脳科学者の中野信子さんの著書に「ヒトはいじめをやめられない」がある。
ヒトは進化の過程で、共同体を維持して外敵と戦うために、共同体にとって邪魔になりそうな人物を排除しようとする機能が脳に備え付けられた、とする。
次の指摘も鋭い。
とくに子供時代は、「誰かをいじめると楽しい」という脳内麻薬に対して、子供の脳は「共感」というブレーキが働かないため、これを止めるには「自分が相手を攻撃すると自分が損をする」というシステムが必要です。
2022年度学校でのイジメ件数は61万件と過去最高になった。
小学校ではこの5年で4倍になったという。
なんとも異常な状況である。
今回はいじめられる側の対抗手段を考えてみたい。
講道館柔道を創設した嘉納治五郎は、14歳になったとき育英義塾に入学し抜群の学業成績ではあったが、体が弱く体力に勝る少年たちのいじめの対象になった。
そこで嘉納はどうしたか?
丸屋武士著「嘉納治五郎と安部磯雄」によると、
私はかって体も弱く、非常な癇癪もちですぐにカッとなる性質であったが、柔術をやりはじめて、からだが丈夫になるにつれ精神も落ち着いてきて自制力がいちじるしく強くなったことに気付いた。
と同時に柔術の勝負の理屈が社会の他のことがらについても応用できるものであること、また勝負の練習に付随する知的練習はなにごとにも応用しうる一種の貴重な練習であることを感ずるようになった。
ここに見られる精神は「剛毅闊達」、他者が自分より強いことを認め、それに対抗する手段を考え実行するところにある。
日本社会が内向きのひ弱な精神構造に陥っていないか、大いに反省すべきではなかろうか。