美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

MMTの変わり種・モスラーの『経済政策をめぐる7つの嘘っぱち』を訳してみました(その20)

2019年09月11日 22時13分54秒 | 経済


*今回は、緊縮財政の虚妄に鋭いメスを入れています。「次世代にツケを残さない」などと言って、削減・切り詰めを断行することは、次世代に希望のない暗い未来をもたらす所業である、とモスラ―は主張しています。

連邦政府の課税と財政支出は、分配にはなはだしく影響を与える。

分配は、生産されたすべての財やサービスを誰が享受するかということにまつわることがらです。実際、これは、政治家たちが法律の制定をするときにいつでも行っていることです。そうして、彼らが“the Seven Deadly Innocent Frauds”を理解しないとき、その立法化が良いものである公算は実質上低くなります。たとえば国会は、毎年、いつも税収と支出の配分に目を配りながら、税金政策について議論します。多くの議員は、“支払う余裕のある”者に課税しようとします。そうして、連邦政府の支出を“必要とする者”に振り向けようとします。そうして彼らは、収入に課税する方法を決めるように、利子やキャピタルゲインや資産に課税する方法を決めます。これらはすべて分配の問題なのです。

*ここは、「政府が私たち国民に課税し、私たちのお金のいく分かを取り除くのは、インフレを防ぎ経済を規制するためである」というモスラ―の税金観をふまえなければ、その真意を見失ってしまう箇所です。「“支払う余裕のある”者に課税し、“必要とする者”にそれを分配するのは良いことではないか」というふうに。

それに加えて、議会は、政府が誰を雇い解雇するかを、また、誰からモノを購入し、誰に支払うのかを決定します。議会は、価格と収入のほかの多くの局面に直に影響を与えるもろもろの法律を作りもします。

USドルを保有する外国人が、特に危ないのです。彼らは、私たちアメリカ人に財やサービスを売ることによってドルを稼いでいます。しかし、彼らに、将来私たちアメリカ人から財やサービスを買うことができるという保証はありません。価格は上がりうるし(インフレのことを言っています)、合衆国政府は、外国人が私たちから買いたいと思っているものすべてに合法的にあらゆる種類の税を課して、彼らの購買力を減らすことができます。

日本が数年前に2000ドルを下回る値段で私たちに売ったすべての車のことを考えてみてください。彼らは、FRBの普通預金口座に売上金を保有しています(彼らは米国財務省証券を保有しているのです)。そうしてもしも彼らがそれらのドルを使いたいと思ったら、彼らは私たちから車を買うためにたぶん一台当たり20000ドル以上の支払いをしなければなりません。彼らは、そのバカ高い値段について何かをすることができるでしょうか。責任者を呼んで文句を言うとか?彼らは、FRBの帳簿の預金残高と引き換えに私たちに数百万台もの高品質の車を販売しているのです。その預金残高で、彼らは、私たちが彼らに買うことを許すものだけを買うことができるだけなのです。そうして最近何が起こったのかごらんください。FRBは、利子を切り下げ、財務省証券で日本が稼げる利子を減らしました(この議論は、次の章で続きが展開されます)。

これは通常完全に合法的なことがらです。つまり、毎年の産出物は、人びとの間で“分配され”るのです。現に存在する産出物は、政府の借金がいかに際立って多かろうとも、“投げ捨てられる”ことはあり得ません。また、政府の際立った借金が生産や雇用を減らすこともありません。ただし、無知な政策立案者が、生産や雇用を減らす反赤字の緊縮財政を採用した場合は、そのかぎりではありません。不幸なことに、近年ではそういう場合が多いのです。緊縮財政が、ひどい無知による欺瞞であるゆえんです。

今日(2010年4月15日)、米国議会が、増税によって必要以上に私たちの購買力を奪いつつあるのは明らかです。私たちが欲求するものすべてに出費し、政府が膨大な財政支出のすべてを実施した後でさえ、「経済」と呼ばれるあの大きなデパートには売れ残ったものがまだたくさん残っているのです。

どうやって、そのことが分かるのかって?簡単なことさ!失業保険給付金を受け取る失業者の列に並ぶ人たちの人数を数えてごらん。経済のなかの膨大な量の過剰生産能力をごらん。FRBが“需給ギャップ”と呼ぶものをごらん。それは、私たちが完全雇用のもとで産出することができる生産高と現実の生産高との違いです。それは、莫大な額に上ります。

もちろん、記録的な財政赤字と国債があります。それらは、FRBの普通預金口座に私たちみんなが持っていて、財務省証券と呼ばれています。ちなみに、経済の規模に合わせて調整された、合衆国の累積赤字は、日本よりはるかに低いし、ヨーロッパのたいていの国々よりはるかに低いし、第二次世界大戦時の赤字よりもはるかに低いのです。第二次世界大戦時の赤字によって、わがアメリカは不況から脱却しました。むろん「後世へのツケ」など残していませんよ。

ここまで読み進めた方なら、財政赤字の大きさが財政問題ではない理由をもはや知っているかもしれません。だから、あなたが、税金の役割は経済を規制することであって収入を増やすことではないことを知っていると私は思いたいのです。アメリカ議会は相変わらず逆に考えていますけれど。今日の経済を見渡すと、それは私に「問題は、人びとが使うべきお金を十分に持っていないことだ」と叫んでいます。過剰な購買力を持っているとか出費しすぎであるとか言っていません。でしょう?

失業率は倍になりました。そうしてGDPは、アメリカ議会が不必要な増税をして私たちから購買力をムダに奪ったりしなければ達成できたであろう水準より10%以上も下回っています。

私たちが自分たちの潜在能力以下で、すなわち完全雇用以下で生産活動をするとき、私たちは子どもたちから、私たちが彼らのために生産しうる財やサービスを奪うことになります。同様に、私たちがより高度な教育のサポートを削減するとき、私たちは、子どもたちから未来の彼らが必要とする知識の最善のものを奪っていることになるのです。さらには、私たちが基礎的な研究と宇宙開発を削減するとき、私たちは子どもたちから、そういった仕事のすべての果実を奪っていることになるのです。削減し、切り詰めることによって、私たちは、未来の彼らに、失業保険給付金を受け取る失業者の列に加わるよう促すことになっているのです。

今年の産出物を消費したり、それらのうちのいくらかを、将来の産出を増やす投資に使ったり、人によっていろいろです。アメリカ議会は、誰が今年の産出物を消費するかということに関して大きな発言権を持っています。累積赤字がもたらす潜在的な分配の諸問題は、議会が進んで取り組みうることです。分配は、合法的に人々の満足に変えられうるのです。

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