タミアのおもしろ日記

食文化・食育のお役立ちの話題、トンデモ食育、都市伝説、フードファディズムなどを分析して解説します!(^.^)

「漬物を食べて野菜不足が解消出来る」の嘘。

2023年06月13日 | Weblog
6月3日の朝日新聞be「食のおしゃべり」欄に良い記事が載っていました。タイトルは「漬物で野菜摂取量アップ?食塩取り過ぎに注意」です。
この記事によると、農林水産省が4月末に「漬物で野菜を食べよう!」という取り組みを発表していたが、どうも科学的におかしな内容なんだそうです。
そもそもそんな取り組みがあるなんて知らなかったので農水省ホームページを調べたら確かにやっていた。
 農水省によると、日本人の野菜摂取量は、厚生労働省の策定した目標値より70グラムほど少ないので、このたび漬物で野菜を食べるように勧めることにしたそうです。チラシを用いて各種イベントでもっと漬物を食べようと訴える、ということです。農水省の言い分では「生野菜70グラムは、梅干しなら35グラム、福神漬けなら33.6グラムで済むので、漬物は少量で健康に良い」という説なんですが、ちょっと待ったああああ!それ、間違いですよ。

 まず、朝日新聞の指摘を書いてから、次に私の付け足し情報を書きます。
 朝日新聞の指摘では塩分取り過ぎになるのが心配だということです。「食塩の過剰摂取は高血圧の要因で、ひいては脳卒中や腎臓病を招く恐れがあります。胃がんとの関係も指摘されています。日本人にとって最重要の栄養課題なのです。」ということで、日本高血圧学会の三浦克之滋賀医科大教授にも伺ったところ、日本人の食塩摂取量の約10%が漬物からだったという研究結果もあり、学会でも高塩分の漬物をひかえるよう奨励していたのに、農水省のメッセージは「国民を混乱させる危険性があります」ということでした。三浦教授の指摘は非の打ち所もない事実です。

 そこへ私からも追加情報を投下します。
 農水省のそのチラシでは「漬物は、ビタミン、ミネラル、食物繊維、乳酸菌などを含みます」といかにも漬物は身体に良いように誤解するキャッチフレーズを書いて居ましたが。それ、大げさなんですよ!
 実際に最新版の八訂日本食品標準成分表で、調べてみました。
 農水省は福神漬け33.6グラムを取れば生野菜70グラムに相当すると言うので、皮をむいた大根生サラダにマヨネーズ(全卵)10グラムをかけて食べた場合とで栄養価を比較しました。驚きましたよ。サラダの方が葉酸やカリウム・マグネシウムなどのビタミン・ミネラルが多いのでした。塩分は福神漬けは1.7グラム、マヨネーズサラダなら0.2グラム。後で述べるけど福神漬けにはほとんど乳酸菌が入ってません。これらを総合的に判断すれば、サラダの方が健康にいいことはすぐわかります。(ちなみに農水省は福神漬け33.6グラムの食塩量を1.1グラムと少なく表示してましたが、特別に減塩な製品では?)

 福神漬けだけでは信じられないというあなたに、キュウリの例も挙げましょう。
 キュウリは浅漬けなら56グラム食べるだけで生キュウリ70グラムに相当し、食塩量は0.8グラムだと言う農水省。
 でも実際に八訂で塩漬けキュウリと生キュウリ70グラムに全卵マヨネーズ10グラムをかけたサラダを比較したら、サラダの方がほとんどのビタミン・ミネラル量が勝っている上に食物繊維量はほぼ同じ、それで塩分は塩漬けが1.4グラム、サラダは0.2グラム。
どう考えてもサラダの方が良い。それに塩分量が農水省側は大甘表示なのはなぜでしょう。

それでも信じられないという方のために、キュウリの古漬け(食品成分表では醤油漬けに相当)とキュウリマヨネーズサラダを比較したら、これもビタミンやミネラルがサラダの方が多いんですよ。
 なんで漬物より生の野菜の方がいいのでしょう。それはね、漬物にすると、つけ汁にビタミンやミネラルが溶け出て失われるからです。身も蓋もない話ですね!!

 いやいや、漬物には乳酸菌があるじゃないかー!!と叫ぶそこのお姉さん。それも誤解なんです。農水省のチラシでは、19種類の漬物を写真入りで紹介していたんですが、業界関係者など見る人が見れば、メーカーや製法が分かるんですよ、ふふふ。農水省さん、国民をなめないでちょうだいな。写真を見る限り、確実に乳酸菌がたくさん含まれているのはたった一つ、キムチだけです。キュウリ・大根・キャベツ・なすなどの浅漬けも掲載されてますが、これらはメーカーが乳酸菌を添加しない限り、それほど発酵しないうちに出荷されるので、乳酸菌の健康効果はほんのお気持ち程度です。漬物から取るよりヨーグルトから取る方がたっぷり乳酸菌がとれますよ。

 チラシ写真のきゅうりの「古漬け」は某有名メーカーのだとすぐ分かるんですが、会社さんの為に名称を伏せます。この漬物は中国で塩づけしたキュウリを輸入して、国内で殺菌した調味液に付け直しているので、乳酸菌はほとんどありません。「干し大根の古漬け」「カブの浅漬け」「福神漬け」「野沢菜の浅漬け」「しそ漬けきゅうり」「生姜の浅漬け」「らっきょうの古漬け」も同様に、殺菌した甘酢や調味液(酢、塩、醤油、砂糖、うまみ調味料などの混合液)につけ込んで味をしみこませた商品なので、乳酸菌はほとんどありません。乳酸発酵している漬物と調味漬物では色やつやが違うので写真で分かります。
 奈良漬けはというと、あれは5回ぐらい漬け床を取り替えているし、販売する直前にも漬け床を水で完全に洗い流してから新鮮な調味酒かす(業界用語で「化粧かす」と言います)を塗って出荷しています。こういう行程で何度も乳酸菌をこそげ落としているので、健康にメリットがあるほどの乳酸菌は含まれないと考えられます、

 さて、漬物は塩辛いのでつい水を飲み過ぎたり食が進んでしまいます。おなかの中でかさばって早く満腹する野菜サラダやうすい味付けの煮野菜の方がダイエットにもいいでしょう。また、漬物は輸入原料が多く使用されています。日本国内の漬物の多くは、中国産野菜(大根、キュウリ、柴漬け、梅干し、ニンニク、なす、しょうがなど)を塩漬け加工して輸入し、日本国内で調味液などに漬け直しています。また、キムチは韓国産や中国産が多いです。
本当に日本の農業を応援したいなら、漬物を変に勧めるのはよろしくないのではないでしょうか。農水省さん。


訂正と補足(6月16日)・奈良漬けの漬け替え回数を5~10回と書きましたが、現在は4~5回が主流です。お詫びして訂正します。・上記の農水省のチラシの中に梅干しが紹介されていますが、梅干しの漬ける前の姿は野菜でなく果実(青梅の実)です。青梅の実は毒があるため決して生で食べないでください。青梅は、梅酒にするなどの適切な加工を経て毒を消してからでないと食べられません。このチラシは生で食べるより漬物にした方が効率よく食べられると主張する内容なので、このままだと生の青梅が食べられると消費者に誤解されのではないでしょうか。

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