ふくろう親父の昔語り

地域の歴史とか、その時々の感想などを、書き続けてみたいと思います。
高知県の東のほうの物語です。

伝説  鍛冶ヶかかあ

2009-07-08 10:46:45 | 野根山街道物語
 昔々・・って始まるお話は、だいたいある所にと続きますが、今日の話は野根山街道のほぼ中ほどにあるお産杉のあたりの話です。

 一人の飛脚が、急の御用で野根山街道をかけて、装束峠をこえようとしていた時、道端に女の人がうずくまっているのに出くわしたそうな。聞いてみるとどうらや産気づいて、もう痛みが差し込んでいる様子。「こりゃあいかん。」ここじゃあ何が出るか分からんと思うたがです。オオカミやら山犬やらが集ってきたら、お産どころじゃあない。
 飛脚は近くにあった大きな杉の木のかぶったの上に座れる場所を見つけて、そこへその女を押し上げたのです。そしてその木の上でお産をしたのです。

 しかし介抱をしているうちにいつも間にか暗がりになり、闇夜が辺りを包んだそうな。
 そしたら、恐ろしい獣の声がしたかと思えば、杉の下から飛び掛り始めたので、飛脚は小刀を抜き、襲ってくる狼を次から次へと切り捨ててしまったのです。あまりに強い飛脚に恐れをなして、残った狼は、「崎浜のかじやのかかあを呼んでこにゃあいかん。」といって姿を消してしまったのです。
 かじやのかかあ??。なんのことやら分からないまま、飛脚は杉の木の下で身じろぎもせずに待っていたところ、またざわざわと音がした。今度は本当に大きな狼が頭に平鍋をかぶって、襲ってきたのです。飛脚は刀の峰で平鍋を叩き割り、そのまま狼に切りつけたものの、切り殺してしまうことは出来ずに逃がしてしまったのです。

 お産をした女を岩佐の人家に預けて、急ぎの仕事をかたずけてから、崎浜へ向かったのです。昨夜あいつらあは確かに「崎浜のかじやのかかあ・・」といった。
 鍛冶屋の前で主人に、「おばんはおるか。」と尋ねると「おばんはおるけんど、ぐあいがわるうて寝こんじゅう。」という。
 奥へ案内されていくと、白髪のばばが寝ていた。人間の姿はしているが、何かが違う。これはきっと畜生に違いないと確信をして、寝間に踏み込み切り殺したのです。その死骸は、鍛冶屋の婆ではなく、年取った大きな狼だったのです。
 鍛冶屋の主人に夕べからの話をしたところ、狼が鍛冶屋の婆を食い殺して、化けていたことに合点がいったので、主人と飛脚は周辺を探したところ、床板の下からたくさんの骨が出てきたそうな。

 出産をした女は、長宗我部の遠征軍に加わっている夫を追っていたとも言うが、よくはわからん。南路志という本には奈半利の女とも書いてあるが、それもようはわからんね。
 野根山街道を舞台にこんな話があった。

そう、その大きな杉は、古株になっていますが今もあります。
 安産の「お守り」として有名となって、削り取られていますが、ありますよ。

 しかし、その杉の巨根の横にまた大きなヒノキが寄生しており、ひとつの株のようになっていることから、時々間違うてヒノキを削っていく人がいるようです。
 「まあ、安産には効かんろう。」