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今回も、「グローバルマクロ・リサーチ・インスティチュート」からの全面引用です。
当論考がアップされた日付に着目していただきたい。2月25日です。いわゆる「ロシアのウクライナ侵攻」開始の翌日です。
反応の速さと内容の的確さが際立っています。つまり、当論者は当論考を書く前から、ロシアのウクライナ侵攻の歴史的かつ状況的な流れをきちんと追っていたのでしょう。
ウクライナ戦争の歴史的な流れを押さえるためには、最低限2014年のウクライナ騒乱以来のアメリカを筆頭とする西側諸国のロシアに対する政治的・経済的・軍事的攻勢に触れなければなりません。当論考は、それにきちんと触れています。
また、当戦争の状況な流れを押さえるためには、2月10日のバイデンの「米軍をウクライナ国内に派兵することはない」という発言の決定的な重要性に着目する必要があります。と同時にバイデンが、息子のハンターを通じて築きあげたウクライナ利権にも。さらには、バイデンがウクライナを利用する狙いにも。当論考は、それらに十分に目配りをしています。
また、魑魅魍魎の巣食うウクライナ圏域の諸問題に、基本的にお人好しな日本人や日本政府が、イノセントに関わろうとする愚についてもシニックに触れています。また、「ウクライナと違って、日本が中共に侵攻された場合アメリカは日本を助けてくれるにちがいない」という甘い幻想を日本人は持つべきではない、とも言っています。民主党バイデン政権についてなら、そのアドバイスは正鵠を射たものであると、私は考えます。
なお、「お前は結局プーチン寄りの情報しかアップしていないではないか」という、当ブログの対ウクライナ戦争にまつわる基本姿勢への批判に対して一言。
テレビのスイッチをオンにすれば反プーチン報道が洪水のように刻々と押し寄せる目下の状況において、(アメリカ寄りの情報に洗脳されている人の目に)プーチン寄りと映る情報を対置することが、冷静な判断をするのに必要、と私は考えています。
贅言はこれくらいにしておきましょう。
よろしかったらごらんください。
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ロシアのウクライナ侵攻でバイデン大統領が犯した一番の間違い
WWW.GLOBALMACRORESEARCH.ORG/JP/ARCHIVES/20314
2022年2月25日 GLOBALMACRORESEARCH
前日、ロシアのウクライナ侵攻が行われた。大手メディアでは最近の出来事しか報じられていないが、ロシアとウクライナ(そしてアメリカ)のこれまでの因縁をここで一度復習するとともに、この件でバイデン大統領が犯した決定的な間違いについて論じたい。
2014年ウクライナ騒乱
一連の問題の始まりは2014年のウクライナ騒乱である。2013年11月21日に首都キエフの欧州広場で始まった親EU派のデモが次第に暴徒化し、最終的には親ロシア派だったヤヌコビッチ大統領を追放したことからすべてが始まる。
ロシアはこれを「違法なクーデター」と呼んだが、アメリカとEUは「ヤヌコビッチ大統領は暴徒化したデモとの交渉に応じるべき」として、「そうしない場合はウクライナ政府関係者に制裁を課す」として脅している。
奇妙なことだが、西洋人は暴力的なデモに甘い。それが自国の利益になる場合にはなおさらで、そうした歪んだ政治観が、例えばシリアの反政府武装勢力を「穏健な民主派」と呼ぶ精神を生んでいるのだろう。
一方で2020年のアメリカ大統領選挙に抗議したデモ隊がアメリカ議会を占領した時にはそれを非難するのだから、彼らの善悪の基準はよく分からない。他国での暴力は良いが、自国では嫌だということだろうか。
*アメリカ大統領選挙におけるBLMの暴力に対するバイデン民主党政権の「寛容さ」を思い出します。(編集者 注記)
ともかく、欧米諸国はこうしてウクライナに新たに成立したポロシェンコ大統領率いる親EU派の新政権とともにウクライナを西洋化してゆく。
一方でロシアはこの騒乱に紛れてクリミア半島を併合し、ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国としてウクライナからの独立を宣言したウクライナ東部を支援することで、ロシアと国境を接し、しかも首都モスクワにかなり近いウクライナが完全に反露勢力となってしまうことを防いだ。ここまでが第1ラウンドである。
ウクライナのEU・NATO化
その後親EU派のポロシェンコ大統領率いるウクライナはEUとNATOに傾斜してゆく。
最終的には2019年にEUとNATOへの加入努力をウクライナ憲法にまで明記しており、モスクワにミサイルを打ちやすい位置にあるウクライナがロシアをいまだに仮想敵国とするNATOに急速に近づいてゆくのを見て、プーチン氏は危機感を感じていただろう。
*ワシントンから発射されたミサイルがモスクワに届くには30分かかるのに対して、ウクライナからなら3分で届く、とは、プーチン自身の発言です。ウクライナにアメリカのミサイルが配備されたら、ロシアはアメリカの言いなりになるほかはないのです。(編集者 注記)
日本やアメリカのメディアを見ているとロシアがいきなりウクライナを攻めたように見えるが、そういう背景があるのである。今回のウクライナの一件については中国の王毅外相の以下のコメントが一番理性的であるように思う。
各国の主権、独立及び領土的一体性は尊重され、維持されてしかるべきであり、ウクライナも例外ではない。
だがウクライナ問題は複雑な歴史的経緯があり、ロシアの安全保障上の合理的な懸念を理解する。
大手メディアにやられた日本人の大半は、中国人の政治的発言を理性的だと思える理性を持たないだろうが。
関係の深いウクライナとバイデン氏
さて話をポロシェンコ大統領率いる新政権が元々の親ロシア政権に取って代わったところに話を戻すが、そのポロシェンコ氏をよいように使っていたのが当時オバマ大統領の副大統領だったバイデン氏である。
大半の人が思っているよりもバイデン氏とウクライナの因縁は深い。例えば2016年に解任されたウクライナの元検事総長ビクトル・ショーキン氏は、自分の解雇はバイデン氏の介入によるものだと主張し次のように述べている。
わたしの解任はポロシェンコ大統領の要求に従い辞表を提出した形で行われた。ポロシェンコがわたしに辞任を頼んだのは、アメリカ政府の特にジョー・バイデンによる圧力のためだった。
当時バイデンは副大統領で、わたしを解任するまでウクライナへの10億ドルの補助金は渡さないと脅していた。
わたしが解任された本当の理由は、わたしがジョー・バイデンの息子であるハンター・バイデンが取締役を勤めていた天然ガス企業であるブリスマ社に対する広範囲な汚職捜査を行なっていたからだ。
ちなみにこのバイデン氏の息子問題はトランプ氏が大統領時代にウクライナに対して中止された捜査を再開するよう圧力をかけ、その後アメリカ民主党に自分の政治的利益のためにウクライナに圧力をかけたと批判されている。民主党は「バイデン氏のやったことは良い」とするのだろうか?
バイデン政権とウクライナ
さて、バイデン氏はその後大統領となり、アフガニスタンから米軍を引き上げる際に民間人と米軍の武器より先に米軍を引き上げてしまい、すべてタリバンに奪われるという失態で支持率を大きく急落させた。
バイデン氏はもうご老体なのだから、民間人と武器を忘れてくることぐらいアメリカ国民は想定しておかなければならなかったに違いない。ジェフリー・ガンドラック氏はこの件を「あなたの税金がタリバンの武器に生きている」と皮肉っている。
• ガンドラック氏: あなたの税金がタリバンの兵器に
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/15043
こうして支持率を減らし、窮地に陥ったバイデン氏が思い浮かべたのが、何処までもアメリカに翻弄された哀れなウクライナだったに違いない。
バイデン氏は恐らくウクライナ問題を大きく喧伝した後に自分が華麗に解決することで支持率を回復させる算段だったのだろう。
「明日にもロシアが来る」「プーチン大統領はもう決心した」とどうやって行なったのか分からない読心術(誰も突っ込まなかった)を用いてロシアの脅威を煽るバイデン氏に対し、ウクライナのゼレンスキー大統領自身が煽るのを止めてくれと遠回しにお願いしている。
一方でプーチン大統領は軍を展開しながら何処までやれるのか見極めていただろう。バイデン氏はプーチン氏の心を読んでいたが、交渉は通常相手の出方を見ながらやるものである。
ロシアとしては当然ながらアメリカと戦争をやる気はない。韓国と同じ経済規模のロシアがアメリカに勝てるはずがない。
だからプーチン氏はアメリカの出方を伺っていたはずだ。そこでバイデン氏が口を開いて次のように言った。
米軍をウクライナ国内に派兵することはない。
間違いなくプーチン氏は「え? いいの?」と思ったはずである。筆者も心底びっくりした。それはウクライナに侵攻してもアメリカは攻めてこないというアメリカ大統領からの意思表示である。
バイデン氏はその少し前にプーチン氏の心を読んでいたが、プーチン氏が本当に決心したのはこのタイミングだと筆者は確信している。
結論
仮にウクライナ派兵がアメリカにとって間違った決断だとしても、派兵をしないなどとは絶対に言ってはいけない。交渉とはそういうものである。
バイデン氏に何かを期待するのが無理というものなのだが、プーチン氏にとってはあまりに簡単なゲームだっただろう。
一方でウクライナは欧米の圧力によって親EU・親NATOにされた挙げ句、実際に戦争になったらウクライナに加勢をする国は1つも無かった。ウクライナは最後まで遊ばれたということである。上記のガンドラック氏は現在の状況についてこうツイートしている。
ジョー・バイデンはアメリカの納税者に対し、そもそもウクライナでどうなればアメリカの成功になるのか直ちに説明する必要がある。
あるいはその前に何故アメリカの納税者がウクライナの国境を守るために金を払わなければならないのか説得力ある説明をしなければならない。
ここから日本が得られる教訓が1つある。
日本が戦争になったらアメリカが助けに来てくれると思っている日本人に言っておくが、少なくない数のアメリカ人は日本が何処にあるかさえ知らず、世界地図を見せられたらインドを指差す人も少なくないだろう。アメリカに行ったことさえない大半の日本人には信じられないかもしれないが、本当の話である。
大体日本はアメリカに攻められたのであり、何故戦時中に自分が侵攻した中国から、自分を攻めてきたアメリカに守ってもらうという意味不明な発想になるのだろう? 何が起こってもアメリカ人は日本に来ないか、あるいは滅びゆく日本を偲んでインド旅行ぐらいはしてくれるかもしれない。