実は半年ほど前に入手した八分(2.4㎝)サイズの篆刻印の対章があります。押し入れにしまったまま忘れていました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3a/cb/7404e22614b03b9f340e000d90a16348.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6b/3f/5e0a41b723d7c12a6eaa3bcfa5508d3b.jpg)
北京印痕楼という、中国の印石販売の老舗の木箱に収められていた方形、凍石系の半透明の印で、「完白山人」の作款がありました。「中国 、印材 、2点セット」の説明書きでしたが、これを、「最低落札価格12千円」でポンと入札するような奇特な(笑)人はなく、ワタシが単独入札したのです。左の印は「世路如秋風 」と彫られていて李太白さんの漢詩の一節のようです。
世の中というのは秋の風が吹いているようなものだ、といった意味でしょうか。
完白山人といえば、中国清朝後期1700年代に最も抜きんでた書道篆刻の第一人者「鄧石如(とう せきじょ )」先生の雅号であります。この方の印が簡単に出回るとも思えず、そもそも中国政府は1960年に「文化財輸出鑑定参考基準 」を作って重要な文化財書画骨董品が海外へ流出しないように制限しました。未だに古い名匠巨匠の芸術作品は、中国文物局で審査を受けて1966年以前の骨董品は原則として持ち出しできないことになっています。それほどの価値の高い物では無ければ「蝋印」を捺されて輸出出来るのです。
そういう意味で、大家の手になる篆刻印がヤフオク辺りで簡単に出回るはずも無いのですが、それはあくまで1960年以降のお話で、その前までは列強が中国を植民地化しようと相次いで中国に進出し、日本とて日清戦争や太平洋戦争・満州国設立など、密接に中国国内に入り込んでいるので、数多の文物が日本あたりに流出したのは周知の事実であります。
そこで、その印が鄧石如さん作の本物かどうかは、今時点では不明、12千円ぽっちで、博物館レベルの大先生の印が入手できる方があり得ない話なので、まぁ本気で調べるまでも無かろうと思っておりました。何かの折にもう少し観察してみようかとは思いますが。
前置きが長くなりました(毎度の事でありますが)
ヤフオクで落札した「斉白石印章」であります。巧妙に作られた偽物である可能性は勿論排除できないのですが、今度ばかりは「マジ」で本物と信じるに値する品物であるのです。ヤフオクで4.5千個に及ぶ印材を手中にして、何度となく、まがいものをつかまされて勉強しました。いくつもの研究書・石印材本を読み漁り、ネットでも印材の良し悪し、古印の見分け方などを学んできているワタシが、ちょっと震えるような感覚に陥った品物でありました。
1864-1957年、中国の貧しい農家の出で、大工から木工、表具、そして絵画とその異才が認められ30歳以降は書画で名を知られるようになった反面、その出身から貴人文人からは差別され軽視されたと聞きます。その後北京で売画・売印で生計を立て、日中国交樹立に際して齊さんの書画が 出品されたのを機に一気に国際的な評価を受け、以後知らぬ人が居ない近代芸術家となっていったのであります。その作風は素朴にして雄大、「紅花墨葉」 を題材に選ぶことが多かったようであります。
もし、ワタシが入手した印が、そんな中国の書画・篆刻の大家の作ならばいわゆる「博物館級」のお宝と言ってもおかしくありません。鑑定款が共箱の裏面に張られているのが一つのポイントで、贋作にここまで手の込んだ細工をするか?であります。箱や石を包む印袋も上質で、銘品であることを間接的に補完する材料です。日本の書画・骨董品ならば本人が箱書きしたり落款を入れたりするものですが、これは65年前に亡くなった中国の書家の作なので、いずれも日本に渡ってから後付けで作られたものでありましょう。(鑑定した時に設えたのかも)
次に大事なポイントは「石材」であります。著名な書人文人を父祖にもつ裕福な篆刻家ならば、作品あるいは依頼制作の印材には糸目をつけず、派手な紐や薄意を施した高価な石を使うことが常だっただろうと思います。しかし、決して恵まれた境遇と言えない斉先生ならば、高雅で奢侈な印には頓着しなかったのではないと思います。
手元に届いた丸石は皮(表面のざらざらした石層)がついたままの自然石をおよそ七分ほど残して輪切りしたものです。僅かに削った皮の中は微透明で大きくは水坑で寿山系の「凍石」系統であろうと思います。田黄などの超高級な石ならば、皮付きで磨かずに印材とするには勿体ないのです。この石は等級が少し落ちる牛角凍とか高山凍と呼ばれる種類の石材と見ます。一切の側款や印刻がない原石印材としての価値ならば1,2万円と言うところでしょう。これを3.4本に切り分けて磨いて高級印材に仕立てれば1本5千円位になるでしょう。
いずれにせよ、間違いようのない自然石で、かつ大岩・岩盤を切り出した角材とは全く異なる希少性の高い印材であります
さて、次にチェックすべきは印面と、その彫りであります。斉白石さんの手になるものならばその印譜と相通じる特徴や傾向が出て来るはずなのです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/37/43/88304bc7142eee9f126b0407e0423ab2.jpg)
印面には、切断した時からほとんど手を加えた形跡はなく、つぼまった曲面の一部がそのまま印影にわずかにうつるようになっています。表面はわざと少しざらつく感じが残っていて、朱面部分にかすれやわずかな空白が出来るのです。5文字彫られていて「落花是无(無)情」と読めます。この華(花)の字は斉白石さんの印譜集の印影一番下の右の印に酷似しています。左の一番上の印と比べても、直線的な荒々しい彫りの雰囲気は完全に同人物によるものと見えます。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/26/64/1fe7e35fb855b7035b08ce0ab2c2ae14.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/33/db/585755d9b5be37ce7c1c9d9866c95cda.jpg)
さてそこで、一番のキモは側款であります。これは、ある程度時間をかけて「解読」しなければなりません。例によって本日も多忙で、別の約束があり、続きは後日といたしましょう。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます