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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

こちら、自由が丘ペット探偵局-28-

2008年09月19日 | 投稿連載
こちら、自由が丘ペット探偵局 作者古海めぐみ
     28
 春は、青梅からの帰り、午後の閑散とした電車の中
でハルさんがどうして半次郎お祖父ちゃんのことを
そんなに親しく知っているのだろうとシートに座って
ぼんやり考えていた。
息子さんが言う通り全くの虚言だったら、かつて美術
雑誌などでコラムをお祖父ちゃんが書いていたりした
ので自由が丘ネコタ画材店の存在を雑誌広告やコラム
でハルおばちゃまが知って、それが若い頃デートした
という華々しい妄想に発展したままボケちゃったとい
うことになる。
半次郎さんっと唇を尖らせて初めて写真館に来たとき
の嬉しそうに言うハルおばちゃまの姿を思い出すと、
春は霧が晴れた中央線の窓の流れを眺めながら悲しい
気持ちになった。そしてこの日を最後にハルさんが退院
するまで見舞いには行かなかった。

 春が午後自由が丘に戻ってスタジオHALの店を開
けた頃、自由が丘デパートの屋上のペントハウスで
犬飼自由が丘ペット探偵局の電話が鳴り続けていた。
普通だったら健太のケイタイに転送になるハズがこの日
は設定の切り替えを忘れていたのか、ただ虚しく電話
のベル音が長々と鳴り響いていた。
「あのう。上のペット探偵事務所に行ったんですが、
犬飼さんがいなくて・・・」
春が焼き廻し機で注文のあった写真のプリントをし
ようとスウィッチを入れた時、頬のこけた縁談の破局
した田村良弘が立っていた。
「ああ。健太さん?」
「はい。電話かけてもつながらなくて・・」
「あなた、確かナナちゃん捜索していた?」
「田村です。」
「どうしてナナちゃんのこと見捨てるんですか。」
春は、すっかりムラムラと怒りの声色になって噛み
付いた。
「犬だって生きてるのよ。いくら別れた女の人の
ものでも一旦飼い主になったんでしょ。それを知ら
ない、関係ないって、ちょっとないんじゃないの。」
「はいー。」
「どうしてナナちゃんを救ってやらないの。彼女に
京浜島の動物愛護センターにいるって教えてやら
ないのよぉ。」
「はいー、」
「勝手すぎるわ。」
「はい。ぼく、やっぱりナナがかわいそうになって・
・・それで彼女に謝って・・とにかく僕たちの争いは、
一時休止で・・いっしょに京浜島まで行ったんです。」
「そうなの!」
「やっぱナナのペロペロエサをねだって舐めて来る
丸い鼻の顔が寝ててもチラチラ頭から消えなくて・・。
もう殺されちゃうと思うと仕事も手につかなくて・・。
自分、世界で一番悪い人間になった気がして・・ 」
「それで?」
「なんとかナナだけは、救おうと係りの人に申請して
引き取ろうとしたんです。」
「よかったあ。ナナちゃん助かったのね。」
田村は、春の眼を見つめたまま動かなくなった。
「助かったんでしょ?」
田村は、強い春の視線を避けて自動でL判の写真プリ
ントをしているプリンターの上部にある印画紙を送り
出しているカムの正確な動きを無感動に見上げた。
「それが・・」
「それが・・」
「いなかったんです。」
「まさかもうー。間に合わなかったの。」
「・・・・」
「なんてことを!」
「いや、それが、いなかったんです。」
「どういうこと?」
「ガス室に移動中に係員を噛んで逃げた、」
「逃げた!」
「はい。ナナはセンターから逃げたらしいんです。他
の犬のリードも食いちぎっていっしょに。」
「それでー」
「それが昨日のことで未だに行方がわからないんです」
「へーえ。そうなの。ナナちゃん逃げたの。」
「それで本当にあれだけ犬飼さんに怒られて会わす顔
がないんですが、また探してもらえないかと思って
ペット探偵局にやってきたんです。」
「そうですか。」
と春は、カウンターの椅子にどっかと座って健太にケイ
タイをかけた。
何回も呼び出しをしたが、健太のケイタイは応答を返
して来なかった。
おかしいなともう一度チャレンジしてみたがやはり同
じだった。
「健太さん、出ない。」
田村は、汗びっしょりになって春がケイタイを切るの
を見守った。
「どこか又迷子犬を探してるんですかね。」
「今わからないわ。」
 田村良弘はスタジオHALから肩を落として帰って
いったが、それから夜になっても自由が丘デパートの
ペントハウスには明かりが点らなかった。そしてその
ことを訝しがって屋上から降りてきた春が健太のケイ
タイに何回かかけてもやはりつながらなかった。
春は、深夜等々力のマンションに帰る前にキッズロー
ブの上田祐二に電話を入れたが、祐二も健太とは、
奥多摩で一緒に帰って来てから会ってないという返事
以外の情報は得られなかった。
健太のケイタイの電池は生きている。呼び出し音は
確実になるし、圏外や留守にもなっていない。その鳴
りつづけているケイタイは、畑の畝の草むらに虫の音
といっしょにあった。
その畑の向こうには、古い一軒屋が見えた。
そしてそのケイタイの持ち主の犬飼健太は、糞尿臭い
和室の犬のケージが壁の両側に積み上げられている毛
だらけの畳の上で両手両足を縛られて口にガムテープ
を巻かれて苦しそうに転がっていた。しかも額と腕に
は殴られて出来た痣と血の塊がこびり付いていた。
「なんでこんな厄介なものを持って来るんだい。お前は」
ヒステリックな中年女の叫び声がした。
「こいつがオレの車をつけてここまで来たからよお。
とっ捕まえただけだよ。悪いかよ。」
長身の若い男がケージの犬たちにエサをやりながら噛ん
でいたハッカガムを吐き出して反発した。



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良平船長船サブレー~シーちゃんのおやつ手帖64

2008年09月19日 | 味わい探訪
横浜在住のイラストレーター・柳原良平さんが描いた船の形をデザインしたクッキー。
横浜土産にピッタリなので、もっと有名になって欲しいです☆
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