ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【読書】難波先生より

2012-08-20 12:33:37 | 難波紘二先生
【読書】昼前に河合信和『ヒトの進化 700万年史』と竹岡俊樹『旧石器時代人の歴史:アフリカら日本列島へ』が配達された。前者は形質人類学の、後者は文化人類学の本であり、ほぼ同時代を別の面から見ている。
 リンネの分類法だと、ヒトは「哺乳綱」-「霊長目」-「ヒト科」に属し、以下、現生人類は「ホモ属」ー「サピエンス種」に属する。1属1種である。
 「霊長目」ー「ショウジョウ科」には、「オランウータン属」、「チンパンジー属」、「ゴリラ属」の3属、4種がいる。


 進化人類学的な大きな疑問は、現生人類がいつ、霊長類のどの属ないし種から分岐したのかという点である。遺伝子解析の結果は、ヒトとピグミーチンパンジーの遺伝子は98%共通で、DNA突然変異率から計算すると約500万年前に共通の祖先から分岐した、というのが定説になっている。ところがひとつ大きな問題があって、「霊長目」のサルの染色体数は48XYで、ホモ属だけが46XYで一対少ない。もっとも現存種はサピエンスだけだ。他の種については不明だ。
 これは他の霊長類のNo.12とNo.13の染色体の短腕(p)同士が、q-p=p-qという形で逆位に癒合し、後にp=pの部分が部分欠失を起こして、ヒトの第2染色体になった(他の染色体番号が一つずつ繰り上がった)ためである。


 「サルは毛が3本少ない」というが、ヒトはサルより染色体が2本少ないのである。ヒトの祖先にこのような染色体粗大異常が生じて、どうして生殖可能な個体が生まれたのか?しかもNo.2染色体は常染色体だから、オスとメスの生殖細胞に同時にこの異常が起こらないと、核融合ができないはずである。このことをきちんと説明して、ヒトの起源を論じた本を知らない。


 常識的に考えれば、霊長目出現の際に起こった変化で、以後、後にヒト科に進化する動物は別個の経路をたどったと思われる。とても500万年では不足で、2,000万年以上はかかるだろうと思われる。河合氏の本は、直立二足歩行する最初の人類化石はチャドの砂漠で見つかった「サヘラントロプス・チャデンシス」化石であり、700万年前のものであること、260万年前に東アフリカの大地溝帯で石器製作が始まり、「オルドワン文化」が生まれたこと、最初の火の利用は100万年前で「ホモ属」に進化した後であること、それから人類のアフリカらの何度にもわたる拡散と絶滅を経て、「ホモ・サピエンス」の出現に至る歴史が、過去50年間の研究成果を踏まえて、総合的に語られる。非常に興味ふかい。


 ネアンデルタール人がホモ・サピエンスと同時代に生存していたということは、もうはっきりしているが、著者は両者の混血が生じたという、驚くべき報告を紹介している。10万年前の化石骨から核DNAの抽出・分析が可能となり、現存している住民のDNAと比較すると、ヨーロッパ人、アジア人ともに1~4%のネアンデルタール由来のDNAを含んでいる。しかし、アフリカ人からは検出されないという。だとするとおよそ7万年前の「第二次出アフリカ」の際に、中東で混血が生じたと考えるほかない。しかもヒトのミトコンドリアDNAにはネアンデルタール由来のものがないから、混血児の母親はヒトであったことになろう。


 ヒトとネアンデルタールが40万年前に分岐し、20万年間生殖隔離されていても、「種分化」はまだ生じないで、交雑できる可能性はある。しかし、ネアンデルタールのDNAが1~4%あるということは、ヒトのDNAは96~99%ヒト固有のものだということを意味している。これはヒトとチンパンジーのDNA差と変わらない。この程度なら測定誤差でも起こりえるように思える。
 ともかくいろいろ考えながら読むと面白い本である。


 竹岡氏の本は、人類の進化史を俯瞰した上で、考古学の対象である「石器出現以後」の文化を扱っている。ここでは「旧石器捏造」事件の裏話も語られており、「岩宿の発見」以後の日本考古学の歴史と問題点が解説されている。石器の話はよくわからないので、これ以上は述べられない。
 いま、病理学の分野では画像分析が急速に進んでいる。安物のデジカメさえ、人の顔を認識し、そこに自動で焦点を合わせるようになっている。どうしてこの技術を石器鑑定に応用できないのだろうか?「ナンデモ鑑定団」みたいに、経験と勘で石器を鑑定していたのでは、鑑定に科学としての再現性がないように思った。昔の病理診断がそうで、「偉い先生の診断だから正しい」とみんな思っていたものだ。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【考古学・人類学】難波先生より | トップ | 【訂正など】難波先生より »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

難波紘二先生」カテゴリの最新記事