言っても大好きなジャズの編集に携わっているのではなく、子供の学習のための教材の編集に関わっていたのであった。職場では何時も何処か疎外感を味わいながら、そんな心の隙間を音楽で埋めようとしたり、また新しい趣味、写真という趣味を始めたばかりなようであった。いや、まてよ、カメラはまだ買っていなかったのではなかろうか?
児山氏のJAZZへの偏愛が感じられる一言に、イイなあ と、このイベントに通い出してそれが生活の潤いになっていたのである。その一言とは?レコードをかけて、児山氏は必ずと言っていいほど、みんなに聞くのであった。( この曲を聴いて、いいなという人、泣けるという人は手をあげて、) というのであった。
名曲は泣けるものなのか?ぼんやりと考えつつ、そうなのだな、きっと素晴らしい音楽は、泣けるものなんだろうな、若いぼくはボンヤリとそんなことを思って名曲に聞き惚れているのであった。
センチメンタルなジャズという音楽への接し方をここで学んだような気がするのである。あれから、十余年後、偶然ニューヨークの街で児山氏を見かけ、恥も遠慮も知らない青年は話しかけるのであった。もちろん、氏は十分に無名の青年に優しかった。
写真・文 石郷岡まさを