ジョン・ハンターは、18世紀後半の英国で活躍した外科医師である。この当時、外科医は、内科医と異なり医学の専門教育を受けなくてもなることができた。例えば、今から考えると信じられない話であるが、ヨーロッパではジョン・ハンターが活躍した頃の30~40年前まで床屋が外科手術を行っていた。ジョン・ハンターが生まれた1728年頃から外科医と床屋が分離していった。その様な時代背景であったため、ジョン・ハンターは正規の医学教育は受けていない。生まれ故郷のグラスゴーで大工をしていた20歳の時、ロンドンで当時外科医として活躍していた実兄のウイリアム・ハンターに頼んで上京した。
兄ウイリアムは、エジンバラ大学で医学を修得してロンドンで開業していた。当時も今も外科医にとって最も必要な基礎知識は解剖学である。ウイリアムは非常に研究熱心な人物で、機会があれば人体解剖を行って知識を深め、自らの外科治療の技術向上に努めていた。さらに、彼は月謝をとって他の医師への解剖学の教育も行っていた。当然、これは学校とは呼べるものではなく塾のようなものである。ロンドンでジョンはウイリアムの塾の雑用係として働くことになった。
ウイリアムは、当初、ジョンには講義や実習の準備や後の後片付けなどの雑用だけをさせるつもりであったが、ジョンの手先の器用さと人体解剖への好奇心の強さを知り、自分の講義の受講と実習への参加を認めた。ジョンは、ウイリアムの想像通り、最も熱心で優秀な生徒となり、誰よりも高い解剖手技を修得した。時には、ウイリアムの代わりとなって解剖実習を行うこともあった。そのジョンの姿を見てウイリアムはジョンを外科医として育てること決める。