時世と人間---不学無術⑯・・・水雲問答
雲 とかく世の中の人というものは、本当の意味で学ばない。学ばないから適切な
方法や手立てを知らない。そのために古人のやった失敗を同じように繰り返して
気がつかないのです。これは一時の現象を見ておりますと気がつきませぬが、少
し永い目で人間の思想・行動を調べてきますと、ちょぅど科学にも原理・原則が
あるように、人間の思想や生活にもちゃんと原理・原則がありまして、古今東西
少しも変わりません。この原則をしらないいで、思いつきやうろたえたことをや
るものですから、みな失敗いたします。成功したり、失敗しりするところはそれ
ぞれの実例においてみな違いますが、もとは同じ処から起っております。ちゃん
とお手本は人間の歴史に示されておるのです。にもかかわらずそういう深謀遠慮
などに夢にも知らず、現在只今うかうかとすごして、刹那刹那の平和を楽しんで
おることは実になげかわしいことであります。
水 ある日、名相に向かって、友人が雀光の伝を読まれたかと、尋ねましたところ
「いやまだ読んでない」と答えると、そのまま何も言いませんでした。そこで名相
は家に帰って早速調べました。そして「不学無術」という言葉のあることを発見
して、はあ、これだ、と悟ったということであります。
●当時の勢いとその人のほど
雲 およそ国家のことは、まず時務というものと、それに処する人物の出来具合を
考えて、いたずらに高望みすることなく、具体性・実現性のあることを考えなけ
ればなりません。出来ない人間に大きなことや無理な注文をしても仕方がないこ
とです。時務と違って、その時代に処して、どうしなければならないかという活
きた問題です。単なるビジネスではない。その時勢・時節にぴったりの大事な仕
事を言います。
水 まことに適切なお思いやりのあるお考えです。人物相応・柄相応のことは考え
なければなりません。