大臣と禍・・・水雲問答
雲 どうも自分が大臣という重要な任務に当たって、もう禍のくることが見えて防ぎ
ようがないというときに、さっさと辞めるべきでしようか、それとも一度大臣とい
う重大な地位・任務についた以上、禍の生ずるのを待って犠牲となるつもりで、そ
の任務にたおれるべきでしょうか。
水 これは誠に大事なことであるから何とも申されません。辞任するか、禍の生ずる
のを待って犠牲となるか、どちらかを決めるのは一にその人物次第であります。人
物品格の高い人には高次元の決定があり、低い人には低次元の決定があるものです
から、誰にでもこうすればよいと言えるものではあのません。人物次第によってそ
の答えは異なりましよう。
雲 先日申し上げました、禍がすでに兆して、防ぐことができないときに臨んで、大
臣の職を辞任すべきか、またその職に斃れるべきか、という決定は一にその人の品
格によるという議論には感服いたしました。私の了見では、禍が生じても、自分の
手で始末ができると思うときにき、何事が起ろうとも俺には自信がある。よし、や
ってみようと決心して、その職に斃れて甘んじて犠牲になります。また初めから自
分の実力でどうにもならないと思ったならば、じっと待っておって、ここだなとい
う時機にみこしをあげて、決起するというもの一つの方法であると思います。
水 よくそこまでお考えになりました。そこまであなたがつっこんで申されますなら
ば私もさらにつっこんでお答えしますと、自分の手で解決できると思ってみても、
とうてい自分の手に負えないとわかったときは、自分にまさる適任者を薦めてやら
されたらよろしいでしよう。自分にも力足らず、推薦する人もないときは、思いき
って圏外に去ってしまうことも、また已むを得ないことでしよう。