美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

第3回「交観会BUNSO」を実施しました(3)

2019年05月27日 18時55分25秒 | ブログ主人より


3人目でラストの発表者は、村田一さんです。村田さんからのレポートは、宮本雅史氏と平野秀樹氏の共著『領土消失 規制なき外国人の土地買収』(角川新書)についてでした。

以下、当レポートの要点に触れましょう。

〇「はじめに」から
・本書の冒頭に日本列島の「逆さ地図」が掲げられている。



中国・韓国・ロシアから見ると、日本列島そのものが要塞の役割を果たし、それらの国々が太平洋に進出するときの大きな障害になっている。日本の地政学的な位置は、決して安穏としていられるようなものではない。

*この「逆さ地図」から、チャイナが太平洋に進出する場合、北海道と対馬と沖縄諸島が大きなポイントになることが分かります。北海道と沖縄とがチャイナにとって重要であるのは分かりやすいと思われますが、対馬は、日本海と東シナ海の交点に位置するという意味で戦略上重要なのです。

・著者の宮本氏の知人の在日中国人によれば、中国はひとつの目的を持って、25年前から沖縄を、20年前から北海道を狙ってきた。移民のためにこれからもどんどん北海道の土地を買っていく、という。

・諸外国と違い、日本には外国資本による不動産買収を規制するルールや法律がなく、これまで外国資本による国土買収を受け入れてきた。しかも、買収された農地や森林がその後どう活用されているのかの追跡調査もされていない。国家は、国民・国土・主権があってはじめて成立する。国土が外国資本に買収され続ければ、国家そのものの存在が危うくなる。

*宮本雅史氏の「第一部 止まらない国土の買収」には、時間の関係でほとんど触れられませんでした。取り上げられているのは、奄美大島・加計呂麻島、北海道、対馬の三つです。ルポライター宮本氏の「虫の目」でとらえられた、中国資本や韓国資本によるすさまじいばかりの土地買収の進行ぶりが、生々しい筆致でしかも淡々と描かれています。対馬は、わが故郷であり、この数年間で二度行った場所でもあるので、なにやら身につまされるものがありました。宮本氏の観察は、対馬に限っても的確であると言わざるをえません。北海道に関しては、著者の知り合いの中国ウォッチャーの弁――中国政府が北海道を一帯一路の拠点に位置付けていること、及び、20年前から北海道を狙っていること――がとりわけ目を引きました。

〇平野秀樹氏による「第Ⅱ部 領土保護、戦いの10年史」より
・2008年、民間シンクタンク東京財団内に、外国資本による土地取得の研究会が発足したが盛り上がらず。

・「アジア太平洋地域で、不動産投資に外資規制が皆無なのは日本だけ」(ロンドン大学LSE)
・2010年12月、外資による買収事実が国交省と林野庁によって公表されたが、国会もマスコミも対応は消極的。

*詳細は省きますが、外資による土地買収について、マスコミは、総じて楽観的で消極的であり続けてきました。さらには自治体の、土地買収を規制する条例制定の動きの高まりを牽制する動きさえありました。また、朝日新聞は、フェイクを交えた「水資源目的の買収は一件も確認されていない」との喧伝をしています(2012年12月25日)。それやこれやで昨今、朝日・毎日・読売・日経は、外資による土地買収を扱わなくなっていて、それを取り上げているのは産経のみ、という惨状です。

・外資保有の日本国土は、少なく見積もってもおおよそ総計10万ヘクタール。国公有地を除いた日本国土の0.4%に相当する。韓国の0.4%より高い。その真の所有者を追うことは、買い手がタックスヘイヴンを活用するので困難を極める。

・各国ともに国土がグローバル化(中国化)することに警戒感を強めはじめているのにもかかわらず、日本だけが相も変わらず「どんどん買ってください」とオールフリーぶりを続けている。
・その結果、アジア太平洋の14の国と地域(オーストラリア・中国・香港・インド・インドネシア・日本・マレーシア・ニュージーランド・フィリピン・シンガポール・韓国・台湾・タイ・ベトナム)の中で、不動産投資に外資規制が皆無なのは日本だけという現状に至る(『アジア太平洋不動産投資ガイド2011(ロンドン大学LSE)』)。

・ではなぜ日本は無策を続けるのか。それは以下の二つの箍(たが)が存するからである。

・第一の箍は、WTOのGATS(サービス貿易にかかる一般協定)。1986年から94年のウルグアイラウンド交渉において日本は、グローバル推進の立場から、「日本が外国人土地法に基づいて外資規制をすることは適当ではない」とし、中韓をふくめた160を超える国々・地域を相手に「外国人等による土地取引に関し、国籍を理由とした差別的規制を課すことは認められない」という約束を取り交わしている!

・第二の箍は、日本国憲法第二十九条。
 「財産権は、これを侵してはならない」。当条文は、当事者が外国人、外国法人であっても原則として財産権利が保障される、と解しうる。このことは、大日本帝国憲法第二十七條と比較するとよくわかる。「日本臣民ハ其ノ所有權ヲ侵サルルコトナシ」。

・憲法第9条の戦争放棄は有名だが、武器を持たない戦争すなわち「経済侵略」「国土侵略」に際しても憲法29条は事実上の自衛放棄を諸外国に対して約束してしまっている。

・「日本国土がチャイナ資本によって買収されたとしても、日本の領土であることには変わりないだろう」という意見は根強いものと思われる。以下に、東裕(日大法学部教授)の警鐘を掲げておく。

《国土の一部に外国人の居住区が形成され、その外国人に対して属人主義に基づき、所属国の法律が適用されるような場合、その地域ではその国の主権の作用が阻害(部分的に排除)されることになる。そのような事態が発生したとき、その地域に居住する外国人には本国法たる外国法が日本法に優先して適用されるから、その地域に居住する外国人が所属国の法に従うならば、日本国の法秩序が侵害され、日本国の主権(統治権)が侵害される。領土の一体性・完全性の侵害ともいえる状況が発生する。このような懸念は、中華人民共和国国防動員法(2010年)の制定により現実的な恐れとして存在する。同法は存外中国公民に対しても適用が予定されているからである。その場合、日本に在住する中国人は日本法よりも中国法に従うことになるからである》


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