大好評小噺シリーズ(大嘘)。
寓話です。
◇
ある所に先生(はま先生、偽名)と3人の児童がおりました。
はま先生は小学2年の児童3人に課題を出しました。
"宿題。風景画を描きましょう。どこの風景を描くかは皆さんに委ねます。
実在しない風景を書いても構いませんよ。"
そう言って、彼らの体と殆ど同じくらいのおーきな画用紙を配りました。
大きな画用紙を持ってとてとてと歩く彼らが、とても可愛いので
先生は図画の時間をささやかなたのしみにしていました。
普段はちょっと元気すぎるからねー。
ユウイチ君は、近くの川の風景でも描くか、と思いました。
メグミさんは、
自分が生まれ損なった中世ヨーロッパでお姫様になることを思いました。
コウタ君は、自分の頭で思いついたような風景を描こうと思いました。
■1 ユウイチ
ユウイチ君は、近所の自販機でコーラ缶を買って飲みながら
近所の川辺まで歩いて絵具を取り出しました。
"よし、いいかな(げっぷ)。"
正直あまり絵が得意でないユウイチくん。
空と川に使うスペースを増やし、極力草や橋を描かなくていい場所を選びました。
だって、面倒だし。
遠くに見える山の稜線を描いただけで、すっかりその気。
■2 メグミ
メグミさんは、帰宅するなりおもむろに母の本棚から
"ナントカ(よくわからないけど、多分地名)のばら"
という漫画を取り出しました。
メグミさんの母はそれに出てくる
"ダンソウのレイジン(母がそう発音する)"が好きらしいという話を
以前伯母さんから聞きましたが、
メグミさんはそれに出てくるお姫さまが大好きでした。
(お母さんは、恥ずかしいのか知りませんが、
その事実をメグミさんにはかくしているのです。)
金髪になって、髪をぐりんぐりんと巻いて、
重いくらいに繰り返し彼女を包む麗しきドレス。
くるくるまわって、あとからけだるくついてくるスカートのなびき。
とあるひとコマを丹念に書いているうちに、それは風景画でなく
漫画の模写になってしまいました。
ちょっと寂しくなったのでダンソウのレイジンを描くことにしました。
だれのことなのかがわからないので…自分の名前(署名)の代わりにそう描くことにしました。
"漢字、わかんない… ぱぱのパソコン借りよ。"
早速PCをつけて変換、さすがパソコンは頭がいいね。
たちどころにみたことのない漢字が出てくる。
そして彼女は絵の右下に"断層の霊神"と大きく描いて、
絵を描く前に自分で作った、
もはや冷め切った紅茶を美味しそうに飲み干しました。
"へへへ、おかあさん、隠そうったって、むだだよ。
こんなにおっきく描いちゃったもんね。"
メグミさんはそう思ったのだといいます。
■3 コウタ
彼は机に向かいました。
キノコ、オーディオプレーヤ、はさみ、絵画、パイプ椅子、クレジットカード、
白菜、眼鏡、積まれたレシート、バレエシューズ…
いろいろなことを考えました。
家からはシメジのような茎に、傘があるべき部分には
怪しく光るスニーカーを描き、家の外壁はカメレオンのような
硬質感のあるごつごつして実にカラフルな壁を描きました。
そしてそれらを運ぶように、大きな綿毛を描きました。
絵の特徴は以上に描いた通りですが、
もう一つは構図が画用紙の中心に集まっていて
四隅はかなりの部分が白いまま残っていたことが特徴でした。
◇
次の日はま先生は彼らの絵を見て大いに面食らったわけで、
なんとコメントしたかは憶えていないようです。
ただ、コウタくんが"近いんだよ、近いんだよ"と盛んに口走っていたのと
上の空で
"メグミちゃん、"霊"の字は雨かんむりだよ。
パソコンで調べたのは偉いけど、
文字が潰れることがあるから漢字を調べるときは注意してね。"
とコメントしたことだけは…憶えているのだということです。
<終>
寓話です。
◇
ある所に先生(はま先生、偽名)と3人の児童がおりました。
はま先生は小学2年の児童3人に課題を出しました。
"宿題。風景画を描きましょう。どこの風景を描くかは皆さんに委ねます。
実在しない風景を書いても構いませんよ。"
そう言って、彼らの体と殆ど同じくらいのおーきな画用紙を配りました。
大きな画用紙を持ってとてとてと歩く彼らが、とても可愛いので
先生は図画の時間をささやかなたのしみにしていました。
普段はちょっと元気すぎるからねー。
ユウイチ君は、近くの川の風景でも描くか、と思いました。
メグミさんは、
自分が生まれ損なった中世ヨーロッパでお姫様になることを思いました。
コウタ君は、自分の頭で思いついたような風景を描こうと思いました。
■1 ユウイチ
ユウイチ君は、近所の自販機でコーラ缶を買って飲みながら
近所の川辺まで歩いて絵具を取り出しました。
"よし、いいかな(げっぷ)。"
正直あまり絵が得意でないユウイチくん。
空と川に使うスペースを増やし、極力草や橋を描かなくていい場所を選びました。
だって、面倒だし。
遠くに見える山の稜線を描いただけで、すっかりその気。
■2 メグミ
メグミさんは、帰宅するなりおもむろに母の本棚から
"ナントカ(よくわからないけど、多分地名)のばら"
という漫画を取り出しました。
メグミさんの母はそれに出てくる
"ダンソウのレイジン(母がそう発音する)"が好きらしいという話を
以前伯母さんから聞きましたが、
メグミさんはそれに出てくるお姫さまが大好きでした。
(お母さんは、恥ずかしいのか知りませんが、
その事実をメグミさんにはかくしているのです。)
金髪になって、髪をぐりんぐりんと巻いて、
重いくらいに繰り返し彼女を包む麗しきドレス。
くるくるまわって、あとからけだるくついてくるスカートのなびき。
とあるひとコマを丹念に書いているうちに、それは風景画でなく
漫画の模写になってしまいました。
ちょっと寂しくなったのでダンソウのレイジンを描くことにしました。
だれのことなのかがわからないので…自分の名前(署名)の代わりにそう描くことにしました。
"漢字、わかんない… ぱぱのパソコン借りよ。"
早速PCをつけて変換、さすがパソコンは頭がいいね。
たちどころにみたことのない漢字が出てくる。
そして彼女は絵の右下に"断層の霊神"と大きく描いて、
絵を描く前に自分で作った、
もはや冷め切った紅茶を美味しそうに飲み干しました。
"へへへ、おかあさん、隠そうったって、むだだよ。
こんなにおっきく描いちゃったもんね。"
メグミさんはそう思ったのだといいます。
■3 コウタ
彼は机に向かいました。
キノコ、オーディオプレーヤ、はさみ、絵画、パイプ椅子、クレジットカード、
白菜、眼鏡、積まれたレシート、バレエシューズ…
いろいろなことを考えました。
家からはシメジのような茎に、傘があるべき部分には
怪しく光るスニーカーを描き、家の外壁はカメレオンのような
硬質感のあるごつごつして実にカラフルな壁を描きました。
そしてそれらを運ぶように、大きな綿毛を描きました。
絵の特徴は以上に描いた通りですが、
もう一つは構図が画用紙の中心に集まっていて
四隅はかなりの部分が白いまま残っていたことが特徴でした。
◇
次の日はま先生は彼らの絵を見て大いに面食らったわけで、
なんとコメントしたかは憶えていないようです。
ただ、コウタくんが"近いんだよ、近いんだよ"と盛んに口走っていたのと
上の空で
"メグミちゃん、"霊"の字は雨かんむりだよ。
パソコンで調べたのは偉いけど、
文字が潰れることがあるから漢字を調べるときは注意してね。"
とコメントしたことだけは…憶えているのだということです。
<終>