「あるきだす言葉たち・10月29日」
宮本佳世乃さんの「あかるさに」は、わたしには「とびあがる言葉たち」である。
✿十月のひかりの橋を渡りけり
明日で10月は終わってしまうのに、私はまだ「10月のひかりの橋」を渡っていない。渡れば
「アカシアの森」が黄金の葉をひろげ、私を包みこんでくれそうな句である。
✿秋の川扉ちらちら開きをり
川のさざ波を扉に見立てたのだろうか。透きとおるガラスの扉に。
✿顔じゆうが金木犀の森となり
金木犀は密集した葉に覆われて、小さな花は目立たない。しかし香りは切ないほど甘く木に引き寄せられて離れられない、宮本佳世乃さんは。
✿水澄んでいくつもの音入れ替はる
澄んでいるのは池の水か。水面の雲が、木々が揺れるとき様々な音が聞こえる、秋の音か。
✿透明な傘をすべつてゆく秋よ
ビニールの透明な傘は短歌にもよく詠まれるが、「傘を秋がすべる」とは大胆な表現だ。
宮本佳代乃さんは1974年東京生まれ。「炎環」「豆の木」所属。句集『鳥飛ぶ仕組み』
10月30日 日の沈む頃となりました。ひかりの橋を渡るのは明日に。 松井多絵子