美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

「日刊ゲンダイ」VS「夕刊フジ」 民主党消費増税一任騒動の巻 (2012・3・29分転載)

2013年11月08日 06時39分56秒 | 経済
仕事帰りのサラリーマンが電車の中で読む新聞といえば、ふつう「日刊ゲンダイ」と「夕刊フジ」の二紙を思い浮かべるでしょう。ややサヨクがかった反骨派のオジサンが主に「日刊ゲンダイ」を手に取り、保守系の体制順応派のオジサンが主に「夕刊フジ」を読む、というのが読み手の平均的なイメージなのではありませんか。

いずれにしても、オジサンが購読者層のメインである点は共通しています。そういえば、茶髪のお兄ちゃんがこの二紙を持っている姿を私は一度も見かけたことがありません。

どちらも、政治ネタ、経済ネタ、芸能ネタ、スポーツネタ(ゴルフ記事が詳しい)、お色気ネタ、さらにはもっと直截なフーゾクネタと盛りだくさんで、平均的なオジサンが好みそうなコンテンツが一通りそろっています。電車のなかで邪魔にならないように、サイズがタブロイド版なのも共通しています。

また、朝日などの大新聞が優等生的なのに対して、この二紙はときにはマジメなこともいうけれど、ちょっと不良がかったところがあります。やぶにらみ風でもあります。さらに、仕事疲れを抱えたオジサンたちが小うるさく思わないように、もったいぶったどちらとも取れるような書き方はなるべく避けて、ストレートな書きっぷりをしているところも共通しています。

これだけの共通点があるからには、この二紙がライバル関係にあるのはいうまでもありません。この二紙で、仕事に疲れ果てたオジサンのハートの掴み合戦を毎日毎日繰り広げているわけです。関西は、どうなんでしょうね。違うオジサン新聞があるのでしょうか。

今日(三月二八日)私は、この二紙を駅で買ってきました。民主党内の増税法案の事前審査会議が突然打ち切られたことの扱い方が、実に対照的であったから興味を持ったのです。二紙ともに、一面全部を使ってそれを取り上げています。

では、早速比較対照してみましょう。

まずは、見出しから。(「日刊ゲンダイ」は〈日〉、「夕刊フジ」は〈夕〉と略して表記します。)

〈日〉
「大増税 強引幕引き 民主党は完全に終わった 未明に 『議論打ち切り』『増税強行』 大混乱 慎重派の猛反発に 前原(政調会長)トンズラ 輿石(幹事長)形だけ調整」

〈夕〉
「午前2時の大乱闘 敗北 小沢系孤立死も 造反含めたゲリラ戦展開へ 集団辞任?世論喚起?」

「日刊ゲンダイ」が、増税慎重派の側に立って、党本部の乱暴な対応への怒りを隠さずに、断固として糾弾しているのに対して、「夕刊フジ」は、党本部の増税路線を支持する立場から、増税慎重派=小沢グループというイメージに乗っかって、その孤立ぶりを際立たせようとしています。増税路線派のマスコミが、反対派をダーティなイメージの小沢一郎でシンボライズしてでき得る限り貶めようとしたり、彼らがことさらに孤立しているかのように言い募ったりしたがることは、前回までに指摘しました。

ただ、「日刊ゲンダイ」は、小沢一郎ヨイショ記事を書くことを社是にしているようなので、もし小沢氏がなにかのめぐり合わせで増税容認の立場だったとしたら、それでも増税反対の論陣を張っていたのかどうかは保証の限りではありません。

次に、リード(要約)を比較してみましょう。

〈日〉
「これで本当に民主党は終わりだ。8日間にわたった増税法案の事前審査会議。幕切れは唐突に訪れた。昨日(27日)は過去最高の200人超の議員が参加し、日付が変わっても議論は続いた。しかし議会は休憩をはさんで約6時間に及ぶ議論がヒートアップしていた午前2時過ぎ、前原政調会長が突然、「一任いただく」と言って議論を打ち切ったのだ。」

〈夕〉

「民主党は28日未明、社会保障と税の一体改革に関する「合同会議」で、怒号と拍手が飛び交うなか、消費税増税法案の修正を前原誠司政調会長に一任した。小沢一郎元代表が扇動する反対派は議論打ち切りに体を張って抵抗、約80人が朝方まで抗議を続けた。今後、法案採決時の造反を含めた野田佳彦首相へのゲリラ戦を準備しているが、国民世論は小沢氏ら反対派にも厳しく、″政治的孤立″に追い込まれる可能性も出てきた。」


ニュアンスの大きな違いは、「前原一任」の扱いをめぐってです。「日刊ゲンダイ」が、会議の流れを無視して強引に突然「一任いただく」と発言して、そのまま姿を消そうとした前原の卑怯な印象を読み手に抱かせるのに対して、「夕刊フジ」では、「怒号」への言及はあるものの、単に民主党が前原に一任したと客観的に述べられているだけなのですね。

思わず、芥川龍之介の『藪の中』を連想してしまうのではありますが、「約80人が朝方まで抗議を続けた」(夕フ)とある以上、「日刊ゲンダイ」の伝え方の方に軍配が上がるのではないでしょうか。その抗議には激しい怒りが感じられますね。それは、相手が不当で卑怯なことをした、という強い思いがあるときの振る舞いではないかと思われます。

また、「夕刊フジ」に「国民世論は小沢氏ら反対派にも厳しく、″政治的孤立″に追い込まれる可能性も出てきた」とありますけれど、国民の6割が今国会での法案の成立に反対しているのが現実である以上、孤立しているのは、むしろ野田内閣の方であって、それに触れずに、増税反対派の孤立をことさらにあげつらうのは著しくバランスを失した態度であります。現状では、増税反対派の方こそが民意を担っていることをきちんと指摘するのが筋でしょう。

民意といえば、「景気好転を条件とする」附則18条をめぐって、国民の7割以上は、具体的数字を入れるのが望ましいと思っているわけですから、名目GDP3%(実質2%)を条件として明示しなかった政府の態度は著しく民意に背くものであることを、マスコミはきちんと報道すべきですね。それをしないのは、不誠実です。政府に加担しすぎです。

それにしても、前原議員は、鼻っ柱は強いけれど、錯綜する物事をまとめ切る度量があまりにもなさすぎる。以前からなんとなくそう思っていましたが、今回の振る舞いでその印象が強まりました。もしかしたら、政治家にあまり向いていない人なのかもしれません。

それぞれの本文で前原氏の「一任」発言直後の「乱闘騒ぎ」についての言及がある。

〈日〉
「武闘派議員がつかみ合い 党職員はマスコミ排除」

〈夕〉
「会場から出ようとした前原氏に、小沢氏側近の武闘派議員からつかみかかり、もみ合いになる場面もあった。」

「日刊ゲンダイ」だと、喧嘩両成敗的な受けとめ方になるが、「夕刊フジ」を読んだ後には、小沢派の粗暴な印象が残ることになります。どちらが正しいか、にではなく、こうやって各社は自分たちの論陣に有利になるように印象操作をしていることに着目したいですね。

それぞれに気になる一節があるので、一つずつ取り上げておきます。まずは、「夕刊フジ」から。

馬淵澄夫元国交相らデフレ脱却を重視する中間派は「いいじゃないか」と修正案を評価した・・・

これは明らかにおかしい。馬淵議員は、デフレ脱却を最優先するからこそ、附則18条に名目GDP3%という具体的な数値を「景気好転」の条件として明示することを強力に主張してきたのですね。だから数値は書き込むがそれを増税の条件とすることはかたくなに拒む党本部側の姿勢を「いいじゃないか」と評価するはずがないのです。事実、馬淵議員は乱闘騒ぎの一時間ほど後に「最悪の終わり方をしてしまった。残念。」とツイートしています。一応の満足を得た人の言葉とはとても思えません。明らかな誤報、あるいは虚報であると思われます。小沢グループ=孤立した困り者、というイメージの演出にこだわるあまりの勇み足なのではないでしょうか。

次に「日刊ゲンダイ」から。政治評論家の本澤二郎という人のコメントを引用する形で、財務官僚の増税路線の本当の狙いに触れています。

いま日本は、総力を挙げて震災復興に取り組まなければならないのに、なぜ増税なのか。消費税増税を許したら、悪徳官僚のやりたい放題を許し、税金を食い物にされるだけだ。「霞が関の役人たちが野田首相を背後から操って増税させようとしているのは、自分たちの利権を維持するためです。役人は税金が増えれば増えるほど、オイシイ思いができる。ハコモノ天国、天下り天国も拡大できる。逆に税収が減るとオイシイ思いができない。ヘタしたら利権を失ってしまう。彼らが消費税アップを強行しようとしているのは、自由に使える税金を増やしたいからです。最後は消費税を20%にするつもりでしょう。消費税を20%にすれば、景気が悪くても安定的に約50兆円の税金が入ってきますからね」(本澤二郎氏)

もし、本澤氏の言うことが本当ならば、財務官僚はずいぶん頭が悪いことになります。なぜなら、デフレ不況のときに増税すれば、経済状況がさらに悪化して結局税収はかえって減るのですから。本澤氏は、名目GDP500兆円くらいを前提にその10%と計算して「約50兆円」と言っているのでしょうが、増税によって、GDP500兆円そのものが減少していくのですから、「約50兆円」の税収もまた減少していく計算になります。いくらなんでも、財務官僚がそんなことも知らずに嬉々として増税を仕組んでいる阿呆とは思えません。腐っても鯛ですからね。ほかに意図があると考えるのが妥当であると私は考えます。

その点、元財務官僚の高橋洋一氏が次のように言っているのは、説得力があるように思われます。

増税は税率を上げることだけれど、税収増にならないのは歴史を見れば明らか。それではなにが動機かといえば利権ですよ。増税すれば、財務財の権限が増えますから。増税すると軽減税率の陳情が来る。官僚は個別に例外措置に対応するので、そこで利権が生まれるわけです。それが天下り先確保にもつながりますからね。それこそが財務省の狙いなのですよ。(日経ビジネスオンライン 3月21日)

これだけでも、財務官僚のあまりの亡国ぶりにむかっ腹が立ってくるのですが、事はそれだけで収まりません。財務省の「利権」に、表向きは「言論の自由」を標榜する大手マスコミが薄汚い銀蠅のように群がっているのです。これはこれで、とても大きなテーマなので、次回にきちんと取り上げようと思います。

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