えくぼ

ごいっしょにおしゃべりしましょう。

殻ちゃん⑧

2013-10-25 14:25:05 | 歌う

            「殻ちゃん⑧」

❤はじめての口づけするのはセンパイと夕日の海辺の潮風のなかで

 夕食をすませて8時半、殻ちゃんはもう眠っている。隣のプロダクション「はるこ」で水口はまだ仕事をしている。アキは殻ちゃんの寝顔を見ながら思いだしている。20歳の頃のことを。

 あの頃だった。オラに映画出演の話が舞い込んだのは。鈴鹿ひろ美の娘の役で共演、「潮騒のメモリー」だ。ママと水口がすごく喜んでいた。もちろんオラもうれしかったが、、、。

  センパイ◆「おめでとうアキ。よかったね。あきらめないで」。

    アキ✿「でもね。イヤなんだ。ラブシーンが」

  センパイ◆「誰とするの?ただ抱き合うだけだろう?」

    アキ✿「それがねえ。キスシーンなんだ。オラのキライな前髪クネ男と」

 センパイは何も言わずに目を伏せていた。オラも黙ってアナゴの握りずしを見ていた。そのとき水口が店に入ってきて、オラの隣の席に座った。

   水口 M「アキちゃん、いよいよ映画にデビューだ。主演だよ。体調を崩さないように。
         今は8時半だ。そろそろ家に帰って寝なさいよ」。
                                         
 あの夜はなかなか眠れなかった。なんだって前髪クネ男とラブシーンを。オラはまだキスをしたことがないんだ。ファースト・キスはセンパイとしたい。早くしたい。今夜だって水口が来なかったらセンパイを誘いだして。あのビルの木陰で、でもセンパイにはじめて抱かれるのは三陸の海辺で。「陽の沈む頃がいいなあ」と思いながら、、。、あの夜は夢のなかで、、。

  10月25日  今日はここまで。  次回もどうぞよろしくね。 松井多絵子

 


意味がわからない

2013-10-24 14:21:24 | 歌う

           「意味がわからない」

 「現代短歌文庫・小島ゆかり歌集」の秀歌はさておき次のような楽しいミニ・エッセイもある。

           ✿✿ 意味がわかりません      小島ゆかり

 ~世の中は意味がわからないことだらけだ。家電製品の説明書もネット用語も、国会答弁も各種の人間関係も、ある国の態度もこの国の対応も、小さなことから大きなことまで、考えだしたらきりがない。
 男女の心の機微を見事に描く小説家が何度も結婚に失敗し、健康体操の先生が意外に早死にをし、経済評論家がカード破産する。~

 小島ゆかりさんより長く長く生きていている私も、わからないことだらけである。電気製品が故障すると私がケガをしたような気がする。買い替えると新しいものに慣れるのに時間がかかる。そんな私が1年前にパソコンをはじめた。ネット用語はいまだにほとんどわからない。NTTパソコン教室遠隔操作の指導でなんとかブログをやっているが、まるで吊り橋を渡るような感じだ。「メカに弱い松井多絵子がブログをやってるんだからパソコンって易しいのよ」と高齢直前老女数人がパソコンを始めたらしい。その老女の1人から「検索はできるようになったけど松井さんのブログは出て来ないわよ。」と先日言われた。私よりメカに弱い女がいるとは。才女の小島さんもネット用語が苦手だとしたら私は心強い。

 国会答弁が分からないのは私は気にならない。政治家ご自身がわからないことを話していたら私たちがわかるはずがない。おおかたの人間は闇の中をうろうろ歩くように生きているのではないか。わからないから生きていられるのかもしれない。
 わたしは昼食後にブログを書くことが多い。この時間の使い方で老後の明暗が分かれるかもしれない。テレビの不倫ドラマを見て「いいなあ。もう30歳若かったら私だって。などと悔しがっていたらボケてしまう。不倫のドラマを自分で書けばいいのだ。自分しか見ないドラマ?

 ❤しなかった、できなかった事あれこれと思い出させる窓の紅葉
                           10月24日   松井多絵子

 


伊波真人さま✿✿✿

2013-10-23 14:21:37 | 歌う

           「伊波真人さま✿✿✿」

 歌を十首作るために私は旅をすることが多い。崩れ落ちるかもしれぬトンネルや橋をいくつも通り、命がけで十首を作っているわけである。10月22日朝日夕刊の「あるきだす言葉たち」を読んでいると「なにも旅をしなくたって周りを見渡せばいくらでも詠めるじゃないですか」という伊波真人さまの声が聞こえてくる。「あかりヶ丘ニュータウン」十首は伊波真人さまの周りのことばかり。よく気がつく方ですね。

 ★猫よけのペットボトルは人間の一日分の水を満たして

※なるほど。私はボトル1本分の水のおかげでこの世にいることができるのだ。  

 ★公園で子供の声がしたけれど覗いてみれば誰もいなくて

※公園には常に子供が遊んでいるという私たちの思い込み。我が家の近くの公園は老人
  が多くベンチに座ってぼうっとしている。私も自分の庭のようにおもいながら時々くつろぐ。

 ★千年後日本であまた出土するイオンモールという名の遺跡

※イオンモールというショッピングセンターは千葉幕張をはじめ大阪、伊丹、福岡、京都など
  全国各地にある。千年後は遺跡になり、観光客が平成の御世をどのように想い描くか。

 ★マンションの窓に明かりがともりだしみんな家庭という庭を持つ

※ 「家庭」のなかには「庭」がありますね。マンションに庭がなくても。 

✿✿✿ 伊波真人さまは1984年群馬県生まれ。埼玉県在住。第59回角川短歌賞受賞。

所属結社「かばん」では山田航・法橋ひらく と共に「新かばん三兄弟」と言われるらしい。
山田航からバトンタッチして今年30周年の歌誌「かばん」編集長に。

  10月23日  歌壇はどんどん若返り、冬になっても✿✿✿、、松井多絵子


猫の写真

2013-10-22 14:30:12 | 歌う

             「猫の写真」

 現代短歌文庫『小島ゆかり歌集』のなかに「猫眼鏡」というミニ・エッセイがある。
  ~何かの集まりの折、携帯電話に保存してある愛猫たますけの写真を誰かに見せたりすると、一人二人と音もなく(まるで猫のごとく)近づいて来て、同じようにケータイの画面を差し出す。そこには老若雌雄さまざまな猫が映っている。そして互いの猫を眺めたのち、静かにケータイをしまう。その際必ずと言っていいほど口辺に「ふふっ」という感じの笑みを浮かべる。それは自分の猫の優位を確認した笑みなのだ。~

 この辺りを読みながら、私はツイッターのプロフィールに猫の写真が多いことを思った。ほとんどが女性、ご自分の顔写真の代わりに愛猫の写真を。愛らしい顔、妖しい顔、悩ましい顔、さまざまな猫に会う。かなり前から猫を飼っていない私は好ましい猫の写真を見るとつい「フォロー」をクリックしてしまう。猫は一緒に暮らしていると飼い主に似てくるらしいから?

❤ふりむいてみれば黒猫一匹が歩いているのみ、たぶん雌猫

❤黒猫はタンゴが似合うその角をくいっと曲がりまたもどり来よ

❤黒猫と白猫の違いをおもうとき黄色い髪の女が過ぎる

 猫はわたしたちに最も身近な動物だ。短歌にもよく詠まれる。わたしもよく詠んでいる。

❤猫ばかり詠まれて犬は詠まれない隣家の犬がわれを見ている

                             10月22日  松井多絵子
  

  


「三ツ星のおでん屋」

2013-10-21 14:27:42 | 歌う

         ★★★ 「三ツ星のおでん屋」 ★★★

<佐佐木・高野・永田選>

☆☆☆「やってる?」と研究室に顔を出すおでん屋の客みたいな先輩
                          (瀬戸内市) 安良田梨湖

 今日の朝日歌壇は「三ツ星のおでん屋」。三人の男性選者に選ばれた歌である。お酒がお好き、おでんもモチロンお好きな選者たちの「わかるなあ」という声が聞こえてくる。この夏は暑さに耐えられず冷房の部屋で過ごした人たちが、温かいものを食べたとか。コンビニの「おでん」がよく売れたとか。でも「おでん」は秋になると急においしくなりますね。

 「やってる?」の初句が「おでん屋の客」みたいな先輩にふさわしい。先輩が顔を出した研究室は、大学か、あるいは企業の研究所か。研究室の先輩との人間関係で鬱になる人もいるらしいが、この「先輩」は自分より年配の人、経験も学術、技術なども自分より優れていて信頼できる人であろう。「おでん屋の客みたいな」で先輩の人間像が鮮やかになる。

 おでんは「御田」と書くらしい。日本の煮込み料理のひとつで、大根、ちくわ、こんにゃく、ゆで卵などをだし汁で煮込む。おいしく作るにはだし汁と具の下ごしらえが大切だ。何十年か前は、大根を軟らかく煮るのにガスのとろ火で半日かかった。今はレンジで3分。早煮の昆布を使えば30分で「おでん」ができる。それぞれの具は特にオイシイわけでもないが、共に煮ている間に味が混ざり合い沁み込みおいしくなる。家族みたいな味。なにも外で食べなくてもよさそうだが、一杯の飲みながらアツアツのおでんを仲間と食べるとオイシイのだろう。作者の梨湖さんは、女性の名前かという気もしたが、きっと男性でしょうね。お酒の大好きな、、、。

 10月21日 今夜はおでんにしょうかしら。レンジで大根を3分。  松井多絵子