だまされて、だまされぬ所㉙・・・水運問答
雲 天下国家のことは言うまでもなく、一家のことまでも、誠の一字がなくてはなり
ません。昔カモメと遊んだ少年の話があります。この少年が海辺に行くとカモメが
たくさん集まってくる。それを聞いた父親が、「お前一つカモメをとってこい」と
言いました。ので翌日海辺に行くと、カモメは一羽もやってこなかったという話で
あります。これは捕らえてやろうという気があるから、カモメはちゃんとそれを知
っていてやってこない。誠でないからすぐわかるのです。しかし馬鹿正直に過ぎる
と、まただまされるという譬えもあります。そこでどうしても大きな仕事をしよう
とすれば、誠があるとかないとかということを気にしておってはいけません。人に
だまされもしなければなりません。しかしだまされるにも方法があります。今の人
はだまされまいと考えてだまされたり、かと思うとだまされてはいなかったりする
のは、面白いものであります。
水 一身のことから国家のことにいたるまで、誠の一字を書いてはなりません。「孟
子」の言葉に、子産が役人に命じて、魚を池に放してやった面白い話があります。
この役人は悪い奴で、その魚を煮て食ってしまって、子産には、「魚を池に放して
やりましたところ、初めはのびのびと泳いでおりましたが、やがてゆったりと水の
中へかくれてしまいました。すると役人は、「子産は賢人だと聞いていたが、どう
してどうして、私はすでに魚を喰ってしまったのに」と言って笑ったという話であ
ります。
元来君子は誠でありますから、だまされますけれども、道にはずれたことをもっ
て人をあざむこうとするのはよくありません。子産のようなだまされ方は罪がない
ばかりでなく、人柄がわかってよろしい。しかし人の上に立つ者が人にだまされま
いとしますと、何事もできません。お説のだまされてだまされぬ所の味、というこ
とは大変面白いことでありますけれども、やはりだまされまいという考えがのこり
ましよう。だからそういうことを超越して子産のように徹するもよろしいと思いま
す。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます