美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

今日は、国連が中共の覇権主義に加担するという驚くべき日である (美津島明)

2015年09月03日 05時47分39秒 | 政治
今日は、国連が中共の覇権主義に加担するという驚くべき日である (美津島明)



今日、国連・潘基文事務総長は、中共主催の抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利70周年の記念行事に出席することになっています。国連事務総長が、軍事大国・中国を誇示しようとする意図が見え見えの人民解放軍・閲兵式に参加するのです。むろん、この行事のきな臭さや突出性を嫌った(ロシア・プーチンと韓国・朴槿恵以外の)欧米主要国は、首脳級の派遣を見送っています。国際平和に貢献するという、現代国際政治の指導者にとっての責務をめぐる常識を尊重するならば、当然の意思決定でしょう。また、この行事に参加すれば、中共に間違った危険なメッセージを伝えかねないとも思ったのでしょう。

日本政府は、大島理森衆院議長や菅義偉官房長官を通じて、国連・潘基文事務総長が北京の閲兵式に出席することに不満の意を表明しています。中共との間で、安全保障をめぐっての抜き差しならない関係を有する日本としては、当然のことです。で、チャイナ・ネットという中共寄りのメディアが、日本政府の抗議について次のように報じています。なかなか興味深い記事です。

国連が日本の抗議を無視、潘氏は歴史に学ぶ重要性を強調

BBCの報道によると、国連は潘基文事務総長が北京の閲兵式に出席を予定していることに不満を表明している日本を相手にしないと表明し、第二次大戦の記念活動は歴史を振り返る絶好の機会だとした。国連のドゥジャリク事務総長報道官は、潘事務総長は今年ポーランド、ウクライナ、ロシアで実施された軍事パレードなど類似する活動に出席していると強調した。潘事務総長は、「各国がこのような記念を利用し過去を振り返り、未来を見据えることに期待する」と述べたという。(中略)

国連は日本側の動きに反応し、上述した態度を示した。共同通信社は、「大島理森衆院議長は8月31日、ニューヨークの国連本部で潘事務総長と会談し、潘氏が北京で9月3日に開かれる抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利70周年の記念行事に出席することに、日本国民の間で懸念があると伝えた。日本政府は潘氏がパレードを観覧した場合、事務総長の振る舞いにさらなる疑問符が付くと受け止め、厳しい態度で臨む構えだ」と伝えた。(中略)菅義偉官房長官は8月31日、「国連は中立的な立場を取るべき」であり、特定の過去に精力を浪費するべきではないと表明した。

国連側は慎重に言葉を選んだが、態度をはっきりと示した。AFP通信は、国連は月曜日に日本の不満をそっちのけにしたと報じた。英ガーディアン紙は、潘事務総長は中国の閲兵式への出席に関する日本の批判に応じず、中国が戦時中に強いられた犠牲を認識し、歴史の教訓を汲み取ることが重要だと述べたと伝えた。

オーストリアの週刊誌は1日、「国連は日本の抗議を受け入れなかった。日本の注目を浴びるが、潘事務総長は北京の抗戦70周年記念活動に出席する。第二次大戦の記憶は中国・朝鮮・韓国の人々の心に深く刻まれている。多くの人は、日本が現在も歴史を正視せず、戦時中に犯した罪の埋め合わせを正確に行っていないと考えている」と報じた。独フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング紙は、日本人は自身を「犯人、戦争の責任者」ではなく、「敗戦者」としてしか見ていないと指摘した。
(後略)
「中国網日本語版(チャイナネット)」 2015年9月2日
http://japanese.china.org.cn/jp/txt/2015-09/02/content_36483246.htm 


高度の中立性を重んじるべき立場にある国連の事務総長という重要なポストにある者ならば、軍事大国としてこれからますます膨張しようとする中共の軍事パレードになど参加しない、というのが常識でしょう。そんなことをしてしまうと、国際社会から、軍事的に拡大を続ける中共の強硬路線を肯定したと受けとめられてもしかたがないからです。

国連が、中共の、武力による現状変更をめざす覇権主義の片棒を担ぐようなふるまいをするのは、言語道断である、というよりほかはありません。

中共は、第二次世界大戦における戦勝国の「民主対ファシズム」というフィクションをいまさらながらに強調することで、武力による現状変更を展開しつつある現在の自分たちへの、国際社会の批判をかわそうとし続けています。国連・潘基文事務総長は、人民解放軍の軍事パレードの閲兵式に参加することで、中共の、そのような「詐術」に加担することになるのです。すなわち、世界平和の使徒であるべき国連が、極東における安全保障体制をゆるがすことに率先して加担するのです。潘基文は、次期韓国大統領になりたい一心で、中共に媚びを売り、韓国・国民の偏狭なナショナリズムにすり寄り、中立を旨とする国連の顔に泥を塗るという愚挙をしでかしてしまった。そういうことなのかもしれません。国連事務総長のポストを、彼は、来年末に務め終え、その数か月後に韓国大統領選があるので、ありえない話ではありません。

日本政府は、潘基文事務総長が、このまま閲兵式参加を強行するならば、国連負担金の端的な減額をするべきである、と私は考えます。

それはそれとして、日本政府は、国連中心主義の幻想から一日もはやく目覚めなければいけない。その幻想を抱いている限り、引用記事のなかの戦勝国史観をなんとなく甘受してしまう心の隙を温存するような気がします。国連は、どんなに美辞麗句を並べてみても、所詮、戦勝国の利益になるような世界秩序の一環でしかないのです。敗戦国が、それを過剰に有難がり続けるのは不健全であり倒錯的です。“国連なんてものは、利用できるところはうまく利用するべき、国益の道具である”。今回の潘基文の「蛮行」を直視することで、日本政府が、そういう透徹した認識を抱くことになればよいのですが。
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