When I Dream

~気侭な戯言日記~

病理検査

2007-04-13 22:40:00 | ボクシリーズ(物語風/エッセイ風)
「なんで?」「なんの検査なの?」「どんな事をするの?」「いつ?何時?」
想像のつかない事でも、想像しよう、理解しよう、と・・・口を挟みたがるのが母の癖で、少しの好奇心と大きな不安が入り交じったような目で、思いついた言葉を並べていった。
父はまたかと言う顔をしながら、短く「喉のあたりに針を刺す検査」と言って、注意書きと説明が書かれた用紙を母の前に出した。「こんなの読んでも解るわけないでしょ」「あ~やだ、おっかない」っと・・・用紙をボクの目の前にズラし、頭の中に描いた想像を早く消し去ってしまいたくなったのか、椅子に深く座り直し、テーブルに左肘を突き、左の手の平にちょこんと顎を乗せ、湯飲み茶わんを右手で掴んだまま、顏をTVに向けて口をつぐんだ。

“多分アレだ”・・・ボクには容易に想像出来たが、一応検査の説明書に目を通した。“単なる検査なんでしょ?”頭のオペを経験している妹は涼しい顔で覗き込んだ。父も、数年前に脳梗塞の検査入院を経験しているが、少しばかり不安を感じていたのかもしれない。

妹の言う通り、父が受けようとしている検査は、毎日、何人もやってるような簡単な甲状腺の病理検査で、楊枝よりも一回りくらい太い針を刺すモノで想像通りだった。
ボクが知っている、解る範囲の事を説明すると「お~こわっ針を刺すなんて」と、すぐに話をそらそうとする母であったが、思い出したように急に椅子から立ち上がると、受話器を耳に当てがらボタンを押した。「あっもしもし?」挨拶もそこそこに上機嫌になって話を始めたのだった。 その口調から、東京から離れた所に居を構える弟である事はすぐに解った。
「お父さん、検査で喉のあたりに針を刺すんだって」「え?うぅん、そんな心配するような検査じゃないから。んふふっ」さっきまでの不安の色はすっかり消え去っている。
電話をかける口実が出来た事の方に、母の中の天秤が傾いただけなのだろうと思うが、ボクにはこの母の変わり様が不思議でならない。だが我家ではよくある光景である。
ボクと妹と父は、ただ顏を見合わせて聞いていた。

母が話したのは、“喉のあたりに針を刺す”“ポリープを取る”“たいした検査じゃないらしい”の3点で、話をして満足を得ると「お父さん、早く」と、手招きで呼んで代わった。
「もしもし。あぁ~こんばんは、いやぁね・・・」電話の向こうは義理妹に代わっていたのがすぐに解った。どうやら、弟は自分じゃ詳しく聞き辛いから嫁に代わったらしいのだが、嬉しそうに受話器を持つ父を見ると、その判断は正しかったと思えた。一緒に住んでいるボクよりも、遠くに住んでいる弟夫婦の方がはるかに“親子”らしい間柄のような気がした。
・・・「うん、そんなわけだから、心配しないでね」そう言って父は受話器を置いた。

父も母も妙な笑みを浮かべていて、さっきまでの雰囲気とは何かが違っていた。
たまにしか合えない弟夫婦に、ボクと妹は負けた・・・そんなところだろうか。

母「でも、簡単な検査なら今日やってくれればよかったのにねぇ」
父「脳梗塞の薬を飲んでいるから、1週間は間を空けないといけないんだってよ」
母「なんでよ」・・・

父が行う検査は・・・穿刺検査で、脳梗塞の薬は血を溶かす成分が入っているから、出血量が多くなるかもしれないし、止血が大変らしいのだ。

母「ふ~ん、そうなの」
父「でも医者が言ってたよ。この1週間以内に脳梗塞が起きたらどうしようって」
母「あははっ、ばかっ、まっ、そんときはそんときよ」

安心したのか開き直ったのか、よく解らない会話をする老夫婦を、ボクと妹は口を挟まずに、老夫婦のやり取りを見ていた。笑うに笑えない会話だったが、笑う所だったのだろうか。
その後の1週間、いつもと変わらぬ毎日で、何事もなく無事に検査を終えた父であった。
陽性だとは言われているが、きっと内心ドキドキしているに違いない。

病理検査の結果が出るのは来週である。

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 中森さんが演歌!? | トップ | 国民投票法案 »

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (みゅう)
2007-04-14 15:10:00
待つ今が一番不安な時でしょうね・・・。
私の母も同じ検査をしました。
今は何も考えずにいてください。
大丈夫ですよ。きっと。
親の不安から一緒にいる子供達ではなく離れている子供に話して和んでいる時って寂しくなりますよね。同じ事経験しましたよ。
でも、きっと和んでいる風に見せてるだけで、心の不安を全て見せられるのはやはり傍に居続けてくれてる子供の方だと思いますよ。そして実際頼りになるのも・・・levieさんと妹さんだという事も、分かっていると思いますよ。
うまく、言えないけど元気を出してください。



返信する
だいじょぶ、ですよ (levie)
2007-04-14 17:52:34
みゅうさんお久しぶりです~!
コメントしにくかろう所を、有り難う御座居ます。

ホントは時系列に沿って・・・もっと細かく、シナリオみたいに書こうかな・・・と思ったんですけど、ダメだった(自滅)
親子の距離感をだそうかと思ったんだけど、やっぱ元病院だと感覚と視点がズレちゃうし、書いているうちに面倒臭くなっちゃってこうなっちゃいました(苦笑)

う~ん、俺は頼りにならないバカ息子なので・・・(滅)
でも、元病院ってのは大きいですね。
確かに、それだけでも違うみたいです。
返信する

コメントを投稿