獣医師インディ・ヤスの冒険!

家畜伝染病と格闘する獣医師インディ・ヤスさんのブログです。インディ・ヤスさんはロシア・東欧のオタクでもあります。

大変な政変劇に発展したウクライナ

2014-03-02 15:14:34 | 国際・政治
ウクライナの首都のキエフでは、2月20日、政府の治安部隊と反政府デモ隊が衝突し犠牲者が100人を超えたとも言われる大惨事が起こった。それから僅か10日間のうちにヤヌコビッチ大統領のキエフ脱出とその政権の崩壊、それを受けて議会議長のトゥルチノフ氏が大統領代行に就任した。この暫定政権の成立と共に新大統領の選出のための大統領選挙が5月に行われることになった。また、暫定政権のメンバーは親欧米派で構成され、ヤヌコビッチ前大統領が拒否したEUとの連合協定を結ぶ準備に入ることを発表した。すなわち、ウクライナの現政権は、親ロシアから親欧米に大きく舵を切ったのである。でも残念ながら、これでは全く問題解決にはなっていない。
 まず、第一に今回の政権の交代劇はクーデターと言っても良いからである。ヤヌコビッチ前大統領は2010年の大統領選挙で選ばれた大統領であり、その正当性には疑いがない。この時の大統領選挙は、公正で公平な選挙であったとEUが派遣した選挙監視団も発表している。正当な大統領を権力の座から下ろすのは、通常であれば公平で公正な選挙しかない。自らの意思による辞任、又は死亡や病気でその職務を負えない場合には政権の移譲もありうるが、今回のケースはどちらでもない。
 次に、ウクライナの民族問題が表面化して互いの対立が激化し、内戦又は国の分裂を招きかねない。ユーラシア大陸の中にあるウクライナも多民族国家であり、人口が1万人以上の民族は16にもなる。そのうち、国の行く末を決めることができるのは、ウクライナ系住民とロシア系住民であり、約4,600万人の人口の割合はウクライナ系が7.5、ロシア系2、その他が0.5である。ただし、ウクライナは大河ドニエプル川により大きくは西部地域と東南部地域に分かれており、東部ではロシア系の比率が3割以上になり、南部のクリミア(ウクライナ内の自治共和国)ではロシア系が7割を占める。今回の政変劇は、2010年の選挙でヤヌコビッチ前大統領を強く支持したロシア系住民には許し難い事態であることは間違いない。
以上はテレビでも報道された内容である。しかし、ウクライナ系とロシア系の違いまでは述べられてはいなかった。ウクライナには古代から様々な人々が移り住んでおり、ウクライナ系の定義は難しい。強いて言って「何代にも渡って昔からウクライナに住んできた人々」という程度である。一方、ロシア系についてはかなり限定できる。帝政ロシア末期以降にロシアから移り住んできた人々のことである。特に、ロシア革命後、民族融和の名の下にスターリンの命令で多くのロシア人がウクライナに強制的に移住させられた。そして、ロシア系の人々は移り住んだウクライナで支配者層を形成した。
ウクライナ人とロシア人も共に東スラブ人であり、容姿や言葉から区別することは殆ど無理である。しかし、ソ連時代のウクライナでは役所でも会社でも管理職はロシア人で構成され、ウクライナ人は常にその下の一般従業員でしかなかった。何故このようなことが可能だったのかと言うと、ソ連の社会がロシア人優先の社会であったこと、及びソ連国民の全てが保持しなければならない身分証明書に民族名が書かれていたためである。従って、ソ連時代ではウクライナ系の人々は出生した時から社会的な立場が決まったのである。この恨みがウクライナ系住民に根強くあり、ウクライナは1991年に独立し、さらに反ロシアで親欧米になる要因と言われている。当然ながら、ウクライナ系住民の恨みに対してロシア系住民は反発しており、特にロシア系住民が大多数を占めるクリミアでは何かあるとウクライナから分離、ロシアへの帰属が話題になってきた。今回の政変劇を受けてこれまでのような話題ではなく現実にクリミアがロシアの帰属になることは十分ありえる。
第三に、政権が変わってもウクライナの経済が貧弱で、EUと連合協定を結ぶにはウクライナは大変な苦難を味あわなければならず、特にその影響が大きいのは東部地域である。
親欧米派である西部地域には農業を除けば特にこれといった産業は無いが、東部地域は地下資源が豊富で工業地帯もあり、例えば、ハリコフの重工業地帯やドネツクの炭田が有名である。ただし、そのレベルはEUの求める水準には程遠く、連合協定締結のためには大規模なリストラは避けられず多数の失業者が生じることが予想される。そのような事態をロシア系住民が多く、かつ、親ロシア意識が強い東部地域がすんなり受け入れるとは考えられず、暫定政権への反発は必至であろう。
今後のウクライナの展開を正確に予想するのは専門家にも困難であり、ましてや私が予想するのは全く無理な話である。しかし、問題解決の方法はウクライナ人同士の話し合いで決めることが重要であり、米国、ロシア、EU諸国はできるだけ干渉しないことを望みたい。