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【一面コラム=10/10各紙の「産経ソウル支局長起訴」についての論評比較】
10/10の新聞1面コラムは期せずしてみな産経元支局長の「不当起訴」を取り上げていて興味深かった。
「産経抄」は抑制がきいていて、「ニューズウィーク日本版」昨年10月の記事を取り上げ、<「国民情緒法」という言葉をこの記事で知った。法律より国民感情を優先するという見えざる法が、韓国に存在するというのだ。>と書き出している。これで決まりだ。あの国は「法治国家でなく情治国家」だと雄弁に指摘している。つまり李氏朝鮮の時代に逆行しているということだ。近代国家ではない。
毎日「余録」は米第3代大統領ジェファソンの「黒人愛人問題」を冒頭にもって来ていて、品がない。
ジェファソンは有名な「アメリカ独立宣言」(1776)を執筆した人だ。1782年39歳の時に妻マーサに死なれ、以後独身だった。終の棲家モンティセロに引退したのは51歳の時で、大統領になったのは1800年57歳の時だ。問題の「黒人女性奴隷」(1/4黒人混血なので見かけは白人)は、1784年駐仏パリ公使として赴任する際に娘の世話役として同行したサリー・ヘミングスである。事件は大統領になる前のことだ。パク・クネとは比較にならない。
これをいうなら「余録」は女中に子を産ませ、生まれた児を捨て子にしたルソーを取り上げるべきだろう。
日経「春秋」は読売の立松和博記者が売春汚職の記事で1957年に東京地検に逮捕された事件を取り上げ、本田靖晴『不当逮捕』 (岩波現代文庫, 2000)につなげ、「起訴は権力のおごり」とパク・クネを批判し、最後を村上春樹の言葉で締めている。「起承転」まではよく書けている。
中国「天風録」は起承転結ともパンチが効いていない。
本田靖晴には『私のなかの朝鮮人』(文春文庫)という作品もある。彼は1933年ソウル生まれで、1945年9月に日本に引き揚げ、早稲田の新聞学科を出て読売に入社した。『私のなかの朝鮮人』には戦前戦中の朝鮮社会と戦後日本の在日社会のことがよく書き込まれている。『警察(サツ)回り』(ちくま文庫)には、日本人と台湾人の混血である「バアさん」がやっていて各社のサツ回り記者のたまり場だった、上野署裏のバーの話と朝日の名コラムニスト深代淳郎との交友の追憶が含まれ、この本の核をなしている。
バアさんの葬式を出してやった後、実はこの「新井素子」という女性は、本人が述べていた日台の混血ではなく、純粋な高砂族であり、「半分は日本人の血を引いている」と自分でも信じることで、戦後の日本社会を生きてきたのだと明らかになる。それを本田はバアさんの詐称をなじるのではなく、旧植民地の人たちに共感と同情をこめて書いていて、ほろりとさせる。ノンフィクションの名作である。本田は重症の糖尿病で両足を切断し、最後は手も不自由になり万年筆を手にくくりつけて執筆した。生年からするとまだ生きていても不思議でないが、今の日韓関係を見たらどういう意見を述べるだろうか。
10/10「産経」の「異なるニュアンス」という、ソウル支局長の日本語コラムがハングル訳された際に、意味が違ったものとなったいきさつを述べた記事は面白かった。日本政府が「ポツダム宣言」を「黙殺する」と発表したのを外務省がignore(無視する)と誤訳したため、広島と長崎に原爆を投下する口実を与えたのは有名だ。
ハングルでは、元コラムの日本語文にあった用語が、「行方不明」=行方をくらます、「下品」=賎しい、「不穏」=反逆的な陰謀、という意味に訳され、刺激的で侮蔑的な表現になったのだそうだ。漢字を使っていた時代の韓国には「行方不明(ヘンバン・ブルミョン)」、「下品(チョンハン)」、「不穏(ブロン)」という言葉があった。みな日本語由来の漢字だ。今は音だけがハングルになっているので、現代ハングルと意味が違ってきている。ネットの原文をハングル訳したのは正体不明の韓国ポータルサイトで、しかも無許可翻訳である。これ自体が犯罪なのに、韓国司法はなぜ摘発しないのか。
韓国が今も漢字ハングル文を使っていれば、何も問題はなかったはずだ。してみると、産経は韓国の「誤った国語政策」の犠牲者という見方もできるだろう。
問題の加藤前ソウル支局長の手記はここで読める。
http://www.iza.ne.jp/kiji/events/news/141010/evt14101009410008-n1.html
検事は「事故当日の大統領の所在問題は(韓国内で)タブー視されているのに、それを書いたことをどう考えるか」と尋問したそうだ。日本では総理の動静は起きてから寝るまで、分単位ですべて報道されている。それが当たり前の民主主義国家ではないか。それとも韓国には国の元首の動静を分刻みで記録する制度がないのであろうか? やましいところがないのなら、船舶事故当日の「大統領動静」を分刻みで公表したらよかろう。8月5日に夕方、大統領府の海外メディア担当官から電話があり、「機械的に抗議文を読み上げると刑事・民事での法的な対応を宣言」したそうだ。
「レームダック化」(死に体化)という言葉を使ったのも妥当でないと検事は述べたそうだ。
そもそもセウォル号事故で、人気取りに「海上警察」を解体したから、今度の領海侵犯をした中国漁船への取り締まりにミスがあり、中国人船長を射殺したという事件が起こったのではないか。これでパク・クネの「言いつけ外交」はおじゃんになった。対中国外交は難航するだろう。
運転免許取り立ての初心者が猛スピードを出すように、就任からすぐに「反日モード全開」で、就任式に日本の首相を招かず、国際会議で首相に会っても握手せず、傲慢無礼の限りをつくしていたら、案の定事故を起こした。免許初心者の事故は大半が2年以内に起こる。安倍政権は二期目の2年目だ。
海運事故の責任を首相に負わせようとしたら、指名した人物がすべて辞退して、元の鞘の豆が首相を続投することになった。「セウォル号事故」は遺族がモンスター化して、いまだに解決の糸口さえ掴めていない。北朝鮮からは「金正恩の悪口をいうな」と批判されて、「韓国は言論自由の国だ」と政府が反論している。だれが見ても韓国の政権は「末期状態」である。「レームダック」はまだ優しい表現だ。
10/11「朝鮮日報」は国会で野党が、
<「世界の主要メディアが韓国の言論の自由に疑問を呈しており、非常に恥ずかしいことだ。『何か一言言ったためにネズミも鳥もいつの間にか消えてしまった維新時代(朴正煕〈パク・チョンヒ〉元大統領の独裁時代)』を連想させる、というのが一般常識のようになっている」と批判した。>
<朴槿恵政権の残りの任期は『言論自由国』回復を期待するどころか、『言論統制国』転落を心配しなければならない状況だ」と指摘した。> と報じている。
そのうち韓国の人たちも朴正煕の日本名が高木であり、日本の陸軍士官学校を出た「対日協力者」であったこと、その独裁者の娘がいまの大統領だということを思い出すだろう。「反日」が国是であるのになんたる皮肉、なんたる矛盾。これであと3年も大統領が続けられるだろうか。
「毎日」「日経」「中国」がソウル支局長起訴問題をスルーするか報じないが、右であろうと左であろうと言論の自由に対する弾圧には真っ向から取り組まなければいけないと思う。地方紙も「四国新聞」のように旗幟を鮮明にすべきだ。
10/11「産経」社会面には、溝口敦の「記者訴追、韓国に問う:感情優先、国として成熟せず」という論評を掲載している。この人は近著に『詐欺の帝王』(文春新書, 2014/6)があるくらいで、ヤクザとその犯罪手口の取材と報道の専門家である。
彼を書き手に起用したところに、産経社会部の憤激の度合いが透けて見える。北朝鮮が「ならずもの国家」なら南朝鮮は脅しを手口とする「ヤクザ国家」だと言いたいのであろう。
同記事から:
<長年暴力団を取材してきたが、「もうこれ以上書くな」と相手から脅されることがある。…刃物で刺されたこともある。だがここで書くのをやめたら、暴力に効果があったと思われるのがしゃくだ。>
<暴力で来るのなら言論でやり返すという思いを強く持ち続けてきた。>
<(ソウル中央)地検が(加藤氏の)在宅起訴に踏み切ったことは異常で、韓国は国として成熟していない。公人は批判を甘んじて受けないといけない宿命にある。>
<証拠隠滅の可能性もない中、長期にわたる出国禁止措置は嫌がらせ以外の何物でもない。>
朴正煕夫人は在日の朝鮮人により韓国で射殺された。大統領を狙った拳銃弾がそれたためだ。このままでは「祖国の名誉を守るため」と考えて、在日の間から第二の暗殺実行者が出るかもしれない。溝口の本が書いているように、在日と暴力団は重なる部分があり、拳銃の入手などたやすいものだ。
朝鮮・韓国関係の本が溜まったので、文庫・新書用の書棚を組み立てて、一箇所にまとめた。雑誌以外なら単行本も入る。(月刊誌が並ぶ安い書棚があると助かるのだが…。) 文庫新書なら一棚で約50冊入るから、全部で約200冊。箱入りの東洋文庫を入れると4棚がいっぱいになった。あとまだ、揃えないといけない基本文献がいくつかある。
「朝日記事検証委員会」の第1回会合が10/9開かれた、他紙の報道によると中込委員長から「朝日の解体論」さえ出たという。16本の誤報記事の中、12本の日付と見出しが公表された。私がこれまで主張してきたことで、正しい措置だと思う。残りの4本は<同社広報部は「外部の方々がお書きになった3本と、 著作物の引用部分が多い1本」と説明。>(読売)という。だったら勝手に取り消す権限は「朝日」にないはずだ。8/6の時点で執筆者に許諾をえていなければならない。「池上コラム」事件から何も学んでいないということだ。
そもそも日本の新聞記事には「匿名で書き放題」という悪癖がある。まずそれをやめることだ。原則として全記事に署名をいれよ。(「毎日」はほぼやっている。)それなら読者は信頼する。32年もウソを垂れ流して、やっと取り消しという無様な事態をさらけ出さないですむ。「産経」の加藤達也ソウル支局長が「在宅起訴」された。不当な言論弾圧だが、あれは署名コラムだったからだ。私は産経の政治スタンスには必ずしも同意しないが、記者たちが韓国政府の弾圧にめげず、「報道の自由」を貫いている態度にはためらわずエールを送る。
元「毎日」の河内孝が「朝日にとっての<西山事件>だ」と「新潮45」10月号に書いているが、当時の「毎日」と同じように「朝日」も「倒産」するかもしれない。
『悪韓論』(新潮新書, 2013/4)でベストセラー作家となった室谷克実(元時事通信)の最初の書、『日韓がタブーにする半島の歴史』(新潮新書, 2010/4)を読んでみた。歴史書と銘打っていながら、索引も引用書目録もない。韓国の歴史書で最重要な金富軾の『三国史記』は井上秀雄訳の東洋文庫(1988)ではなく、金思燁訳『完訳・三国史記』(明石書店、1997)が引用されているが、その次に重要な一然の『三国遺事』については、書誌学的な項目が明示されていないのにがっかりした。李氏朝鮮の時代に成立した金富軾『三国史記』とそれから100年以上後に書かれた一然の『三国遺事』をテキストとしたと小さな字で書いてあるが、「底本」が書いてない。索引がないから前後違うことを書いていても気づいていない。「嫌韓論」の本は多く出回っているが、まともな本は少ない。
『東アジア民族史:正史東夷伝1・2』(東洋文庫)
『三国史記:全4冊』(東洋文庫)
『三国史記倭人伝』(岩波文庫)
『魏志、後漢書、宋書、隋書・倭国伝』(岩波文庫)
『旧唐書倭国日本伝』(岩波文庫)
『倭国伝』(講談社学術文庫)
『高麗史日本伝』(岩波文庫)
など、日朝問題の基礎的文献はちゃんと読み、文献と引用箇所を明示した上で自己の解釈を提示し、「論」を立てるべきだ。読者は「B層」(適菜収による用語)向けの低劣な本に騙されてはいけない。
昭和6(1931)年9/4の「満州事変」の後、5・15事件(1932)、共産党幹部の大量転向(1933)、「特高」創設(1933)、「天皇機関説の弾劾」(1935)、2・26事件(1936)、「日独防共協定」(1936)、「日中戦争開始」(1937)と、わずか5年間余で日本の社会はガラリと変わり、好戦的排外的になって、右派の低劣な論議が世論を主導し、戦争になだれ込んでいった。それをリードしたのが「朝日新聞」である。(ウソだと思ったら水間正憲『朝日新聞が報じた<日韓併合>の真実』(徳間書店)に載っている朝日切り抜き記事を見るとよい。)
「朝日」が倒産するか立ち直るかはまだわからないが、ともかくあの8月の「誤報訂正」事件が戦後史の大きな転換点になるのは間違いないだろう。月刊総合誌「文藝春秋」、「中央公論」、「正論」、「新潮45」、「WILL」、「SAPIO」などの書き手を見ると、これから低レベルの無責任な右派言説が横行する時代になると思われるから、引用文献と索引がしっかりした本を読み、必要に応じてネットを参照しながら、メディアに騙されないように、市民各自が自己責任において自衛する必要があろう。
【一面コラム=10/10各紙の「産経ソウル支局長起訴」についての論評比較】
10/10の新聞1面コラムは期せずしてみな産経元支局長の「不当起訴」を取り上げていて興味深かった。
「産経抄」は抑制がきいていて、「ニューズウィーク日本版」昨年10月の記事を取り上げ、<「国民情緒法」という言葉をこの記事で知った。法律より国民感情を優先するという見えざる法が、韓国に存在するというのだ。>と書き出している。これで決まりだ。あの国は「法治国家でなく情治国家」だと雄弁に指摘している。つまり李氏朝鮮の時代に逆行しているということだ。近代国家ではない。
毎日「余録」は米第3代大統領ジェファソンの「黒人愛人問題」を冒頭にもって来ていて、品がない。
ジェファソンは有名な「アメリカ独立宣言」(1776)を執筆した人だ。1782年39歳の時に妻マーサに死なれ、以後独身だった。終の棲家モンティセロに引退したのは51歳の時で、大統領になったのは1800年57歳の時だ。問題の「黒人女性奴隷」(1/4黒人混血なので見かけは白人)は、1784年駐仏パリ公使として赴任する際に娘の世話役として同行したサリー・ヘミングスである。事件は大統領になる前のことだ。パク・クネとは比較にならない。
これをいうなら「余録」は女中に子を産ませ、生まれた児を捨て子にしたルソーを取り上げるべきだろう。
日経「春秋」は読売の立松和博記者が売春汚職の記事で1957年に東京地検に逮捕された事件を取り上げ、本田靖晴『不当逮捕』 (岩波現代文庫, 2000)につなげ、「起訴は権力のおごり」とパク・クネを批判し、最後を村上春樹の言葉で締めている。「起承転」まではよく書けている。
中国「天風録」は起承転結ともパンチが効いていない。
本田靖晴には『私のなかの朝鮮人』(文春文庫)という作品もある。彼は1933年ソウル生まれで、1945年9月に日本に引き揚げ、早稲田の新聞学科を出て読売に入社した。『私のなかの朝鮮人』には戦前戦中の朝鮮社会と戦後日本の在日社会のことがよく書き込まれている。『警察(サツ)回り』(ちくま文庫)には、日本人と台湾人の混血である「バアさん」がやっていて各社のサツ回り記者のたまり場だった、上野署裏のバーの話と朝日の名コラムニスト深代淳郎との交友の追憶が含まれ、この本の核をなしている。
バアさんの葬式を出してやった後、実はこの「新井素子」という女性は、本人が述べていた日台の混血ではなく、純粋な高砂族であり、「半分は日本人の血を引いている」と自分でも信じることで、戦後の日本社会を生きてきたのだと明らかになる。それを本田はバアさんの詐称をなじるのではなく、旧植民地の人たちに共感と同情をこめて書いていて、ほろりとさせる。ノンフィクションの名作である。本田は重症の糖尿病で両足を切断し、最後は手も不自由になり万年筆を手にくくりつけて執筆した。生年からするとまだ生きていても不思議でないが、今の日韓関係を見たらどういう意見を述べるだろうか。
10/10「産経」の「異なるニュアンス」という、ソウル支局長の日本語コラムがハングル訳された際に、意味が違ったものとなったいきさつを述べた記事は面白かった。日本政府が「ポツダム宣言」を「黙殺する」と発表したのを外務省がignore(無視する)と誤訳したため、広島と長崎に原爆を投下する口実を与えたのは有名だ。
ハングルでは、元コラムの日本語文にあった用語が、「行方不明」=行方をくらます、「下品」=賎しい、「不穏」=反逆的な陰謀、という意味に訳され、刺激的で侮蔑的な表現になったのだそうだ。漢字を使っていた時代の韓国には「行方不明(ヘンバン・ブルミョン)」、「下品(チョンハン)」、「不穏(ブロン)」という言葉があった。みな日本語由来の漢字だ。今は音だけがハングルになっているので、現代ハングルと意味が違ってきている。ネットの原文をハングル訳したのは正体不明の韓国ポータルサイトで、しかも無許可翻訳である。これ自体が犯罪なのに、韓国司法はなぜ摘発しないのか。
韓国が今も漢字ハングル文を使っていれば、何も問題はなかったはずだ。してみると、産経は韓国の「誤った国語政策」の犠牲者という見方もできるだろう。
問題の加藤前ソウル支局長の手記はここで読める。
http://www.iza.ne.jp/kiji/events/news/141010/evt14101009410008-n1.html
検事は「事故当日の大統領の所在問題は(韓国内で)タブー視されているのに、それを書いたことをどう考えるか」と尋問したそうだ。日本では総理の動静は起きてから寝るまで、分単位ですべて報道されている。それが当たり前の民主主義国家ではないか。それとも韓国には国の元首の動静を分刻みで記録する制度がないのであろうか? やましいところがないのなら、船舶事故当日の「大統領動静」を分刻みで公表したらよかろう。8月5日に夕方、大統領府の海外メディア担当官から電話があり、「機械的に抗議文を読み上げると刑事・民事での法的な対応を宣言」したそうだ。
「レームダック化」(死に体化)という言葉を使ったのも妥当でないと検事は述べたそうだ。
そもそもセウォル号事故で、人気取りに「海上警察」を解体したから、今度の領海侵犯をした中国漁船への取り締まりにミスがあり、中国人船長を射殺したという事件が起こったのではないか。これでパク・クネの「言いつけ外交」はおじゃんになった。対中国外交は難航するだろう。
運転免許取り立ての初心者が猛スピードを出すように、就任からすぐに「反日モード全開」で、就任式に日本の首相を招かず、国際会議で首相に会っても握手せず、傲慢無礼の限りをつくしていたら、案の定事故を起こした。免許初心者の事故は大半が2年以内に起こる。安倍政権は二期目の2年目だ。
海運事故の責任を首相に負わせようとしたら、指名した人物がすべて辞退して、元の鞘の豆が首相を続投することになった。「セウォル号事故」は遺族がモンスター化して、いまだに解決の糸口さえ掴めていない。北朝鮮からは「金正恩の悪口をいうな」と批判されて、「韓国は言論自由の国だ」と政府が反論している。だれが見ても韓国の政権は「末期状態」である。「レームダック」はまだ優しい表現だ。
10/11「朝鮮日報」は国会で野党が、
<「世界の主要メディアが韓国の言論の自由に疑問を呈しており、非常に恥ずかしいことだ。『何か一言言ったためにネズミも鳥もいつの間にか消えてしまった維新時代(朴正煕〈パク・チョンヒ〉元大統領の独裁時代)』を連想させる、というのが一般常識のようになっている」と批判した。>
<朴槿恵政権の残りの任期は『言論自由国』回復を期待するどころか、『言論統制国』転落を心配しなければならない状況だ」と指摘した。> と報じている。
そのうち韓国の人たちも朴正煕の日本名が高木であり、日本の陸軍士官学校を出た「対日協力者」であったこと、その独裁者の娘がいまの大統領だということを思い出すだろう。「反日」が国是であるのになんたる皮肉、なんたる矛盾。これであと3年も大統領が続けられるだろうか。
「毎日」「日経」「中国」がソウル支局長起訴問題をスルーするか報じないが、右であろうと左であろうと言論の自由に対する弾圧には真っ向から取り組まなければいけないと思う。地方紙も「四国新聞」のように旗幟を鮮明にすべきだ。
10/11「産経」社会面には、溝口敦の「記者訴追、韓国に問う:感情優先、国として成熟せず」という論評を掲載している。この人は近著に『詐欺の帝王』(文春新書, 2014/6)があるくらいで、ヤクザとその犯罪手口の取材と報道の専門家である。
彼を書き手に起用したところに、産経社会部の憤激の度合いが透けて見える。北朝鮮が「ならずもの国家」なら南朝鮮は脅しを手口とする「ヤクザ国家」だと言いたいのであろう。
同記事から:
<長年暴力団を取材してきたが、「もうこれ以上書くな」と相手から脅されることがある。…刃物で刺されたこともある。だがここで書くのをやめたら、暴力に効果があったと思われるのがしゃくだ。>
<暴力で来るのなら言論でやり返すという思いを強く持ち続けてきた。>
<(ソウル中央)地検が(加藤氏の)在宅起訴に踏み切ったことは異常で、韓国は国として成熟していない。公人は批判を甘んじて受けないといけない宿命にある。>
<証拠隠滅の可能性もない中、長期にわたる出国禁止措置は嫌がらせ以外の何物でもない。>
朴正煕夫人は在日の朝鮮人により韓国で射殺された。大統領を狙った拳銃弾がそれたためだ。このままでは「祖国の名誉を守るため」と考えて、在日の間から第二の暗殺実行者が出るかもしれない。溝口の本が書いているように、在日と暴力団は重なる部分があり、拳銃の入手などたやすいものだ。
朝鮮・韓国関係の本が溜まったので、文庫・新書用の書棚を組み立てて、一箇所にまとめた。雑誌以外なら単行本も入る。(月刊誌が並ぶ安い書棚があると助かるのだが…。) 文庫新書なら一棚で約50冊入るから、全部で約200冊。箱入りの東洋文庫を入れると4棚がいっぱいになった。あとまだ、揃えないといけない基本文献がいくつかある。
「朝日記事検証委員会」の第1回会合が10/9開かれた、他紙の報道によると中込委員長から「朝日の解体論」さえ出たという。16本の誤報記事の中、12本の日付と見出しが公表された。私がこれまで主張してきたことで、正しい措置だと思う。残りの4本は<同社広報部は「外部の方々がお書きになった3本と、 著作物の引用部分が多い1本」と説明。>(読売)という。だったら勝手に取り消す権限は「朝日」にないはずだ。8/6の時点で執筆者に許諾をえていなければならない。「池上コラム」事件から何も学んでいないということだ。
そもそも日本の新聞記事には「匿名で書き放題」という悪癖がある。まずそれをやめることだ。原則として全記事に署名をいれよ。(「毎日」はほぼやっている。)それなら読者は信頼する。32年もウソを垂れ流して、やっと取り消しという無様な事態をさらけ出さないですむ。「産経」の加藤達也ソウル支局長が「在宅起訴」された。不当な言論弾圧だが、あれは署名コラムだったからだ。私は産経の政治スタンスには必ずしも同意しないが、記者たちが韓国政府の弾圧にめげず、「報道の自由」を貫いている態度にはためらわずエールを送る。
元「毎日」の河内孝が「朝日にとっての<西山事件>だ」と「新潮45」10月号に書いているが、当時の「毎日」と同じように「朝日」も「倒産」するかもしれない。
『悪韓論』(新潮新書, 2013/4)でベストセラー作家となった室谷克実(元時事通信)の最初の書、『日韓がタブーにする半島の歴史』(新潮新書, 2010/4)を読んでみた。歴史書と銘打っていながら、索引も引用書目録もない。韓国の歴史書で最重要な金富軾の『三国史記』は井上秀雄訳の東洋文庫(1988)ではなく、金思燁訳『完訳・三国史記』(明石書店、1997)が引用されているが、その次に重要な一然の『三国遺事』については、書誌学的な項目が明示されていないのにがっかりした。李氏朝鮮の時代に成立した金富軾『三国史記』とそれから100年以上後に書かれた一然の『三国遺事』をテキストとしたと小さな字で書いてあるが、「底本」が書いてない。索引がないから前後違うことを書いていても気づいていない。「嫌韓論」の本は多く出回っているが、まともな本は少ない。
『東アジア民族史:正史東夷伝1・2』(東洋文庫)
『三国史記:全4冊』(東洋文庫)
『三国史記倭人伝』(岩波文庫)
『魏志、後漢書、宋書、隋書・倭国伝』(岩波文庫)
『旧唐書倭国日本伝』(岩波文庫)
『倭国伝』(講談社学術文庫)
『高麗史日本伝』(岩波文庫)
など、日朝問題の基礎的文献はちゃんと読み、文献と引用箇所を明示した上で自己の解釈を提示し、「論」を立てるべきだ。読者は「B層」(適菜収による用語)向けの低劣な本に騙されてはいけない。
昭和6(1931)年9/4の「満州事変」の後、5・15事件(1932)、共産党幹部の大量転向(1933)、「特高」創設(1933)、「天皇機関説の弾劾」(1935)、2・26事件(1936)、「日独防共協定」(1936)、「日中戦争開始」(1937)と、わずか5年間余で日本の社会はガラリと変わり、好戦的排外的になって、右派の低劣な論議が世論を主導し、戦争になだれ込んでいった。それをリードしたのが「朝日新聞」である。(ウソだと思ったら水間正憲『朝日新聞が報じた<日韓併合>の真実』(徳間書店)に載っている朝日切り抜き記事を見るとよい。)
「朝日」が倒産するか立ち直るかはまだわからないが、ともかくあの8月の「誤報訂正」事件が戦後史の大きな転換点になるのは間違いないだろう。月刊総合誌「文藝春秋」、「中央公論」、「正論」、「新潮45」、「WILL」、「SAPIO」などの書き手を見ると、これから低レベルの無責任な右派言説が横行する時代になると思われるから、引用文献と索引がしっかりした本を読み、必要に応じてネットを参照しながら、メディアに騙されないように、市民各自が自己責任において自衛する必要があろう。
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