ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【書評など正岡子規「歌よみに与ふる書,ほか全10作品」/難波先生より

2015-05-07 10:44:20 | 難波紘二先生
【書評など】
 1)エフロブ「買いたい新書」の書評No.267に正岡子規「歌よみに与ふる書,ほか全10作品」を取りあげました。短歌の革新を訴えた表題作は有名な本ですが、実際に読んだ人は少ないと思います。
 先日,100円ショップ「ダイソー」の売り場で,なんと文庫本を売っていいるのを見つけた。漱石『坊ちゃん』も,宮沢賢治『銀河鉄道の夜』もある。手にとって開いてみると,読みやすく印刷も製本もしっかりしている。子規の上記書を再読したくなり100円で買って帰った。それにしても222ページもある文庫本がよく100円で売れるものだ,とひたすら感心する。この文庫本は2色刷で,難しい漢字や語句は橙色に印刷してルビがふってあり,本文下段に脚注があり,語句説明がされており,読みやすくよくできている。
 標題作だけでなく,「くだもの」,「病牀瑣事」,「死後」というような随筆も収録されていて,子規の好物や死生観がわかり,とても面白い。「くだもの」を読んで,大の果物好きで,「大きな梨なら六つか七つ,樽柿(たるがき)ならば七つか八つ,蜜柑(みかん)なら十五か二十くらい食うのが常習」と書いているのに驚いた。
 中に「御所柿を食いし事」という項目があり,
 「柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺」という代表句が出来た時のいきさつが書いてある。
 句が出来た時の状況がユーモラスに描写されており、これを知って句を読むとまったく違ったイメージになるから面白い。ここを読むだけでも本書は手にとってみる価値がある。
 以下はここで。
 http://www.frob.co.jp/kaitaishinsho/book_review.php?id=1428538854

2)「医薬経済」5/1号のご恵送を受けた。ありがとう存じます。
 本号にも注目に値する記事が多い。
 「日本の移植医療に今起きていること」(高橋幸春)は、3月に行われた「修復腎移植」臨床研究15例目の田中弘道/泉、兄妹のインタビューに基づき詳細をレポートしている。
 また2月に名古屋市で開かれた「日本臨床腎移植学会」で報告された、愛媛県立中央病院と衣山クリニックからの妻→夫への小径腎がんを切除した後の「修復腎移植」についても詳報がある。移植学会理事長の高原史は懇親会で、発表後に知り激怒したそうで、翌日のホテルでのビュッフェ朝食の際に、離れたテーブルで声高に非難していそうだ(私の独自情報)。
 中国等で「渡航移植」を受けた日本の腎不全患者が、帰国後「診療拒否」を受けるケースが多発している。移植学会はそういう「指導」に血道を上げるより、高原の目の前で行われている「海外からの渡航移植」である神戸の「生体肝移植病院」事件について、ちゃんと批判声明を出すのが筋ではないか。「国内の腎不足を解消するため、修復腎移植を承認する」と方針転換をするのが筋ではないか。
 さもないと「あれは万波医師に対する学者の<男の嫉妬>が根本だった」と歴史は断罪するだろう。

 「<人体解剖>は海外実習の時代」という編集部記事も注目される。山口県宇部市にある「ティーズクリエイト」という会社が国立インドネシア大学と提携して、日本人の鍼灸師、柔道整復師、理学療法士、看護師、薬剤師などを対象に「人体解剖実習ツアー」を開始したところ、好評だという。他にも同様な「海外人体解剖実習」セミナーが多々あるという。
 日本では刑法の死体損壊罪と死体解剖保存法のしばりがあって、それにこれまでは系統解剖用の遺体が不足していて、コメディカルの学生が人体解剖の実習を受ける機会がなかったのが、実情だ。4日間の死体解剖の実習費が40万円、旅費滞在費が12万円程度らしいが、52万円払っても解剖実習ツアーに参加したいという、熱心なコメディカルが多いようだ。

 安政5(1857)年9月、長西坂の刑場内に設けられた解剖実習室で、「西洋医学伝習所」の教官ポンペによる日本初の「系統解剖実習講義」が行われた。
 ポンペは、1日目は遺体の胸と腹を開き、肺や肝臓や腸管を示して、その講義をした。
 2日目には内臓を取り去り、心臓とそれにつながる大動脈、大静脈を示し、腎臓などの後腹膜臓器を講義し、ついで脊椎と脊髄という中枢神経とその主な枝を示した。
 3日目に、頭蓋骨を開き、脳と脊髄の関係、脳から出る主な脳神経を示し、中枢神経系の講義をして、全実習を終えた、と松本良順『松本順自伝』(東洋文庫)にある。
 「デモンストラチオン(示説)」というタイプの講義実習なら、4日目に「筋肉と骨」について学べばよいので、4日間の実習で概略は学べるであろう。

 日本では十数年前に人体を透明プラスティックで固めたプラスティネーション標本をドイツから輸入して公開展示したところ、大非難が向けられ、一般人が人体解剖学を学ぶ機会が失われた。その延長線上に、このような「海外実習」のニーズと流行が出てきたような気がする。
 英国では「最大多数の最大幸福」が道徳と法律の原理でなくてはならないと説いた哲学者ジェレミー・ベンサムの遺体は、遺言によりミイラにされて、大学の博物館で一般公開されている。
 5/3産経は、死後の遺体献体登録数が、いわゆる「白菊会」の全国統計が始まった1970年には約1万人であったのが、1983年に「献体に関する法整備」が行われて以後、徐々に増加し2014年3月には約26万人に達した、と報じている。
 http://www.sankei.com/west/news/150501/wst1505010084-n1.html
 数的には医学生の実習に必要な医体数をはるかに上まわっている。高齢者の献体登録が多く、この増加には団塊の世代の「終活」感がどうやらからんでいるらしい。最近は新聞の死亡記事を見ても、派手な葬儀をせず、親族のみの密葬ですませ、遺体は白菊会に献体するという著名人が増えている。

 さて、自発的献体登録がこのように増加してきた以上、「海外渡航移植」を連想させる「海外渡航解剖実習」というものも、おそらくこれから議論の対象になると思われる。
 もともと死体解剖保存法の第10条は「身体の正常な構造を明らかにするための解剖は、医学に関する大学において行うものとする」と定めていて、これが歯科大学、看護大学、医療福祉系の大学や美術大学での人体解剖実習を妨げている。実際、解剖実習を習っていないコメディカルの人体についての知識不足は著しい。

 掛かり付け医のナースに「針跡から出血しない採血法」を教えてやろうとしている。
 「静脈の直上に注射針を刺さないで、表皮から静脈脇の真皮に到達し、そこから針先を静脈壁上端にスライドさせてそこから血管内に侵入させる」という手技だから、表皮、真皮乳頭層、真皮網状層、皮下組織、静脈の走行位置という解剖学的な概念と知識が頭に入っていないと、手技そのもののイメージが理解できないようだ。半年かかっても、なお体得できない。

 北大医学部解剖学の教授だった伊藤隆は、自分が病気になり入院して初めてそのことに気づき、10年を費やしてコメディカル向けの『解剖学講義』(南山堂、1983)という名著を書いた。しかし、どんな名著でも実際に自分が人体の解剖を直に経験することを代替するのは無理だ。
 昭和24(1959)年制定の「死体解剖保存法の抜本的改正が望まれるところだ。

3)古くからの友人で元国立栄養研究所理事長の渡邊昌さんから、近著『科学の先:現代生気論』(キラジェンヌ社、2015/5)の献本を受けた。厚くお礼申しあげる。昌さんは、慶応大で病理学を研鑽し、国立がんセンター病理部で病理解剖・病理診断に携わった後、疫学に転じて同センターの疫学部長になった。その後、糖尿病を発症し一念発起して「公衆栄養学」に志し東京農大の教授に転じた。身を持って「統合知」を追求している類い希な人物だ。
 今は「生命科学振興会」理事長、日本総合医学会会長をつとめている。著書も多い。
 
 その彼が、STAP事件で生気論に立つドイツの生物学者ハンス・ドリーシュ(1867〜1941)を知り、『生気論の歴史と理論』(1914)を、それも米本昌平訳ではなく、英訳書で読んだことはメールで知っていたが、独自に読み込んでこんなに早く一書をまとめるとは思わなかった。
 内容についてはあらためて紹介したいと思うが、生命の進化、個体の発生、自然治癒力を統合知的に論じ、日本人の心性、死生観を考察し、「スピリチュアルにも健康」な人生を送ろうというわかりやすい好著だと思った。彼の「生気論」はBio-Vitalismと表紙にあり、ドリーシュの生気論(Vitalism)とは少し違うと思われる。
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