PSW研究室

専門職大学院の教員をしてる精神保健福祉士のブログ

白衣のPSW

2011年02月14日 14時40分13秒 | PSWのお仕事

前職の病院で、よく実習生に尋ねられました。
「どうして、この病院ではPSWが白衣を着てるんですか?」

実習生にとっては、ワーカーが白衣を着ているというのは、相当意外なことようです。
白衣を着ている時間は限られていても、それだけで、何か異質な感じがしたのでしょう。

福祉専門職なのに、白衣を着ている…。
医療従事者に同一化してしまってる…。
そんな異和感が、学生たちには強く感じられたようです。

たしかに、白衣は、役割と関係性と権威を象徴します。
医療という場で、ケアする・される側を明確にします。
ユーザーとの関係は、白衣を通じて役割を固定します。
白衣は、職業人として関わるアイデンティティを明確にするとも言えます。

精神障害者に係わる施設で、白衣を着ているのは病院だけでしょう。
それは、医療という特別な領域にあるからでしょう。
医療現場では、今でも白衣という制服が常識です。
ナースキャップは、さすがに過去の遺物として廃止されてきましたが。
ナースも、茶髪が制限されたり、アクセサリーは禁止されてたり、とても地味です。

白衣に代表される制服には、シンボリックな意味があります。
かつて病院で白衣を脱ぐことは、反管理・反差別の姿勢の象徴でした。
劣悪な悪徳病院が横行する中、若手改革派の精神科医達の多くは白衣を脱ぎました。
白衣を脱ぐことで、患者さんたちの中に入っていくことを選びました。
反体制的な志向性と、スタイルにおいても一致したものでした。
ただ、そういった自己満足的な脱・制服思想は、今日ではあまり流行らないようです。

実際に、PSWたちに問うと、病院で白衣を着ることに心理的抵抗は見られません。
むしろ、極めて実務的な、色々な答えが返ってきます。
「白衣はポケットがたくさんあって、便利だから」
「白衣だと中に何着ていても、格好がつくから」
「他に制服も無いし、ラフな私服ではクライエントに失礼だと思うから」

僕自身は、病院現場で、ラフな格好でいることがほとんどでした。
グループワークもあるので、Gパンに、上はポロシャツ、Tシャツ、セーター。
ちょっとフォーマルな時で、スラックスにジャケット姿の時もありましたが。

僕自身は、ワーカーの服装は自由であって構わないと思っています。
職場で着る服は、T・P・Oに応じた服装であることが前提でしょう。
相応しい服装であるかどうかは、T・P・Oに応じた物であるかどうかが基準になります。

福祉分野でも、高齢者の施設等では、ケアワーカーは制服が当たり前です。
やはり、利用者をケアする上での汚れを、衛生上管理できるようにでしょう。
でも、精神障害者の福祉施設等では、制服を着用している所は珍しいでしょう。
私服(夏はジーパンにTシャツ)というところが当たり前です。
それは、身体に直接触れるケアが少ないから、とも言えますが。
出来るだけ「施設臭さ」を無くしたい、生活の場で対等に利用者と接したい。
そんな、現場PSWの「当たり前」の理念の表れとも言えます。

僕はPSWですので、よその病院に行く機会も多くありました。
PSWの着ているものを見ると、その病院の姿勢がわかる気がしました。
白衣のPSWに会うのは、まだ当たり前で、そんなに抵抗が無いのですが。
いかにもセンスの悪い事務制服を着せられたPSWと会うと、唖然とします。
中には病院の営業担当として、いつもびしっと背広を着ているところもあります。
病院内で、福祉専門職としての認知度が低いのではないか、とも思います。

世の中の服装は、どんどんラフになりつつあります。
背広着用が当たり前であった企業でも、カジュアルデーが設けられています。
新しい情報関連の企業では、背広姿はほとんど見られません。
霞ヶ関の中央官庁でも、夏は省エネのために半袖ワイシャツが基本です。
猛暑に見舞われている最近では、本当に夏に背広姿の人が珍しくなりました。
形式よりも、実質を重視するようになってきたのでしょう。

制服というと、管理サイドの専権事項のように考えられます。
でも、病院を利用するユーザーの視点からの意見も聞いて欲しいと思います。
PSWも、医療機関の専門職として、役割と立場を明確にした白衣が好ましいのか。
対等性を強調した私服の方が、親しみやすくて良いのか。
ユーザーの立場からはどんな服装が好ましいのか。
ユーザーの意見、ユーザーの視点に立っての選択があって良いと思います。

白衣問題は、治療構造の周縁部分かも知れません。
でも、病院PSWにとっては、とても大事な問題だと思っています。