キリスト教、イスラム教に比べて仏教は経典の数が多い。その上成立年代の幅が広い。釈迦入滅後500年ほどは経っているのだろうか。それらがひとまとめに仏教とひとくくりにされて認識されていることに不思議と興味を感じていた。
その興味の延長線上に大乗非仏説がある。釈迦が入滅後500年も経ってからの、たとえば法華経が果たして仏説と呼べるのか、と仏説であることを否定する説だ。釈迦が説いていないことを説く、あるいは反対のことを説く、従って仏説とは呼べない、全く別物の宗教だと主張する。
要は①年代が経ていること、②初期仏教で説いていないことを説いていることの2点で仏説を否定する。①は釈迦が存在した時代である紀元前380~480頃に対して法華経などが二世紀の頃の作品だとしておよそ500年の開きとなる。②は実在の釈迦よりも久遠元初の仏(釈迦が成道するはるか以前に実は成道して救いをのべてきた仏がいる)を上位に置くことや如来蔵(すべての人はおろか草木にまで仏性がある)など初期仏説にないものを説く。
これに対しての反論はどうか。
①年代が経ていることに対しては、古来インドでは筆記に頼る習慣がなかったので、法華経成立時でもバラモンの口伝が残っている等の例を挙げて珍しくなかったとし、仏説が口伝で残っていても特段おかしくないと反論する。
②はフィクションを認めながらも、フィクションの方がより真実を伝えているという、文芸になじみのある人ならなじみやすい考えで反論する説もある。しかし土台になるものは明らかに初期仏説から借りているとする。
仏説で最も重要なものは縁起説と四諦であると多くの人が言っているが、この縁起は法華経のネーミングや方便品の十如是に言葉を変えて受け継がれているという。実相がそれにあたるそうで、縁起を時間的経過の縁起と存在論的縁起に分けて後者を大乗では実相と呼んでいるという。天台の一念三千も縁起を言い換えたものだという。
対機説法という考え方もある。釈迦は相手をみて法を説いたので、当時の普遍性の概念などない時代にはリアリティーのある自らの成道のみを説いたが大乗では意を汲んで普遍性のある久遠元初の仏を説いた。これにたいして対機説法などは後世の理屈合わせの便法に過ぎないとの反論もある。
いずれにしても宇宙には地球並みの惑星の数は1000億個もあるとしたら、それらの星星に多くの仏が誕生していると考える方が普遍性はある。統一場理論を追及する理論物理学などになじみのある層は霊鷲山に集合した無数の仏たちや久遠元初の仏は初期仏教の延長線上にあるものとして違和感がないのではないか。
文献学的には大乗は釈迦自らの口から語られたものではないが、フィクションでなければ表せない普遍性の追求という点からは仏説と考えられる。こうなると仏説の定義の問題となるし、白黒をつける問題ではない。私は仏説といって差し支えないのではと思う。
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