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火の鳥

2019-09-12 04:48:50 | Comic
火の鳥
人智を超えた存在である超生命体。炎をまとった鳥の姿をしている。100年に一度自らを火で焼いて再生(幼体化)する事で永遠に生き続ける。他者との会話はテレパシーで行ない、未来を見通す。火の鳥の血を飲めば永遠の命を得る事ができるため、多くの人間がその生き血を求める。呼称は鳳凰・火焔鳥・フェニックス・不死鳥などとも呼ばれる。
時空を超えて羽ばたく超生命体として描かれる。その身体は宇宙生命(コスモゾーン)で形成されており、関わった人々の魂をも吸収して体内で同化し生かし続ける事も可能。話によっては人間との間に子供をもうけていたりもする。『エジプト編』の設定では元々は天上界にいたが人間界に降りたことになっている。火の鳥は一羽だけではなく、『ギリシャ編』ではチロルと呼ばれる火の鳥の娘が登場する。チロルはややわがままな性格をしており、他の編の火の鳥がチロルかどうかは不明。
手塚治虫はストラヴィンスキーのバレエ「火の鳥」を見て、その中の火の鳥の精を演じるバレリーナの魅力に心を奪われたのが本作の漫画「火の鳥」を描くきっかけだったとしている[8]。また手塚はソ連の映画「せむしの仔馬」のファンでもあり、この映画にも「火の鳥」は登場する。
猿田
『黎明編』から『未来編』まで多くの物語に関わってくる共通の特徴を持つ人物の総称。作品ごとに猿田彦、猿田博士、我王(鞍馬の天狗)、八儀家正(八百比丘尼の父)など個別の名前が付けられていることが多い。共通して大きな鼻の持ち主と運命づけられているが、性格や何ゆえにそのような大きな鼻を持ったのかの由来が少しずつ異なる。
猿田彦、八儀家正は「元々醜い顔で、さらに鼻が大きくなった」、猿田博士は「元よりそのような顔と鼻」、我王は「病で醜くなると同時に鼻も大きくなる」、『宇宙編』の猿田は「元より鼻は大きく、さらに醜くなる」、『生命編』/『太陽編』の猿田は「鼻が大きいだけ」など、作品ごとで異なる。鼻が大きい理由も、猿田彦は蜂の群れに刺されたことによるもの、八儀家正は鼻癌であるが、それ以外は原因不明。
始祖である猿田彦の犯した数々の悪行を清算する為に、酷い目に遭う宿命にある。『鳳凰編』では我王が『未来編』の猿田として生まれ変わり、人類の最期を看取ることが描写されている。基本的には、猿田の人物の殆んどはその醜さから女性との縁が無い事が多いが、一部にはその容姿とは関係無しに純粋に正反対の美女に惚れられた者もおり(例えば、猿田彦はウズメに惚れられた。しかも鼻が大きくなってからである)、その女性は後の猿田の名がつく者に繋がるとされる子孫を身籠っている。
この事も含めて、猿田と名が付く者は先述の女性と縁がない一方で何らかの形で子孫は受け継がれているとみられる(生まれ変わりとする説もある)。ただし『未来編』の猿田博士のみは、その容姿ゆえに女性に縁が無い事が明確に描写され、子孫も残していない。『生命編』の猿田も、鼻が奇形になってから女性に縁のないままで命を絶っているため子孫を残したかは不明。
歴代の猿田は才能を持つ者が多く、科学者や指導者といった立場にいる者もいるが、彼らもまた心に弱さを持ち、悪行を行うこともある。
クマソタケル
『黎明編』と『ヤマト編』に登場する熊襲の族長(『黎明編』にて邪馬台国に滅ぼされた当時の族長はカマムシ)。
『黎明編』終盤で主人公ナギの姉ヒナクと邪馬台国の医師グズリの跡取り息子として登場。火山噴火で出来たクレーターの中で生まれ育ち、外界への憧れと近交弱勢への懸念から外界への脱出を決意。火の鳥の激励を受けてクレーターの絶壁を登り切り、外界へ旅立ち配偶者を得る。後に妻と協力してクレーターから両親と弟妹を脱出させる事に成功し、熊襲の復興を成し遂げる。
『ヤマト編』では年老いた初代タケルとその後継者である川上タケルが登場。後者は武勇を尊ぶ熊襲としては珍しく外交と文化に重きを置くインテリで、九州の諸部族の連合とヤマト政権の自己美化を糾弾する歴史書の制作で侵略してくるであろうヤマト政権に対抗しようとしていた。王妹カジカ(少女ながらも単身でツキノワグマを狩る戦士にして狩人である)に文弱を責められているが、本気を出せば妹の稽古相手7人を同時に相手にして完勝する武術の達人でもある。熊襲討伐指令を受けてヤマトからやってきた『ヤマト編』の主人公オグナ(日本武尊)にもその人格と器量の大きさを感服されるも、初代タケルの葬儀の際に最後まで墓前に残っていた処を女装したオグナに暗殺されてしまう。
 川上タケルの記していた熊襲史は暗殺の時点でほぼ完成(全25巻のうち最終巻が書き掛け)しており、「鳳凰編」にも登場している。
山之辺マサト
『未来編』の主人公。35世紀の都市国家メガロポリス・ヤマトの中央本部職員、2級人類戦士で宇宙飛行士。タマミと出会うまでは教条主義者であったとのこと。猿田と共に人類の最期を見届け、なお数十億年の時を経て新たな人類の誕生を待つことを運命づけられる人間。「劇団わらび座」によるミュージカル「火の鳥 鳳凰編」では「鳳凰編」に登場する茜丸がその生まれ変わりとする解釈をした。ただし、これは「鳳凰編」中において茜丸が死亡するシーンで「茜丸は二度と人間に転生することはない」と火の鳥が告げていることと明らかに矛盾している。手塚の遺作である1989年の舞台劇「火の鳥」では主人公の名前が「山辺マサト」で同姓同名である。
ムーピー
いかなる厳しい環境にも耐え得る生命力を持つ不定形宇宙生物。変身能力を有し、人型をとり人間の社会に溶け込むことができるが、その能力から人気が高く人に狩られてしまうため、どこかの星でひっそりと暮らしている。『未来編』では一種のテレパシー能力を用いた「ムーピー・ゲーム」が人類を堕落させるとして、保有を禁止されたペットであり、メガロポリス・ヤマトでは1匹残らず処分するよう命令が出されている。「未来編」の主人公山之辺マサトの恋人タマミがそのムーピーだった。寿命は人間より遥かに長く、500年位は生きられる。
『望郷編』では人間とムーピーのハーフが登場する。ハーフ達は視力と耳朶(聴力)が無く、代わりに触角が生え、これで感覚を認識している。
ロック
『未来編』などに登場。『未来編』ではメガロポリスヤマトの中央本部職員、1級人類戦士。エリートで、同期でありながら総合審査によって自分の部下となった「未来編」の主人公マサトに対して敵意を向けるが、戦争を嫌い『未来編』において人間の愚かさを見事に演じ切ったキャラクターでもある。試験管ベビーとして誕生したので両親はわからず、本人に言わせれば自分を生み出した精子と卵子を選んだ中央コンピュータ「ハレルヤ」こそが親である。「火の鳥2772」では科学センターの長官として登場。1989年の舞台劇『火の鳥』では主人公の兄であり、恋敵の設定。 未制作の映画「火の鳥(第二部)」では地球連邦の移民局の長官として登場予定だったことがシナリオで残されている。プロットのみの『大地編』では主人公の一人として登場する予定だった。
ロビタ
初出は『未来編』。同時代には人間、あるいは自然動物と何ら変わらぬ外見のロボットも存在するが、ロビタは二本指で、足もなく臀部で滑って移動するなど、構造は非常に単純で「旧式ロボット」とされるが、まるで人間のように感情がこもった会話をし、猿田博士にしばしば諫言するなど、ロボットらしくない行動を取る。猿田脱出用のロケット整備をしていたところ、ロックにロケットを貸すよう脅迫され、断ったところ銃で破壊されてしまう。
『復活編』において、その誕生と理由が描写される。主人公のレオナとチヒロが結ばれて誕生したロボット。電子頭脳が大きくなりすぎて重心が頭部に偏ってしまったためバランスが悪く、二足歩行を断念し両脚は取り外され、「摩擦よけの車」と表現される臀部のベアリングで滑るように動く事となった。一方でレオナの精神と記憶を受け継いだ為、普通のロボットと違い人間臭い感情を持つ。稼動限界の後に業者が引き取って、その構造を模して記憶をコピーした物が量産される。その後、技術の発展でより精巧なロボット(ロビタや前身のチヒロと違い、人間に極めて近い構造)が作られても、ロビタはその人間臭い感情によって多くの人間に好まれ数世紀に亘って量産される。その一方でロボットを人間の道具と考える人間にとっては極めて不快な存在でもあった。
31世紀頃、ある子供が親や家政婦よりも懐いているロビタに会いに放射能農場に迷い込んだために死亡。怒り狂った親から「ロビタが殺した」という冤罪を受け、数十年間裁判を繰り返した結果、個体ナンバーを特定できなかったという理由から、事件発生時に農場で働いていたロビタ全員が溶解処分される。同胞をそのような形で失った世界中のロビタは集団自決を行い、稼動可能な物は全て溶鉱炉に身を投じる。しかし月面にいて集団自決に参加できず、エネルギー回路切断による自決を選んだ最後の一体のロビタは、35世紀に猿田博士に救助され、『未来編』へとつながる。
牧村五郎
『宇宙編』『望郷編』で登場するアストロノーツ(宇宙飛行士)。生まれた時からアストロノーツとなる事を宿命づけられ、外宇宙に地球由来の細菌を持ち込まないために、無菌室で成長する。初恋の女性に裏切られた事がトラウマとなり、女性に手が早くかつ冷酷である。その初恋の女性の幻(ホログラム)に惑わされる形で異星人を虐殺、その罪により火の鳥から、若返っては赤ん坊に戻り、再び成長して大人に戻っては若返るというサイクルを繰り返し、流刑星で永遠に生き続けなければならない罰を受けている。赤ん坊に戻っている間は、「ケース」と呼ばれる自身の姿を模した等身大の人型ロボットに乗り込み操縦をしている。時系列的に見て恐らく罰を受ける前である『望郷編』において、地球に帰郷する途中のロミと出会う。映画「火の鳥(第二部)」のシナリオでは主人公の名前が「牧村壮吾」であるが関連性は不明。
チヒロ
精密機械局で作られた量産型の事務ロボット。2545号は『望郷編』にて地球に不法侵入したロミとコムを助け、61298号は『復活編』でチヒロが美少女に見えるようになった主人公レオナと出会い、愛の感情を得る。『望郷編』時のチヒロ2545号の発言によれば、チヒロ型の仲間は13,692,841体、他の型も合わせると世界に1,277,554,539体の仲間がいる。映画『火の鳥(第二部)』のシナリオでは同名の人間が登場しており、レオーナと言う男性と娘(ヒロイン)をもうけている。二人は「エデン17」という惑星で暮らした。
八百比丘尼
『異形編』『太陽編』に登場。その正体は戦国時代の女性・八儀左近介である。彼女は成り上がりの領主である父・八儀家正から虐待を受けつつ「跡継ぎの男子」として育てられた。やがて彼女は家老の息子と恋愛関係になるが、家正は彼を討ち死にに追い込んでしまう。父を恨む左近介は家正が致死性の鼻の病に罹患したと知り、その治療を行わせないため、万病を癒すと評判の八百比丘尼を始末すべく山の庵「蓬萊寺」に向かう。比丘尼は己の運命を受け入れ、笑いながら斬られ死ぬ。その折、蓬萊寺を包んだ暴風雨(時空の乱れ)で道が閉ざされ、左近介は比丘尼の蓬萊寺に閉じ込められる。やがて、比丘尼の治療を請う村人らが何も知らずに訪れ始め、左近介はやむなく比丘尼になりすまして、火の鳥の羽で人々を癒して日々を送る。やがて己が比丘尼を殺めた罪で過去の世界に流されたこと、そしていずれ来訪する「左近介」に殺される定めを永遠に繰り返すのだと悟る。左近介は取り乱して嘆くが、やがてこの理不尽な罪と罰を受け入れ、人のみならず異形の妖怪までもを癒す寛大さを持つようになり、名実ともに八百比丘尼として己の死をも笑って受け入れた。
『太陽編』で、霊界の戦いで傷ついた神々の手当てを行っているのは、負った罪を清算する方法であると語られている。

黎明編(漫画少年版)
初出:『漫画少年』(1954年7月号 - 1955年5月号)未完
主人公のナギの父親は重病に罹患していた。もし上空にある「血の星」という星が沈むまでに父の病が完治しなければ、村のしきたりにより父親は村人たちに食べられてしまう。悩みぬいたナギが長老に相談すると、父親の病気を治すには「火の鳥」という鳥の生き血が必要と教えられる。ナギは火の鳥を訪問し、運良く生き血を貰う。しかし、ナギが村に帰る頃には「血の星」はすでに沈み、父親は村人に食べられてしまっていた。行き場を失った火の鳥の生き血は仕方がないのでナギと妹のナミが飲むことになった。やがて村はさらに豊かな土地へと引越しするために船を出すが、嵐のためナギとナミは難破し知らない島国に流れ着く。その知らない土地は原住民が住んでおり、火の鳥の生き血を飲んでいて死なない体の二人は彼らに神様と崇められる。主人公のイザ・ナギと妹のイザ・ナミは原住民から天照大御神(あまてらすおおみかみ)の名前を貰う。その後、二人は原住民の長である卑弥呼に出会うが、卑弥呼が岩戸の中に入るところで雑誌休刊のため未完に終わった。
エジプト編
初出:『少女クラブ』(1956年5月号 - 10月号)
紀元前1000年頃。主人公のエジプトの王子クラブは、父親の命令により、飲めば3000年の命が貰えるという火の鳥の血を求めて旅に立つ。しかし、その間に王家を乗っ取ろうと考えていた王女(クラブの継母)は王と王子を殺そうと計画する。旅に出たクラブは、もう一人の主人公である奴隷のダイアと出会う。ダイアの国はクラブのいるエジプト軍に滅ぼされ奴隷として育てられていた。やがてクラブとダイアは恋に落ち火の鳥を探す旅を続ける。そして二人は火の鳥の卵を洪水から救い、代わりに火の鳥の生き血を貰う。しかしクラブは王女の部下に殺され、ショックを受けたダイアも後を追って自殺する。
ギリシャ編
初出:『少女クラブ』(1956年11月号 - 1957年7月号)
エジプト編の続き。
殺されたクラブとダイアの死体は300年経ちナイル川に流され、ギリシャの海を彷徨っていた。そしてダイアの死体はトロヤ軍の船に引き上げられ、クラブの死体はスパルタの海岸に打ち上げられた。火の鳥の血を飲んでいた二人はそこでそれぞれ目覚める。クラブとダイアはスパルタの宮殿で偶然出会うが、二人は記憶をなくしていた。しかし、二人の心は何故か惹かれ合い「きっと前世では兄妹だったのだろう」と決め兄妹として愛するようになった。やがて二人はトロヤとスパルタという敵同士の国に運命を引き裂かれ、トロイア戦争に巻き込まれる。そして悲劇が起き、トロイの木馬によってダイアは潰され死亡する。クラブは悲しみのあまりダイアの死体を抱え海に飛び込み死亡する。
ローマ編
初出:『少女クラブ』(1957年8月号 - 12月号)
ギリシャ編の続き。
海に飛び込み溺死したクラブとダイアはユリシーズによって死体を回収され長い間ギリシャの宝物庫に保管されていた。しかし、300年経ちローマのシーザーがギリシャを制圧すると、シーザーの部下・アンドロクレスによって2人の死体は引き取られた。ローマへと渡った死体は火の鳥の生き血のおかげで生き返り、アンドロクレスに兄妹として育てられた。2人の暮らしは平和そのものであったが、そんな暮らしも長く続かず、ダイアはローマの暴君ネボケタスによって無理矢理妻にされそうになる。2人は抵抗するが、代わりに死刑を宣告され、闘技場に追い込まれてライオンの餌食となりかける。
黎明編(COM版)
初出:『COM』(1967年1月号 - 11月号)
3世紀の倭(日本)、ところは熊襲。主人公のナギの姉ヒナクは破傷風にかかり、生死の境をさまよう。ヒナクの夫であるウラジは妻を助けるため火の鳥の生き血を求めて火の山に入るが、火の鳥の炎に包まれ死んでしまう。そんな折、村の海岸に漂着した異国の医師グズリが現れ、最新の医学知識でヒナクを救う。やがてグズリとヒナクは恋に落ちる。ところが婚礼の夜、グズリの手引によって、多数の軍船から猿田彦率いる防人の軍団が上陸。グズリはヤマタイ国のスパイであった。村人は虐殺され、ひとり生き残ったナギは猿田彦を襲撃するも捕えられる。猿田彦はナギの勇気を称え奴隷としてヤマタイ国に連れ帰り、狩り部(猟師)に鍛え上げる。ヤマタイ国がクマソを侵略した裏には、老いた卑弥呼が火の鳥の血を欲していたという事情があった。
本作は未完に終わった「漫画少年」版の黎明編を基に大幅に内容を変え連載したもの。大和朝廷の成立については、定説ではなく本作品執筆時に話題になった江上波夫の騎馬民族征服王朝説を採用している。その後何度か描き直されており、後年の版では主人公たちを襲う様々なスタイルの狼の中に、「ファミコン型」や「赤塚不二夫型」等も登場する。また日食の場面では太陽の欠け方が間違っており、手塚本人によって単行本では正しい日食の欠け方へと修正されている。今では、黎明編といえば普通は漫画少年版ではなくてCOM版のことをさす。
TVアニメ版では幼少期の猿田彦のシーンが追加され、卑弥呼に忠誠を誓った経緯が分かるようになっている。
未来編
初出:『COM』(1967年12月号 - 1968年9月号)
西暦3404年。時間軸で考えた場合の火の鳥の結末にあたる作品。人類は25世紀を頂点として衰退期に入り、文明も芸術も進歩が少しずつ停止、人々は昔の生活や服装にばかり憧れを抱くようになり、すでに30世紀には文明は21世紀頃のレベルまで逆戻りしていた[9]。地球人類は滅亡の淵にあり、他惑星に建設した植民地を放棄し、地上は人間はおろか生物が殆ど住めない世界となっていた。人類は世界の5箇所に作った地下都市“永遠の都”ことメガロポリス「レングード」(レニングラード:ソ連)「ピンキング」(北京:中国)「ユーオーク」(ニューヨーク:アメリカ)「ルマルエーズ」(マルセイユ:フランス)「ヤマト」(大和:日本)に移り住み、超巨大コンピュータに自らの支配を委ねていた。しかし、そのコンピュータも完璧な存在ではなく、コンピュータ同士で争いが起き、メガロポリス「ヤマト」と「レングード」の対立[10]から核戦争が勃発した。その結果、対立関係とは無縁だった残りの3都市までもがなぜか超水爆で爆発し、地球上に5つあった全ての地下都市が消滅。人類が滅亡してしまう[11]。生き残ったのはシェルターに居た主人公の山之辺マサト、そして猿田、ロック、タマミのみであった。その後、山之辺マサトの意識は体外離脱し、火の鳥により、宇宙の構造と、人類の滅亡が生命の歴史のリセットを目的として実行されたことを告げられ、生命を復活させ正しい道に導くために永遠の命を授かる。他の者が次々と放射能の作用や寿命が尽きて死んでいく中で、山之辺マサトだけは永久に死ねない体のまま苦しみ、悶えながら生き続ける。途方も無い時間をたった一人で過ごす中で、マサトは地球の生命の復活を追究し続け、やがて一つの答えにたどり着く。
本作は結末が黎明編へ繋がるような展開となっており、読む順番を最初にしても、最後にしても問題が無いような作りになっている。また雑誌版では第一話の最後でマサトとムーピーが火の鳥に会うというシーンがあったが、単行本ではカットされている[12]。
なお、NHKアニメ版では本作が最終エピソードとされたが、尺の都合及び倫理的理由のため内容が大幅に削除・変更されている(マサト達がドームに来る以前の物語はカットされ、後半もナメクジの進化―滅亡エピソードを全カットなど大幅に内容を変更している)。
ヤマト編
初出:『COM』(1968年9月号 - 1969年2月号)
4世紀頃の倭(日本)。古墳時代。主人公のヤマト国の王子ヤマトオグナは、父である大王からクマソ国の酋長川上タケルを殺すことを命じられる。その理由は川上タケルが真実を書いた歴史書を作ろうとしているからであった。大王は、自分たちは神の末裔であるとする嘘の歴史書を作ろうとしていたため、川上タケルがやろうとしていたことは不都合であった。オグナは川上タケルの妹であるカジカと出会い恋に落ちるが、迷いながらも父の言いつけ通りに川上タケルを殺す。タケルは死に際に「わしの名前をやろう。これからはヤマトタケルと名乗るがいい」と名前を譲る。愛したカジカに、仇として命を狙われる事となったタケル。二人の愛はやがて悲劇へと向かって行く。
本作は『古事記』・『日本書紀』の日本武尊伝説と、日本書紀の垂仁紀にある埋められた殉死者のうめき声が数日にわたって聞こえたという殉死の風習と埴輪にまつわるエピソードを下敷きにしている。殉死者が死ななかったのは火の鳥の血の効果であるとし、期間も1年にわたっての事とした。石舞台古墳造営にまつわるエピソードがあるが、史実ではもっと後代の古墳であり、殉死者が埋められているという事も無い。オグナは日本神話のヤマトタケルがモデル(「倭男具那命」-「やまとをぐな」はヤマトタケルの別名)で、川上タケルは川上梟帥がモデル。本作に登場するクマソの国の長老は黎明編の最後で崖を登り切った青年であり、彼の子孫が繁栄しクマソ国へと発展している。
雑誌掲載版と単行本版では、手塚により細かな修正が行われている。ヤマト編は時事ネタが多かったため、単行本ではセリフの手直しが多い。作中で川上タケルは、"長島"なる部下に「王」と呼ばれている。これは初出時には川上タケル=川上哲治として、クマソを巨人軍に見立て、その部下の長島=長嶋茂雄という洒落であったが、川上が監督を引退したので、川上タケルを王貞治に見立てる内容に改稿したためである。雑誌版では川上タケルがオグナを出迎えた場面で、手塚の学生時代の体験談である「日本とアメリカが都合のいい様に相手国を中傷していた」という2ページに渡った内容があったが、単行本時に省かれている。
OVA版はほぼ原作に準じているが、原作の時代設定を無視したギャグや歴史書に関するくだりは削除されている。
宇宙編
初出:『COM』(1969年3月号 - 7月号)
西暦2577年。主人公達5人は、ベテルギウス第3惑星から地球へ向かうために宇宙船で人工冬眠を行いながら宇宙を航海していた。しかし宇宙船は操縦者である牧村五郎の自殺によって事故に遭う。その事故により船は大破、乗員はすぐに宇宙船から離れないと危険な状態であった。乗員は人工冬眠から目覚め宇宙救命艇で脱出する。救命艇は一人乗りの小さな緊急用の物で、4人はバラバラに宇宙に投げ出されるような形になった。救命艇にはそれぞれ無線通信機が付いており、彼らは宇宙に漂いながら会話を始める。その内容は過去に起きた牧村五郎に関するものであった。やがて彼らの乗る4つの救命艇に謎の救命艇が近づいていく。果たしてその救命艇には誰が乗っているのか。
本作では、どうして猿田が過去から未来へと延々と苦しみ続けているのか、その理由が語られる。
また本作がOVA化された時には、牧村とナナと奇崎が出会うシーンが追加され、隊長の死亡理由の変更、牧村がラダを殺す動機の変更、牧村が不老不死になる過程の変更など、全体的にストーリーは変えないまでも細かな演出がより現実的になっている。また、オリジナルのラストシーンが追加されている。
鳳凰編
初出:『COM』(1969年8月号 - 1970年9月号)
奈良時代。主人公の一人、我王は誕生直後に片目と片腕を失っており、心に影を持ちながら殺戮と強奪を繰り返しながら生活していた。もう一人の主人公である仏師の茜丸は、旅先で我王に利き腕を傷つけられ仏師としての生命の危機に追い込まれる。その後、我王は速魚という女性と出会って愛を知るが、彼女を信じ切れず些細な誤解から殺してしまう。しかし彼女の正体を知った時、激しい後悔に襲われることとなる。後悔の中、彷徨い続ける我王は良弁僧正と出会い、怒りを糧としながら仏師としての才能を開花させる。
一方、茜丸もまた負傷して以来、彼を慕う少女ブチとの出会い、仏師としての栄達などを経て少しずつその心と運命が変化していく。そして、それぞれに変わった二人は、国を挙げて建立されていた東大寺の鬼瓦製作という大勝負の場で再会する。
本作は、生まれながらに苦しみ続けるがその中で次第に悟りを得ていく我王と権力の庇護を得て慢心し堕落していく茜丸の対比、東大寺大仏建立の真相、輪廻転生といった深い題材を取り上げている。火の鳥は茜丸が鳳凰の像の制作を命じられることで物語に関わってくる。しかし、史実では橘諸兄によって重用されている吉備真備が政敵として対立する、良弁僧正が即身仏となるなど、史実と改変された点も多々見られる(良弁については作中でギャグ的にではあるが、朝廷がその死を隠す様に指示しているというフォローがなされた)。一方で作中で我王と茜丸が作った鬼瓦は、同じ意匠のものが東大寺に実在する。
雑誌掲載版では、我王が泥を壁に投げてヒョウタンツギの絵を作るというお遊びのシーンがあったが、ストーリーに無関係なため、単行本では手塚本人により省略されている。
劇場アニメ化された時は60分という尺の短さから大幅に内容を短縮され、我王は速魚を殺した後は最後の対決までほとんど登場しない。また原作では比重の大きかった良弁僧正が一切登場せず、二人の心理変化もあまり描かれず、主人公の一人がもう一人の主人公の墓を彫る(弔う)というラストシーンもカットされている。
復活編
初出:『COM』(1970年10月号 - 1971年9月号)
西暦2482年。主人公の少年レオナはエアカーから墜落した。レオナは最新科学の治療で生き返るが、人工細胞で脳を補うという方法だったため認識障害を起こす。具体的には、有機物(生命体)が無機物(人工物)に見え、無機物(人工物)が有機物(生命体)に見えるようになるというもので、レオナには人間が奇妙な無機物の塊にしか見えなくなってしまった。そんなある日、レオナは街で美しい少女を見かける。彼にとって唯一普通の人間に見えるその少女に心ひかれ追いかけるが、彼女の正体は人間とは似ても似つかぬ旧式ロボットであった。やがて過去の記憶を辿る内に、墜落死の原因がかつてアメリカにおいてレオナがフェニックス(火の鳥)の血を入手したという過去がからんでいる事も判明した。だが、認識障害が改善されても、ロボットのチヒロを人間の女性と認識し愛する事に変わりは無く、ついにレオナはチヒロと駆け落ちしてしまう。そして再び瀕死の重傷を負ったレオナは、ある決断をする。
一方西暦3030年、旧式ながら通常のロボットとは異なる奇妙な人間味を持つロボット・ロビタが、溶鉱炉へ飛び込んで「集団自殺」するという異常事態が発生した。それはなぜなのか、そして月面の貨物施設で酷使される最後のロビタの運命は。二つの物語は、やがて意外な形で収束する。
本作では「未来編」に登場するロビタの誕生が描かれ、ラストシーンにおいて繋がるようになっている[9]。また雑誌掲載版と単行本版では2484年から3009年、さらに3030年へと行き戻りする物語の順番が手塚により一部修正されている。
NHKのテレビアニメ版では大幅に内容を変更し、主人公の設定を変え、新キャラや新ヒロインを登場させ、さらにロビタが登場するパートを全カットして、ほぼ別物語に仕立てている。
羽衣編
初出:『COM』(1971年10月号)
10世紀、三保の松原。主人公の漁師のズクは家の前にある松の木に、薄い衣が引っかかっているのを見つける。すぐさまそれを手に入れ売ろうとするが、衣の持ち主である女性・おときが現れ、ズクは彼女を天女だと思い込む。ズクは衣を返すことを引き換えに、3年間だけ妻として一緒に暮らすことを約束させる。
本作は天の羽衣の伝説が元になっており、舞台で演じられる芝居を客席から見たような視点で描かれている。また羽衣伝説を基に描いているが、おときの正体は天女ではなく未来人であり、羽衣の正体は未来の技術で作られた謎の物体である。最後はひとり残されたズクが、この物体を数千年後の未来へと託すために地面に埋めるところで終わっている。短い作品であるが、「放射能[13]の影響で奇形で生まれた赤ちゃんを嘆いて殺そうとする」という表現についての問題や作者の意向があり、1980年まで描き直されるまで単行本化されなかった。本来は「望郷編(COM版)」と関連する話であるが、1980年に単行本化される際、全ての文章を手塚が書き直し独立した話になっている[14]。そのため、本来ならば最後に埋めた物体の正体がCOM版「望郷編」で語られたはずが、そのままになっている。
望郷編(COM版)
初出:『COM』(1971年12月号)・『COMコミックス』(1972年1月号)
城之内博士は人類の歴史をやり直すため、人間も植物も動物も全てクローンで賄われた「第二の地球」を創りだした。城之内博士の娘「時子」は、戦争から逃れるために4次元航空装置で「羽衣編(COM)」の時代へ逃げていた。時子の正体は実は羽衣編の「おとき」であり、本作は彼女が未来へと戻ってくるところから始まる。時子には放射能のせいで奇形で誕生した赤ちゃんがいた。しかし、時子に恋心を抱いていたジョシュアという男は城之内博士を殺し、4次元航空装置を奪い、奇形の赤ちゃんを池に投げ捨て、時子を連れ本当の地球へと旅立つ。赤ちゃんは生きており、クローン動物から「コム」と呼ばれるようになる。
本作はCOMの休刊によって[15]、未完のまま中断される。放射能障害を描いたCOM版「羽衣編」を前提としているため、「羽衣編」改稿に伴い、構想を新たに関連のない物語として『マンガ少年』版「望郷編」が描かれ[16]、この版は未完のままで長く単行本に収録されることがなかった。復刻版でも絵と会話の内容が一部変えられている。放射能という単語が削除され、生まれた赤ちゃんであるコムの角は一角獣のようであったが復刻版ではメロンのような触覚に替えられた。また前後を大幅にカットした短縮版が『マンガ少年』に掲載されたこともあるが、そちらの短縮版はまだ一度も単行本化・書籍収録されたことはない。
乱世編(COM版)
初出:『COM』(1973年8月号)
平安時代末期。主人公である猟師の「まきじ」は実の妹である「おぶう」と体も心も愛しあう関係であった。ある日、まきじは山で死にかけていた一匹の猿を救った。それはまきじが普段「赤坊主」と呼んでいたボス猿であった。どうやら赤坊主はハンニャとよばれる猿と争って負けボスの座を奪われたようである。まきじは瀕死の赤坊主を手当する。まきじは体の治った赤坊主と一緒に京都へ仕事に行くと、赤坊主をめぐり路上で役人と衝突。危ういところを名僧である明雲に助けられる。明雲の忠告もあり、まきじは赤坊主を山へ返そうとする。
本作は後の「乱世編」の元となる話であるが、『COM』が再び休刊したことにともない連載中断している。主人公の「まきじ」は後の「マンガ少年」版の弁太の原型であるがほっそりしている。また、まきじとおぶうは兄妹でない設定に変わった。猿と子犬のエピソードは「マンガ少年」版に流用されているが、二匹の名前が変えられており、天狗に育てられた話になっている。
望郷編(マンガ少年版)
初出:『マンガ少年』(1976年9月号 - 1978年3月号)
時代は宇宙時代。自然が失われ続ける地球に絶望した主人公ロミと恋人のジョージは、強盗で得た金で宇宙不動産会社から小さな惑星エデン17を買い、移住する。しかしそこは地震が頻発し、荒廃した惑星であった。悪徳業者に置き去りにされ、ジョージは事故で死に、ロミは残された息子と結ばれることで生命を繋ぐ決断をする。しかし近親婚の影響で女児を得ることができず、ロミは唯一の女性として、息子と結婚して子供を産んでは冷凍睡眠を繰り返す事となった。やがて小さいながらもロミと息子たちのコミュニティが築かれていくが、兄弟同士の諍いから恐るべき計画が持ち上がり、それを聞かされたロミは絶望して睡眠装置に閉じこもってしまう。彼女を憐れんだ火の鳥は、ロミの夢に呼びかけ、異星人との混血をすすめた。火の鳥の働きかけによりムーピーがエデン17へ訪れ、ムーピーとの混血の新しい種族が繁栄していく。ロミが数百年にわたる眠りから目覚めた時、エデンには心優しく素朴な人々の住む、平和な文明が育っていた。ようやく心の平安を得たロミは、エデンの女王として人々に慕われ、静かに老いていくが、次第に地球への望郷の想いを募らせ、コムという少年と共に地球を目指す旅に出る。その旅先で、ロミは宇宙パトロール隊員の牧村と出会う。しかし牧村の任務は、地球に不法入国しようとする帰還者たちを阻止すること、即ちロミたちを殺すことだった。
本作は『COM』版の「望郷編」(未完)との関連はほとんどなく、唯一、被爆した少年コムだけが、ムーピーと地球人との混血児という設定で再登場している。
手塚本人により何度も描き直されており、雑誌掲載版・朝日ソノラマ版・講談社版、角川書店版の各単行本では大きく内容が異なる。雑誌版では地球到達までのロミの顔は老婆のような状態だったが、朝日ソノラマ版では若く描き直されている。単行本ではフォックスと呼ばれるブラック・ジャックに似た男がロミを自然が残った場所へと連れて行くシーンが追加された。また雑誌版ではロミは牧村に撃ち殺されるが、単行本では若返りの副作用のため死んだことになっている。ラストシーンも牧村がロミのために星の王子さまを読むという場面が追加された。ロミとジョージの声が最後に聞こえるシーンも単行本で加筆されたもの。また角川版ではロミとジョージの出会いのシーンを冒頭に移動し、展開を早くするため宇宙船に他の宇宙人が搭乗する場面を省き、地球に向かう途中に立ち寄る星に違うものがあったりするなど内容が異なる。また、本作は火の鳥全シリーズ中で最も手塚による加筆・修正が多い編であり、雑誌掲載版、角川書店版、朝日ソノラマ版・講談社版では上記以外でも100ページ以上の変更がある。特にムーピーと人間との混血が生まれる場面はそれぞれ設定が異なる。今日では望郷編と云えば、普通はCOM版ではなくてマンガ少年版のことを指す。
乱世編
初出:『マンガ少年』(1978年4月号 - 1980年7月号)
西暦1172年。平安時代末期。平安京近郊の山村に住む木こりの弁太は、恋人おぶうと愛を育んでいた。ある日、薪と猪の皮を売りに都へ行った弁太は役人とトラブルを起こすも高価な櫛を拾い、おぶうへとプレゼントする。ところが、それは藤原成親の持ち物であった。弁太一家は成親の一味と見なされて焼討に遭い、弁太の両親は斬られ、さらにおぶうの父も殺害された。弁太は連れ去られたおぶうを追って都へと出向くが、その先で源義経の仲間にされてしまう。義経は一見したところ美貌の英雄だが、その実は平家打倒の目的のためならば非情な行いも平然とやってのける没義道な男であった。一方おぶうは平清盛の侍女となる。悪名高い清盛は、実は世間の荒波と家中の乱暴狼藉の板ばさみに苦悩する小心な老家長であった。そしてその清盛には、大陸からもたらされた火の鳥を隠し持っているという噂があった。
本作は源平の抗争に巻き込まれた二人のすれ違いの運命を追っていき、源平の抗争や源頼朝・義経兄弟の相克には、火の鳥の争奪が関わっているという筋立て。弁慶伝説を下敷きとする。「鳳凰編」の我王も義経の師匠鞍馬天狗として登場している。本作では英雄として名高い義経が非情な人間として描かれるが、その行為は文献に準ずるものもある(例えば民家への放火など)。清盛は残虐な面も描かれるが、平家一門の身内の増長に対しては逆に叱責したり、また大仏の焼き討ちなど自らのやり過ぎを後悔するなど、人間らしい面が描かれる。なお、この乱世編では手塚の実の先祖でもある手塚太郎光盛が手塚の自画像と似せて登場する。
手塚により何度も描き直されており、雑誌掲載版、角川書店版、朝日ソノラマ版・講談社版では大きく内容が異なる。特筆すべき大きな変更は犬と猿のエピソードは本編の途中(天狗が死ぬ場面)に存在したが、朝日・講談社版ではラストに移動し、犬と猿が義経と清盛の転生後という設定になっている。その中では犬と猿が人間だった頃の思い出(義経と清盛だった頃)を思い出すという内容が追加された。また角川版では犬と猿のエピソードは冒頭に移動され、物語の序章として扱われている。さらに弁太が義経を丸太で自慢の顔を潰して殺す場面は角川版では藤原泰衡軍の弓矢で死ぬ場面に変えられている。この他、細かな変更も多い。
生命編
初出:『マンガ少年』(1980年8月号 - 12月号)
2155年。主人公のテレビプロデューサー青居は、クローン人間を使った殺人番組を考案する。クローンを使えば法律の抜け穴をついて合法的な殺人が行え、それを番組にすれば視聴率が取れると考えたためである。青居はクローン技術の工場があるペルーに向かうが、なんと自分自身が大量生産されてしまう。そして日本に連れて帰られた大量の青居は、皮肉なことに自分自身が他のクローンとともに企画した殺人番組の標的にされることになった。青井は番組初回に駆り出され、大量の青井が殺される中で左腕を失いながらも追手から逃れた後、逃亡中に出会った少女と生活を始める。
単行本では手塚による修正が入っている。まずサイボーグのおばあちゃんは雑誌掲載版では本当に生きたおばあちゃんであったが、朝日・講談社版では見るからにロボットの姿へと変更された。また鳥の顔をした女性は、雑誌掲載版では本当に火の鳥の顔をしていたが、単行本版では人間と火の鳥の中間的な顔つきへと修正されている。エンディングも全く異なり、雑誌掲載版では青居はテレビ番組内で殺されるのに対して、単行本版では青居がクローン人間培養工場を爆破するエピソードが追加されている。また雑誌版では主人公の青井は最後にはっきりとクローンと断定されるのに対して、単行本ではクローンではなく失った指から本物の青井であったと思えるような描写になっている。
異形編
初出:『マンガ少年』(1981年1月号 - 4月号)
戦国の世(室町時代)。主人公の左近介は本来は女であったが、幼少の頃より父に男として暴力をもって育てられた。その左近介の父は応仁の乱の功績で名をあげた残虐非道の男であり、左近介は父を憎んでいた。ある日、左近介の父の鼻に「鼻癌」と思わしき症状が現れ苦しんでいたところ、それを治せるという尼「八百比丘尼」が現れた。左近介と父は、まるで老いた左近介のような八百比丘尼の姿に驚く。父に恨みを抱いていた左近介は、治療を阻止するために、寺を訪れ八百比丘尼を殺す。だが、殺害を終えた左近介は不思議な力に阻まれ、寺から出られなくなる。八百比丘尼の治療を求める近隣住民たち、さらには人外の異形の者たちが次々と寺を訪れ、左近介は心ならずも比丘尼の身代わりとして治療に従事する羽目になるが、そこから恐ろしい因果応報が左近介に巡ってくる。
本作は八百比丘尼伝説を下敷きにしている。雑誌掲載版と単行本とでは結末に大きく加筆がされ、主要登場人物が最後に切られるという大事な場面は単行本で追加されたもの。その他にコマの入れ替えやページの組み換えなど細かな修正が多い。雑誌版と初期の単行本では、治療に訪れる異形の患者は宇宙人(火の鳥が他の星の生き物である事と、その理由を説明する)だが、後の版では「太陽編」へと繋げるために、治療される対象は妖怪になり、絵も妖怪に近いデザインに改められている。
NHKアニメ版では、唯一ほぼ変更なしにアニメ化されている(NHKアニメ版は父子関係の相克を重視する路線で製作されており、本作はその路線に適合していた)。
太陽編
初出:『野性時代』(1986年1月号 - 1988年2月号)
7世紀と21世紀(2009年)の2つの時代を交互に描いた物語。西暦663年、主人公の一人ハリマは百済の王族の血を引く存在であったが、白村江の戦いで敗れ、顔の皮を剥がされ、その上に狼の顔を被せられた。狼の皮はハリマの顔に張り付き、本来の皮膚と同化して取れなくなってしまった。ハリマが倒れているところを占い師のオババが助け、逃げるために将軍・阿部比羅夫と共に倭(日本)に渡る。ハリマは倭では犬上宿禰(いぬがみのすくね)と名乗り、狗(ク)族の少女マリモとの出会いを経て、やがて壬申の乱に巻き込まれてゆく。壬申の乱は世俗での権力闘争であると同時に、外来宗教である仏教と日本土着の神々との霊的な戦いでもあった。
一方、21世紀の日本は「火の鳥」を崇拝する宗教団体「光」一族に支配されていた。もう一人の主人公である坂東スグルは幼い頃から「光」によって地下街に荒廃した環境で生活させられ、スグルはその中の反「光」団体「シャドー」に属したテロリストとして冷酷な人殺しを繰り返していたが、ある作戦に失敗したことによって「光」のメンバーに捕らえられ洗脳するための施設に入れられ、狼の頭に似た洗脳ヘルメットを被せられる生活を送ることになる、そしてかつて任務で同い年という理由から殺さなかった少女兵士・ヨドミと施設で知り合い、惹かれ合っていく。
本作はハリマがスグルになった夢を見て、スグルはハリマになった夢を見るというように交互に物語が入れ替わる。過去と未来の宗教は双方とも火の鳥自身がご神体となっている。
単行本化の際は手塚自身により未来側のストーリーが大幅に変更され、火の鳥が登場したり、猿田が罰を受ける描写などかなりのカットがなされている。雑誌掲載版では回想シーンに猿田の兄として鉄腕アトムのお茶の水博士が登場する。

火の鳥で描かれる歴史上・神話上の人物・出来事[edit source]
黎明編
イザナギ
卑弥呼(→アマテラス)
スサノオ
猿田彦
ウズメ
天弓彦
ニニギ(→神武天皇)
邪馬台国
クマソ
天岩戸
騎馬民族征服王朝説
ヤマト編
ヤマトタケル
クマソタケル
大王(おおきみ)(→景行天皇)
石舞台古墳
草薙の剣
埴輪
鳳凰編
良弁
橘諸兄
吉備真備
藤原仲麻呂
聖武天皇
奈良の大仏
遣唐使
羽衣編
三保の松原(羽衣伝説)
平将門の乱(承平天慶の乱)
乱世編
鞍馬天狗
弁慶
源義経
金売吉次
平清盛
平重盛
平宗盛
越中守盛俊
源頼朝
文覚
土佐坊昌俊
木曾義仲
巴御前
志田三郎
明雲
俊寛
藤原成親
後白河法皇
手塚太郎光盛
平氏政権
鹿ケ谷の陰謀
源平合戦
日宋貿易
鳥獣戯画(覚猷)
異形編
人魚#八百比丘尼
応仁の乱
百鬼夜行絵巻
太陽編
余豊璋
阿倍比羅夫
天智天皇
大海人皇子
大友皇子
十市媛
大伴吹負
壱伎韓国
蘇我果安
山部王
壬申の乱
白村江の戦い

その他・余談[edit source]

宝塚市立手塚治虫記念館前に設置されている火の鳥のモニュメント
テレビアニメ『ふしぎなメルモ』に登場するミラクルキャンディーは、第1話で描かれる製造過程によると原料は火の鳥の卵である。エンディング場面では毎回火の鳥の卵からキャンディーが作られる工程が放送された。なお、福山けいこによるリメイク漫画『メルモちゃん』には、他の手塚キャラとともに火の鳥も出演している。
漫画『ブラック・ジャック』の「不死鳥」回は火の鳥にまつわる話である。しかし何故か手塚自身がこの作品を封印していたこともあり、手塚の存命時には単行本に収録されなかった(「不死鳥」は手塚の死後アニメ化もされている)。
テレビアニメ『アストロボーイ・鉄腕アトム』(2003-2004年)に手塚作品のスター・システムの一環でゲストキャラクターとして登場、声優はNHKのTVアニメ版と同じ竹下景子。
「火の鳥2772」については、手塚自身が講談社手塚治虫漫画全集で描き下ろしをして再漫画化する予定もあったが、実現しなかった。
手塚の死後に作られたオリジナルストーリーでは、二階堂黎人による小説『火の鳥アトム編』、創作舞踊劇『火の鳥 転生編』、プラネタリウム用アニメ映画『火の鳥-絆編-』、音楽劇『NINAGAWA火の鳥』、宝塚歌劇花組公演『火の鳥』、短編アニメ『火の鳥アースキーパーズ編』など様々なものが作られている。
鈴木英史による吹奏楽曲「鳳凰〜仁愛鳥譜」は、鈴木のお気に入りである「未来編」のイメージで作曲されたものである。
イギリスのアンビエント・テクノ・バンドのシステム7が、シングル「Hinotori」を含むアルバム『Phoenix』を2007年に発表。これは、手塚治虫の長女・手塚るみ子の呼びかけによるもの。『火の鳥』の内容に触発されて制作された。
火の鳥は阪神・淡路大震災復興活動のシンボルマークとして使われていた。これは悦子夫人が兵庫県に「火の鳥」のイラスト使用権を10年間無償提供した事による。
2010年8月6日に全国農業協同組合中央会は、2010年日本における口蹄疫の流行で被害を受けた畜産農家の復興支援を目的に、火の鳥をデザインしたマークを作成している[30]。
2011年8月7日開催のロック・フェスティバル「WORLD HAPPINESS 2011」において、東日本大震災からの復興・再生をテーマに掲げ、火の鳥を“再生”のシンボルとしてキービジュアルに起用[31]。同イベントでは、イエロー・マジック・オーケストラが火の鳥をモチーフにした新曲「Fire Bird」を初披露した[32]。
バレーボール全日本女子チームの愛称は「火の鳥NIPPON」であり、ロゴ等のデザインは手塚プロダクションが担当している[33][34]。
火の鳥の実写映画は本来はアニメとの二部構成であった。シナリオまで作られていたが未制作に終わった。内容は火の鳥の世界の結末の一つが描かれている。(シナリオの内容は後述)
手塚生前時における掲載誌は廃刊・休刊する事が多く、陰ながら「本作が掲載されると廃刊になる」などと囁かれた[35]。ただし、これは実際には火の鳥のせいではなく、火の鳥が月刊誌のみに連載していたことが原因である。火の鳥は1950年代から連載してきたが、週刊漫画雑誌が登場し主流になり、1950年代からある月刊漫画誌が全て廃刊していったため。なお、火の鳥太陽編が連載していた「野性時代」は1996年に休刊した後、2003年に新創刊し、2016年現在「小説 野性時代」として刊行中である。
元手塚のアシスタントの石坂啓は乱世編で見開きで村祭りのシーンがあった時に、それが最後まで仕上げられていなかったので、「これは時間がかかるから、後でアシスタントにやらせるのだろう」とアシスタント全員で思っていたら、手塚治虫が下描き無しで、踊る村人たちを全部書き始めたが、火を囲んでいる大勢の人の輪と、一人ひとりの影をちゃんと角度を変えて驚異的な速さで仕上げたので、「まるで魔法を見ているようだった」と語った[36]。
本作品をオマージュした(影響を受けた)作品は少なくない。
全体を元にしたもの
浦沢直樹のマンガ『BILLY BAT』
谷甲州の小説『終わりなき索敵』は、火の鳥との関連性が指摘されている[37]。
一部を元にしたもの
藤木稟の小説『旅立ちの時』は、復活編との類似点が指摘されている[38]。
『沙耶の唄』、『セイバーマリオネット』はどちらも復活編を元にしている。
旧ソ連の映画「せむしの仔馬」には火の鳥が登場し、これは手塚治虫が漫画「火の鳥」を描くきっかけとの一つとなった。手塚が胃癌の闘病中に病院のベッドで手がけたアニメに「青いブリンク」があるがこれは「せむしの仔馬」の手塚風のリメイク作品である。「青いブリンク」はアニメでの手塚の遺作の一つになった。
手塚治虫がまだ漫画家になるか医者になるか迷っていた時に、母親とアニメーション映画を見に行き、開演までの時間にロビーの椅子で母親に相談すると「好きな方を択ぶように」と言われ漫画家になった。その時のアニメーションが「せむしの仔馬」である[39]。
ミッシェル・ルグラン作曲の交響組曲「火の鳥」の原曲は、1975年第4回東京音楽祭世界大会にイギリスから参加したスーザン・モーン歌唱の「あふれる想い(There is a River)」である。作詞はルグランとの曲づくりパートナーでもあるハル・シャパーで日本発売もされた。東京音楽祭には深町純や村井邦彦も参加している。

EDEN

2019-09-12 03:15:08 | Comic
「世界中のみなさん。私たち、ウイグル人は長い間自分の国を持てませんでした。」
「同じように国を持てずに迫害を受けてきた人々は世界中にいます。」
「クルド バスク ケルト ロマ アイヌ チベット アフリカ、インドネシアの少数民族」

「今 ウイグル族は『中華人民共和国』という枠の中にいます。しかし少なくとも私は『中国人』にはなれません。」
 
「私たちには私たちの言葉や食べもの、信仰や芸術、つまり文化があるからです。」

「自分たちの文化を守る為に国家が必要なのだ。そういう考え方があります。」

「しかし、一つの国家が統一される過程で多くの少数民族の文化がが失われてきました。」

182pより
油田を脱出したマリハンと日本人傭兵ケンジ

「気楽なものだな 日本人は」

「他人の不幸をネタにスリルを楽しみにこんな砂漠までくるのだから。」

「北京政府はウイグル語での教育を認めていない。大学へ進みたければ『北京語』を身につけ将来は中国の為に働かねばならない。」

「それはつまり『中国人』になれということだ。」

「日本政府もかつて同じことをやった。アイヌ人やウチナーに日本語を強要して同化をはかり彼らの文化と言語を破壊した。覇権主義者のやり方は今でも同じだ。」

「貴様は何のために戦っているのだ!答えろ!」

ケンジ「俺は戦士になりたかった。」

The series begins with a long introduction, with the characters Ennoia and Hannah living a peaceful life on a remote and isolated island called Eden, with researcher Lane Morris, who is their guardian and a victim of the pandemic, the so-called "Closure Virus", which has killed 15% of mankind. The events that led to this situation are revealed in flashbacks, leading up to the return of Ennoia's father, along with the forces of the Propater Federation.

Following this, the story moves forwards twenty years, and focuses on Ennoia's son, Elijah, the main character, and his own conflict with the powerful and monopolistic Propater federation to save his sister, Mana Ballard, kidnapped by Propater when he was very young. She is being held to threaten Ennoia Ballard, father of the two characters, who has become a powerful drug lord in South America, feared and despised by many, including, to an extent, his own family. During a terrorist attack, Elijah, at the aged 15, is separated from his mother and his sister is kidnapped, along with his mother Hannah and now has to handle things on his own. Eden is about his coming-of-age as a man and trying to survive both bodily and morally in world that is too complex for mere "black and white". He encounters many other characters, both allies and enemies, all sharing the same struggle to survive in a post-apocalyptic dystopian world.

Many stories are included of the people Elijah meets, telling their past or following life, sometimes volumes later, furthering understanding of the characters and giving increased depth to the world of the book as a whole.

Later in the series, the story once again moves forwards in time, jumping four more years ahead. The Closure Virus, the cause of the original pandemic, mutates, this time assimilating non-organic matter as well as organic, known as "colloid" (or "Disclosure Virus"). The story rejoins Elijah, now 19 years old, as well as many other old characters, and some new, as the world begins to deal with this new threat that is swallowing many cities in the world, leaving lakes and craters, and many people. It is later discovered that the several colloids in the world, are linked with a net of underground auto-built "cables," and that the colloid itself, stores all the memories of the people it swallows.

Characters[edit]
Elijah Ballard
The main protagonist, Elijah is introduced on the run from Propater. He encounters some mercenaries also eluding Propater and is forced to join them. During his flight he is forced to become a hardened killer. After returning to Peru, Elijah becomes involved in his father's criminal activities, and begins to walk the path of becoming an adult.
Ennoia Ballard
Elijah's father, raised on Eden. After he and Hannah left there, Ennoia became the most powerful drug lord in South America, and a staunch opponent of the Propater Federation.
Hannah Mayall
Elijah's mother, raised on Eden. She and Elijah's sister were captured by the Propater while trying to leave Ennoia with Elijah. A major focus of the series is Elijah's quest to rescue Hannah and Mana.
Mana Ballard
Elijah's sister, who remains in Propater hands whilst her mother is rescued. Elijah's fight to free her is a focus of the later parts of the story.
Colonel Khan
The Colonel is an old soldier from Azerbaijan, and the leader of the Nomad group (including Kenji and Sophia) fleeing Propater at the start of the series. Khan became Kenji's mentor after killing his brother, and the two share a slightly strained, but at the same time, trusting, relationship.
Sophia
A powerful Greek computer hacker, and full-body cyborg. Sophia has the appearance of a young girl, but is probably around 50 - 60 years old. Sophia is sort of a mother figure to many characters in the series, most notably Kenji, although her relationship with him is a little more complicated. Sophia was very promiscuous in her youth, and had eight children. Her first, Andreas, whom she tried to kill, and who still bears the scars, is a high-ranking member of Nomad. Sophia later helps to activate Maya.
Maya
An almost godlike AI, which seems to roughly correspond to the savior of Gnostic mythology. He has ability to connect human and colloid. Has the appearance of a rather androgynous, young dark-skinned boy.
Kenji
The brother of a low-level Yakuza boss, Kenji is extremely skilled at hand-to-hand combat. Kenji is even able to go hand-to-hand with the Aeons, dispatching countless numbers with only his signature knife. While he initially appears to be a sociopath, killing both soldiers and non-combatants without any signs of remorse, flashbacks in the fourth volume show him to be a psychologically complex character who is driven by basic human needs such as love and meaning.
Cherubim
A sophisticated robot built to protect the research facility on Eden, who was instead later used to destroy it. Cherubim later serves as Elijah's protector, and is a powerful combatant in his conflicts with Propater. However, Cherubim is not always able to distinguish friend from foe, and often causes collateral damage. Cherubim is named after a type of angel.
Helena Montoya
A prostitute now working in a brothel. Has a complex relationship with Elijah and acts as a surrogate big sister. She was forced to help the Colonel's merc group while on the run from Propater forcers in exchange for her freedom.

Contents
1 あらすじ
2 登場人物
2.1 主な登場人物
2.2 ノマド
2.3 カルテル
2.4 エリヤの家族
2.5 エリヤの仲間・協力者
2.6 原父(プロパテール)
2.7 オートメイター・ファミリー
2.8 イスラム連合
2.9 「コロイド」の研究者
2.10 その他の登場人物
3 用語
4 年表
5 関連項目
あらすじ[edit source]
クロージャー・ウイルスの大流行によって人類が危機に直面した世界。少年エノアと少女ハナはウイルスによる病魔に冒された末期状態の科学者と共に、3人で暮らしていた。世界はもう、自分たちだけだと思っていた。
ある日、エノア達の住む地へ数機の軍用ヘリが降り立つ。原父(プロパテール)を名乗る彼らはエノア達と暮らす科学者を連れ去ろうとするが、エノアはロボットのケルビムにて応戦し、その圧倒的破壊力で勝利する。
彼らの襲撃により“世界はまだ終わっていない”ことを知ったエノア達は、科学者の死後、2人で生きていくことを選択する。
20年後、原父は国連に代わって世界中の国家を統治するようになり、原父連邦と呼ばれる巨大政権を構築。しかし経済格差や民族間の差別、そのことが原因による犯罪や殺し合いといった問題は未だ解決出来ずにいた。エノアは南米の麻薬カルテルのボスとなり一時は原父に協力するが、原父連邦の陰謀を知ってからは、敵対する立場となり、ハナと彼らの娘であるマナは、原父連邦に人質にされる。
エノアとハナの息子、エリヤは南米にいた。ケルビムと2人で旅を続けるエリヤだったが、ひょんなことから子供の死体を見つけ、その肋骨に縛り付けられていたデータディスクを手にする。
死体を埋葬したエリヤは、翌朝、死体の秘密を知る傭兵組織・ノマドに襲われ、ディスクのありかを問いただされる。しかし、原父連邦と対立する彼らは、この先の原父連邦による占領地帯を共に切り抜けるため、同じく原父連邦と対立する父を持つエリヤと協力することとなる。
原父連邦軍の投入するアイオーンと呼ばれる半不死身の兵や最新鋭の兵器に対し、死闘を繰り広げ、何とか原父連邦の勢力外へ脱出することができたエリヤは、南米最大のマフィアのボスとなった父エノアの右腕であるトニーや左腕であるニッコーと再会し、物語は次第に語られなかった20年間を明らかにしていく。
原父連邦とは何か、クロージャー・ウイルスの秘密とは、エリヤの拾ったディスクの中身とは、そして父エノアと原父連邦の関係とは?母ハナと妹マナを原父連邦から取り戻すため、エリヤの戦いが始まった。
登場人物[edit source]
主な登場人物[edit source]
エリヤ・バラード
父エノアと母ハナの息子であり、本作品の主人公。南米最大の麻薬カルテルのボスを父に持ち、そのことで疎まれることもある。作品当初は15歳。10巻以降は19歳の青年として登場する。原父連邦から家族ごと拉致されかかったところを一人だけ逃げ出すことに成功し、原父連邦外へ脱出しようとする。その途中で偶然とあるディスクを入手するところから本編が始まる。ケンジやソフィアらノマド(国際的ゲリラ組織)との旅や原父連邦との戦い、その後のマフィアとの争いや背後に見え隠れする原父連邦の影、原父連邦からの母と妹の奪還作戦を経て、世界の理不尽さを経験し、強く、そして冷徹な大人に成長していく。
エンノイア・バラード(エノア)
エリヤの父親で、もう一人の主人公。南米最大の麻薬カルテルのボス。かつてエノアの父(エリヤの祖父)が原父連邦の創設メンバーだったことから、原父連邦に歩み寄り、ペルーのリマにある組織拠点をトニー・アイモアに預けてコロンビアのボゴタに移る。しかし、長女のジナを殺されたテロをきっかけに原父連邦と敵対関係となり、妻のハナ、次女のマナをさらわれてしまう。地下に潜った彼は、家族のため、組織のため、原父連邦に一矢報いるべくノマドと共闘している。
序章の主人公であり、少年期を米領バージン諸島の研究施設跡にて、モーリス・レイン、ハナ・メイオール(当時の姓)とひっそりと暮らしていた。施設の地下倉庫で眠っていた軍用A・I「ケルビム」を自力で修復するなど、並々ならぬ行動力を発揮していたが、彼らの前に国連軍の一団が現れた日をきっかけに、彼の運命が大きく動き始める。生まれつきクロージャーウイルスに対する耐性を持っていた。
「エンノイア」とはグノーシス主義においての「思考」「思念」を司る女神の名前である。
ケルビム
自律学習式のS・A(サブサンプション・アーキテクチャー)機能を持った第16世代の並列処理型A・I。元はイスラエルとM. I. T. の共同開発による軍事兵器で、その体躯は原父連邦のパワードスーツを楽々破壊するなど強力な戦闘能力を持つ。名前は『創世記』に出てくる半人半獣の天使「ケルブ」の複数形から取られている。エノアが少年時代に研究所の倉庫で朽ち果てていたのを見つけ、修復された。20年後の世界(本編)では、コロンビアにて一人原父連邦の手から逃れたエリヤと共に旅をし、ハナ・マナの奪還作戦でも活躍する。
ヘレナ・モントーヤ
コロンビアにあった村を焼かれ、山岳ゲリラに従軍していたインディオの売春婦。エリヤとノマド一団がアンデス山脈越えをしている際にゲリラのキャンプで助けられる。エリヤと共にアンデスを越えて連邦外へ脱出した後、リマ市内で偶然にもエリヤと再会、彼の周辺の出来事に深く関わっていくようになる。娼婦でありながらもプライドが高く、性病や暴力沙汰への対処に長けていることから、娼婦仲間にも一目置かれた存在。エリヤの初体験の女性で、15歳のエリヤは彼女に恋をしていた。
ミリアム・アローナ
ペルー警察の警察官。10歳の頃までイギリスに在住しており、S.A.S.(英陸軍空挺特殊部隊)の隊員だった父に強く憧れていたが、彼の殉職をきっかけに、ペルーのリマに移り住んだ。軍人を目指すも、色々あって警察官になり、わずか1年で刑事にまで昇進した。密かに恋心を寄せていた相棒レオナルド・ペッソアの死の謎を巡り、エリヤと行動を共にすることとなる。相棒の暗殺の裏には原父連邦の退役軍人、さらに原父連邦情報部までが絡んでいたため、予想もしない騒動に巻き込まれることになる。そんな中、エリヤとの重大な関わりを持つようになる。恋愛経験はあるものの24歳で処女、しかもファザコン。
マーヤ
世界を救うためにプログラムされた生命体。もともとは量子確率論を利用した人格プログラムだが、成長した人格をインストールする受け皿として、サイボーグ技術を結集して脳も人工的に作られた実体が存在する。男性体。世界救済の要。原父連邦のプレーローマ計画の要でもあり、その行動目的、造られた目的は謎に包まれている。
ノマド[edit source]
「遊牧民」を意味する国際武装集団。特定の民族、宗教、土地の一切を所有せず、軍事力を商品として世界各地にリゾーマー(「地下茎」の意)と呼ばれる戦闘員を派遣する。作中では、弾圧を受けた民族が独立と自決を挙げ、武力闘争を繰り返すうちに互いに連携し、世界的なネットワークを作っていった結果として出来上がった軍事組織として説明され、構成員は遊牧民や少数民族出身者が多いとされる。現在でいう民間軍事会社のような傭兵の派遣を本業とするが、他にも証券取引やマネー・トレーディング、麻薬の密造・密売などによって資金を得ているあたりは、アル・カーイダのネットワークが更に進化したものとも言える。原父連邦という共通の敵を持つエンノイアのカルテルと共闘することが多い。
ケンジ・アサイ(浅井健二)
ノマド(国際的ゲリラ組織)のメンバー。ナイフ使いの名人であり、カーン大佐によって超人的な体術と精神力、銃器や爆発物の扱いなど幅広い技術を持つ最強の戦士へと造りあげられた。常に目つきが鋭く、冷徹で冷淡な性格であるが、純粋で不器用な一面もあり、ソフィアに手玉に取られて翻弄されることもある。少年時代は日本の僻地で兄と共に暮らし、兄に対しては憧れと共に崇拝に近い念を抱いていたが、この兄を殺したのもまたカーン大佐であり、これが原因で時折発作的に情緒不安定に陥ることも。この作品中の数少ない日本人の一人。モデルは元ブランキー・ジェット・シティの浅井健一。
ソフィア・テオドレス
ノマドのメンバーで、少女型サイボーグの天才ハッカー。実年齢は41歳、IQ210。殺伐とした家庭環境で育ち生きている実感を持てなくなり、奇行と淫行に明け暮れる少女時代を過ごすが、数学とコンピュータの扱いに関しては超絶的な才能を発揮し、キール・シリンガーによってその能力を買われ、原父に身を置いていた。放埒な異性関係の中で全て父親の違う8人もの子供を産むが、36歳の時のとある体験をきっかけとして、脳と脊髄と内臓の一部を残して全身サイボーグ化、10歳の頃の自分の外見の義体に入った。その後サイボーグ化による訓練の結果、生きている実感を手に入れたためか性格は一変して慈愛に満ちたものとなり、8番目の息子カイルを見つけ出して母親として育てようとし、原父連邦からの脱出を試みる。しかしすぐにカイルを原父連邦に殺されてしまうが、その時に原父連邦から奪いだしたディスクがソフィアの脳にコピーされ、このデータがその後の物語の中核を担うようになる。
「ソフィア」とは元来「知恵」を意味する単語であるが、グノーシス主義においては叡智を司る最も重要な女性天使の名前でもある。
ナザルバイエフ・カーン
ノマドのメンバーであり、ケンジやソフィアらの一団のリーダー。「大佐」と呼ばれ、戦闘以外に生き甲斐を見いだすことのできない根っからの軍人。ケンジの戦闘能力の高さを買い、ノマドのメンバーに引き入れた(その際にケンジの兄を射殺している)。元はグルジアの軍人であったが、住んでいた村が民族浄化にあったのをきっかけに、故郷と信仰(イスラム教)を捨てている。
ワイクリフ
ノマドのメンバーで、カーンの部下。工作兵であり、トラップの専門家。中米で軍人をしていた。敵軍が彼の設置したトラップに感づき、付近にあった村の人々がそのトラップで虐殺され、その光景を目の当たりにするという苦い過去を持つ。
ロジー
アフリカ出身の少女で、ノマドのメンバー。オーストラリアでマナ・バラードの通わされていた学校に同級生として潜り込み、友達を装って彼女に接近していた。マナの奪還作戦発動と同時に彼女を連れてオーストラリア脱出を試みる。幼少時に反政府ゲリラによって拉致され、非道な「洗礼」を受けた後に、薬漬けにされた上で自らの手で家族を殺害させられ、少女兵士として略奪と転戦を繰り返していた。ノマドに拾われた後は、ケンジから戦闘教育を受ける。つらい経験からか乖離性健忘症を患っているが、ケンジを慕う姿だけは年頃の少女の面影をのぞかせる。
アンドレア
ノマドのメンバー。ソフィアの息子で、首筋に彼女に付けられた傷跡がある。
アミラ・アブドゥラ
アサイ・リュウイチに仕事を依頼したイスラム連合に所属する科学者を名乗る女性。正体はノマドのメンバーで、戦闘サイボーグ。
カルテル[edit source]
本来の意味は、カルテルを参照。エンノイア・バラードの組織した国際麻薬組織の通称。米領バージン諸島を脱出したエンノイアとハナがコロンビアにて難民として受け入れられた後、トニー・アイモアらと共にわずか20年足らずで急成長し、世界市場の40%をカバーするまでに至った。原父連邦が主に扱っているのがヘロインであるのに対し、カルテルでは主にコカインを扱っている。本編の12年前、カルテルは原父連邦と協力して、原父内のプロジェクト・プレーローマに協力し、カルテルからはニッコーオブライエンが原父側に派遣されていたが、ある事件を境に両者は決裂。原父はエンノイアの妻子であるハナとマナを誘拐し、一人逃げ延びたエリヤがコロンビアを脱出した後に、ペルーで行われるはずだった人質の取引も頓挫してしまった。以後、カルテルはノマドと協力し、原父連邦との対決色を濃くしていく。
トニー・アイモア
エンノイアの右腕。アフリカのマリ共和国出身の黒人男性で、カルテルの重鎮である。エンノイアの留守中、リマ市における組織の麻薬市場の一切を任されている。エリヤがアンデスを越えてペルーに逃げ込んだ際、カーン大佐らとも関わりを持つようになる。
エリヤの家族[edit source]
ハナ・バラード(ハナ・メイオール)
エリヤの母親。マナと共にコロンビアの某空港にて原父連邦に拘束される。エンノイアの稼業を快く思っていないようで、旧姓の「メイオール」を好んで使用する。幼少をエンノイアと共にカリブの研究所跡で過ごし、そこで姉や家族、友人の全てをクロージャーウイルスで失っている。エンノイアと共にクロージャーウイルスに対する耐性を持っていた。
マナ・バラード
エリヤの妹。母のハナとともに原父連邦によって誘拐される。リマ空港での人質取引が失敗した後は、オーストラリアの学校に通わされている。体内に逃亡防止用のナノマシンを注入されており、兄のエリヤがいつか助けに来てくれると信じている。謎の少年マーヤが彼女へのアプローチを試みるが、その目的も真意も彼女は知る由もない。小難しい話が苦手だが、水泳が得意。
ジナ・バラード
エリヤの姉。家族と共にコロンビアへと移り住んでいたときに、カルテルの資金を持ち逃げした恋人ミゲルを父エノアに殺され、自暴自棄の念と父への当てつけからヘロイン中毒となっていた。症状を克服した後、その後猛勉強し医者を目指している最中、ボランティア活動をしていた教会にて爆破テロの犠牲になり死亡。テロは原父連邦と父エノアの確執が原因と考えられ、以来、母ハナはエノアに対して距離を置くこととなる。
エリヤの仲間・協力者[edit source]
ニッコー・オブライエン
アイルランド人。エンノイアの「左腕」。コンピューター分野に詳しく、人工生命の専門家。エンノイアが原父連邦と協力した際、原父連邦内のとあるプロジェクトに大きく貢献する。エンノイアが原父を裏切って後はエンノイアのカルテルからも距離を置き、妻と共にジャンク屋を営んでいる。エリヤがオーストラリアに渡った際には、自前のアイリッシュコミュニティーのコネクションを利用してエリヤをサポートする。民族的な立場からか、現役時代のトニーとは確執があったらしい。
ニッコー・オブライアンと表記されることもある。
リッキー
エリヤの友人。過去に兄を原父連邦に殺害されている。荒事にも力を貸す。
ナオミ
売春婦。ヘレナに拾われ、娼館で働いている。後に、エリヤの協力者となる。楊にホレているらしい。
セシィ
マヌエラの娘。ヘレナの娼館で生活している。年齢の割りに大人びているが、マヌエラから愛情を受けきれていない所がある。
ウェンディ・マッコール
ジョニー・プルサードを追ってペルーに来たP.U.P.O.(原父連邦警察)捜査課の女性。オーストラリア在住のアイリッシュ。ミリアムに同行するが、生真面目な性格のせいか彼女とはソリが合わない。そんな彼女もプライベートではレズビアンであり、ベトナム系女性の(変な料理をつくる)恋人がいる。
ジョナサン・ファインマン
元原父連邦の科学者。ユダヤ人。マナ奪還作戦のため、エリヤが協力を求める。医療用ナノマシン「レオ」の開発者で、プロジェクト「プレーローマ」の「三博士」であったが、今は原父連邦と距離を置き、隠遁生活をしている。彼の作ったナノマシンは、もう一つのプロジェクト「スペイド・ワーク」によって悪用され、暗殺用の兵器となったものがマナの肉体にも埋め込まれている。
ジョン・スキナー
英国ロンドン通信のジャーナリストで、ミリアム・アローナの叔父。原父連邦とペルー警察の両方から追われる身となったミリアムに助力を請われ、オーストラリアに来るが、そこで原父連邦の暗殺者に追われる。彼がロンドン通信を通じて暴露したプロジェクト「スペイドワーク」の情報が、リズ・デミリらを追いつめることとなる。
原父(プロパテール)[edit source]
もとはとある研究者の一団であったらしいが、世界中で猛威を振るうクロージャーウイルスに十分な対処ができない国連ならびに先進各国の特権的体質に反発した勢力が独自に立ち上げた国際組織。活動末期の国連の下部組織であった。 北米、欧州(トルコなど東端を除く)に拠点を置く。2086年、ニューヨークの国連本部を武力制圧した原父は、北米とEUを拠点として原父連邦(グノーシア)の樹立を宣言。以後はWHOをはじめとした国連機関は原父連邦に引き継がれ、20年の間に多くの領土がこれに併合された。連邦領内は「グノーシア地帯」、領外は「アグノーシア地帯」と呼ばれることがある(ちなみに「グノーシア」は「智」、「アグノーシア」は「無智」という意味である)。主な領土は南米の北半分、中東の一部、アフリカ南部、東南アジア、オーストラリア、そして日本である。 クロージャーウイルス感染者への差別等を禁止する法整備を進めるなど多くの「正義」を実行してきたが、一方で生命倫理に反する生物兵器の研究、暗殺用ナノマシンの研究、大量破壊兵器の戦場での使用、麻薬(主にヘロイン)の密造などの裏の顔を持ち、なにより武力をちらつかせた強引な周辺国の併合などで連邦の内外を問わずにイメージが芳しくない。世界中にネットワークを持つエンノイアのカルテルと敵対しており、また、多くの教権を切り取られたバチカンも絶望的な抵抗を続けている。
キール・シリンガー
原父連邦の極秘プロジェクトのメンバーで、連邦政府にも大きな影響力がある。北米出身の中年男性、アングロサクソンの白人。若年時のソフィアの非凡な才能に目を付け、彼女を組織に誘い入れた。エリヤとノマド一団がアンデスからペルーに脱出する際、離反したソフィアからディスクデータを取り戻そうとするも、失敗。その後、原父連邦の議長にまで登りつめるが、ウイグルでのテロ事件をきっかけに失脚。その後、マナ・バラード救出作戦の途中で拘束されたソフィアと再会する。
リズ・デミリ
原父連邦情報部の部長。ハナとマナを拉致した張本人で、その後は両名の監視役を務め、エリヤとも幾度と無く対峙することとなる。

オートメイター・ファミリー[edit source]
原父連邦と繋がりを持ち、リマにおいてヘロインを扱いトニーの組織と対立するマフィア。ペドロが所属している。以前のボスはオートメイターだったが、現在はマルティネスが指揮を執っている。
ペドロ・オクタビオ
原父連邦と関わりのあるマフィアの一員。残虐非道だが、自分が売っているヘロインには心の底では憎しみを抱いている。自分を捨てた母親と同じくヘロイン中毒になった娼婦のマヌエラにひどく執心しているが、ヘレナによって彼女を娼館に引き抜かれてしまい、以後、ヘレナ達やエリヤ、さらには以前から縄張り争いをしていたエンノイアの麻薬カルテルとも本格的に対立を始める。
アラン・マルティネス
ペドロの現マフィアのボスで上司。トニーのカルテルと対立している。
オートメイター
ペドロのマフィア組織の元ボス。ペドロ・オクタビオの入団時のボスで、ペドロの能力を早くから見いだし、彼を出世させた。ペドロを殺害する決意を固めたエリヤに、ペドロの過去を話
エミリオ・ソーサ
ペルー通産省の役人。ペドロのボスであるマルティネスのためにヘロインを密輸しているという裏の顔を持つ。実は別の本名がある。
イスラム連合[edit source]
原父連邦に対抗して組織されたイスラム国家の連合。しかし、現在の状況と同じく、多くの宗派と民族を内包している為に、その統制はいまひとつである。ウイグル人のマリハン・イサクが中国ウイグル自治区でテロを起こした際も、戦力とノウハウの不足を補うためか蜂起メンバーの中に多数のトルコ系キルギス族が混ざっており、原父連邦軍の突入によって両者はあっさりと分裂してしまった。やはり現在のイスラエルはこの連合には含まれておらず、紛争は依然継続しているようであるが、本編における描写はない。
マリハン・イサク
中国のウイグル自治区で武装蜂起を起こし、油田採掘場を占拠したウィグル族の女傑。敬虔なムスリムであり強烈な民族意識を持つ。ウィグル自治区の悲惨な現状を全世界に訴えるために蜂起を起こしたが、恋人のハリル・ハサンがトルコ系のイスラム原理主義テロリストであったことから、原父連邦に武力介入の口実を与えてしまう。
アクラム
ウイグル自治区油田採掘場占拠事件の実行犯で、トルコ系キルギス族のリーダー的な男。作戦ではかなり緊迫しており、マリハンの指示に従わず、最終的には人質達を容赦なく殺害するなどした。
イエスィム・カパザン
東トルキスタン独立戦線のメンバー。中国・天南百貨店にて爆弾テロを行おうとする。

その他の登場人物[edit source]
クリス・バラード
エノア(エンノイア・バラード)の父親。ケルト系スコティッシュのアメリカ人。カリブ海の米領バージン諸島にあった研究所(隔離施設)にて家族と暮らしていた国連軍将校。妻リンダがイスラム過激派に拘束された事件をきっかけに、黎明期の原父(プロパテール)との関わりを持ち、国連軍の情報を漏らすようになる。クロージャーウイルス感染爆発の原因を米政府に追及しようとして研究所をあとにするが、モーリス・レインの裏切りに遭い、逆に米当局に拘束される。その後、原父によって救出された後、クロージャーウイルスに侵されたサイボーグ姿となってエノア達の前に姿を現す。
リンダ・オーリク
クリス・バラードの妻。夫のクリスが米国に拘束された後に、カリブ海の隔離施設にておそらくクロージャーウイルスで死亡した模様。
モーリス・レイン
クリスの幼なじみで、同じく研究所で暮らしていた研究員。同性愛者であり、少年の頃からクリスに好意を抱いていたが、妻子ある身となったクリスに対してはそれ以上の嫉妬を抱いていた。ケルビムの暴走によって隔離状態を維持できなくなった研究所内で、エノアとハナの免疫グロブリンを利用して生き延びていた唯一の大人であり、2人の親代わりとなっていた。
カチュア
エリヤとノマドがアンデス山脈越えをしている際にゲリラのキャンプで助けた少女。コカインを栽培し、ゲリラが統治しているインディオの村の出身。ヘレナと共にアンデス山脈を越えて原父連邦外に脱出しようとする。
リュウイチ・アサイ
ケンジの兄。日本の地で幼くして両親と生き別れ、仲間と共に闇商売を営んでいた。ケンジと共に生まれつきクロージャーウイルスへの耐性を持っていた。幼かったケンジにとっては絶対的な尊崇の対象であったが、ノマドによる原父の研究施設を狙った仕事を引き受けたことから仲間を全員殺害され、自らもカーンに射殺された。
アル・ハキーム
フリーの雇われテロリスト。トニーに雇われ、空港でのハナとマナの救出作戦に狙撃手として参加する。
リコ・パルモドア
リマ市警の刑事。エリヤが空港でハナとマナの救出作戦を実行した現場に居合わせ、大規模な戦闘に巻き込まれる。相棒のアディ失い、警察に拘束されたエリヤに制裁を行う。その後、ペドロ・オクタビオを検挙するための作戦の最中、エリヤと再会。その後、ペドロとエリヤの引き起こす騒動に翻弄される。ペドロとは、幼少時代からの知り合い。
マヌエラ・エレノア
ペドロ・オクタビオの恋人。ペドロの元で働いていた娼婦だが、ある期を境にヘレナに引き抜かれ、娼館「ララ・メンテ」で働くようになる。幼い娘セシィと共に暮らしており、重度のヘロイン中毒者でもある。ヘロイン欲しさに、自分の息子を人身売買にかけてしまったことがある。彼女の境遇に同情したエリヤが彼女をリハビリ施設に入れるが、これが思わぬ事態を引き起こすことに。



用語[edit source]
クロージャー・ウイルス
“閉鎖系”ウイルス。免疫系を過剰暴走させ、細胞の代謝活動に必要なありとあらゆる物質の摂取、老廃物の排出を遮断することによって、身体の組織が大理石のように硬質化し、代謝不能になった内臓や脳が壊死して液状化する。それらを膿のように体中から吹き出しつつ、やがて死に至る。いわば肉体に発生する「見える自閉症」。世界の人口の15%がこの病で死亡した。
2060年にアフリカで発見され、10年足らずで全世界に拡散し、「ペスト以来の大惨事」に至った。生まれつき抗体を持った人類も少ないながら存在したものの、彼らがもたらした抗体も次々に変種するウイルスを食い止めるには至らなかった。しかし、壊死した組織に取って代わるためのサイボーグ技術が飛躍的に向上し、劇中ではサイボーグは珍しいものではなくなっている。初期には「クローサー・ウイルス」と表記されていた。
ディスクロージャー・ウイルス
“暴露系”ウイルス。クロージャー・ウイルスの変種。
クロージャー・ウイルスがほぼ沈静化したかに思われた2112年頃から急激に猛威をふるい始める。体組織が壊死して液状化するまでは同じであるが、体外に流出した組織が液状化と結晶化を繰り返しつつ周囲部へと広がっていき、有機物と無機物を区別せずに無尽蔵に取り込んでいく。やがてコロイドと呼ばれる領域を形成し、果てしなく広がったそれらが世界中の主要都市を覆い尽くしてしまった。
コロイド
本来の意味はコロイドの項を参照。ここではディスクロージャーウイルスによって形成された結晶の領域を指す。東京、ロサンゼルス、アリススプリング(豪州)、ベルリン、ニューデリー、アスンシオン、クアラルンプールなど、多くの大都市を埋没させた。
グノーシス主義
本来の意味はグノーシス主義の項を参照。原父連邦のもととなった思想であるが、元来はユダヤ・キリスト・イスラムなど一神教へのカウンターテーゼ的な思想集団の総称である。アイオーン、グノーシアなど、原父連邦中ではこのグノーシス主義に関連する用語が度々用いられている。
アイオーン
クロージャー・ウイルス研究の副産物として生み出されたナノテク・マシン有機合成のサイボーグ・ウイルス(TH34型)に感染させたヒトE.S.細胞より生み出された。交配を必要とせず、閉ざされた個体内で遺伝子情報のリニューアルを行うことができるため、寿命や老化という概念が存在しない。
エスニック・クレンジング
「民族浄化」の意。1991年のスロベニア独立から始まったユーゴ紛争(現セルビア共和国)
作中ではグルジアで起こったアゼルバイジャン系少数民族への弾圧、中国ウィグル自治区での中国政府によるウィグル族への文化破壊、南米やアフリカにおける反政府ゲリラによる村落の襲撃・略奪などが登場する。
量子コンピュータ
プロジェクト・プレーローマによって生み出されたプログラム「マーヤ」は、この量子コンピュータでしか起動することができない。
マーヤ
プロジェクト・プレーローマの要。男性体。「マーヤー」と表記されることもある。元は2対で1体という染色体を模したプログラム・モジュールをコンピュータ内で起動することによってメモリ内で成長を開始するボトムアップ式(自己成長型)人格プログラムであり、この概念は人工生命に類似している。人間の脳が組織するニューラル・ネットワークが生み出す情報処理のファジー性を量子確率論によって再現するため、このプログラムは量子コンピュータでしか起動することができない。このプログラムの基礎理論は、原父連邦の成立前にプレーローマ計画のメンバーであったロバート・ジンマーマン博士によって書き上げられ、そしてその直後に彼は自殺した。
この基礎理論が完成した後、人工人格としての「マーヤ」は原父連邦内で極秘裏に「育成」され続ける。その成長のためにカルテルが原父連邦と一時的に協力していた時期があり、カルテル側からニッコー・オブライエンが派遣されていた。オーストラリアのウィルヘイム社によってこの人格は少年にまで成長したところで、カイル・テオドレスによってこれが盗み出され、紆余曲折の後にノマドはこのデータの入手に成功した。その際、ソフィア・テオドレスの脳内にコピーされたマーヤのデータ自身が、「人間のシナプスに接続されるために造り出された」と自らの目的を語った。ちなみに、この頃からマーヤは必ずしも量子コンピュータ上での起動を必要としなくなっていたようである。
原父連邦によって作り出された肉体を得たマーヤは、プロジェクト・プレーローマの真の目的のために行動を開始する。それは、クロージャーウイルスによって人類の心と魂を含めた地球上のありとあらゆる情報をストックし、“新しい宇宙”へと解き放つこと。彼の意のままに再び猛威をふるい始めたクロージャーウイルスは、多くの戦争・紛争の中で絶望しつつある人々の心を内包しながら、魂の救済の名の下に、世界各地をコロイドで埋め尽くしていく。一方で、ノマドにコピーされた方のデータは、同じくペルーのルミナス社(ウィルヘイム社の退職者が創設)によって育成され、女性の肉体を得ることで、マーヤと対を成す女性体となった。彼女はレティア・アレテイアと自らを名付け、その目的を「マーヤの世界救済から取り残された者達を救うこと」と語った。



年表
2060年 南アフリカで最初のクロージャー・ウイルス発見。
2066年 WHOが世界に非常事態宣言発令。
2069年 アメリカ領ヴァージン諸島の研究施設でバイオスフィア(隔離生態系)実験中のチームが外界との接触を断つ。
2070年 研究施設にて、エンノイア・バラード誕生。ハナ・メイオール誕生。
2075年 クリス・バラードが研究所を立つ。ケルビム暴走、バイオスフィア施設を破壊。施設はクロージャーウイルスに汚染される。モーリス・レイン、エンノイア、ハナを残し、研究所は全滅。
2086年 世界人口15%減(WHO発表)。
原父が国連を制圧、原父連邦樹立を宣言。同日、研究所に襲来した原父連邦軍をエンノイアがケルビムで撃退。クリス・バラード、モーリス・レイン死亡。
エンノイアとハナ、島を脱出、パナマ湾で他の難民と合流し世界がまだ終わっていなかったことを知る。
2087年 エンノイアとハナ、カヤオ港(ペルー領)に難民として受け入れられる。以後、ここを拠点として巨大麻薬カルテルを急成長させていく。
2093年 エリヤ・バラード誕生。
2096年 マナ・バラード誕生。
2101年 エンノイア、ペルーの麻薬組織をトニー・アイモアに一任し、家族を連れてコロンビアのボゴタへ。原父連邦と接触、プロジェクト・プレーローマへの協力を持ちかける。ニッコー・オブライエンを派遣。
2107年 謎のテロにより、ジナ・バラード爆死。
2108年 カイル・テオドレスらが原父連邦よりプログラム・マーヤを奪取するも、脱出に失敗、全滅。
コロンビアの原父連邦加盟が決定。ハナ・バラード、マナ・バラードがコロンビア脱出を謀るも、原父連邦に拉致される。エリヤは辛うじて脱出。
エリヤ、マーヤのデータを偶然に入手、コピー。ノマド、マーヤを回収。エリヤ、ノマドの助けを借り、原父連邦軍との山岳戦の末にコロンビアからペルーへ越境。
ペルーのリマにおけるカルテルと原父連邦の取引が頓挫。カルテルがリマ空港にて、ノマドと共にハナ・メイオールらの奪還を謀る。ハナを奪還に成功するも重傷、半身不随。マナは奪還に失敗。
リマにて、カルテルが対立組織と抗争。ヘレナが重傷を負う。対立組織の幹部だったペドロ・オクタビオが死亡。
2112年 ディスクロージャー・ウイルスの発見。世界の主要都市がコロイドに沈む。
中国新疆ウイグル自治区でマリハン・イサクらによるテロ勃発。突入したアイオーンの映像が世界へ暴露される。キール・シリンガー原父連邦議長、失脚。
ペルーの原父連邦加盟が決定。
カルテルがマナ・バラードの居場所を特定。エリヤ、オーストラリアへ。プロジェクト・スペイドワークを追うペルー警察ミリアム・アローナと共にマナ・バラード奪還作戦を開始。
英ロンドン通信がスペイドワーク計画をスクープ。
カンテ・アゼベド原父連邦議長がカルテルとノマドによって拉致される。
マナ・バラード奪還作戦失敗。マナ死亡。原父連邦リズ・デミリ情報部長死亡。ソフィア・テオドレスが原父連邦に捕まる。ソフィア、キール・シリンガーと再会。
2114年 世界規模の大災害発生。多くの人類が自らの意志でコロイドへ入る現象が続出。
原父連邦、地球連邦政府へと移行。

🇫🇷Napoleon

2019-09-12 02:13:41 | 翻訳
Il puisait cette répugnance dans les Confessions de Rousseau. C’était le seul livre à l’aide duquel son imagination se figurait le monde. Le recueil des bulletins de la Grande Armée et le Mémorial de Sainte-Hélène, complétaient son Coran. Il se serait fait tuer pour ces trois ouvrages. Jamais il ne crut en aucun autre. D’après un mot du vieux chirurgien-major, il regardait tous les autres livres du monde comme menteurs, et écrits par des fourbes pour avoir de l’avancement.

Avec une âme de feu, Julien avait une de ces mémoires étonnantes si souvent unies à la sottise. Pour gagner le vieux curé Chélan, duquel il voyait bien que dépendait son sort à venir. il avait appris par cœur le Nouveau Testament en latin. il savait aussi le livre du Pape de Maistre. et croyait à l’un aussi peu qu’à l’autre.


Peu de jours après la mort de Clélia, il signa plusieurs actes par lesquels il assurait une pension de mille francs à chacun de ses domestiques, et se réservait, pour lui-même, une pension égale ; il donnait des terres, valant 100.000 livres de rente à peu près, à la comtesse Mosca ; pareille somme à la marquise del Dongo, sa mère, et ce qui pouvait rester de la fortune paternelle, à l’une de ses sœurs mal mariée. Le lendemain après avoir adressé à qui de droit, la démission de son archevêché et de toutes les places dont l’avaient successivement comblé la faveur d’Ernest V et l’amitié du premier ministre, il se retira à la Chartreuse de Parme, située dans les bois voisins du Pô, à deux lieues de Sacca.

La comtesse Mosca avait fort approuvé, dans le temps, que son mari reprît le ministère, mais jamais elle n’avait voulu consentir à rentrer dans les états d’Ernest V. Elle tenait sa cour à Vignano, à un quart de lieue de Casal Maggiore, sur la rive gauche du Pô, et par conséquent dans les états de l’Autriche, Dans ce magnifique palais de Vignano, que le comte lui avait fait bâtir, elle recevait les jeudis toute la haute société de Parme, et tous les jours ses nombreux amis. Fabrice n’eût pas manqué un jour de venir à Vignano. La comtesse en un mot réunissait toutes les apparences du bonheur, mais elle ne survécut que fort peu de temps à Fabrice, qu’elle adorait, et qui ne passa qu’une année dans sa Chartreuse.

Les prisons de Parme étaient vides, le comte immensément riche, Ernest V adoré de ses sujets qui comparaient son gouvernement à celui des grands-ducs de Toscane.


MILAN EN 1796


Le 15 mai 1796, le général Bonaparte fit son entrée dans Milan à la tête de cette jeune armée qui venait de passer le pont de Lodi, et d’apprendre au monde qu’après tant de siècles César et Alexandre avaient un successeur. Les miracles de bravoure et de génie dont l’Italie fut témoin en quelques mois réveillèrent un peuple endormi ; huit jours encore avant l’arrivée des Français, les Milanais ne voyaient en eux qu’un ramassis de brigands, habitués à fuir toujours devant les troupes de Sa Majesté Impériale et Royale : c’était du moins ce que leur répétait trois fois la semaine un petit journal grand comme la main, imprimé sur du papier sale.

Au moyen âge, les Lombards républicains avaient fait preuve d’une bravoure égale à celle des Français, et ils méritèrent de voir leur ville entièrement rasée par les empereurs d’Allemagne. Depuis qu’ils étaient devenus de fidèles sujets, leur grande affaire était d’imprimer des sonnets sur de petits mouchoirs de taffetas rose quand arrivait le mariage d’une jeune fille appartenant à quelque famille noble ou riche. Deux ou trois ans après cette grande époque de sa vie, cette jeune fille prenait un cavalier servant : quelquefois le nom du sigisbée choisi par la famille du mari occupait une place honorable dans le contrat de mariage. Il y avait loin de ces mœurs efféminées aux émotions profondes que donna l’arrivée imprévue de l’armée française. Bientôt surgirent des mœurs nouvelles et passionnées. Un peuple tout entier s’aperçut, le 15 mai 1796, que tout ce qu’il avait respecté jusque-là était souverainement ridicule et quelquefois odieux. Le départ du dernier régiment de l’Autriche marqua la chute des idées anciennes : exposer sa vie devint à la mode ; on vit que pour être heureux après des siècles de sensations affadissantes, il fallait aimer la patrie d’un amour réel et chercher les actions héroïques. On était plongé dans une nuit profonde par la continuation du despotisme jaloux de Charles-Quint et de Philippe II ; on renversa leurs statues, et tout à coup l’on se trouva inondé de lumière. Depuis une cinquantaine d’années et à mesure que l’Encyclopédie et Voltaire éclataient en France, les moines criaient au bon peuple de Milan, qu’apprendre à lire ou quelque chose au monde était une peine fort inutile, et qu’en payant bien exactement la dîme à son curé, et lui racontant fidèlement tous ses petits péchés, on était à peu près sûr d’avoir une belle place en paradis. Pour achever d’énerver ce peuple autrefois si terrible et si raisonneur, l’Autriche lui avait vendu à bon marché le privilège de ne point fournir de recrues à son armée.

En 1796, l’armée milanaise se composait de vingt-quatre faquins habillés de rouge, lesquels gardaient la ville de concert avec quatre magnifiques régiments de grenadiers hongrois. La liberté des mœurs était extrême, mais la passion fort rare d’ailleurs, outre le désagrément de devoir tout raconter au curé, sous peine de ruine même en ce monde, le bon peuple de Milan était encore soumis à certaines petites entraves monarchiques qui ne laissaient pas que d’être vexantes. Par exemple l’archiduc, qui résidait à Milan et gouvernait au nom de l’Empereur, son cousin, avait eu l’idée lucrative de faire le commerce des blés. En conséquence, défense aux paysans de vendre leurs grains jusqu’à ce que Son Altesse eût rempli ses magasins.

En mai 1796, trois jours après l’entrée des Français, un jeune peintre en miniature, un peu fou, nommé Gros, célèbre depuis, et qui était venu avec l’armée, entendant raconter au grand café des Servi (à la mode alors) les exploits de l’archiduc, qui de plus était énorme, prit la liste des glaces imprimée en placard sur une feuille de vilain papier jaune. Sur le revers de la feuille il dessina le gros archiduc ; un soldat français lui donnait un coup de baïonnette dans le ventre, et, au lieu de sang, il en sortait une quantité de blé incroyable. La chose nommée plaisanterie ou caricature n’était pas connue en ce pays de despotisme cauteleux. Le dessin laissé par Gros sur la table du café des Servi parut un miracle descendu du ciel ; il fut gravé dans la nuit, et le lendemain on en vendit vingt mille exemplaires.

Le même jour, on affichait l’avis d’une contribution de guerre de six millions, frappée pour les besoins de l’armée française, laquelle, venant de gagner six batailles et de conquérir vingt provinces, manquait seulement de souliers, de pantalons, d’habits et de chapeaux.

La masse de bonheur et de plaisir qui fit irruption en Lombardie avec ces Français si pauvres fut telle que les prêtres seuls et quelques nobles s’aperçurent de la lourdeur de cette contribution de six millions, qui, bientôt, fut suivie de beaucoup d’autres. Ces soldats français riaient et chantaient toute la journée ; ils avaient moins de vingt-cinq ans, et leur général en chef, qui en avait vingt-sept, passait pour l’homme le plus âgé de son armée. Cette gaieté, cette jeunesse, cette insouciance, répondaient d’une façon plaisante aux prédications furibondes des moines qui, depuis six mois, annonçaient du haut de la chaire sacrée que les Français étaient des monstres, obligés, sous peine de mort, à tout brûler et à couper la tête à tout le monde. À cet effet, chaque régiment marchait avec la guillotine en tête.