植物園「 槐松亭 」

バラと蘭とその他もろもろの植物に囲まれ、野鳥と甲斐犬すみれと暮らす

12個の印を鑑定するが 結局はよくわからない(´;ω;`)

2022年04月04日 | 篆刻
 雨に降り込められて一日屋内にいると、やることはいくらでもあって退屈はしませんが、やはり気分は晴れないものです。篆刻は一昨日再開いたしまして3本ばかり徐三庚さんの摸刻をいたしました。いまいち出来が悪いのは天気が悪いのと、目がかすむせいにしておきます。

 さて、先日来、もったいをつけている「印材まとめて」で落札した中古印の鑑定であります。12本それぞれに個性がある石質、印面の彫がありなかなか興味深いのです。

まずは、一番気になっている「秋艸刻」の側款がある印2顆です。
 

 本名会津八一 先生の雅号は秋艸道人・渾斎で、もしかするともしかするのです。会津さんは、早稲田大学で教鞭をとった学者肌で、飾り気のない自然な趣の書を残しています。
 印の字は「艸」と「紙短情長」、非常に優れた篆刻の技量とお見受けしましたが、秋艸道人の印はそれほど研究していないので、側款も含めて真贋は全く分かりません。ワタシが生まれた頃に物故されているので、年数がたっている割に側款が汚れていないのが気になります。丸石は、やや黄色味を帯びた乳白色で、芙蓉石系に見えますが、透明感が低いのでさほど高価なものではないでしょう。角印は同じ乳白色ながら「魚脳」と言われる半透明の模様があります。パリン石などでも同様の模様がみられるのですが、そちらは派手で下品であります。恐らく昌化石ではないかと思います。昌化石は色のバリエーションが多く、カラフルで無地のものが少ないのです。その最たるものが「鶏血石」あるいは三色昌化石です。

 次はまごうことなき鶏血石であります。

 1.2㎝角(4分)の小さな印ではありますが、そもそも大変貴重なものなので、原石を細かに細断して印材に加工しているものです。朱色が鮮やかでワタシの所蔵物の中でも3本の指に入るものであります。こうした石には珍しく、実際に彫られていて山木あるいは「杣」 と読めます。
 

さらに、こちらは大型の「広東緑石」で透明感があり、白い筋が走っている自然石仕立てであります。印材店で6分角のもので6千円から8千円ほどするものですから、安いものでも単純に考えて2万円前後の価値はありそうです。

お次は黒い印材2種。

これは同じような黒い材ですが全く別物であります。左の印は、石では無く、木の化石・煤精石のようです。総じてひび割れがあり軽いものです。さほど高価なものではありませんが、今や日本では滅多に見かけることはなく、市販されていないものでワタシはこれで2本目です。

 もう一つの黒石は「楚石」であろうと思われます。厳密には緑色の濃い石であります。黒い印材の中で名石とされるものは、楚石、田黒(田黄石の一種)、吊耿(ちょうこう)石の三種が有名ですが、こうした黒系統の石はいずれも閉坑となっていたり鉱脈・資源が枯渇していて新規に産出されていません。ネットでもほとんど見かけることはなく、年々その価値は上がるものと思われます。
  

次は、左が蕾と葉の素朴な紐がある1×2㎝角の小印で、金文の陽刻であります。印面の角の上の側面に帯状で3mmほどの色が変わった部分があり、欠けを防ぐために薄銅などの金属板枠が付けられていたのかもしれません。光沢があり緻密さがある半透明の温潤な良材であり、高山凍か黄芙蓉石と見えました。側款が無く作者や由来が分かりませんが、これは12本の内最も値打ちものの印であるかもしれません。

 右の印は自然石の形そのままで、滑らかな「薄意」が表裏に施されている遊印であります。側款には「十品篆」とあり篆刻家さんの雅号でしょう。薄意そのものはさほど稠密とはいえず、彫もちょっと雑に見えます。透明度の高い灰色に、黄土色・黒色の幾重も筋が流れていて昌化石 かもしれません。


残り4つは、石そのものはさほど価値があるものではなと思います。
 まず、大きめの自然の丸石は蝋石とか滑石と言われる柔らかな素材です。あちこちにぶつかって出来る欠けや白い傷が見えます。「直人」という作款があります。
 焦げ茶色の石は恐らく青田石の古材です。青田は青い石ではなくベースが黄色っぽい色です。割合単色が多く、夾雑物が混じっていないものが良品であります。角材上部を削って自然石風に仕立てたものです。
 白い小印は、唯一姓名印で朱文・白文を互い違いに彫り「源嘉重印」と彫られています。材は骨材(象牙か角)と思えます。
 最後のやや長方形の角印は、最近出回っている新材の「寿山石」に似ていて細かい模様が入り乱れている石で、愛玩石とか希少な石では無く、実用として売られていた普及品でしょうが、相当昔に世に出たものと思われる古雅の趣はあります。

 それぞれの印に共通するのは、実用・落款用に所蔵していたのではなく、珍しいもの、値打ちものの印の蒐集品であろうこと、ほとんどの刻字が美しく篆刻家さんや書家さんの作である可能性が高いこと、であります。また、彫られた字句や字体が中国で彫られた古印ではなく、日本の書家さんなどが自分用に彫ったものではないかと思います。派手な細工の薄意や紐が無く、側款も彫られていない遊印が殆どであることがその理由です。(自用印は側款を入れないことが多いのです)。前の所有者は篆刻印に造詣が深く、目の肥えた方だったに違いありません。

 というわけで、今回の鑑定はワタシの知見では価値は不明であります。ある専門家の人に言わせると、石を見て即座に石の種類を決めつける人は信用できないそうであります。同じ山や抗でもその見た目は千差万別です。中国の各地で採掘されるほぼ同じ成分(ヨウロウ石)の石材の産地や種類を明確に言い当てるのは実際は不可能なのです。

 24千円ほどで落札した品ではありますが、その価値や値段は数倍といっても不思議が無いほど逸品ぞろいでありました。少なくとも、これまでいくつもつかまされた贋作・あるいは粗悪品に比べたら100倍マシなのであります。
あえて金額を示すなら、最低4万円、秋艸さんの印が本物だったり、紐付きの古印が時代物の銘石ならば、軽く10万円は超えるでしょうね。

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