本書は、高校生が読んで「本当の近現代史」の入り口のところまで行けるように、との目論見で書かれた本です。そのフォームは、歴史家・渡辺惣樹さんと世界史の予備校講師・茂木誠さんの掛け合いです。
では、「本当の近現代史」とはなんでしょうか。それは、世界が国際金融資本の「マネーの動き」によって決定的な影響を受け続けてきたことが明らかになる近現代史です。その「世界」には当然日本も含まれます。
私自身、そういう意味の「本当の近現代史」をとても大切なものであると考えています。なぜなら、「本当の近現代史」への理解を深めるほどに、国際金融資本勢力が世界を動かそうとする方向への感度が鋭敏になり、それを相対化し、世界認識の度合いを深め、叡智の領域へ自分なりに少しでも歩みを進めることができるようになるからです。
いま述べたことは、実のところ教育にとっても極めて重要です。教育が、子どもたちを愚民化するお手伝いをするなんて、馬鹿げたことであり、とんでもないことでもある。そうではなくて、教育はできうるならば子どもたちに叡智への道を指し示す役割を果たすべきである。そうではないですか?
さて、話を本書に戻しましょう。「はじめに」にとても印象的なくだりがあります。茂木さんの言葉です。
「産業革命以後の近現代史は、国家を超えた大きな力、つまり『マネーの動き』が決定的な役割を果たします。これは私も最近気づいたことで、それが明白になったのが2016年と2020年のアメリカ大統領選挙でした。
過去100年ほどのアメリカでは、世界の金融センターであるウォール街と合衆国政府がほとんど一体化していました。政府の意思はウォール街の意思を反映したものであり、両者を区別するのは困難でした。
それが2016年のトランプ政権の登場により、ウォール街と合衆国政府が敵対するようになりました。そしてウォール街を敵にした結果、トランプ氏は再選をあっけた2020年の大統領選で、奇妙な敗退をすることになったのです。
ウォール街(あるいはグローバリスト)と国家権力との関係が明らかになった今、従来どおりの国家間の関係だけを追いかける世界史では意味がありません。」
世界史の専門家が、2016年のトランプ大統領誕生と2020年の大統領不正選挙によるトランプ退場に刺激を受けて、世界史の抜本的書き直し、語り直しが必要であるという認識を得るに至ったと率直に述べているのです。私は、そのことに深く心を動かされました。
その認識の経緯が、及ばずながら、当方のいまの思いとかなり重なるところがあるからです。
若者たちを相手に教鞭をとる人々が、茂木さんに続く形でひとりまたひとりと、本気で「本当の近現代史」を教えるようになったならば、時代は大きく変わる可能性があります。その可能性を私は信じたい。
また本格的な歴史研究家が、渡辺さんに続く形でひとりまたひとりと、本気になって青少年と向き合い、彼らに「本当の近現代史」を語ろうとするならば、同じく、時代は大きく変わる可能性があります。
その可能性を私は信じたい。だから、絶望などしている暇はありません。
中身の詳細には触れませんが、もしも私の言葉があなたの心に触れたならば、ぜひ本書を紐解いてくださいね。読み終えたら、それぞれの立場で本書の中身や著者たちの思いを活用しましょう。そうして、お互い「本当の近現代史」を広める一翼を担いましょう。