日本医療マネジメント学会主催の「医療福祉連携講習会」が終わりました。
7月末から昨日(10月24日)まで、約3ヶ月間。
受講生100名が、土日2日間×5回、実習1日×6回、こなしました。
タイトな日程をこなして、受講し続けた皆さん、本当にお疲れ様でした!
最終日、最後のセッションは「総合討論」でした。
講師陣と受講生で、パネルディスカッションのような形で、ディスカッションしました。
僕は、「改めて『福祉』から」というタイトルでお話しさせて頂きました。
でも「7~8分で…」という座長からの指示もありましたので、時間は限られていました。
14枚のスライドを、早口で話したので、わかりにくかったと思います。
このブログを読んで下さっている方もいるようなので、ちょっと要旨をまとめておきます。
(「ちょっと…」のつもりが、かなり長文になりました。
受講生の皆さん、お暇なときに、お読み下さい(^_^;))
☆
1.「連携」って…?
「連携」って…当たり前のように言われるけど、改めて、何でしょう?
「互いに連絡をとり協力して物事を行うこと」です(by広辞苑)。
「互いに」ということは、立場の差異があるのが前提で、差異を共有するということです。
「連絡をとり」とは、意思疎通を図るためにコミュニケーションするということです。
「協力して」とは、チームとしての集団力動性と協働性を表しています。
「物事を」とは、ケアマネという視点からは、日常・社会生活支援をさします。
「行うこと」は、自ら関与し、調整し、課題を解決することです。
たった、これだけのことが、実際にはとても難しい。
バラバラなチームを束ねるのは、目標です。
病院からの退院と、様々な障害を前提とした「これから」の方針を考えることです。
ゴール・オリエンテッドに、かつ、スキル・ミックスで共通の支援目標を考えます。
それぞれの機関・職種が、自分に何ができるか考える、ということが「連携」です。
2.退院支援???
でも、「退院支援」って、何かヘンです。
僕たちが多機関と連携する主目的は、「退院させること」では本来ありません。
退院は、あくまでも通過点なのです。
地域連携と言う時のアウトカムは、けっして「退院」じゃない。
地域(生活)移行を果たすこと、地域での療養生活への定着を果たすことです。
ふつうの暮らしをしたいという、本人・家族の想いを形にすることです。
ごくふつうに社会の中で、死ぬまで生ききることを支援すること、です。
3.「人生の目標」指向のケアマネ
ステップアップ型のリハビリテーションの提示は、ご本人たちに苦痛を強います。
そのひとの「人生の目標」を掲げた、ケアマネジメントが必要です。
コーディネータに求められているのは、問題解決でなく解決構築です。
数多の問題は、社会的環境要因が多く、それは直裁に支援ニーズを表明しています。
問題解決の方法でなく、課題への態度・立ち位置・見方を獲得し、可能性を探ることが重要です。
本人の生活の中にある、リソース(資源)を探索し開拓することです。
解決像に向けての構築は共同作業ですが、あくまでも当事者主体の組み立てが必要です。
コーディネートの過程で、ご本人の語りを通して、自身を外在化することが可能となります。
ご本人が言葉を獲得していくプロセス(経験化)が、とても大事だと考えています。
4.病院の敷居の高さ
病院は、一般市民からすれば、特殊な場所、怖い場所です。
いくら「お気軽に相談を」と言っても、窓口もわからず、何をどうすれば良いかわかりません。
僕たちが、警察や裁判所に行くときのような緊張感があります。
ましてや精神科病院だと、一般市民からすれば、刑務所のようなイメージかも知れません。
病院のスタッフが「同じ目線で」と言っても、市民から見たら「上から目線」です。
医療のパターナリズム(権威的父権性・保護主義)の長い歴史があったからでしょう。
今後、医師は診断・治療に特化した職種へなっていくと思います。
でも、医師や病院に対する、イメージの払拭には時間がかかります。
患者中心の、患者が治療の主体になる医療を、といくら言っても、そうそう変わりません。
「患者」という位置は、既に医療の客体という意識が、まだまだあります。
(僕の担当した演習グループでは「患者さん」という言葉をやめてもらいました)
それは、当事者だけでなく、地域の支援機関にとっても同じです。
病院中心の「医療福祉連携」を求められても、地域の福祉機関は困ります。
地域の福祉機関は、病院の「受け皿」じゃありません。
よく病院の職員は「地域の受け皿がない」と言いますが、とても失礼な言葉です。
病院の受け皿になろうとして、地域で活動している福祉機関は無いと思います。
対等なパートナーシップが作りにくい、特殊な状況にあることを、病院は意識すべきでしょう。
5.病院と地域の間の「壁」
そうでなくても、病院と地域は、しばしば対置して考えられがちです。
地域の中に病院がある、ということが当たり前なのに。
病院は、地域から切り離された、特殊な場所になってしまっています。
病院のスタッフは、地域のケアマネは、医療機関への理解が乏しいと、よくこぼしますが。
病院のスタッフに、地域での在宅生活のイメージが無いというのは、致命的です。
お互い知らない同士の間で、当事者は右往左往させられています。
だからこそ「つなげる、橋渡し」は必要なわけですが、注意も必要です。
病院の退院支援は、しばしば、地域のリソース(資源)を、活かしきれてないと思います。
また、ご本人のストレングス(力)を、引き出しきれていないと、僕は思います。
病院で流れる時間は、とても早くて、いつも待ったなしです。
そのせいか、ご本人や地域の機関に対しても、とてもせっかちです。
でも、早すぎるフォーマルサービス投入は、両刃の刃です。
ご本人や家族をパワレスにすることもあることは、常に意識しておくべきだと思います。
6.ネガティブにならない
「問題点探し」と「良いとこ探し」ということに、触れておきたいと思います。
病院のスタッフは、どうしてもネガティブ・スパイラルに陥りがちな傾向があります。
病院という場が、そもそも「病気」というネガティブな対象を扱うからでしょう。
疾患そのものでなく、患者に対しても、ネガティブな反応をしがちです。
問題点や危険因子チェック、欠陥という先入観があり、安全が最優先されます。
ご本人の問題行動は、あくまでも「問題」に過ぎないと、見なされがちです。
大きな組織の中で、利用者の自己主張を、不快なものと問題視しがちです。
一生懸命かかわっても、専門職スタッフはうんざり疲れてしまいがちです。
それでも、感情を押し殺して、笑顔で接することが求められます。
そういった意味では、とてもストレスフルな職場と言えます。
「原因究明型」の思考が、病院の特徴とも言えます。
地域の機関は、むしろ「関係づくり究明型」と言えるでしょう。
問題でなく、ご本人の能力を中心にリストアップするのが得意です。
利用者のできること、家族や環境のよいところを、見極める力があります。
問題行動には「何か意味がある」から、そのための解決を図ります。
現在の在宅生活を、肯定的に受け止めることから出発します。
そうすることにより、利用者への理解が深まり、共に喜び合える関係が築けます。
医療福祉連携士には、そういった視点の転換が求められると、僕は思っています。
ICF(国際生活機能分類)の六角堂を、どちらから見るかということですね。
出身職種にありがちな見方に囚われない、多様な視点が必要だと感じています。
7.医療福祉連携に必要な力
そういった病院と地域の壁を突破するのは、やはりコミュニケーションです。
親密なコミュニケーションを阻害しているものは、除去することが必要です。
まず、チームというのは「対等な関係」が大前提です。
病院にある、医師を頂点とするヒエラルキーを崩していく必要があります。
医師の「指示」の下でなく、精神保健福祉士のように「指導」を獲得する必要があります。
退院前調整会議に、医師に出席してもらうには、どうすれば?という質問がありましたが。
医師に合わせるのではなく、医師に合わしてもらう形にすれば良いでしょう。
「何月何日何時からやってますから、数分でも顔出して下さいね~」と。
あとは任せてもらう、コーディネートはこちらでやりますから、ということですね。
あまり関心のない困ったお医者さんほど、そうやった方が喜びますよ(笑)
2番目に、「顔の見える関係」と多くの方が言ってましたが、それじゃ足りません。
相手の「こころ(気持ち)の見える関係」が構築されないと。
他機関の担当者の顔を知ってるだけでは、やはり不十分です。
その人がどのような価値観をお持ちの、どんな生活感がある方なのか、わかってないと。
そういった意味では、インフォーマルな関係形成が連携の質を決めます。
やっぱり、オフの飲み会って、大事ですよね~(笑)
連携じゃなく、チームとして協働するには、IPWの視点、IPEの推進も必要です。
第3に、「現場」に行く、見る、感じる、ってことがないと、やはり形式だけになります。
多くの方が実感されたように、今回の実習の意味は、とても大きかったと思います。
皆さんの「在宅福祉」レポートを読ませて頂いて、本当に良かったなと思いました。
受け入れ施設側からも、病院側が来てくれたことに、喜びと感謝が綴られていました。
タイトな日程の中で、自分の職場を何日もあけるのは大変だったと思いますが。
今後の連携業務を考えると、大きなプラスになっているのではないでしょうか?
人はイメージできないことは、行動も、実現もできませんから。
8.医療福祉連携士に求められる力
今回の講習会の組み立ては、演習もありましたが、主に知識伝達の講義でした。
本当は、専門職としてスキルアップということが、考えられる必要があります。
面接の技法、アセスメント方法、コーディネートの実際等について、不足しています。
ただし、単に個々のスキル(技能)ということでは、やはり足りません。
その人の統合された能力としての確立が必要です。
まだ、あまりモデルが無いのですが、人材育成にもかかわることです。
参考までに、日本社会事業大学の専門職大学院で考案した規準を示しました。
OECD(経済協力開発機構)に準拠した「福祉専門職コンピテンシー表」です。
「2.異質な集団との間で適切な交流ができる」
「B.他者、他職種、他の機関と適切に連携・協働することができる」
「(1)当事者との間で、問題解決の意志や方法を共有し、合意のもとに作業を進めることができる」
「(2)組織内の他のスタッフとの間で、問題解決の意志や方法を共有し、合意のもとに作業を進めることができる」
「(3)組織外の関係者や他の機関との間で、問題解決の意志や方法を共有し、合意のもとに作業を進めることができる」
これらは、医療福祉連携士にも、当然に求められるものでしょう。
現場での実践力をつけるためには、どのようなカリキュラム構造が必要なのか?
学会の委員会で検討していくことになると思います。
9.おわりに
この国の医療再編は、止めようもなく、まだ進んでいくでしょう。
学会認定の民間資格としての「医療福祉連携士」は、時代の要請と言えるでしょう。
求められているのは、多職種・多機関のチームの対等性・協働性構築です。
当事者ご本人や家族のニーズに基づく、協働チームのベクトル提示が仕事です。
そういった意味では、実のあるコーディネート・コンピテンシー追求が必要です。
現に連携室で仕事する皆さんにとって、「連携」業務はどうですか?
大変ですか?きついですか?しんどいですか?
でも、やり方が見えてくると「連携」は楽しいですよ!
自施設だけに止まらず、地域や他機関の異なる世界の人と出会えるって、楽しいです。
地域で、在宅で、病気を抱えながらも、生き生きと暮らしているひとに、出会えます。
その方達から、実に色々なことを教えてもらえます。
病院や、自分たちが、何をするべきか、だんだん見えてきます。
問題は、講習会を終えて「明日から何をするか?」です。
講習会で学んだことを大切に、まず、できることから、各地域で始めてみて下さい!
10.蛇足と謝辞
…というのが、僕の発言の主旨でした。
まったく触れませんでしたが、ひとつ気になっていることがあります。
「連携室」と「相談室」、看護職とソーシャルワーカーの関係です。
医療福祉連携士は、職種によらない横断的な民間資格ですから、どちらでも良いのですが。
既存国家資格職種間で、古くからある領域侵犯論は、やはり無視できません。
プロジェクト委員会で、最後まで、もめにもめたのも、実はそこの整理です。
今後、僕に対しては、福祉資格関係者からの強烈なバッシングがあるかも知れません。
これからも議論があるでしょうし、皆さんからも率直な意見を頂ければと思います。
そういったこともあって、僕は今回、内心いろんな想いを抱えながらの参加でした。
総合討論の最後に、僕が参画しお話したことへの、評価の言葉をフロアから頂きました。
正直、とても、ありがたく、うれしかったです。
どうも、受講生の皆さん、お疲れ様でした!
プロジェクト委員会、学会事務局、講師の皆さん、お疲れ様でした!
そして、ありがとうございました!
(^_^)/~
☆
…ということで、このあと、試験が待っています(笑)
講習会を終えて、理事長から手渡されたのは、あくまでも「講習会修了証」です。
来年の認定試験に、エントリーする資格を得ただけです。
「医療福祉連携士(予定)」の皆さん!
3月5日の認定試験に向けて、受験勉強にお励み下さい!
僕は、担当科目の試験問題づくりに励みます(笑)
(^_^)v
※画像は、講習会の終了した日本医科大学講堂にて。
受講生の、下村さん、松岡さん、田原さん、岸田さん。
プロジェクト委員の、清水さん、野村さん、武藤さん、木佐貫さんと。
「ブログにのせる?」と言い合いながら、デジカメ6台で順番に撮りました(笑)
7月末から昨日(10月24日)まで、約3ヶ月間。
受講生100名が、土日2日間×5回、実習1日×6回、こなしました。
タイトな日程をこなして、受講し続けた皆さん、本当にお疲れ様でした!
最終日、最後のセッションは「総合討論」でした。
講師陣と受講生で、パネルディスカッションのような形で、ディスカッションしました。
僕は、「改めて『福祉』から」というタイトルでお話しさせて頂きました。
でも「7~8分で…」という座長からの指示もありましたので、時間は限られていました。
14枚のスライドを、早口で話したので、わかりにくかったと思います。
このブログを読んで下さっている方もいるようなので、ちょっと要旨をまとめておきます。
(「ちょっと…」のつもりが、かなり長文になりました。
受講生の皆さん、お暇なときに、お読み下さい(^_^;))
☆
1.「連携」って…?
「連携」って…当たり前のように言われるけど、改めて、何でしょう?
「互いに連絡をとり協力して物事を行うこと」です(by広辞苑)。
「互いに」ということは、立場の差異があるのが前提で、差異を共有するということです。
「連絡をとり」とは、意思疎通を図るためにコミュニケーションするということです。
「協力して」とは、チームとしての集団力動性と協働性を表しています。
「物事を」とは、ケアマネという視点からは、日常・社会生活支援をさします。
「行うこと」は、自ら関与し、調整し、課題を解決することです。
たった、これだけのことが、実際にはとても難しい。
バラバラなチームを束ねるのは、目標です。
病院からの退院と、様々な障害を前提とした「これから」の方針を考えることです。
ゴール・オリエンテッドに、かつ、スキル・ミックスで共通の支援目標を考えます。
それぞれの機関・職種が、自分に何ができるか考える、ということが「連携」です。
2.退院支援???
でも、「退院支援」って、何かヘンです。
僕たちが多機関と連携する主目的は、「退院させること」では本来ありません。
退院は、あくまでも通過点なのです。
地域連携と言う時のアウトカムは、けっして「退院」じゃない。
地域(生活)移行を果たすこと、地域での療養生活への定着を果たすことです。
ふつうの暮らしをしたいという、本人・家族の想いを形にすることです。
ごくふつうに社会の中で、死ぬまで生ききることを支援すること、です。
3.「人生の目標」指向のケアマネ
ステップアップ型のリハビリテーションの提示は、ご本人たちに苦痛を強います。
そのひとの「人生の目標」を掲げた、ケアマネジメントが必要です。
コーディネータに求められているのは、問題解決でなく解決構築です。
数多の問題は、社会的環境要因が多く、それは直裁に支援ニーズを表明しています。
問題解決の方法でなく、課題への態度・立ち位置・見方を獲得し、可能性を探ることが重要です。
本人の生活の中にある、リソース(資源)を探索し開拓することです。
解決像に向けての構築は共同作業ですが、あくまでも当事者主体の組み立てが必要です。
コーディネートの過程で、ご本人の語りを通して、自身を外在化することが可能となります。
ご本人が言葉を獲得していくプロセス(経験化)が、とても大事だと考えています。
4.病院の敷居の高さ
病院は、一般市民からすれば、特殊な場所、怖い場所です。
いくら「お気軽に相談を」と言っても、窓口もわからず、何をどうすれば良いかわかりません。
僕たちが、警察や裁判所に行くときのような緊張感があります。
ましてや精神科病院だと、一般市民からすれば、刑務所のようなイメージかも知れません。
病院のスタッフが「同じ目線で」と言っても、市民から見たら「上から目線」です。
医療のパターナリズム(権威的父権性・保護主義)の長い歴史があったからでしょう。
今後、医師は診断・治療に特化した職種へなっていくと思います。
でも、医師や病院に対する、イメージの払拭には時間がかかります。
患者中心の、患者が治療の主体になる医療を、といくら言っても、そうそう変わりません。
「患者」という位置は、既に医療の客体という意識が、まだまだあります。
(僕の担当した演習グループでは「患者さん」という言葉をやめてもらいました)
それは、当事者だけでなく、地域の支援機関にとっても同じです。
病院中心の「医療福祉連携」を求められても、地域の福祉機関は困ります。
地域の福祉機関は、病院の「受け皿」じゃありません。
よく病院の職員は「地域の受け皿がない」と言いますが、とても失礼な言葉です。
病院の受け皿になろうとして、地域で活動している福祉機関は無いと思います。
対等なパートナーシップが作りにくい、特殊な状況にあることを、病院は意識すべきでしょう。
5.病院と地域の間の「壁」
そうでなくても、病院と地域は、しばしば対置して考えられがちです。
地域の中に病院がある、ということが当たり前なのに。
病院は、地域から切り離された、特殊な場所になってしまっています。
病院のスタッフは、地域のケアマネは、医療機関への理解が乏しいと、よくこぼしますが。
病院のスタッフに、地域での在宅生活のイメージが無いというのは、致命的です。
お互い知らない同士の間で、当事者は右往左往させられています。
だからこそ「つなげる、橋渡し」は必要なわけですが、注意も必要です。
病院の退院支援は、しばしば、地域のリソース(資源)を、活かしきれてないと思います。
また、ご本人のストレングス(力)を、引き出しきれていないと、僕は思います。
病院で流れる時間は、とても早くて、いつも待ったなしです。
そのせいか、ご本人や地域の機関に対しても、とてもせっかちです。
でも、早すぎるフォーマルサービス投入は、両刃の刃です。
ご本人や家族をパワレスにすることもあることは、常に意識しておくべきだと思います。
6.ネガティブにならない
「問題点探し」と「良いとこ探し」ということに、触れておきたいと思います。
病院のスタッフは、どうしてもネガティブ・スパイラルに陥りがちな傾向があります。
病院という場が、そもそも「病気」というネガティブな対象を扱うからでしょう。
疾患そのものでなく、患者に対しても、ネガティブな反応をしがちです。
問題点や危険因子チェック、欠陥という先入観があり、安全が最優先されます。
ご本人の問題行動は、あくまでも「問題」に過ぎないと、見なされがちです。
大きな組織の中で、利用者の自己主張を、不快なものと問題視しがちです。
一生懸命かかわっても、専門職スタッフはうんざり疲れてしまいがちです。
それでも、感情を押し殺して、笑顔で接することが求められます。
そういった意味では、とてもストレスフルな職場と言えます。
「原因究明型」の思考が、病院の特徴とも言えます。
地域の機関は、むしろ「関係づくり究明型」と言えるでしょう。
問題でなく、ご本人の能力を中心にリストアップするのが得意です。
利用者のできること、家族や環境のよいところを、見極める力があります。
問題行動には「何か意味がある」から、そのための解決を図ります。
現在の在宅生活を、肯定的に受け止めることから出発します。
そうすることにより、利用者への理解が深まり、共に喜び合える関係が築けます。
医療福祉連携士には、そういった視点の転換が求められると、僕は思っています。
ICF(国際生活機能分類)の六角堂を、どちらから見るかということですね。
出身職種にありがちな見方に囚われない、多様な視点が必要だと感じています。
7.医療福祉連携に必要な力
そういった病院と地域の壁を突破するのは、やはりコミュニケーションです。
親密なコミュニケーションを阻害しているものは、除去することが必要です。
まず、チームというのは「対等な関係」が大前提です。
病院にある、医師を頂点とするヒエラルキーを崩していく必要があります。
医師の「指示」の下でなく、精神保健福祉士のように「指導」を獲得する必要があります。
退院前調整会議に、医師に出席してもらうには、どうすれば?という質問がありましたが。
医師に合わせるのではなく、医師に合わしてもらう形にすれば良いでしょう。
「何月何日何時からやってますから、数分でも顔出して下さいね~」と。
あとは任せてもらう、コーディネートはこちらでやりますから、ということですね。
あまり関心のない困ったお医者さんほど、そうやった方が喜びますよ(笑)
2番目に、「顔の見える関係」と多くの方が言ってましたが、それじゃ足りません。
相手の「こころ(気持ち)の見える関係」が構築されないと。
他機関の担当者の顔を知ってるだけでは、やはり不十分です。
その人がどのような価値観をお持ちの、どんな生活感がある方なのか、わかってないと。
そういった意味では、インフォーマルな関係形成が連携の質を決めます。
やっぱり、オフの飲み会って、大事ですよね~(笑)
連携じゃなく、チームとして協働するには、IPWの視点、IPEの推進も必要です。
第3に、「現場」に行く、見る、感じる、ってことがないと、やはり形式だけになります。
多くの方が実感されたように、今回の実習の意味は、とても大きかったと思います。
皆さんの「在宅福祉」レポートを読ませて頂いて、本当に良かったなと思いました。
受け入れ施設側からも、病院側が来てくれたことに、喜びと感謝が綴られていました。
タイトな日程の中で、自分の職場を何日もあけるのは大変だったと思いますが。
今後の連携業務を考えると、大きなプラスになっているのではないでしょうか?
人はイメージできないことは、行動も、実現もできませんから。
8.医療福祉連携士に求められる力
今回の講習会の組み立ては、演習もありましたが、主に知識伝達の講義でした。
本当は、専門職としてスキルアップということが、考えられる必要があります。
面接の技法、アセスメント方法、コーディネートの実際等について、不足しています。
ただし、単に個々のスキル(技能)ということでは、やはり足りません。
その人の統合された能力としての確立が必要です。
まだ、あまりモデルが無いのですが、人材育成にもかかわることです。
参考までに、日本社会事業大学の専門職大学院で考案した規準を示しました。
OECD(経済協力開発機構)に準拠した「福祉専門職コンピテンシー表」です。
「2.異質な集団との間で適切な交流ができる」
「B.他者、他職種、他の機関と適切に連携・協働することができる」
「(1)当事者との間で、問題解決の意志や方法を共有し、合意のもとに作業を進めることができる」
「(2)組織内の他のスタッフとの間で、問題解決の意志や方法を共有し、合意のもとに作業を進めることができる」
「(3)組織外の関係者や他の機関との間で、問題解決の意志や方法を共有し、合意のもとに作業を進めることができる」
これらは、医療福祉連携士にも、当然に求められるものでしょう。
現場での実践力をつけるためには、どのようなカリキュラム構造が必要なのか?
学会の委員会で検討していくことになると思います。
9.おわりに
この国の医療再編は、止めようもなく、まだ進んでいくでしょう。
学会認定の民間資格としての「医療福祉連携士」は、時代の要請と言えるでしょう。
求められているのは、多職種・多機関のチームの対等性・協働性構築です。
当事者ご本人や家族のニーズに基づく、協働チームのベクトル提示が仕事です。
そういった意味では、実のあるコーディネート・コンピテンシー追求が必要です。
現に連携室で仕事する皆さんにとって、「連携」業務はどうですか?
大変ですか?きついですか?しんどいですか?
でも、やり方が見えてくると「連携」は楽しいですよ!
自施設だけに止まらず、地域や他機関の異なる世界の人と出会えるって、楽しいです。
地域で、在宅で、病気を抱えながらも、生き生きと暮らしているひとに、出会えます。
その方達から、実に色々なことを教えてもらえます。
病院や、自分たちが、何をするべきか、だんだん見えてきます。
問題は、講習会を終えて「明日から何をするか?」です。
講習会で学んだことを大切に、まず、できることから、各地域で始めてみて下さい!
10.蛇足と謝辞
…というのが、僕の発言の主旨でした。
まったく触れませんでしたが、ひとつ気になっていることがあります。
「連携室」と「相談室」、看護職とソーシャルワーカーの関係です。
医療福祉連携士は、職種によらない横断的な民間資格ですから、どちらでも良いのですが。
既存国家資格職種間で、古くからある領域侵犯論は、やはり無視できません。
プロジェクト委員会で、最後まで、もめにもめたのも、実はそこの整理です。
今後、僕に対しては、福祉資格関係者からの強烈なバッシングがあるかも知れません。
これからも議論があるでしょうし、皆さんからも率直な意見を頂ければと思います。
そういったこともあって、僕は今回、内心いろんな想いを抱えながらの参加でした。
総合討論の最後に、僕が参画しお話したことへの、評価の言葉をフロアから頂きました。
正直、とても、ありがたく、うれしかったです。
どうも、受講生の皆さん、お疲れ様でした!
プロジェクト委員会、学会事務局、講師の皆さん、お疲れ様でした!
そして、ありがとうございました!
(^_^)/~
☆
…ということで、このあと、試験が待っています(笑)
講習会を終えて、理事長から手渡されたのは、あくまでも「講習会修了証」です。
来年の認定試験に、エントリーする資格を得ただけです。
「医療福祉連携士(予定)」の皆さん!
3月5日の認定試験に向けて、受験勉強にお励み下さい!
僕は、担当科目の試験問題づくりに励みます(笑)
(^_^)v
※画像は、講習会の終了した日本医科大学講堂にて。
受講生の、下村さん、松岡さん、田原さん、岸田さん。
プロジェクト委員の、清水さん、野村さん、武藤さん、木佐貫さんと。
「ブログにのせる?」と言い合いながら、デジカメ6台で順番に撮りました(笑)
疾病によって生じてしまった障害をどう支えて生活モデルを構築していくか、キュア(治療)からケアへの転換には、医療の簡略化も含め、「退院支援/退院調整」が必要だと思うのです。ケアへの転換を心得、患者力を引き出さないまま、退院支援/退院調整をすると、援助者(連携担当者)が在宅復帰の阻害要因(環境要因)になってしまうケースがあります。
地域にでかけて頂くメーッセージは、「もっと地域を頼っていいよーーー!」というお声です。バトンを繋ぎ、一緒に意見交換することによって、患者家族に寄り添い続け、得られた経験を次の患者家族に伝えていく。英知を社会の成熟のために使っていきたいですね。
「高次脳機能障害と生きる」というご本の編集に現在携わっております。
専門家が必要と考えることではなく、障害をもって暮らす人が必要と考えることから出発しようという考え方で作成します。
これまた未知の世界。医師であり当事者(高次脳機能障害)である山田先生と何度となくお会いして感じたこと。脳の損傷は誰にでも身近に起こりえることであること。世の中に周知されなければ、住居の確保/就労/就学を含め、暮らしにくさは改善されないこと。患者家族が前を向く為に、高次脳機能障害の正体を理解しやすくする必要があること。
……..素人の私には、精神の世界と同じに映ります。標準化と均てん化がまずは必要なのだと強く感じます。
福田先生に「高次脳機能障害(臨床)とICFのマトリックスマップを作りたい!」って言ったら、卒倒されました。どうやらエキスパート・コンセンサスはすぐには得られない模様です(笑)一緒にやりましょうーーー!
たいへんお世話になりました。
とても楽しい講習会でした。
『退院支援』については先生がおっしゃられていたこと・・・いろいろ考えました
普段の仕事の中で、退院支援をどうとらえるか、在院日数短縮のためというのは、日常的にしみついている業務と思います
しかし・・・退院支援とは、医療機関には基本退院が必須です。安心して退院をしていただくための支援と思っています
そのためには、退院支援にかかわるスタッフの意識の教育、接遇教育の重要性を感じますが・・・
またいろいろ教えてください!
よろしくお願いします
こころ(気持ち)の見える
仕事の見える
.....関係でありたいです
そして、どうも、たくさんのコメントをありがとうございます。
レスポンスが悪くて、すみません。
順番に、返事書いていきますね。
ゆっこさんが書いた意味での退院支援は、必要ですよね。
非日常の世界である病院から、自身の日常の生活世界への復帰。
治療の場から、生活の場への移行。
そのプロセスに退院という大きなゲートがあるわけですから。
退院という具体的なゴール設定しての、リソースを集中した取り組みは必要でしょう。
ただ、対象者によっては、あるいは入院スパンによっては、随分様相が変わってきます。
精神科の長期在院患者さん達にとっては、病院が日常の生活の場になってしまっています。
帰るべき地域社会が、非日常的な浦島太郎的な異世界になってしまっています。
そう言う方にとっては、退院はゴールになり得ない、退院を目的にしたゴール設定は、やはりおかしいと言うことになってしまいます。
精神科も一般医療並みに、必要な時だけ入院し、短期間でご自身の生活世界に戻って頂くようにするというのが、もちろん筋ですが。
精神科領域で「退院促進」と言うと、もう「出す」ことだけが自己目的化しているようで、どうにも異和感があるということです。
そして、残念ながら「出す」ことを目的化した一般医療の「退院支援」もあると思うのです。
十分に、僕の意図は伝わっているとは思いますが…。
蛇足ながら…
あるMSWが「高次脳機能障害は精神障害とは違いますから…。良かったですね」とご家族に説明していました。
PSWとしては、さすがに唖然としました。
「精神障害じゃないから良い」というのは、何事かと。
そんな、ご家族への慰め方があって良いのかと…。
でも、ご家族も、その言葉で慰められたようで…(!?)
どう言って良いか、わからなくなってしまいました。
精神障害と同様に、理解されにくい高次脳機能障害。
精神障害という範疇に組み入れられることには抵抗していた、高次脳機能障害。
認知、記憶、注意、意欲・発動性、感情統制、遂行機能等々の精神機能の障害があっても、精神障害ではない、高次脳機能障害。
脳器質性精神障害とは異なる、脳損傷後遺症による、高次脳機能障害。
当の患者さんの疾患・障害よりも、エキスパートの分類や施策が、僕にはよくわからない高次脳機能障害です。
まさに、明日から何をするか、ですね。
多くの方にとって、タイトな日程の中での実習が、一番の学びになっているようです。
そして、実習が、連携の第一歩になっているようです。
医療に限らず、多くの人にとって、制度は常に、ある日突然降ってきます。
そして、制度は常に、経済的な下部構造と密接不可分です。
だから、どこの機関・事業所でも、経営のセンスとノウハウが必要です。
ただ、問題は、現場の実践やサービスの質を、経営が大きく左右してしまうこと。
ユーザーにとってのサービスの価値が、二の次になってしまうこと。
退院支援の質と真価が、これからますます問われてくると思うのです。
そして、それを最終的に決定づけていくのは、やはり現場の人だと思うのです。
またいろいろ、話しましょう!