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ちゅう年マンデーフライデー

ドン・シーゲル監督「殺人者たち」はナンシー・ウィルソンが歌うToo Little Timeとシェルビー・コブラの暴走の競演に酔う

とある仕事がひと段落して、無性に映画館で映画が観たくなる。間違いなくこれぞ映画という映画が観たい。そうだ菊川のStrangerでドン・シーゲル特集をやっているではないか。時間を見れば「殺人者たち」(1964年作品)に間に合いそうだ。

全国広しといえどドン・シーゲルをまとめて観られる映画館なんてここしかない。リー・マービン、アンジー・ディキンソン、ジョン・カサヴェテス、ロナルド・レーガンというキャストを聞いただけでぞくぞくする。

冒頭、クローズアップの黒眼鏡に映る黒眼鏡の男リー・マービン。ずかずかと2人で盲人施設に入ってゆき、受付の老女を恫喝し、挙句におもいきり床に叩き落すという荒業。リー・マービンの相棒クルー・ギャラガーは、花瓶の花を抜いて水を机に意味もなく流し、呼び鈴をチンチンとこれも意味なく鳴らし続ける。その後2人は銃を取り出し、マービンは皮の鞄から、いかにも重たそうなサイレンサー付きのコルトを取り出す、二階へ上がり、お目当ての標的ジョン・カサヴェテスにこれでもかと銃弾を浴びせ、さっさと施設を後にする。この一連のシークエンスの無駄のない展開とアクションに、ああ、今日はこの映画にしてよかったと心底思うのだった。

そして殺人のあといきなり走る列車のショットに代わり、コンパートメントで向かい合う殺し屋二人に切り替わる。これもまた見事な展開だ。こんな塩梅にこの映画の魅力を語っているとキリがないのだが、映画的な拵えのすばらしさだけでなく、この映画はいろんな楽しみ方ができる点でも稀有な作品だ。

まず、政治家になる前のドナルド・レーガンが重要な悪役として出演していること。レーガン最後の長編映画と言われている。

レーガンとその情婦のアンジー・ディキンソン

また、レーサーのジョン・カサヴェテスがレースで乗る車が、1962年デビューして間もないシェルビー・コブラ260で、フォードの4.2ℓV8エンジン搭載の車の爆走が観られるのも楽しい。映画の中ではレース中の事故で炎上するのだが、この炎上シーンは、レース場で実際に起きた事故の映像だという。

さらに、カサヴェテスを色気で悪の道へ引きずり込むファム・ファタル、アンジー・ディキンソンが、カサヴェテスと2人で踊るナイトクラブの歌手が、ナンシー・ウィルソン。そこでピアノトリオをバックに歌っている曲が「Too Little Time」。ヘンリー・マンシーニが「グレンミラー物語」のテーマ曲として提供した曲で、映画のその後の展開を考えると、まさにつかの間のお楽しみではある。こういうところも泣かせます。ところで、ナンシーは生涯70枚以上のアルバムを残し、いわゆるスタンダードといわれる曲はもれなくアルバムにしているのではないかと、この曲を歌っているアルバムを検索してみたのだが、全くない。だから、ナンシーの歌は「殺人者たち」でしか聞けないのである。とても素敵なバラードなので、トロンボーンのビル・ワトラスとヘンリー・マンシーニ楽団の演奏とアニタ・カーシンガーズのコーラスをはっておこう。

Henry Mancini & Bill Watrous, 'Too Little Time' - Bing video

Henry Mancini & Bill Watrous, 'Too Little Time' - Bing video

 

ちなみにこの映画の音楽は、ジョニー・ウィリアム、のちの映画音楽の巨匠ジョン・ウィリアムズであります。

映画の終わり近くで、アンジーを連れてホテルから出てくる暗殺者ふたりが狙撃される俯瞰ショットに続き、ライフルのケースを肩にかけたレーガン、そしてレーガン亭でアンジーと落ち合う室内シーンから一気に爆走してくるリー・マービンのセダンの画面に切り替わる展開は素晴らしい。これこそ映画だと大満足の夜なのだった。

モノクロ三作は未見

札束をにぎったレーガン

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