日本でも「おくりびと」の最優秀外国映画賞受賞と「つみきのいえ」短編作品賞受賞により例年にない盛り上がりとなっているアカデミー賞。
ここでは、やはり最優秀作品賞・監督賞を受賞した「スラムドッグ$ミリオネラ」に着目します。
ブラピに大差をつけて8冠となった「スラムドッグ&ミリオネラ」。作品の特徴から実はインドでは昨年から大問題となっていました。
この度の受賞をきっかけにポジティブに考えるのか、そうでないのか・・・・
これらの経緯について書かれた記事を本日の産経新聞でみつけましたので、こちらで全文ご紹介します。
このことを知ってから作品を見ると、簡単に「面白い作品だ」ではすまなくなるかも。
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米アカデミー賞で作品賞など8冠に輝いた英国映画「スラムドッグ$ミリオネア」は、インド国内に“スラムドッグ論争”とも呼べる現象をもたらした。映画のタイトルや宗教、貧困の描写がやり玉に挙げられ、その是非をめぐって新聞やインターネット上で論議を呼んでいる。さらに、旧宗主国・英国出身の監督が、インドの日常風景であり、“インドの暗部”ともいえるスラム街を描いて映画界最高の評価を得たことは、「ボリウッド」と呼ばれる映画大国・インドに複雑な思いを残した。
「インドにとって歴史的な日だ」
前夜からアカデミー賞番組を放送していたインドの地元テレビは23日午前、作品賞受賞が発表されると、その意義を強調した。
インド最大の商業都市、ムンバイ(旧ボンベイ)に、かつてアジア最大といわれたスラム街のダラビ地区がある。映画はこのスラム出身の青年が、クイズ番組「クイズ$ミリオネア」に出演して最終問題まで勝ち進む物語だ。賞金の2000万ルピー(約3800万円)を手につかむところまで来た青年はしかし、いかさまを疑った警察の取り調べを受ける。そして、青年の悲惨な人生体験が偶然にも、これまでのクイズの正答を導き出していたことが明らかにされていく…。
単なるサクセス・ストーリーに終わらず、インドのさまざまな社会問題もあぶり出したこの映画は、1月のインドでの公開前後から論議を呼んだ。まず、スラム住民と犬を組み合わせたタイトルが問題となった。スラム街をうろつく犬のような人間が大金持ちになるというイメージがタイトルにはあり、ダラビ住民が「侮辱的だ」として激しい抗議デモを行った。
宗教描写も批判の的となった。映画には、暴徒化したヒンズー教徒たちがイスラム教徒を襲うシーンなどがあり、ヒンズー教団体から映画の公開中止を求める動きも出た。
だが、こうした批判とは別に持ち上がっているのが、「なぜ、このような映画を外国人ではなくインド人自身が撮れなかったのか」という問題だ。
22日夜、地元テレビで放映された特別番組では、「スラムドッグ$ミリオネア」への称賛が相次ぐ中、あるインド人映画プロデューサーがこう言い切った。
「この作品は貧困を誇張している。裕福な国は貧困に興味があるのかもしれないが、インド人にとっては別に面白い話ではない-」
確かに、作品では、スラム街に共通するような金、暴力、殺人などの問題が描かれている。
しかし、「スラムはインドの現実」(原作者のインド人外交官、ビカス・スワラップ氏)でもある。インド経済が成長を続ける一方で、世界銀行によると、いまだに人口の42%に当たる4・5億人もの人々が1日1ドル25セント(約117円)以下で暮らしている。
インドは、年間制作本数が米ハリウッドを超える世界最大の映画大国だが、娯楽性重視のその質をいかに向上させるかが近年の課題の一つとなっている。経済成長の暗部ともいえるスラムを描いて世界最高の評価を受けたのが、インド人監督ではなかった事実をいかに受け止めるかが、“ボリウッド映画”の今後を決める鍵となるかもしれない。