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阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【書評】吉村昭の随筆集『ひとり旅』/難波先生より

2014-07-22 12:21:09 | 難波紘二先生
【書評】エフロブ「買いたい新書」の書評に吉村昭の随筆集『ひとり旅』を取り上げました。
 http://www.frob.co.jp/kaitaishinsho/book_review.php?id=1405045227
 2006年7月、膵臓がんで亡くなったこの作家にはおびただしい単行本以外に、膨大な対談、随筆があり、死後もなお刊行され続けている。司馬遼太郎は小説として歴史を書いたが、吉村はノンフィクションとして小説を書いた。恐らく戦後に登場した最大のNF作家だろう。二十歳の年に結核のため左肺肋骨を5本切除するという大手術を受けながら、よくもあれだけの著作をものしたものだ。
 肺結核の治療は錯誤の連続で、堀辰雄の時代(昭和初期)は高原の療養所(サナトリウム)への転地療法が流行った。その後は「人工気胸」といって、胸に空気を注入して悪い方の肺をしぼませる療法が流行った。これだと何度もくり返さなくてはならないので、肋骨を切除して胸郭を陥凹させる手術が登場した。1927年生まれの吉村が「胸郭形成手術」を受けたのは1947年のことで、まだストマイが簡単に手に入らなかった。より簡便な方法として、肋骨を切除せず、プラスチックのピンポン球を胸腔に詰めこむ手術もあった。(これは後に高率に「悪性中皮腫」というがんを合併することがわかった。)
 ストマイ/パス/ヒドラジッドの三者併用療法により内科的に結核が治せるようになったのは1960年代のことで、それでも結核病巣の中心にある「乾酪化壊死巣」中にいる結核菌には、この病巣に毛細血管がないので薬が届かず、医者は難儀した。
 結核を克服したが片肺機能は失った状態で、精力的に取材旅行をくり返して、次々と歴史ノンフィクション小説を発表した。最後は膵臓がんになった。膵臓がんは部位の関係で発見が遅れるから、手術しても半年が普通の余命である。06年2月に手術を受け、7月の末に自宅で自ら点滴のチューブと中心静脈栄養のカテーテルを引き抜いて、自死した。
 「最初は歴史小説を書くのに専門家は怖かった、そういう人たちは何でも知っていると思って。ところが有難いことにその人たちは歩かない、私は歩く。だから新しいものが摑める」と述べている。その取材はほとんど「ひとり旅」だった。新しい文書の発掘もうまい。学者顔なしである。
 彼の作品はすべて小説である。ノンフィクションとどこが違うか。「歴史小説なども私は主人公になりきっています。『(主人公が)…と思った』と書いても、私が主人公なのですから。…そう信じこまないと小説は書けないのです」という。鷗外の史伝小説では人物が生きていない。吉村作品では生きて動いている。そういうジャンルは吉村昭により拓かれたと思う。

 「買いたい新書」書評の目次は、現在「カテゴリー別」、「新着順」、「書籍名順」の3種がありますが、目下「著者名別」を建設中です。漢字表記できない外国人著者の場合はカタカナのアルファベット順表記にして、原綴り(ローマ字)を併記し、Amazonで安い洋書や電子ブックを買うのにも役立つようにしたいと思っています。これらに関してご意見があればぜひお寄せ下さい。
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