どの国どの街でも食の記憶が最も簡単に当時の様子を思い出させてくれる。どこの国どこの街でもあるようでこの国のこの街しかない光景を求めて旅をする。
日本に居るときは大の和食党で、朝はご飯に昆布とかつおのだしの効いた味噌汁。昼はパスタをふくむ麺類が主で、夜は牛肉、豚肉、鶏肉は週に一回程度、後は毎日魚で、たいがい刺身、あとは焼き魚やしめ鯖など。たらこにちりめんじゃこがあれば言うことなし。野菜は根菜の煮付けや簡単にゆでて塩とオリーブオイルであえる。その他納豆、豆腐、つけもの、のりと割合、変化のないメニューだが、それぞれがうまいので飽きることはない。もちろん日本酒も。
旅に出るときは、食についてかなり心配した。出発に当たっては、大量の日本食材を持っていった。とくに昆布とかつおぶしはあきれるほど沢山もっていった。しかし、不思議なことに旅先では食べたいものが変わる。
最初は東南アジアのベトナムやマレーシア、カンボジアから回ったのだが、いずれも麺文化の本家で、中華風の食べ物も豊富だ。特に日本食を欲することはなかった。米とうどん(フォー)があるからだろうと思う。
クアラルンプールの大き目の屋台料理店では大勢のローカル客が席を埋め、思い思いに旨そうな料理を食べている。このコーナーではキャベツ、ブロッコリー、レタス、空芯菜、ねぎ、カリフラワー、チシャ、アスパラガス、鞘つきの長い豆などがつりさげられている。
マレーシア国民もお茶が大好きで、街にはお茶の専門店がある。軽食とお茶を飲むのがいかにもマレーシアらしい。白い陶器の統一感がよい。この店でワンタン入りのスープと透明で精妙な香りのお茶をのむ。精妙は下記の開高健からの借用で、精神性の高いお茶にはこの表現がふさわしい。華麗も奇怪も不可解も経験できなかったが。
「ジャスミンの香りなら、むしろ私は、熱い茉莉花茶(モーリー・ホア・チャ)の茶碗からたちのぼる、最初の優しい一撃が好きである。中国のお茶にはおびただしい種類があり、東南アジアの各市にある大きくて荘厳な茶舗にはいると、棚にずらりと並んでいる華麗、精妙、奇怪、不可解、それぞれの茶の銘をひとつひとつ読んでいくだけで圧倒されてしまって何を買っていいのか、わからなくなってくる。」開高健「茶碗の中の花」より。
シンガポールのクリスタルジェードで食べたカエルの卵について調べてみたら以下のようなことが判りました。つまりそんじょそこらのカエルではなく貴重な一品だそうです。雪の蛤とはなんと優雅な名前ではないでしょうか。
「薬書の記載によれば、雪蛤の正式な名称は蛤士蟆(ハスモ)といい、中国東北地方の高山に住む非常に貴重な中国林蛙(アカガエルの一種)を指します。平均体長は約5センチ、寒い地方でのみ育ち、3年から6年で大人の蛙になるため、雪蛤と言います。美顔や滋養の珍品とされています。」
これは卵は卵ですが、この中国林蛙の卵巣だそうです。寿命が延び美容にいいとされ、高価なものだそうです。雁屋氏の「美味しんぼ」でも登場するとか。さすがなんでも食材にしてしまう中国料理恐るべしです。しかし御味の方はなじめませんでした。おそらく薀蓄をしってこそ心理的な効果と相まって値打ちの出るものなのでしょう。西洋人がナマコなどを喰って感じる食感と同じようなものだとでもいえば多少は通じるでしょうか。
ベトナムはかつての仏領。観光船のレストランもフランス風で、湾でとれる立派な蟹が供された。形も色も立派だが味も濃厚で旨い。
ベトナムで船の床に並べられた昼食。焼きビーフンや白米に野菜炒め春巻きなどとスープが。味は忘れてしまった。白米がバリなどと比べて鮮やかに白い。
コンビニ弁当風なパッケージの中身はやはりベトナム風で生春巻き風も入っている。
写真はby wiki
カンボジアのアンコールワットを訪れた時のこと、ホテルの朝食は例によってバイキングでメニュウは中華風のお粥やビーフン野菜炒めなどが豊富にあった。その中でなにやら豆腐ヨウを少し大きく切ったようなものがあった。お粥の近くにあったのでお粥に添えて食べるといいのだろうと思い試してみることに。
一口食べてみて驚いた。豆腐ヨウそのものの味だ。しかも素晴らしい味だ。豆腐ヨウは沖縄の特産だ。紅麹と泡盛で豆腐を漬け込んで作る。それがカンボジアでローカルな食べ物として出ている。ということは豆腐ヨウのルーツはカンボジアか。
発酵食品に目がない。大きめの豆腐ヨウを5,6個もお粥と一緒に食べたらそれまでたまっていた和食への郷愁が満たされた。決して味噌汁とご飯ではないのだがそれでもなにか体が芯から満足したようだ。味噌も豆腐ヨウも共に大豆の発酵食品で、お粥はお米だ。その組み合わせがいいのだろう。
その日の午後、アンコールワットの暑くてヘビーな遺跡巡りを難なくこなせた。今思い出しても凄い急な石の階段をへばりつくようにして上った。60度の傾斜はあったと思う。ひょっとして豆腐ヨウと粥が力を与えてくれたのかも知れない。
道端で売られる 。 うまそうな煙とサテ。
韓国料理屋で。
豪華な中華料理
淡水魚のイカンバカール。味が濃厚でしかも淡泊。
村の祭りで食べる一皿。サテとごはんそれにラワル。
ココナツの炭で焼く兜焼き。
特製ソトアヤム(ソトはスープ、アヤムはチキンの意味)と鳥のから揚げ。
コナッツオイルで炒めたピーナツや、ゆで卵、トマトなどをトッピングに加えて、最後にライムを搾る。
豪華な食事
バビグリン 皮、ラワルという豚の血を使った刻んだもの、レバーなどがのっている。バナナの幹のスープが必ずついてくる。タクシーにのる。するとドライバーは「どの位バリにいるのか」「子供は何人か」「インドネシア語はしゃべれるか」「好きな食べ物はなにか」と質問など、ほぼ定型化した質問を投げかけてくる。最後の質問にはバビグリンと答えることにしている。すると「イブオカ ナンバーワン」といって親指を立てるドライバーが多い。
バリでは超有名なバビグリン・レストラン「イブオカ」に行こうと思って一年以上になるが、やっと念願かなって昨日訪れることが出来た。昼時であったのでイブオカは満員に近いが、幸いテーブルが一つ空いていた。それまで食べたバビグリンはご飯とスープにバビグリンセットで250円程度だが、ここのはセットで500円近くする。
それまでのと比べるとバビグリンの量が倍ほどある。スープもバビグリンも味付けが上品で辛さが抑えてある。それまでの店では必ず入っていたレバーと豆の揚げたのが入っていない。タンドールチキン風の色彩に揚げたものが味が濃くて旨いがどの部位かはわからない。ドライバーが「これはおいしい」といって別にとった皿には肋骨の脂身部分が入っていて、そのうま味を存分に味わった。豚の皮の部分が北京ダック風で最もご馳走だが、固くもなく旨く出来上がっている。有名になっているだけのことはありました。
ドライバーがイブオカさんを連れてきた。もう70才近いかもしれないが元気そうで、「美味しいですよ」というと、にっこり笑った。彼女が一代でこの名声を築いたのか。そういえばバリではこの種の有名な店の創設者は女性が多い。近所の魚料理「マ・ベン」も初代のお婆さんの顔写真が店にあり、以前に滞在したスミニャックの「ワルン・ムラ」もばあさんが店の初代オーナーだった。
ナシチャンプルつまりご飯を中心になんでもさらに乗せる。鶏のサテはどこのナシチャンプルにもある。
バリ風の魚ステーキ。
バリでは何を食っているか
朝食 パン(全粒粉のやや黒っぽいパンが多い。なかにクルミなどがはいっているのが好み) パンを切らした時は、パンケーキ(小麦粉をミルク、卵で溶いてフライパンで焼く。バターやジャムで食べる) トマトスープ(一度炭火で焼いて冷蔵庫に保存したものを、ミキサーにかけ、塩、こしょう、オリーブオイルで食べる。) 紅茶かウーロン茶 オレンジ、アップルなどのフルーツジュース(紙パック) ゆで卵
昼食 お手伝いの作るインドネシアンが多い。冷蔵庫にある肉やエビを使ったナシゴレン、ミーゴレン、ナシチャンプール、カレー、鳥のスープ、魚のスープ。それにマンゴやリンゴ、オレンジなど。冷やしうどん、そうめん、そばなども多い。これは私が料理する。外食も週2,3回。イタリアンのマッシモやナシチャンプールの食べ歩き。
夕食 御飯、魚の刺身(鮭、鰹、蛸など) 焼き魚を大根おろしで(適当な魚で) 牛肉、鶏肉、魚、エビでバーベキュウ、納豆、根菜の煮物、青野菜のおしたし、ビーフシチュウ、焼き豚、魚の卵の燻製に近いもの、トウモロコシ、カボチャ、トマト、キュウリなどをスープに。バリの塩とオリーブオイルだけで結構うまい。味噌汁もたまに。
こうしてみると酢のものが不足しているがレモンやオレンジを多く摂っているのでいいかなとも。
トニー・ロマ(Tonny Roma)でリブアイステーキ
バリでそこそこ美味いステーキを食わせる店は2店あるのですが、かつてニューヨークのスミスアンドウォレンスキーで味わったような感動もののステーキとなるとあきらめていました。ところが探せばあるものですね。クタの巨大ショッピングセンターbeach walkの中にはいっているトニー・ロマ(Tonny Roma)でリブアイステーキを食べてみましたが、もうそのうまさに感動です。脂身はほんの少しだけついているだけなのですが、これが実に官能を刺激します。ソースは一切なしで塩と胡椒だけで勝負をしています。肉に自信があるのでしょう。
付け合せのブロッコリーもゆで加減が絶妙でした。少し高いですが(ソフトドリンク込で1600円)ここまで美味いと大満足です。