ちゅう年マンデーフライデー

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「花と龍」、そしてなぜか若松のエル・エヴァンスという店

2010年06月16日 | 
 火野葦平「花と龍」(岩波文庫・上下巻)を読む。石炭の荷役に従事するゴンゾといわれる仲仕から一家を築いた玉井金五郎と妻マンの一代記。若松地区を牛耳る吉田磯吉一派との因縁の対決、暗闘を軸に金五郎とマンとの夫婦愛、一家の絆、壷振りお京との秘められた恋など、多彩なサブストーリをからめての展開は、一気読みのおもしろさだ。火野が両親を描いた実録小説で、登場人物のほとんどが実名というから、いまなら果たして可能であったかどうか。

 映画化、テレビドラマ化は幾度となくされており、加藤泰監督が渡哲也主演で撮ったものがよく知られているかもしれないが、僕は最近マキノ雅弘監督「日本侠客伝・花と龍」のDVDが期間限定の廉価版で出たのでこれで観た。玉井金五郎・高倉健、マン・星由里子、お京・藤純子、吉田磯吉・若山富三郎、悪役は伊崎仙吉(小説の友田喜造と思われる)・天津敏という布陣。つまり、題名どおり配役どおりのマキノ節の任侠映画で、よくまあ、原作をここまで換骨奪胎したものだと感心してしまうし、「花と龍」をよく使わせてくれたものだと思う。DVDを先に観たので、小説を読みながら主人公のイメージは完全に高倉健、お京は藤純子だったが、この二役は、この二人以外にないだろう。

 では、今この映画をつくるとしたらキャストはどうなるだろうと考えると、玉井金五郎役ができる20代若手の男っぽい役者がいない。顎がはった役者がいないのだ。女性陣は、マンを真木よう子、お京・北川景子あたりでいけそうだけれど、20代の男がいないなあ。

 火野葦平といえば、軍部おかかえの記者として従軍し「麦と兵隊」などの軍隊小説を書いたが、中国戦線に一兵卒として召集され、その従軍記を封印してしまった小津安二郎は、日記の中で火野の小説について本当の戦争はこんなものではないと珍しく批判している。そこに小津の決して表に出さない故に陰惨な戦争体験があるのだと想像しないわけにはいかないが、二人の戦争と戦後はあまりに対照的だ。

 DVDが先になってしまったが、そもそも「花と龍」を読もうと思ったのは、2月に若松に行ったからだった。めひかり神社から仰ぎ見る関門橋の風景に感激し、門司港のレトロ街の散策のあと若松に立ち寄った。若戸大橋の赤い鉄柱の風景は、青山真治の「サッドヴァケイション」などでおなじみだったが、風の強い日だったので、「花と龍」のイメージとも相まって何か西部劇に登場する街を思わせた。そして、知る人ぞ知るジャズ喫茶・レストラン「エル・エヴァンス」を訪れた。ビル・エヴァンス本人に名前の使用許可をとったという「エル・エヴァンス」、なぜ、ビルではなくエルなのかは聞きそびれてしまった。アヴァンギャルドのスピーカーが心地よくピアノトリオを奏でていたっけ。

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