1934年に発行された5000ドル紙幣。第4代アメリカ合衆国大統領ジェームズ・マディスン。
2016/11/25 写真追加
2014/4/15 追加
レイモンド・チャンドラーのロング・グッドバイを読んでいると、私立探偵フィリップ・マーローが頬に傷のあるある男からマディソン大統領の肖像の入る5000ドル紙幣が同封された遺書らしき手紙を受け取る。受け取るいわれのない金なので金庫に入れて置くが、それでもときおりその紙幣を出して眺める場面がある。そしてそれを時折人に見せるくらいだから当時でも相当珍しいものだったに違いない。1934年がこの「ロング・グッドバイ」長いお別れの舞台だが、この5000ドル紙幣一体どのくらいの値打ちなのだろうと気になる。
「緑色の紙幣はぱりっとして、テーブルの上に載っている。こんな紙幣を目にしたのは初めてだ。銀行員の中にも見たことのないものは多いだろう。・・・銀行に行ってこの札をくれといっても恐らく置いていないはずだ。・・・全米でもせいぜい千枚くらいしか流通していないだろう。私の手にした札のまわりには上品な後光がさしていた。専用の小さな陽光みたいなものが生まれるらしい。」 p135 ロング・グッドバイ レイモンド・チャンドラー 村上春樹訳 ハヤカワミステリー文庫
あるサイトを覗くと当時からみて今のドルの値打ちは0.08程度とある。12倍程度として60000ドルということになり、日本円にするとおよそ500万円になる。(又別のサイトでは100ドルが40万円相当とある。そうすると2000万円紙幣ということになる。この小説からすると2000万円が妥当な気もする)たしかに眺めてにんまりするわけだ。
また、2年後の1936年を舞台にした映画スティングを参考にすると賭場の日銭1万ドルの上りをギャングがボスに上納するがロバートレッドフォード扮する男に盗られてしまう。賭場の日銭は1000万円から4000万円となる。また、ギャングが50万ドルをノミ屋に掛けるがこれは5億円から20億円となるがノミ屋で20億円はないだろう。いくらマフィアのビッグボスでも5億円が妥当なところだろう。
高級ホテルでボーイにチップを50セント与える。出版社の社長スペンサーから20ドルをテーブルに置いていかれるが、もらう事は癪なのでウェイターにチップとして取れと言うと、ウェーターはその高額に驚く。一億ドルの大資産家も登場する。いずれも上記の倍率を当てはめると納得する金額になる。
頬に傷のある男がマーロー宅に100ドル札を5枚コーフィー缶に入れて置いていく。あるいはこの男が豚革のスーツケースを預けるがそれが800ドルはくだらない。それにしても札に関する描写が多い小説である。ラスベガスのやくざ、ランディー・スターはマーローの月700ドル程度の稼ぎを馬鹿にしながら己の資産を延々と説明する。ここまで書いて気が付いた。この小説はどうしてドル札にこだわるのか。
金ですべてを律する時代(1945年-1973年 第二次世界大戦の終戦から1970年代初期までの期間はアメリカ資本主義の黄金時代だった。)に抵抗する登場人物の態度を描くことでその人物と人生を描写しようとしているのだと。
でかい金はすなわちでかい権力であり、でかい権力は必ず濫用される。それがシステムというものだ。そのシステムは今ある選択肢のなかでは、いちばんましなものかもしれない。しかしそれでも石鹸の広告のようにしみひとつないとはいかない p433
組織犯罪は強い力をもつアメリカ・ドルの汚い側面なんだよ。 P552
参考 以下はhttp://gigazine.net/news/20080214_biggest_dollar/より。1928年から1934年にこうした大統領肖像紙幣が作られた。
1928年に発行された500ドル紙幣。肖像は第25代アメリカ合衆国大統領ウィリアム・マッキンリー。
1928年に発行された1000ドル紙幣。肖像は第22代および24代アメリカ合衆国大統領グロバー・クリーブランド。
1934年に発行された1万ドル紙幣。肖像はエイブラハム・リンカーン大統領の下で財務長官および最高裁長官を務めたサーモン・ポートランド・チェイス。
10万ドル紙幣。肖像は第28代アメリカ合衆国大統領ウッドロウ・ウィルソン。連邦準備銀行と連邦政府との間での決済に使用された。
ロング・グッドバイの名セリフは
「ロング・グッドバイ」 スコッチは孤独の酒