昨日ワタシの仕事場を訪ねてきたのは、高校生の時の同級生であります。50年前にそれぞれの道へ進んで、つい最近までは全く会う機会どころか名前さえも忘れていたような疎遠な間柄であったのです。中高大生の時代を通じて、その数%も付き合いが無くなるというのが普通のパターンではなかろうかと思います。
彼は、長く花形産業の損保業界にいて、数年前から自営業とか非正規のアルバイト程度の仕事をしている、と聞きましたがどちらかと言えば生活費を稼ぐのではなく、じっとしていられない性格なのでしょう。彼の用件は、ワタシに篆刻印を彫ってくらないか、という依頼でありました。Facebookなどでワタシの彫った印を見て、欲しくなったようです。別に書道をしている風は無いのですが、剣道はなかなかのもので高校の時も剣道部だったのです。
雑談の中で、ご尊父が日本刀の蒐集をしていて10振りほどの刀を残して他界されたのだそうです。その時、何も知らない彼は処分に困って骨董商に見てもらって売ったのだそうですが、その値段が2千円~2万円ほどだったとか。お父さんは10万円で落札したという名刀らしきものも含まれていたらしいのですが。
ワタシも石印材の蒐集家として痛感するのは「集める対象の事を熟知している、知識が上であることが圧倒的な価格交渉の決め手になる」ということです。ネットで調べ、多くの古文書・書物を読み漁り、実物を手にする。そして物の価値を様々な取引や所有・研究・失敗などを通じて経験値を重ねる中で「品物」の本来の価値を値踏み・鑑定できることが、実際に売買する時の最大の交渉手段となるのです。ワタシもずいぶんと授業料は払いましたよ。
さて前置きはこの程度にして、直近で入手した印と入札してとんでもない落札があった出品物を紹介いたします。
まずびっくりした高値がついた「梅舒適 」先生旧蔵という謳い文句の「印材まとめて10点」です。
これらは、みるからに美しく価値が高いと思える品物でしたから、ワタシもウオッチをつけていたのです。ウオッチは時計ではなく、出品物に自分で入札することを前提にして注視するためにマークを付けることであります。しかし、最終期限の夕方には既に6万円を超える札が入っていたので、本当にウオッチするだけで早々に諦めました。そして翌朝見たら、落札額が97万円!!!
これにはビックリ。ワタシが見てきた中ではこの手の出品物では最も高額になったのです。つまり、戦後篆刻家としては第一人者であった梅先生が、大事に集めた逸品中の逸品と見て一個当たり9万円の値段がついたのです。真贋は不明なのです。また手に取ってみる訳にもいかない写真10枚とわずかな説明文だけなのですよ。従って、本物と確証が得られれば(例えば鑑定書付)、その倍くらいの値段がつくかもしれないのです。
印材の鑑定や価値は、実は集める人の主観や目の付け所で変わってきます。紐や薄意(石に施す飾り彫)の出来・石の種類(田黄や芙蓉石など名坑の名石か)・見た目の美しさや透明感・石に彫られた側款や印面の彫・その印材の作者や所有者が誰か・時代(経年数)は、といった要素のうち人によって優先順位が違い、値決めも当然違ってくるのです。梅先生のことだからそれらのほとんどの要素を高いレベルで満たしているに違いない、と思った蒐集家が高額の入札に応じたと思われます。
現実的にも、高名な篆刻家先生に立派な書道家さんやお金持ちの書道愛好家さんが印の依頼をするとき、「お金には糸目をつけなかった」はずなのです。そして、彫る側からしたら当然①手作りの見事な紐や薄意つき ②名石と言われるもののほとんどは均質で彫りやすく壊れにくい ③貴重な石であればあるほど依頼者は喜ぶ といった観点から高級かつ良質な印材を選ぶに相違ありません。
従って、印材4宝といわれるような高級石≒ 表面が磨かれ美しい飾り彫≒ 名人の手になる=一級の印面の彫(これが最も重要)といった共通点に近いものがあります。わかりやすく言えば売値が高い印は中古品になってもやっぱり高い、プレミアもつく、という理屈になるのです。
ですから、ワタシはヤフオクでウオッチをつけ、実際に落札まで追いかける石は、前提として中古品(彫りがあって側款あり)を優先します。ワタシが知っている位の名人が彫ったということが確証を持てれば、自ずと価値の高い石を使ってるはずだと。
今回2件、1週間で落札できました。
一つは「中島藍川」先生の作品
もう一つは「寿石刻」の側款入り印であります。
予定稿に達しましたので続きは後編(明日)をお楽しみに
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