【書評など】
エフロブ「買いたい新書」書評にNo.238: 「神崎亮平「サイボーグ昆虫,フェロモンを追う」を取り上げました。密かにブームになっている本で,少なくとも全国紙4紙が読書欄で書評している。
http://www.frob.co.jp/kaitaishinsho/book_review.php?id=1412207674
わずか100頁あまりの本だが、実に読みやすく興味深い。全体の半分が昆虫とその感覚世界についての「総論的解説」に当てられており,予備知識のない読者にも本論の「サイボーグ昆虫」への下地を与えてくれるためだ。サイボーグとは1960年代に生まれた言葉で生き物と器械の合成体をいう。
地球上には約180万種の生物がいるが,その半数以上を節足動物の昆虫が占める。昆虫は地上でもっとも成功した種なのに,その脳を構成するニューロンは10万個,ヒトの100分の1程度しかない。しかし昆虫独特の感覚器官に媒介されて,その脳が認識する世界は多彩である。ドイツの生物学者ユクスキュル『生物から見た世界』(岩波文庫)の「Umwelt(環境世界)」論を踏まえた,この解説部分は見事である。
1~4章までが総論で図や写真が多用してあり,理解を助けてくれ,この部分はわかりやすい。著者はカイコ蛾のオスがメスの出すフェロモンを嗅ぎ分けて,メスにたどり着くメカニズムに興味を惹かれる。カイコ蛾ではメスが尻の先端のフェロモン腺から分泌する不飽和アルコール「ボンビコール」が主成分で,オスの触覚にある「臭い細胞」がそれを検知することが分かっている。フェロモンという言葉は通俗化して,一頃の「血液型占い」本のようなものが書店に溢れており,正しい「フェロモン概説」としても有益だろう。
この研究の向かう先は二つある。第一は,麻薬探知犬や災害救助犬などよりも優れた「臭い検出サイボーグ」を開発して,実用に供する方向だ。第二は,ニューロン数がヒトの10分の1しかない昆虫の脳の情報処理についての知見を,より複雑なヒトの脳の情報処理に適応して,ヒトの脳の正常と異常をより深く理解する方向だ。著者は後者を目指している。
=Nスペ=
10/12夜、日曜日であることを忘れ、21時にTVニュースを見に母屋に戻ったら、Nスペ「謎の類人猿の王国」をやっていた。ルベンゾリ山脈とかハイラックスの映像を初めて見た。ヘロドトスは『歴史』(Ⅱ-24)に「ナイルの水源は誰にもわからない」と書いている。しかしアラン・ムーアヘッド『白ナイル』(筑摩書房, 1970)は「プトレマイオス地理書には<月の山脈に水源をもち、二つの丸い湖をへて、ナイルとなる>と書かれており、19世紀英国の探検家たちの冒険心を呼び覚ました」とある。この「月の山」が海抜5000メートルのルベンゾリ山で、そこからの水がヴィクトリア湖、タンガニーカ湖をへて、白ナイルになる。
この山の麓に住むハイラックスが出てきた。これはシリアにもいて、日本語ではイワタヌキといい、象とカイギュウ、ジュゴンの共通祖先から進化した。私が大学院生の頃に書いた論文草稿に「象とイワタヌキとセイウチ:進化の多様性の1例」というのがある。形態学的な分類でなく、系統発生に基づいた分類をすべきだ、というものだ。分子生物学が発展したおかげで、50年経ったら「分岐分類学」が主流になった。
ボノボ(ピグミーチンパンジー)の世界が「男女平等で、平和的社会」だというのはいかがなものか。
京大の故西田利貞教授や英国のJ.グドールらはチンパンジーの戦争や捕虜の虐殺を報告している。オナガザル科のハヌマンラングールは子連れのメスを手に入れたオスは、まず子を殺す。授乳の必要がなくなったメスは、プロラクチンの分泌が止まり、発情することを本能的に知っているのだ。
ボノボはメスに発情周期がないということを除けば、特殊な類人猿ではない。発情周期がないということは「売春可能」ということで、売春の起源はボノボにある。ボノボの「売春」も報告がある。
肺魚やそれを捕らえて呑み込む野鳥も出てきて面白かったが、概して深い比較生物学的洞察に欠ける番組だった。リサーチ不足が原因だろう。
エフロブ「買いたい新書」書評にNo.238: 「神崎亮平「サイボーグ昆虫,フェロモンを追う」を取り上げました。密かにブームになっている本で,少なくとも全国紙4紙が読書欄で書評している。
http://www.frob.co.jp/kaitaishinsho/book_review.php?id=1412207674
わずか100頁あまりの本だが、実に読みやすく興味深い。全体の半分が昆虫とその感覚世界についての「総論的解説」に当てられており,予備知識のない読者にも本論の「サイボーグ昆虫」への下地を与えてくれるためだ。サイボーグとは1960年代に生まれた言葉で生き物と器械の合成体をいう。
地球上には約180万種の生物がいるが,その半数以上を節足動物の昆虫が占める。昆虫は地上でもっとも成功した種なのに,その脳を構成するニューロンは10万個,ヒトの100分の1程度しかない。しかし昆虫独特の感覚器官に媒介されて,その脳が認識する世界は多彩である。ドイツの生物学者ユクスキュル『生物から見た世界』(岩波文庫)の「Umwelt(環境世界)」論を踏まえた,この解説部分は見事である。
1~4章までが総論で図や写真が多用してあり,理解を助けてくれ,この部分はわかりやすい。著者はカイコ蛾のオスがメスの出すフェロモンを嗅ぎ分けて,メスにたどり着くメカニズムに興味を惹かれる。カイコ蛾ではメスが尻の先端のフェロモン腺から分泌する不飽和アルコール「ボンビコール」が主成分で,オスの触覚にある「臭い細胞」がそれを検知することが分かっている。フェロモンという言葉は通俗化して,一頃の「血液型占い」本のようなものが書店に溢れており,正しい「フェロモン概説」としても有益だろう。
この研究の向かう先は二つある。第一は,麻薬探知犬や災害救助犬などよりも優れた「臭い検出サイボーグ」を開発して,実用に供する方向だ。第二は,ニューロン数がヒトの10分の1しかない昆虫の脳の情報処理についての知見を,より複雑なヒトの脳の情報処理に適応して,ヒトの脳の正常と異常をより深く理解する方向だ。著者は後者を目指している。
=Nスペ=
10/12夜、日曜日であることを忘れ、21時にTVニュースを見に母屋に戻ったら、Nスペ「謎の類人猿の王国」をやっていた。ルベンゾリ山脈とかハイラックスの映像を初めて見た。ヘロドトスは『歴史』(Ⅱ-24)に「ナイルの水源は誰にもわからない」と書いている。しかしアラン・ムーアヘッド『白ナイル』(筑摩書房, 1970)は「プトレマイオス地理書には<月の山脈に水源をもち、二つの丸い湖をへて、ナイルとなる>と書かれており、19世紀英国の探検家たちの冒険心を呼び覚ました」とある。この「月の山」が海抜5000メートルのルベンゾリ山で、そこからの水がヴィクトリア湖、タンガニーカ湖をへて、白ナイルになる。
この山の麓に住むハイラックスが出てきた。これはシリアにもいて、日本語ではイワタヌキといい、象とカイギュウ、ジュゴンの共通祖先から進化した。私が大学院生の頃に書いた論文草稿に「象とイワタヌキとセイウチ:進化の多様性の1例」というのがある。形態学的な分類でなく、系統発生に基づいた分類をすべきだ、というものだ。分子生物学が発展したおかげで、50年経ったら「分岐分類学」が主流になった。
ボノボ(ピグミーチンパンジー)の世界が「男女平等で、平和的社会」だというのはいかがなものか。
京大の故西田利貞教授や英国のJ.グドールらはチンパンジーの戦争や捕虜の虐殺を報告している。オナガザル科のハヌマンラングールは子連れのメスを手に入れたオスは、まず子を殺す。授乳の必要がなくなったメスは、プロラクチンの分泌が止まり、発情することを本能的に知っているのだ。
ボノボはメスに発情周期がないということを除けば、特殊な類人猿ではない。発情周期がないということは「売春可能」ということで、売春の起源はボノボにある。ボノボの「売春」も報告がある。
肺魚やそれを捕らえて呑み込む野鳥も出てきて面白かったが、概して深い比較生物学的洞察に欠ける番組だった。リサーチ不足が原因だろう。
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