目下、大滝詠一が好んで取り上げたオールディーズにひとつひとつスポットライトを当てる、という地道な作業をしております。
サービス業を営んでいるせいでしょうか、わたくし、自己満足に終始する勇気に乏しいところがあるのです。上記のような振る舞いになど、よほどの大滝フリークでなければ興味を持ってもらえないのではなかろうか、あるいは、大滝フリークにしてみれば私がここで言っているあれこれなど周知の事実であって彼らに白けた気分を味わわせてしまっているだけなのではなかろうか、という不安につきまとわれながらアップをしております。しかしながら、オールディーズ自体の輝きや魅力を感じ取って楽しむ奇特な方もいらっしゃるのではなかろうか、と思い返し、アップを続けます。
『NAIAGARA CONCERT ‘83』CD2の七曲目は「Mr. Blue」、八曲目は「Dreamy Eyes」、九曲目は「Come Softly To Me」、十曲目は「Who Put The Bomp」、十一曲目は「His Latest Flame」(邦題「マリーは恋人」)です
(以上、一九八〇年十二月十六日「LET’S DEBUT AGAIN」於・芝郵便貯金ホール)。
「Mr. Blue」、「Dreamy Eyes」そして「Come Softly To Me」は、長万部キャッツと大滝詠一による無伴奏のアカペラという貴重なセッションです。大滝詠一のスイートヴォイスの魅力がじっくりと味わえます。
「Mr. Blue」は、フリートウッズが五九年八月に発表し、全米第一位を獲得しています。作詞作曲はドゥウェイン・ブラックウェルです。
THE FLEETWOODS - Mr. Blue
「Dreamy Eyes」は、ポップカントリーを代表するシンガー、ジョニー・ティロットソンが五八年に発表したファーストシングルで、全米第六三位を記録した自作自演の美しいバラードです。
Johnny Tillotson - Dreamy Eyes (1958)
「Come Softly To Me」は、今回何度も名前がでているフリートウッズが五九年二月に発表したデビューシングルで、全米第一位を記録しています。
Come Softly To Me - The Fleetwoods (1959) (HD Quality)
十曲目の「Who Put The Bomp」(邦題“シビレさせたのは誰?”)は、シャネルズと共演しています。大滝詠一は実に楽しそうに歌っています。歌詞を間違えたのか、「あ・違ったかな?」のセリフはご愛敬です。原曲は、バリー・マンが六一年八月に発表し、全米七位を記録しています。エンディングでは、次に列挙する楽曲の数々が一節ずつ歌われています。すなわち、ボブ・B・ソックス&ザ・ブルー・ジーンズの「Why Do Lovers Break Each Other’s Hearts」、ボビー・ヴィーの「Take Good Care Of My Baby」、アレイ・キャッツの「Puddin N’Tain’」、モノトーンズの「Book Of Love」、大瀧詠一がTBSラジオの番組「こずえの深夜営業」のために作ったテーマ曲「土曜の夜の恋人に」の五曲です。同じコード進行で歌える曲をメドレーにしているのですね。実に凝っています。遊び心満載の一曲です。言われなければ、こんなことふつうは気付きもしませんよね。
原曲を聴いていてちょっと思ったのですが、「歌詞を音の響き優先にしてしまう」という大滝詠一・作詞法の基本スタンスに影響を与えた楽曲のなかのひとつ、なのかもしれませんね。
Who Put The Bomp - Barry Mann
十一曲目の「His Latest Flame」(邦題「マリーは恋人」)は、大滝詠一が世界のポップス史を「ビフォア・エルヴィス」と「アフター・エルヴィス」とに分けるほどに敬愛するエルヴィス・プレスリーが、六一年八月に発表した曲で、全米第四位を記録しています。六八年から七〇年にかけての「はっぴいえんど」時代の大滝詠一について、ドラムと作詞担当だった松本隆は、「エルヴィスの物まねをする人」という印象を語っています。ちなみに、大滝詠一によれば、「ビフォア・エルヴィス」と「アフター・エルヴィス」の境目は、エルヴィスが「ハート・ブレイク・ホテル」を引っ提げて登場した一九五六年三月、との由。
原曲の話に戻ると、当楽曲の作者であるドク・ポウマスとモート・シューマンは、エルヴィスに多くの楽曲を提供しているほかに、ドリフターズの「ラスト・ダンスは私に」やミスティックスの「ハッシャバイ」など多くの名曲を残したソングメイクチームです。
当日のギター・メンバーに、鈴木茂と村松邦男の名が見られます。リズムはボー・ディドリー調です。楽曲としてはほかに、ビートルズの「I Call Your Name」とデル・シャノンの「Runaway」(邦題‘悲しき街角’)が歌われたそうですが、残念ながら当CDには収録されていません。
原曲を聴いてみてあらためて思うのは、歌いっぷりがこんなにカッコいいんじゃ、見た目もあんなんだし、当時のアメリカの年頃の娘さんたちが失神したり失禁したりしてしまったのも仕方ないよなぁ、ということです。女性は、男のトータルな魅力を理屈抜きに全身で感じ取るのでしょう。男も、女性に対して基本的にはそうなのでしょうが、「理屈抜きに」とはいかないところがあるような気がします。
Elvis Presley - (Marie's The Name) His Latest Flame (Audio)
(次回に続く)